今述べたようにスウェーデンでは現金の利用が急速に減少しています。
現金流通額の対名目GDP比率は減少の一途をたどり、
1950年代の10%弱から2015年には1.8%まで低下しました。
この数字だけでは日常生活でどれほど現金利用が少なくなっているのか判然としませんが、
リクスバンクの継続的に実施しているアンケートでは、
回答者で調査前の最後の支払いに現金を利用した人の割合は、
2010年調査の約40%から2016年9月の調査では15%に減っており、
現金需要の急速な減退を裏付けました。
「スイッシュ」と呼ばれる民間銀行が開発したモバイル決済が急速に普及し、
住民の半数以上が利用しています。
現金の流通が滞れば、生活に支障をきたす人々が出てくる恐れがあります。
事実、地方在住者やITサービスに不慣れな高齢者から、
行き過ぎたキャッシュレス化に対する批判が強まりました。
民間のサービスは、採算が取れない地方ではインフラを整備しない選択肢を持ち、
サービスを利用する顧客の利便性しか考えない傾向があります。
それに対し、中央銀行のサービスには全国一律のインフラ整備が求められ、
金融包摂の観点からもすべての住民が利用できることが前提条件となります。
中央銀行によるデジタル通貨発行が議論される背景には、
民間のサービスと公的サービスの目的や使命の違いがあります。
半面、現金需要の減退は、決済システムにおける中央銀行の存在感や、
中央銀行の収入であり、保有する資産の利子収入などから生まれる通貨発行益(
シニョレッジ)を低下させると言う問題も生じさせます。
この点は次節後半で詳しく検討します。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
コメントを残す