それでは、「アメリカの先制攻撃」シナリオはどうだろうか。
北朝鮮に核兵器を成功させないようにするための手段として、
アメリカが北朝鮮の核施設への先制攻撃を決断としたら?
イランのウラン濃縮施設を先制攻撃するかどうかをめぐって、
アメリカとイスラエルがこれと同じことを話し合っていたと言う事実を考えれば、
このシナリオは決して突飛なことでは無い。
北朝鮮の場合、北朝鮮自身が核兵器を使用する恐れだけでなく、
イランやパキスタンであるいはテロ組織アルカイダといった
危険極まりない国や組織に核物質を売る危険もある。
実は、この「先制攻撃」シナリオがありえないと思われる唯一の理由は、
「北朝鮮の核開発がもう既に止められない段階にまで進んでいるから」である。
2003年、ジョージ・ブッシュ政権の安全保障チームがイラク侵攻を準備している
隙をついて、北朝鮮はそれまで封印しておくことに同意していた
使用済み核燃料棒8000本以上を民生用原子炉施設から密かに移動させた。
これら使用済み核燃料棒を再処理することによって、
北朝鮮は十分な量の兵器級プルトニウムの抽出に成功し、
この危険な核物質を先制攻撃を受ける心配のない秘密の場所に隠してしまった。
それ以来、北朝鮮は何度も地下核実験を行い、北朝鮮の核爆弾は次第に破壊力と
完成度を増していた。
これら1連の核実験に基づいて、大半の専門家は現在北朝鮮は韓国、日本、
あるいはアメリカに向けて核ミサイルを発射するようなことがあれば、
アメリカは報復核攻撃に出ると予想される。
そうなれば、朴槿恵大統領の「北朝鮮を地球上から消し去る」と言う約束は
少なくとも「平壌を地球上から消し去る」程度には果たされるだろう。
中国もアメリカの報復攻撃の正当性は認めざるを得ないだろうが、それでも、
アメリカの核ミサイルが中国に向けてではないにしても、
少なくとも中国の方角に向かって発射される事はやはり問題である。
ミサイルが自国に向かって飛んでくるのではと言う懸念を中国が抱いた場合には、
何が起きるかわからないと言えるだろう。
だが、戦争につながる危険があるのは、北朝鮮の可能性だけではない。
この脅威に対してアメリカとアジアの同盟諸国が既に見せている反応が問題なのである。
これが戦争につながるかもしれないというのが次に検討する
「弾道ミサイル防衛網配備」シナリオである。
アメリカ側から見れば、「全面核戦争も辞さない」と言う度重なる北朝鮮の私に対して、
アメリカが従来よりもはるかに強力なミサイル防衛システムをアジアの
戦域配備するのは至極道理にかなったことに思われる。
だが中国は、そのようなミサイル防衛網は北朝鮮だけではなく
中国にも向けられていると主張し、こうしたミサイル防衛網に強く反対してきた。
中国側の主張のレトリックを剥ぎとってみれば、これはまさにエスカレーションを招く
要因としてすでに述べた「安全保障のジレンマ」のバリエーションである。
中国が恐れているのは、アメリカがアジアに最新鋭ミサイル防衛システムを配備すれば、
中国の「報復攻撃」能力をも封じることができるようになるだろう、と言うことである。
この懸念は実際かなり筋が通っている。
そうするとなれば、中国はアメリカの先制攻撃を心配しなければならなくなるからである。
だから、中国としては、アメリカのミサイル防衛システムを数で圧倒するため、
従来よりもはるかに大量のミサイルと弾頭を製造せざるをえなくなる。
このようにして、エスカレーションと言う「安全保障のジレンマ」ダンスは進行していく。
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