実際、「アメリカの軍事費は中国を大幅に上回っている」と言う話は、
中国の脅威を過小評価するための論拠としてよく持ち出される。
しかし、この話にはいくつか批判的考察を加える必要がある。
第一に、軍事費総額を直接比較すること自体が間違いの元である。
アメリカ軍が世界規模で戦力投射しなければならないのに対して、
中国軍はアジア地域での戦力投射に焦点を絞っている。
これを兵器と言う文脈に当てはめると、アメリカの納税者は
空母10隻の費用を負担しなければならないが、
アジア地域のパトロールに派遣されている空母はその内での数隻でしかないと言うことである。
第二に、中国における軍事費1ドルはアメリカにおける軍事費1ドルよりもはるかに使いでがある。
それはなぜか。
まず、中国軍兵士の人件費は、アメリカ軍兵士の人件費よりもはるかに安い。
加えて、兵器の製造コストも中国の方が確実に安い。
その理由は、労働力が安価だからと言うだけではない。
そこには、環境への配慮や労働者保護に費用をかけないで済むからと言う理由もある。
中国では大気や水の汚染が進み、労働環境は非常に危険だが、
自動車や家庭電化製品からミサイルや潜水艦まで、あらゆるものの製造コストは
ずっと安く抑えられるのである。
中国がコスト面で有利な理由には、次のような不愉快な事情もある。
中国は、軍事研究や新兵器システム開発にほとんど費用をかける必要がないのである。
その重要な理由の1つは、最新兵器の設計をペンタゴンや民間防衛企業から
盗み出す中国人ハッカーのスキルの高さである。
もう一つの理由としては、中国が外国から購入したテクノロジーの多くを
不法にリバースエンジニアリング(製品を分解したり動作を観察することによって、
技術を模倣すること)をしていることが挙げられる。
中国によるリバースエンジニアリングの最大の被害者は、アメリカではなくロシアである。
中国はロシアから最新鋭の戦闘機スホーイ(SU-27)を購入してその模倣品を製造し、
瞬く間に世界市場に売り出してロシアの売り上げに打撃を与えた。
空母艦載戦闘機SU-33もコピーし、それを非難された時、中国側は、
「スホーイをコピーしたわが国のJ-15戦闘機は、実はオリジナルよりも性能が良い」と
言う趣旨の噴飯物の答弁で対抗した(中国側はその滑稽さに気づいていなかったようだ)。
だが、コピーの方がオリジナルよりも高性能だと言う中国の主張は確かに正しい。
そして、これこそ競合国が直面する問題の1つである。
中国は他国のテクノロジーを盗む能力だけではなく、それを改良する能力も有しているのである。
踏まえると、中国の軍事費がアメリカに遠く及ばないように見えるからといった理由で
安心するのは間違いだということがわかる。
GDPの成長率において中国はアメリカを大きく上まり続け、
アメリカ経済の低迷を続けているため、米中の軍事費のグラフがそう遠くない将来に
交差するものと思われるだけになおさらである。
実際、軍事費と言うパズルをよくよく見れば、中国がアメリカよりもずっと少ない金額で
軍事力を増強できている事は安心材料どころではないことがわかる。
中国の急速な軍備拡張を可能にしている経済発展について考えると、次のような、
はっとさせられる疑問が湧いてくる。
かつてアメリカが第一次大戦時のドイツ帝国に対して、第二次大戦時にナチスドイツと
大日本帝国に対して、そして冷戦時にそれに対して発揮した強み発揮するようになるだろうか。
つまり、中国はその製造能力の優位性を利用してアメリカとの戦争に
勝てるようになるだろうか、と言う疑問である。
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