【米中もし戦わば】034-03、米中戦争が短期間に終わる事は無い

これまで述べてきた事実や手がかりや結論から明らかになったのは、

紛争が勃発する可能性はますます高まっていると言うことである。

第4部で潜在的戦場を調査した結果、少なくとも2つの重要な事実が判明した。

その1つ目は、アメリカ海軍とアジアのアメリカ軍基地は中国の攻撃に対して

極めて脆弱であり、適切な「強化、分散、再編」戦略を実行しない限り

脆弱なままだと言う事実であるまた。

また、アメリカが脆弱であれば中国の勝利の見込みはそれだけ高まるから、

アメリカの脆弱性が中国の攻撃を誘発すると言う側面もある。

2つ目は、中国の攻撃へのアメリカの対応策としてエアシーバトルと

オフショア・コントロールと言う2つの戦略が考えられるが、

そのどちらにも中国を確実に阻止する力はないと言う事実である。

どちらの戦略にも厄介な問題があり、成功の保証はどちらにもない。

こうした状況を踏まえた上で本書の冒頭の問題に立ち戻り、

アジアで通常戦争が起きた場合に「勝利」がどのようなものになるかを考えてみよう。

3つの選択肢(1短期戦、2長期戦、3核戦争)のうち、最も望ましいものは言うまでもなく

1の短期戦である(もっとも、仮に中国が勝者になった場合世界はどうなるかと言う

疑問が生じる)。

ただ問題は、選択肢1の、世界経済にほとんどダメージを与えないため、

短期先で勝敗がはっきり決まる戦争と言うものは、3つの中で最も実現の可能性が

低いと言うことである。

それはなぜか。

まず、米中両国が戦争遂行のための莫大な資源を有する大国だと言う基本的事実がある。

戦争が通常の戦争の枠内で収まるとすれば(大いに疑問ではあるが)、

両国は通常兵器で長期間、互角の戦いを続けるだろう。

だから、開戦直後に勝利宣言を行えるはずだなどと、

ジョージ・W・ブッシュ大統領のように思い込んだりしてはいけない。

アメリカのような大国がアフガニスタン戦争やイラク戦争やベトナム戦争といった

はるかに小規模の戦争で10年以上も泥沼にはまったことを考えてみれば、

中国のような強大な国を短期間で打ち負かせるなどと言うのはありえない話である。

もちろん、中国も短期間でアメリカに勝てるはずはない。

短期戦は幻想に過ぎないが、どちらかが抱いた時はそれは非常に危険な幻想になると

言わざるを得ない。

というのも、どちらか一方が短期決戦で処理できると考えれば、

その国が戦争を仕掛ける可能性は劇的に高まるからである。

残念なことに、この短期決戦幻想こそまさに、エアシーバトル・ドクトリンを

下支えしている類の幻想なのである。

この幻想のシナリオの中で、攻撃を仕掛けてくるのは中国の方である。

アメリカは驚異的な技術力に物を言わせて、中国の指揮系統システムを

ノックアウトし、ミサイル発射装置を破壊し飛んでくるミサイルを全て迎撃し、

速やかに中国を屈服させる。

同様に残念なのは、中国の権力機構内部にもこれと同じ短期決戦幻想を抱いている

グループが存在するかもしれないことである。

このところ、中国軍人の論文や中国政府のプレスリリースなどいたるところに、

「中国の軍事力はますます巨大になり、いずれ日本やアメリカなどの強豪国を

迅速かつ決定的にノックアウトできるようになる」といった論調が見られる。

アメリカ国防総合大学のT・X・ハメス教授は歴史上の有名な事例を挙げ、

このような自信過剰の危険性について述べている。

 最新式の兵器を多数保有してはいるが、30年以上もの間大きな戦争を経験しておらず、

戦争の悲惨さを忘れてしまっている中国軍にとってはこのような傲慢さは

特に危険だとして彼は次のように述べている。

軍当局者は「戦争は長引く」と正直に言うべきだ。

 短期戦などと言うものはありえない。

 第一次大戦を思い出してみると良い。

 当時、ドイツは戦略的な問題の悪化に直面していた。

 その時、軍部が発言した。

 「大丈夫、そんな問題は一掃できる。2~3ヶ月で方がつく」。

もしも、「戦争は4年続き、百万人が戦死し、経済は破綻する」と言っていれば、

(ドイツ)政府は「いや、結構!」と答えただろう。

中国指導部の現在の状況はこれとよく似ている。

 彼らは短期決戦で勝利を手にすることができると信じているのかもしれない。

 この点について、アメリカ海軍大学のトシ・ヨシハラ教授は、アメリカが中国に、

「短期決戦で勝利を収め、そのまま勝ち逃げできると思うのは大間違いだ」と言う

強いメッセージを送ることが重要だと述べている。

 抑止力を高め、戦争を回避するには、長期戦の悲惨さを中国にわからせることが

非常に有効だ、と彼は言う。 

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