これと似た戦略的次元をもう一つの領土紛争が、インドが実効支配する
アルナーチャル・ブプラデーシュ州の問題である。
オーストリアほどの大きさの、この「朝日に輝く山々の国」はインドの北東端に位置し、
西はブータン、東はミャンマーと国境を接している。
北隣はチベットだ。
中国側があるアルナーチャル・ブラデーシュを「南チベット」と呼ぶ所以である。
1962年の中印戦争終結以来50年以上にわたって、
中国軍は定期的にアールチュアル・プラデーシュへの極めて挑発的な侵入行為を
繰り返している。
インド側の戦略と言う観点から見れば、この東の玄関口を奪われれば、
第二の進入路を中国に提供することになってしまう。
つまり、入り口も軍事施設も多い雲南省を発し、ブラフマプトラ谷を抜けて
インドに侵入するルートである。
だが、この紛争をこれほど激しいものにしているのは、軍事戦略と安全保障問題だけではない。
最近、アルナーチャル・ブラデーシュは、技術革新のおかげで抽出可能になった
シェールオイルの宝庫だと判明したのである。
しかし結局のところ、中国がアルナーチャル・ブラデーシュを狙っている本当の目的は、
多くのアナリストが見落としてる水利権かもしれない。
その理由を知るために、中国とインドの水利権争いについてもっと詳しく見てみよう。
水のようにありふれたものをめぐって戦争が起きると言うのは、多くの人にとって
想像しにくいことだろう。
だが、歴史を注意深くひもといてみると、唯のH2Oが実に様々な紛争の源に
なってきたことがわかる。
例えば、1898年、フランスの遠征隊がイギリスの植民地エジプトよりも川上の、
白ナイルの源流を支配しようとしたことから、
両国はもう少しで武力装置衝突しそうになった。
1978年青ナイルにダムを建設したいと言うエチオピアの厚かましい申し出に対して、
エジプト大統領アンワル・サダトはこう警告した。
我々エジプト人は100%、ナイル川に依存して生きている。
だから、我々から生命を奪おうとするものがいれば、どんな時でも躊躇せず
戦いに打って出る。
本書の文脈に当てはめれば、分水プロジェクトは特に「戦争の引き金になりやすい」と言える。
例えば、1967年の第三次中東戦争の背景には、エジプト、ヨルダン、シリアによる
ヨルダン川源流の分水の陰謀があった。
中印間に水戦争が起きる可能性がある事は、少し考えてみればはずである。
中国とインドの人口は世界人口の40%近くを占めるが、
両国がアクセスできる水資源は、世界の水資源の10%に過ぎない。
加えて、公害が中国の水不足をさらに悪化させている。
湖や河川の多くは汚染が激しく、河川の40%が飲用に適さない。
インドも似たり寄ったりの状況である。
農業に大きく依存しているこの国は、世界銀行の予想によれば、
2025年までに「水不足」に、2050年までには「深刻な水不足」に陥ると言う。
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