日本銀行は2017年10月に公表した半期に1度の「金融システムレポート」で、
日本の銀行の低い収益性を俎上に載せ、そのビジネスモデルに根ざした問題点を指摘しています。
日銀としてはかなり踏み込んだ興味深い内容ですから、その指摘を紹介しながら、
問題点を検討してみましょう。
①多すぎる従業員数と店舗数「金融システムレポート」はまず、
1つの金融機関あたりの従業員数が欧米と比較して多い傾向と、
従業員一人当たりの利益が小さい傾向してきています。
その傾向が特に強いのは、比較的規模が小さい地域金融機関です。
また、店舗数の過剰についても触れています。
人口10万人あたりの金融機関の店舗数は、深刻なオーバーバンキング状態とされる
ドイツで47ですが、日本は郵便局も含めた2015年末の数字で
44とドイツに近く、店舗数の過剰が収益性を損ねているとしてきています。
②無料のサービスが多くないか銀行の低い収益性には、
低金利環境の長期化による金利収入の減少に加え、
それ以外の手数料等の収入が少ないことも影響してとも指摘しています。
金利以外の収入でも、大手銀行を除けば、日本の銀行の収益性は欧米に遅れをとっています。
レポートは日本の金融機関に相応にコストがかかる金融サービスを無償で
提供している例が少なくないことを問題視しています。
例えば欧米では、以前から銀行口座の残高が一定水準を下回ると
手数料が課される口座管理手数料と言う制度が一般的ですが、
日本ではまだそれは導入が検討されていると言う段階です。
また預金通帳には印紙税が課せられますが、それも銀行が負担し、
預金者は無料で預金通帳を受け取っています。
レポートは、いわば社会慣習、社会通念に埋め込んだ問題にまで言及しているのです。
銀行が小口顧客の口座管理手数料を無償とせざるを得ない背景には、
戦前から郵便局も含めて激しい預金獲得競争をしてきたことがあり、
それが口座管理手数料を無償にする慣例やビジネスモデルを
日本に定着させてしまった、と言う興味深い指摘もあります。
この分析を踏まえで、中曽宏、日銀前副総裁が2017年11月の公演で
「適正な対価を求めずに銀行が預金口座を維持し続けるのは困難になってきている」と
指摘し、口座維持手数料を新たに預金者に求めることも検討対象との趣旨を述べ、
「適正な対価について国民的議論が必要だ」と問題提起しています。
③店舗が過密で儲からない「レポートは銀行の出店戦略も分析の対象としています
日本の銀行は、企業の数が多い都市圏に店舗を集中させる傾向があります。
これについて、個々の銀行にとっては合理的な判断であっても、
多くの銀行が同じ戦略をとれば、銀行間での競争が高まり収益が低下すると言う「
合成の誤謬」が発生するとしてきています。
さらに、もう少し踏み込んで、地域銀行と、信用金庫を対象に、
店舗密度が高い地域に出店し激しい競争にさらされている金融機関は、
市場支配力(貸し出しなど金融仲介における価格決定力)が低下していると言う
検証結果も公表しました。
競争が激しい所では、金融機関は取引先に対して、
金利などの貸し出し条件は甘くせざるをえなくなっているということでしょう。
メガバンクと地域金融機関の収益構造には違いもありますが、
両者とも海外の同業者と比べて収益性やビジネスモデルの転換の遅れが目立ち、
そのことが今日、非常に大きな問題となっているのです。
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