いまだ思考実験の段階にある中央銀行デジタル通貨ですが、発行されると、
中央銀行と民間銀行の双方のビジネスモデルが根本的な変化を迫られる可能性があります。
その一つが、「ナローバンク」の接近です。
金融論の分野で議論されているナローバンク論は、銀行の決済機能と金融仲介機能を
分断させ、決済システムのリスク伝搬を防ぐと言う考え方です。
ナローバンクの定義には多様な議論がありますが、代表的な考え方は、
銀行の預金部門と貸出部門を分離して、預金の運用は国債など
安全な資産に限定する一方、貸し出し部門は市場からの資金調達で行うといった形態です。
銀行は自ら信用創造を行うことで、負債である預金と資金資産である
貸し出しを両建てで拡大させることができます。
信用創造とは銀行が顧客の預金口座の残高を貸し出しと言う行動を通じて
増やすことです。
実際には現金は動いていませんが、銀行の負債にあたる顧客の口座(預金)の残高を
増やし、資産である貸付金を増やすことで、顧客が使うことのできるお金を、
銀行自らが作り出すことができるのです。
これが世の中の経済活動における、銀行の大きな役割です。
しかし、先にも指摘した通り、預金は流動性が大きく期間が短い負債で、
貸付金は流動性が小さく期間の長い資産ですから、信用創造により、
銀行は流動性リスクとデュレーション(期間)リスクを抱えることになります。
加えて、現状のような部分準備預金制度の下では、銀行貸出に対して部分的にしか
支払い準備を持ちません。
そこが銀行の脆弱性であり、取り付け騒ぎのリスクにさらされる一因でもあります。
具体的にナローバンクを実現する方法として、民間銀行に100%の預金準備を持つ
義務を課すことが、古くから提案されてきました。
それは銀行の信用創造機能を奪い、銀行の負債である顧客の預金を資産側の
中央銀行当座預金と対応させるものです。
そうすれば銀行は取り付け騒ぎに応じられないと言うリスクを回避できます。
顧客が預金の取り崩しに殺到しても、銀行は同じ金額だけ中央銀行当座預金を
取り崩せば手当てできるため、破綻を免れます。
仮に、中央銀行デジタル通貨が現金を広範囲に代替するだけでなく、
民間銀行の預金を代替していくと言うことが起こった場合、
銀行の金融仲介機能が低下する可能性があります。
それは、100%の預金準備の義務化に近い効果を生み、
金融制度をナローバンク化させていくことになるとも考えられます。
銀行が中央銀行デジタル通貨に奪われた預金の減少分を他の銀行からの借り入れや
社債の発行等を通じた市場調達の拡大で賄って貸し出しを維持することができれば、
銀行はナローバンクに近づいていくことになるでしょう。
そうなれば、、取り付け騒ぎから銀行が深刻な流動性不足に一気に直面し、
金融システムが不安定化するリスクが大きく減少すると思われます。
預金者保護のための預金保険制度等のセーフティーネット等の必要性は低くなるでしょう。
銀行の機能がナローバンク化すれば、銀行破綻が生じにくくなって
金融システムの安定度は高まります。
直接発行型の中銀デジタル通貨制度の下では、その傾向はより強まるでしょう。
しかしナローバンク化を通じた金融システムの安定確保が、現在、
非常に重要なことであるかどうか疑問です。
銀行破綻を予防するためのセーフティーネットとして、今すでに準備預金制度、
預金保険制度や、中央銀行が深刻な資金不足に陥った銀行に一時的に貸付を行う
「最後の貸し手機能」などが確立されているからです。
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