ベトナムがアメリカに接近しようとしていることが、状況をさらに複雑にしている。
おそらくベトナムも、日本やフィリピンといったアメリカの同盟国が享受しているのと
同じような安全保障の傘の中に入りたいのだろう。
10年以上にわたって激しく戦ったことを考えれば、皮肉と言うほかはない。
かつての敵と言え、アメリカを打ち負かしたベトナムにとって、アメリカは怖い相手ではない。
だから、ベトナムとしてみればベトナム侵略の長い歴史を持つ、
国境を接している超大国より、物理的に1万キロ以上離れた超大国のほうがいい、
と言うわけだが、海軍大学教授ライル・ゴールドスタインは、
アメリカとベトナムの正式な安全保障条約を結んで同盟国となるようなことがあれば、
それ自体が戦争の引き金になるかもしれない、と言う。
仮にアメリカがベトナムに基地を構えたりすれば、中国はそれを「アメリカは
超えてはならない一線を超えた」と受け取るだろう。
これが仮にフィリピンであれば、中国はアメリカとフィリピンの歴史的関係を理解し、
フィリピン・スービック海軍基地にアメリカ海軍が新たに駐留することを
許容するかもしれない。
これに対して、ベトナムは中国にとって数世紀にわたる歴史的な競合国である。
ベトナムにおけるアメリカのプレゼンスは、重大なエスカレーションと挑発を
引き起こすだろう。
中越関係は、米中戦争の引き金になりかねない危険性と戦略上の難問に満ち満ちている。
この引き金が最終的に引かれるかどうかは、中国の今後の出方だけではなく、
米越同盟成立をめぐる当該地域の外交の駆け引きにも関わっている。
残念なことに、南シナ海にはこの他にも戦争の引き金になりかねない問題がある
南沙諸島、マックスフィールズ堆、スカボロー礁など、南シナ海南部をめぐる
紛争である。
これらについて次章で述べることにする。
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