「経済的には民主化と平和を促進する」と言う主張の論拠を知るには、
「USA*エンゲージ」のウェブサイトを見るのが1番の近道である。
USA*エンゲージとは、「農業団体とメーカーの幅広い連合」と自称する団体で、
そのメンバーにはアップル、ボーイング、キャタピラー、コナグラ、
ユニオン*カーバイド、ウェスティングハウス、ゼロックスなど
そうそうたるアメリカの多国籍企業が名を連ねている。
こうした、多国籍企業にとって、独裁国家中国が一大市場であるだけではない。
安い労働力が無限に手に入り、税負担を劇的に軽減できる、
環境保護規定や衛生安全規定が事実上存在しない中国は、生産拠点の主な移転先でもある。
もちろん、政治の舞台では、企業のロビイストは経済的関与を推進したい理由として
「公害を撒き散らし、労働者を搾取して利益を上げたいから」などとは言わず、
「世界の平和と繁栄を促進するため」と説明する。
これから、彼らの3つの論拠を詳しく見てみよう。
まず1つ目は、「成長する中間層」の持つ変革力である。
USA*エンゲージはこう主張する。
市場経済の発展は、教育の普及、社会の外界への解放、独立した中間層の発達など、
社会に変化をもたらし、それが独裁的支配への逆風となる。
したがって、「この変化に直面した政府は中間層の支持を求めざるをえなくなり、
政治的自由、法による支配、腐敗の一掃を望む中間層の声に答えざるをえなくなる」と
USA*エンゲージは説明する。
確かにこれは説得力のある論拠である。
だが、中国では、経済的関与によってもたらされた経済発展は言論の自由を促進するより
中間層の不満をそらす働きをしてきた。
「お前たちを豊かにしてやる。そのかわり、おとなしく黙ってろ」というのが、
中国共産党と「成長する中間層」との暗黙の取引である。
全体的に見て、中国では中間層が政治に対しても最も消極的だが、
それはおそらくこの取り決めのせいだろう。
2つ目の論拠として、USA*エンゲージは「第三者組織」を挙げ、
スタンフォード大学のシーモア*マーティン*リプセットの言葉を引用している。
リプセット曰く、経済発展は国家と社会との関係をも変える傾向がある。
経済が発展するにつれて、国家をチェックし、政治参加の幅を広げる第三者組織の
数と種類が増え、就業や富の蓄積の機会に対する国家管理や腐敗や情実は減少する傾向がある。
だが、中国政府はオーウェル「1984年」を彷彿させる保安機関に相当な資金を投入し、
政府の権威に申し立てをする恐れがある「第三者組織」に常に目を光らせている。
環境保護、人権、言論の自由、チベット問題など声高に異議を申し立てれば、
あっさり「労働改造所」送りになる恐れがある。
労働改造所とは、スターリンの「グーラグ」にならって設置された強制収容所である。
3つ目の論拠は、「情報は力なり」である。
(やはりスタンフォード大学教授のヘンリー*ローウェンから引用した)記述は、
この論拠の本質を表している。
経済が外の世界へ開かれれば、情報の流入量は飛躍的に増大する。
インターネット、テレビ、書籍、新聞、コピー機、外国の雑誌、ありとあらゆる形態の
大衆的娯楽および知的見解が流入し始め、民主主義、人権、法による支配といった
思想を広めていく。
だが、ここでまたしても、民主化を阻む中国の保安機関の壁、中でも」
「グレート*ファイヤーウォール」が立ちはだかる。
50,000人もの「サイバーコップ」軍団を動員し、アメリカのシスコ*システムズなどの
外国企業から提供された監視技術を駆使して、中国政府は特に、
インターネット系での情報の流入を制限することができるだけでなく、
政府のメッセージに都合の良い情報の流れを作ることもある。
このように見てくると、少なくとも中国に関しては、アジアに平和をもたらす力としての
経済的関与うに過度な期待をせない方が良いと思われる。
それどころか、経済的関与は中国の軍事力の源泉だと思われる。
「平和のための経済」とは逆に、中国との経済的関わりを削減することが
中国の軍事力増強を抑える1つの可能な選択肢と言えるかもしれない。
だが、そんな過激な手段を講じる前に、まずは次の、経済的関与理論と
よくセットで論じられる理論を検証してみる必要がある。
「中国と世界の国々との高度な経済的相互依存関係によって戦争を防ぐことができる」と
するこの理論について、次章で論じることにしよう。
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