実際、このサラミ・スライシング戦略は、例の壮大な「三戦」戦略(第18章参照)の枠内で
行われている。
三戦に関するステファン・ハルパーの格言「現代の戦争を制するのは
最高の兵器ではなく、最高のストーリーなのだ」 (131ページ参照)を思い出してほしい。
三戦の目標の1つによってしか実現できなかった領土的野心をノンキネティックな
戦略によって推進することだと言うことも、併せて思い出してほしい。
海軍力では中国に到底太刀打ちできないフィリピンは、中国のサラミ・スライシングに
法律の力で立ち向かおうとした。
中国の激しい非難を浴びながらも、中国の「九段線」及びそれに基づくミスチーフ礁や
スカボロー礁に対する領有権主張に法的根拠がないことを証明すべく国際海洋法裁判所に
仲裁申立書を提出したのである。
中国は仲裁裁判への参加を拒否した。
これは、中国には珍しい戦略上の誤りだった。
それによって、代表者を派遣する機会を失ったばかりか、皮肉にも審理を早めてしまったからである。
審理はまだ継続中だが、下された判決に控訴することができない(2016年7月12日、
中国の領有権主張を全面的に否定する判決が下された)。
中国はこの裁判に負ければ、九段線の国際法上の死を意味するその判決は、
南シナ海全体を揺るがすことになるだろう。
もちろん、中国が判決を無視した場合には、法律的な勝利に寄って勇気つけられた
フィリピンが軍事的反撃に出る可能性がある。
その場合、米比間の相互防衛条約によってアメリカが中比間の紛争に巻き込まれる
危険がある。
予想される紛争の火種はスカボロー礁だけでなく、現在のはフィリピンの実行支配下に
あるものの中国に包囲されているセカンド・トーマス礁や、既に中国に奪取された、
マックスフィールド堆など、他の紛争地域も含まれている。
だが、アメリカ側から見れば、フィリピンとの相互防衛条約によって危険な
「モラルハザード」がもう一つ生じる可能性がある。
具体的に言えば、この防衛条約の存在を頼んでフィリピンが中国相手に強気の
行動起こす可能性があると言うことである。
その結果、アメリカは切に避けたいと思っていた戦争に巻き込まれてしまうかも
しれない。
これは、東シナ海の尖閣問題でハザード・ジレンマ(第22章参照)と全く同じ種類のもの
である。
さらに広い見地から言えば、中国への不安を募らせるアジア諸国
(インドネシア、マレーシア、シンガポール、ベトナムなど)とアメリカとの
同盟が強固なものになるにつれて、同様のモラルハザードの可能性が高まるだろう。
戦争勃発の危険も高まるだろう。
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