日本でのモバイル決済の普及には、利用者のITリテラシーの向上と、
セキュリティへの不安、個人情報に対する懸念を払拭することが不可欠である事は、
これまで見てきた通りです。
その上で普及を左右しそうなのは、その利用コストだと思われます。
メガバンクが準備を進めているデジタル通貨のスマートフォン決済では、
その利用手数料の扱いがどうなるか、いまだに明確ではありません。
前述の通り、みずほFGは「利用者個人間の送金手数料は無料にする」、
また「利用者の銀行口座とデジタル通貨専用口座との間のお金の出し入れは
手数料をかなり安くする」との考えを公表していますが、特に後者については、
その実現可能性は未だに不透明です。
MUFGコインやJコインの実質的な運用主体は、中国のアリペイとは異なり銀行です。
海外ではフィンテック企業が担うビジネスに、
日本では銀行自ら乗り出そうとしたために、海外には見られない問題が早くも生じています。
アリペイでは消費者側の利用者の手数料はほぼ無料でした。
利用者が銀行口座からアリペイの口座にチャージすれば、
通常は銀行振り込みの手数料が生じますが、
利用履歴情報をビッグデータとして活用することから得られる利益をもとに、
その手数料はアリペイが肩代わりしているとみられます。
前述した通りです。
しかし、銀行自身が運営を担う日本のビジネスモデルで、
こうした手法を採用するのは難しい面があると思われます。
ATM等利用しての送金には手数料がかかるのに、
スマートフォン決済を利用する顧客だけを振り込み手数料で優遇するような制度は、
容易に受け入れられないと推察されるからです。
アリペイのように取引履歴情報提供の対価として手数料無料にするのであれば、
その活用ビジネスとして成立させ、会計を透明化して、
ビジネスによる刺激で手数料がまかなわれていることを示し、
スマートフォン決済以外の方法、例えばATMで手数料払って送金サービスを
利用している顧客の理解を得ることが必須です。
その時、顧客の利用コストを無料にできるか否か、
無料とならないまでも利用中止をさせない程度に安価にできるかどうかは、
ビックデータビジネスで成功できるかどうかにかかっているといえます。
しかし、銀行が取引履歴情報などをビックデータビジネスとして成立させるには、
大きなハードルがあります。
アリペイはもともとオンラインショッピングの企業ですから
取引履歴や顧客情報などのビックデータを利用し、本業の利益拡大を図るのは容易です。
一方、銀行が決済情報そのものを本業にフィードバックして新規顧客獲得増加などの
相乗効果を得る事は難しいと思われます。
そのため、ビックデータをビジネス化するには、
個人が特定されないように加工した上で販売するしかありません。
匿名となればビックデータの利用価値が著しく毀損されかねません。
また、今のところビックデータの販売について国内にルールはありませんが、
政府は早晩ルール作りに着手すると思われます。
ルールの設計次第では、スマートフォン決済を無料にできるほどの
ビジネスを見出せない可能性もあります。
そのように、ビックデータビジネスには、不透明な部分が多いのが現状なのです。
手数料を低く設定すれば、MUFGコイン、Jコインの利用が広がり、
ビックデータの蓄積が進み、ビジネスが成功しさらに手数料を下げることができると
言う好循環となる可能性もあります。
ですが、反対に、手数料を利用を促すほど十分に低く設定できなければ利用が広がらず、
ビックデータも十分に蓄積蓄積されず、ビジネスも成立しないと言う
悪循環に陥る危険性もあるのです。
ITリテラシーの育成や安全性に不安の払拭等の前提条件を別として、
銀行デジタル通貨の成否は、スマートフォン決済の手数料を安価に抑えることに
理解を得られるような、ビックデータ活用のビジネスモデルを提示できるかどうかに
かかっています。
本章はここで閉じます。
本章では、モバイル決済普及の3つの壁の一第一の壁を検討しました。
第二の壁—日本人の現金志向と、第3の壁—キャッシュレス社会実現の
コストについては、次の第4章以降で詳細に検討します。
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