こういうと単純明快な方策のように思われるのが、言うは易く行うは難しである。
その実行には、様々な経済的・政治的・イデオロギー上の障害が伴う。
アメリカが相殺関税を賦課するなどして中国の不公正な貿易方法を是正し、
中国製品への依存度を削減しようとすれば、確実にインフレ率の上昇を招くだろう。
消費者が安い中国製品の代わりにもっと値段の高い国産品や他の国々からの
輸入品を買うようになれば、必然的に物の値段は上がる。
この経済的障害のほかに、政治的な問題も生じるだろう。
安い中国製品が市場に入ってこなくなれば、社会の中でもっと最も深刻な打撃を受けるのは
貧困層である。
貧困層に負担が偏ると言うこうした不公平は、少なくとも左派からの激しい批判に
さらされるだろう。
イデオロギー上の問題も、中国製品の流入を食い止めようと言う運動の足かせになるだろう。
自由貿易をこれまでずっと信奉してきたアメリカ人、
特に、「保護主義」とみなされかねない政策を支持することにみなされかねない政策を
支持することには後ろ向きなのである。
しかし、米中委員会メンバーで共和党支持者のダン・スレインは、
「防衛関税」政策を支持してこう述べている。
アメリカの景気は後退している。
それは、対中貿易赤字を放置しているからだ。
貿易赤字を解消し製造業を復活させなければ、国内に大きな経済問題を
抱えることになるだろう。
対中貿易のリバランスが模索される中で、こうした経済的・政治的・イデオロギー上の
障害が克服されるかどうかは未知数である。
しかし、はっきりさせておかなければならない事実がある。
それは、中国製品を買うたびに、我々消費者(「我々」には、アメリカ国民だけでなく、
インド、日本、フィリピン、シンガポール、韓国、台湾といった、
中国との間に問題を抱えている国々の国民も含まれる」は、
自分と自分の国に危害を加えようとしているかもしれない中国の軍事力増強に
手を貸しているのだ、と言う事実である。
投票箱とレジの前で、我々一人一人がこの認識を具体的な行動に変換し、
中国への経済的依存度を減らしていかなければ、実際に弾丸やミサイルが飛び始めた時、
あるいは、中国が意のままに振る舞うのを黙って見ているしかなくなったとき、
われわれは自分を責めるほかなくなるだろう。
この重大な点を踏まえ、米中委員会の元メンバー、パット・ムロイは、
アメリカのアジア重視政策は軍事のみ偏ってるのは大きな誤りだとして次のように述べている。
大統領は、これからはアジア重視だと言う。
それはなぜか。
中国が台頭しているからだ。
それなら、なぜ中国はこれほど急速に台頭してきたのだろう。
それは、アメリカが巨額の貿易赤字を抱え、投資と技術を急速に流出させているからだ。
向こうの能力が強化されるにつれて、こちらの能力は弱体化している。
だから、アジア重視には賛成だ。
同盟諸国を安心させるため、(軍事の)軸足をアジアに移そう。
だがそれなら、対中貿易のリバランスを図り、アメリカの消費者にこれ以上中国台頭の
後押しをさせないようにする方がさらに理にかなっているのではないだろうか。
これが、アジア重視の真で賢明な方法だろう。
米中委員会のマイケル・ウェッセルは、経済面に重点を置いたアジア重視政策を
実行に移すためには、アメリカ政府上層部に「中国政策通」を据えるべきだとして
次のように述べている。
第一に、アメリカは本気を出すべきだ。
アメリカ政府内には、米中関係を専門に担当する人物がいない。
これまでは、「中国も、世界経済の善良な一員と言う点で、我々と同様の関心を
持っている」と言う前提の下、何事も中国10億人のためにものを売る機会だと
単純に考えられてきた。
だが、過去10年から20年の間に、中国が我々とは全く違う関心を持っていること、
他者を排除してそれを推し進めようとしていることがわかってきた。
それは彼の勝手だが、問題は我々がそれに異議を申し立てるかどうかだ。
だからまず、米中関係の経済面と国家安全保障面の両方に明るく、
この2つが不可分に結びついていることを認識している責任者が必要だ。
例えば、中国に自国通貨の操作を許せば、中国が予算留保を増やし、
その金でアメリカを打ちまかすための兵器システムを外国から買うだろう。
そんなことが毎年のように起きているのだ。
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