若者にそっぽ向かれた造船重機の生産現場では、70、80年代に雇われた中卒、高卒が汗を流す。
「現代重工業の平均勤続年数は18.4年」と、前出の朝鮮日報の記事(12.4.2)にあった。
韓国の純民間企業としては異例の長さだ。
「ベビーブーム世代(1955から63年生まれ。
著者注=朝鮮戦争後になる)の大量退職がついに始まろうとしている。
現代重、大宇造船海洋、斗山重工業など大手メーカーでも、
現代自と同じく熟練工の大量退職を控えている」
「問題は、これがベビーブーマーが現場で築き上げた現場で磨き上げてきた経験やノウハウ、
感覚や技術を受け継ぐ若い技術者が足りない点にある」
「大手造船メーカーの中には40代や50代の割合が75%を上回るところもある」
「ベビーブーム世代の労働者のノウハウが若い世代に受け継がれない場合、
韓国製造業の基盤が崩壊する可能性もある」(朝鮮日報12.2.9「社説」)
日本の造船関係者は「韓国造船業界で次世代に受け継ぐべきノウハウ、感覚、技術」
などと聞いたら笑い出すかもしれないが、韓国の造船重機、鉄鋼関連等が12年春、
相次いで生産職の定年を2から4歳延長したのは、地獄のような就職難と言うのに、
しかも高給なこれら部門に、若者が入ってこないからだ。
現代重工業は、この一方で12年秋にはホワイトカラー部門の希望退職募集に踏み切った。
12年第4四半期は経常赤字に転落した。
一波乱あるのではなかろうか。
生産職を4区分したうち、残る③と④では、③の方が正規職の比率がやや高く、④の方がいっそうの低賃金と言うことだ。
そして、④は手作業の工程が多いことが特徴だ。
思い出したのは、日本が誇りとすべき「世界一のピンセット製造企業」を取材したときのことだ。
細長く整形された金属板を、機械と言うよりは道具で折り曲げれば一丁あがりなのだが、
実はバネ力を高めるためには、おり曲がる部分に様々な熱処理が必要だ。
携帯電話やスマホの制作工程で、直径4ミリ以下のベアリングを傷つけることなく、つまみ上げ、
瞬時に定められた箇所に埋め込む作業に使うようなピンセットは、
2つの細長い金属板を溶接して作る。
携帯電話モデルチェンジが早い。
その度に生産ラインを全面改造するより、ピンセットの手作業で対応する方が、
効率が良い部分があるそうだ。
いずれも、尖端部分の磨きは、まさに「勘」便りの手作業だ。
テレビで見た方もいるだろう。
この会社のピンセットは、鶏卵を割って、その黄身だけをピンセットで積み上げても、
黄身が崩れない。
あのピンセットを作ったメーカーだ。
取材を終えて帰る際、作業場の傍を通り過ぎると、もう就業時間は過ぎているのに、
茶髪の若者が必死に折り曲げ工具を動かしていた。
社長「何をしているの」
社員「こうすると、靭性が強くなるのではないかと思い…」
社長「よし、やってみてくれ」社長は小声で私に「あれではダメです。
でもああして一人前になっていくのです」とささやいた。
社長がマイカーで私鉄の駅まで私を送ってくれた。
韓国の同業者のメーカーだったなら、社長が実験をしていた若者に向かって
「このやろう、材料無駄にしやがって」と恐ろしい顔をして怒鳴りつける。
ついでに、鉄拳制裁かもしれない。
しかし、記者にはにっこり笑って「これでよろしく書いてください」と、
懐から封筒(現金)を取り出す。
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