第3章で述べたように、西太平洋への進出を確実にするには、
米軍の自由な活動を妨げる「領域拒否」をしなければなりません。
とすると、東シナ海はもとより南シナ海を「中国の海」として内海化・
軍事的聖域化する必要があるのです。
現代における「核抑止戦略」を考えたとき、このことが決定的になります。
しかも、南シナ海は、東シナ海よりはるかに戦略的価値が高いのでしょうか?
それは、深い意味ならば「弾道ミサイル」搭載の原子力潜水艦(SS BN)の潜伏海域を
確保できるからです。
現在、中国は、地上発射型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)でアメリカ本土攻撃できる
能力を持っています。
これまでその主力は固定式の液体燃料推進方式のミサイルDF-5 (東風5)、
で推定射程距離は13,000キロメートルとされていますので、
アメリカ政治の中心であるワシントンDCに届きます。
しかし、固定式の地上発射型なので、アメリカの先制攻撃によって
中国の核戦力が無力化される公算が高く、アメリカに対する核の抑止力が十分ではありません。
そこで、中国は、固体燃料発射台付車両(TEL)に搭載できる移動型のDF-31および
その射程延伸型であるDF-31Aを配備しており、特にDF-31Aの数を今後増加させていく模様です。
しかし、それでも、米国の核攻撃から生き残り、第2撃能力を確保するには不安が残ります。
つまり、中国はなんとしても「第二撃能力」を確保しなければなりません。
これができるのは、深海に潜って敵から発見されず、
海中から「潜水艦発射弾道ミサイル」(SL BM)を発射できる潜水艦だけです。
ただし、中国のSL BMである(JL-2)(巨浪2)の射程は約8000キロメートルしかないため、
これではハワイにすら到達できません。
とすれば、まず深海域に入り、そこから敵に発見されないように、
太平洋西部海域に出る必要があります。
そうすれば、ミサイルはワシントンDCまで届くからです。
こうして、南シナ海が最も重要になるのです。
東シナ海の水深が約200メートルしかないのに対し、
南シナ海の東部海域には水深3000 ~4000メートルもある海域が広がるからです。
したがって、中国の原潜は深く潜ったまま、南シナ海の出口である
バシー海峡(最深部は約5000メートル)から太平洋に進出できるわけです。
中国海軍の原潜の最新のものが「094型晋級潜水艦」で、最新の報道によれば、
すでに射程距離8000 ~14,000キロメートルのSL BMを装備したものが
3隻完成していると言われています。
SL BMの射程が伸びたわけで、そうなると太平洋を潜航して
アメリカ本土に近づかなくても、アメリカ本土に核ミサイルを打ち込めると言うことになるのです。
このように南シナ海の軍事戦略的価値が高いため、中国は広東省の氵甚江に
中国海軍南海艦隊の司令部を置き、海南島南部の三亜に海軍基地を設けています。
ここに、2014年、世界最長級の空母用埠頭が完成しています。
(16)中央共産党の機関紙「人民日報」の国際版「環球時報」のサイトに掲載された空母用埠頭です。
また、(17)は、海上自衛隊が2016年12月25日に撮影した沖縄周辺海域を航行する
中国の空母「遼寧」です。
三亜基地の空母用埠頭の長さは700メートル、幅120メートルで、
2隻の空母が同時に停泊できます。
米軍横須賀基地の空母用埠頭のの長さが400メートル米本土バージニア州ノーフォーク基地が
430メートルですから、中国がいかに南シナ海進出にこだわっているかが伺えます。
さらに海南島には地下に潜水艦基地があり、2つの軍基地もあります。
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