前節で中央銀行デジタル通貨の発行が金融システムに及ぼす影響を考察しましたが、
本節では金融政策に与える影響を考えてみましょう。
中銀デジタル通貨発行のプラスの効果は、一般に4つ指摘できると言われています。
第一に、中央銀行の主に利子所得収支からなる、いわゆるシニョレッジの減少を
回避して、金融政策を含めた中央銀行の業務全体の安定性を確保することができることです。
シニョレッジとは通貨発行益のことです。
かつては、政府が硬貨を鋳造し発行することから得られる利益、
つまり、効果の鋳造費と硬貨の額面との差を意味していました。
ですが、現在では、シニョレッジの意味は次のように解釈されています。
中央銀行は民間銀行から国債を買い入れ、その代金を民間銀行が持つ中銀当座預金に
振り込みます。
また民間銀行は必要な現金を、この中銀当座預金を取り崩すことで手当てします。
それによって、初めて中央銀行が現金を発行することになります。
この場合、中央銀行のバランスシートの資産側には国債が負債側には中銀当座預金と
現金が計上されます。
中銀当座預金の1部には金利がつきますが、現金には金利がつきません。
中央銀行に資産がある国債から入れる利子収入と
負債側の国債から得られる利子支払いの差が、シニョレッジです。
中央銀行の業務はこのシニョレッジに支えられています。
民間銀行が中銀当座預金を取り崩して現金を多く保有するほど、
中央銀行の利払い負担が軽くなりシニョレッジは増加します。
しかし、仮に民間が発行するデジタル通貨が広がると、現金が利用されなくなり、
その分中央銀行の利払い負担は重くなって、シニョレッジは減少します。
その結果、中央銀行の収益環境は悪化し、悪くすれば収益の赤字化や収益の毀損などの
問題が生じて、中央銀行の財務の健全性を損ねてしまう危険があります。
他方、中央銀行自らがデジタル通貨を発行する場合には、
それが現金にとって変わっても、こうした問題は生じにくくなります。
日本の金融の現状を見ると、今は、仮に現金の流通が急速に減少することが起こっても、
実はあまり問題にもなりそうもありません。
2013年4月から実施されている大規模な金融緩和の下で、
日本銀行が民間銀行から大量の国債を買い入れ、
その分、銀行が日本銀行に持つ日銀当座預金が膨れ上がっているからです。
日本銀行が日銀当座預金につける金利は、マイナス0.1%、0.0%、+0.1%の
3段階に分かれていますが、全体の平均は0%に近いプラスになっています。
半面、大量に保有する国債から得られる利子収入があるので、シニョレッジは確保されています。
日銀当座預金と比べると現金の比率はかなり小さいため、
現金が減少しても日本銀行の利子収支に大きな影響は及びません。
しかし、将来日本銀行が金融政策を正常化させ、政策金利を引き上げるとともに
国債保有を減らしていけば、日銀当座預金も減少していきます。
そうなれば、利払いが発生しない現金が負債の中で再び高い比率を占めるようになります。
そうしたいわば通常の状態から仮に民間が発行するデジタル通貨に代替されて
現金が減少し、その分、利払い負担が生じる日銀当座預金が増加していけば、
それはシニョレッジを顕著に縮小させ、日本銀行の財務の健全性を傷つけることになります。
収入が大きく減少すれば、金融政策を含む中央銀行の広範囲な業務を
制約してしまうことにもなります。
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