スカボロ礁は、フィリピン・ザンバレス州(ルソン島西岸)の沖合115海里、
すなわち、フィリピンの排他的経済水域内に位置する、
サンゴ礁や岩礁や小島からなる三角形の環礁である。
中国本土からは950キロ以上離れている。
周囲わずか55キロのこの岩礁の面積はおよそ150平方キロメートルで、
満潮時にも海面上に露出している岩礁は「南岩」ただ1つである。
中国によりスカーボロ礁の奪取は、2012年4月、中国漁船団の侵入によって始まった。
海軍の艦船が急行して調査したところ、中国漁船にサンゴや生きたサメなど
絶滅危惧種や輸入輸出入禁止生物が大量に積み込まれていることがわかった。
フィリピン当局が中国漁民を逮捕しようとしたところ中国海警局の監視船数隻が現れて
にらみ合いの状態になった。
緊迫したにらみ合いが続く中、激しい抗議行動が中比両国内で起きた。
同時に、中国のハッカー集団がフィリピン製品の輸入制限やフィリピンへの
主要政府機関にサイバー攻撃を開始した。
フィリピンにさらに圧力をかけるため、中国はフィリピン製品の輸入制限や
フィリピンへの事実上の観光旅行禁止令まで打ち出した。
中国との貿易に大きく依存しているフィリピン経済にとって、
このような経済的攻撃によるダメージは特に大きかった。
2012年6月、アメリカの仲介で、「中比両国は当該地域から撤退し、
平和的解決のために交渉する」ことが決まった。
アメリカの外交団はこれを成功とみなしたが、フィリピンが取り決めを守って
撤退したのに対し、中国はそのまま居座り続けた。
この背信行為を、フィリピンのベニグノ・アキノ大統領(当時)は、
多少の誇張はあるにせよ、ナチス・ドイツのチェコスロバキア併合になぞらえている。
7月、中国は、フィリピン人が何世代にもわたって漁業を営んできたスカボロー礁の
1部を封鎖し、危機をさらにエスカレートさせた。
続いて中国は、問題の海域の周囲24キロを禁漁区域とすると宣言した。
このスカボロー礁危機の間、中国は一貫して、中国のある将軍が自慢げに
「キャベツ戦略」と呼んだ戦略を効果的に駆使した。
前にも述べた通りキャベツ戦略とは紛争地域をキャベツの葉で1枚1枚包み込むように、
様々なタイプの民間船や準軍事船で取り囲む戦略のことである。
このキャベツ戦略の中心となるのが、アメリカの沿岸警備隊にあたる、
中国海警局の艦船である。
アメリカ太平洋艦隊の元司令官ジェームズ・ファネルによれば、
沿岸警備隊の監視船とは違い、中国海警局の監視船の任務はもっぱら、
中国の拡張主義的主張を呑ませるために他国に嫌がらせをすること」だと言う
(こうした率直な物言いのせいで、ファネルはペンタゴンをクビになった)
そして、領有権の主張を進めるために軍艦ではなく非軍事船を使うところが、
中国のやり方の非常に巧妙で興味深い点である。
こうした非軍事的な方法を用いることで、メディアに対して中国の脅威を実際よりも
はるかに小さく見せることができる。
さらに、もしもフィリピンやアメリカが軍艦でこれに対抗しようものなら、
たちまちメディアに悪者扱いされてしまう。
非軍事船がトラブルに巻き込まれたときのために、中国の軍艦が常に背後で
待機していることなど、メディアはお構いなしである。
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