この複雑な方程式がもう一方の側には、もちろんアメリカが存在する。
アメリカが台湾を守るための戦争に備えて留まり続けるかどうかは、
中国でもアメリカでも、そして台湾でも常に疑問視されてきた。
アメリカにとって、台湾をめぐる利害は中国と比較してはるかに小さいように見える。
実際、数十年にわたって歴代のアメリカ大統領は、
「アメリカは、何らの政治的和解もしくは経済的実利のために台湾を
犠牲にする用意があるかもあるのかもしれない」と
中国に思われても仕方のない言動を繰り返してきた。
例えば、リチャード・ニクソン大統領とヘンリー・キッシンジャー国務長官が台湾を、
ソ連を牽制してベトナム戦争から都合よく抜け出すための単なるコマとして
扱ったことを思い出してほしい。
こうした目的のために、1971年、ニクソンとキッシンジャーは国連からの
台湾の除名と中国の国連加盟への道を開いた。
2000年代まで話を進めよう。
台湾を「何としても」守ると約束しておきながら、ジョージ・w・ブッシュ大統領は
2003年、「現状を一方的に変更するための決定を下す用意がある」ことを示す発言と
行動」があったとして台湾総統を公然と非難し、
現状の変更に「我々(アメリカ)は反対だから」と述べた。
民主党のバラク・オバマ大統領も前任者(ブッシュ)の日和見的行動になるならい、
台湾への防衛用高性能兵器の売却を拒否した。
もちろん、ワシントンの政治指導者たちが台湾に対して慎重路線を取る背景には常に、
「アメリカ経済は中国との貿易に大きく依存している。
だから、中国と事は荒立てたくは無い」と言う事情がある。
さらに、ワシントンの政治家の多くは、成長を続ける対中貿易に既得権を持っている
アメリカの多国籍企業から寄せられる多額の選挙献金にも大きく依存している。
だから、台湾への援助となると、政治も経済も二の足を踏む。
だが、ヨシハラ教授のような専門家は、今アメリカのこうした「自制」と
歴代大統領の躊躇が危険を増大させていると言う。
中国がその優柔不断と弱腰の表れと受け取って増長し、最終的な侵攻へと
生み出す危険があるからだ、と。
台湾侵攻は中国にとって致命的な判断ミスとなるだろう、アメリカは台湾問題について
実は断固たる決意を抱いているんだから、とヨシハラは言う。
それは単に、台湾と言う自由で平和主義的な貿易を旨とする豊かな民主主義国家の
存続が、アメリカにとって道義的・イデオロギー的利益につながるからだけではない。
そこには、ヘリテージ財団のディーン・チャンが次のように述べている
冷たい戦略地政学的な現実もある。
台湾は、日本本土と沖縄以外では第一列島線上で唯一の非常に発展した部分である。
だから、台湾から立ち去る事はある意味、中国海軍に、他の障害物に
ほとんど邪魔されることなく太平洋に出ていける門を開いてやることと同じだ。
これに補足する形でヨシハラ教授は次のように述べている。
平和的な方法によってせよ、武力によってせよ、中国が台湾を併合するように
なることになれば、中国は第一列島線を半分に切断できることになる。
これは、本質的に、アジア太平洋地域におけるアメリカ軍の最前線を分断することと
同じである。
これは、第二大戦終結以来の、アジア太平洋地域におけるアメリカの軍事体制史上、
前代未聞の事態である。
この「アメリカの軍事体制」は、第一列島線に位置する国々との同盟、
第一列島線上の島々の多くに配置されたアメリカ軍基地、第一列島線で
当然の最重要部分にして中心である台湾の防衛、と言う3つの要素のうち
どれが欠けても成り立たない。
この軍事態勢は、真珠湾攻撃の教訓から生まれた。
「屈辱の日」によってアメリカは、孤立しアジア太平洋地域から艦隊と部隊を
引き上げるとどんな目に遭うのかを学んだのである。
この軍事態勢は、少なくともある面では、第二次大戦中のもう一つの凄惨な出来事から
生まれたとも言える。
真珠湾攻撃について、ダグラス・マッカーサー将軍がフィリピンから屈辱的な退却を
余儀なくされた際、彼の爆撃機や戦闘機、さらにはフィリピン列島の滑走路を
破壊しつくしたのは、台湾から次々と襲来した日本軍の飛行中隊だった。
台湾は「不沈空母」と呼ばれることがあるが、その有名な言い回しを初めて使ったのが
マッカーサーだったのも不思議ではない。
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