ここ10年以上もの間、中東での戦争で失敗が続き、国内でも、高い失業率や
膨らむ財政赤字を抱えて、アメリカは政治的手詰まり状態に陥っている。
この状況で孤立主義を主張するのは簡単なことである。
だが、根本的な大問題は言うまでもなく、アメリカ軍のアジアからの撤退が
本当に世界平和とアメリカの経済及び国家安全保障のためになるのか、である。
この問題に応えるため、アジアにおけるアメリカ軍のプレゼンスを継続
(と言うよりむしろ強化)すべき理由を、個別に深く掘り下げてみよう。
まずは、雇用と貿易についてである。
21世紀、アジアは世界で最も経済成長率の高い地域になるだろう。
世界人口の60%を要するアジアは通商の要である。
アメリカが力強く成長するためには、その成長の少なくともいくらかは
貿易に依存することになる。
そして、停滞するヨーロッパや貧しいラテンアメリカと比較して、
アジアは地理的には遠くても最高の貿易相手になるだろう。
しかし、結局のところ、「アジアにおけるアメリカ軍のプレゼンスは、
アメリカ経済のために必要だ」と言うこの論拠は、不確定要素に基づいている。
つまり、そのプレゼンスがなくなった時中国がどんな行動に出るかは未知数である。
中国はアメリカの商船がアジア市場に自由にアクセスするのを容認し続けるだろうか。
中国は自由貿易のルールに従うだろうか、それとも、重商主義的・保護主義的な
貿易を拡大し、自国の有利になるように貿易をさらに歪めるだろうか。
重要な原料の域外への輸出を容認するだろうか。
他のアジア諸国と共同で経済圏を作り上げ、アメリカの不利益となる独自の条件で
貿易を行うような事は無いだろうか。
こうした事は、アメリカ軍が実際にアジアから撤退してみないことにはわからない。
そして、中国の出す答えは、アメリカの望むものとは違うかもしれない。
プリンストン大学のアーロン・ブリードバーグは次のようにはっきりと警告している。
中国は、アメリカを排除する地域体制を作り上げるつもりかもしれない。
そのような体制は、他の利害関係を別にしてもアメリカ経済にとって有害である。
だから、この論拠には(少なくとも経済的な次元では)不確定要素が絡んでいる。
確実に言えるのは、中国は歴史的に強い重商主義的傾向を持つ国であり、
アメリカのプレゼンスがなくなればその重商主義がさらに強まるかもしれない、
と言う事だけである。
だから、問題は、「アメリカはそのリスクを犯してまで撤退すべきなのか」と言うことになる。
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