自分で自分の国を守れない、つまり「自主防衛能力」に著しく欠けている日本にとって、
中国の覇権拡張政策は大いなる脅威です。
これは日本に限らず、アジア全域の問題です。
特に中国が勝手に引いた「第一列島線」に位置する国々にとっては、本当に大きな脅威です。
そして、世界覇権を維持し、アジアに関与し続けているアメリカにとっても大問題です。
なぜなら、中国は戦後アメリカや日本・欧州が協力して築いてきた世界秩序に
公然と挑戦しているからです。
アメリカは1898年に米西戦争に勝利してフィリピンを併合して以来、
これまでずっとアジアに関与してきました。
この地域に台頭する国家があったときは、その覇権拡大を阻止してきたのです。
20世紀の半ば、アジア太平洋地域において史上最大の大帝国を築いた日本は、
このアメリカの覇権阻止戦略によって潰されました。
日本は、アメリカによって完膚無きまでに打ち負かされたのです。
しかし、歴史とは皮肉なもので、今はアメリカが日本の同盟国であり、
アメリカの力がなければ日本の安全は保障されないのです。
また、アメリカにとっても、日米同盟がなければ、アジアにおける盟主の座は維持できません。
そして、今やかつての日本に代わってアメリカの覇権に挑戦しているのが中国です。
中国の運命がどうなるかは、誰にもわかりません。
歴史が繰り返すとすれば、台頭する新興国が既存の覇権国に挑戦する過程で
必ずと言っていいほど戦争が起こります。
これは「トゥキュディディスの罠」と呼ばれている、1種の歴史的法則とも言うべきものです。
序章でも紹介した古代ギリシアの歴史家トゥキュディデスは、
当時の覇権国スパルタに新興国アテネが挑戦していく過程を観察しました。
そうして、アテネの台頭とそれに対するスパルタの恐怖心が
ペロポネソス戦争を引き起こしたと結論つけたのです。
2015年9月、米中首脳会談のために欧米した中国の習近平首席は、
「いわゆる「トゥキュディデスの罠」と言われるようなものは、現代世界には存在しない。
しかし、大国が戦略的誤算を犯せば、自らそうした罠を作り出すことになりかねない」
と、講演でも述べました。
この発言の裏には、自らの覇権拡張の意図を隠そうとする狙いがあったと思われます。
また、緊張が激化した場合には、その責任をアメリカに負わせようと言う思惑があったはずです。
米ハーバード大学のグラハム・アリソン教授は、過去500年間で新興勢力が
既存の覇権勢力に挑戦したケースを分析しました。
すると、それに該当するケースは16件存在しそのうちの12件が戦争になっていました。
なんと、戦争確率75%です。
(36)が、その一覧表です。
アリソン教授は、日本が関連する事例を3件挙げており、それは日清・日露戦争と
日米戦争(太平洋戦争)で、それに1970 ~1980年代の冷戦期における日ソ関係です。
このうち、日ソ関係だけが戦争に至っていませんがアリソン教授は、次のように述べています。
「現世代における世界秩序を左右する問題は、米国と中国が「トゥキュディデスの罠」を
回避できるかどうかである」、「現在の趨勢から判断すれば、今後数十年間における
米中間の戦争の蓋然性は、現時点で認識するよりもはるかに高い。
歴史が示すところによれば、戦争になる確率が高い」ただその一方で、こうも言っています。
「16件のうち、4件は戦争になっておらず、戦争は不可避では無い。
4件の事例は、もちろん他の12件の戦争事例も含めて、
世界の指導者に対する貴重な教訓を示している。
「トゥキュディデスの罠」を回避するには、大いなる努力を要する。
中国は建国100年の2049年に「強い中国の夢」(「強中国夢」)を実現させると
公言しています。
それは、アメリカを超えた超大国となり、世界覇権を握ると言うものです。
すべては、この「強い中国の夢」に対してアメリカはどう出るかにかかっています。
アメリカはユーラシア大陸とは太平洋と大西洋の両洋を挟んで、
いわば、地理的に安全な安全保障環境にあります。
このことから、アメリカは「孤立主義」と「介入主義」の間を揺れ動く傾向があります。
果たして、未来はどうなるか、誰にもわかりません。
しかし、何もしない手をこまねいていると言う選択はありません。
本書で示したような防衛戦略を積極的に取っていくことこそ「三戦」に勝ち、
武力衝突を回避できる最善の道であると、私たちは確信しています。
2017年5月
日本安全保障戦略研究所(SSRI)共同研究者一同
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