劉の構想の第一段階は「沿岸」及び「第一列島線」を突破することである。
すでに述べたように、第一列島線とは、千島列島の北端から日本全土、
日本列島南端の沖縄へとなり、さらに南下して台湾
(第一列島線のほぼ真ん中に位置するとともに、最も重要な島)を通過し、
ルソンとフィリピンを抜けてマレーシア領ボルネオへと続く先である。
もちろん、「第一列島線」は単なる比喩である。
東シナ海や南シナ海に実際に線が引かれているわけではない。
しかし、仮想ので線とは言え、この比喩は劉提督の心に重くのしかかっていたし、
現在に至るまで中国の戦略はこれにこだわり続けている。
中国はこの第一列島線の突破にこだわるのは、実は極めて妥当なことである。
なぜなら、これが実際に中国海軍の行動を束縛しているからである。
まず問題になるのが、劉の言う「沿岸」にチョークポイントが非常に多いことである。
また、中国の水上艦は、日本やフィリピンや韓国といった国々あるアメリカ軍基地から
発進するミサイルや戦闘機にとって容易に到達できる距離にある。
だから、世界的な制海権獲得の第一段階が、今第一列島線と言う束縛の打破であることを
痛感していた。
その実行方法については、次章で述べることにする。
さしあたっては、制海権獲得の第2段階として劉提督が「第二列島線」の打破を
想定していたことを知っておいてもらいたい。
この第二列島線は、本州の中程から出て、サイパンを含む北マリアナ諸島のほうに
大きく膨らんでグアム(ここが第二列島線の中間点)を通り、
パラオを通過してインドネシアのパプア州とパプアニューギニアまで続く線である。
この第二列島線を形作る島々に共通するものは、その「足がかり」としての
戦略的な重要性である。
第二次大戦中、ハワイから反撃を開始したアメリカ海軍はこれらを足がかりにして
日本本土へ空襲を仕掛け、それによって日本の降伏を勝ち取った。
現在第二次大戦の激戦地の1つグアム島は、アメリカ軍の戦略拠点として
大きく立ちはだかっている。
台湾が第一列島線の要であると同じ意味で、グアムは第二列島線の要である。
劉提督の目標は、2020年までにこの第二列島線を突破することだった。
そして、いまや空母を擁する中国海軍はこの目標にあと少しのところまで
近づいているように見える。
草葉の陰で劉提督は、しっかりと目を閉じて微笑を浮かべていることだろう。
劉の戦略の第3段階は、2050年までに世界的な制海権を獲得することだった。
中国海軍が世界規模の海軍どころか沿岸警備隊に毛が生えた程度のものだった時代の
構想であることを考えれば、劉提督の構想のスケールはとてつもなく大きかったと言える。
現在、中国側からも西側の軍事アナリストからも劉提督の3段階構造に忠実に従って
戦略的行動を進めていることを示す有力な証拠が上がっている。
世界平和にとって不都合なことに、この構想はその定義からしてゼロサムゲームである。
実際、中国が第一第二列島線を突破して世界の制海権を握ることに成功するためには、
アメリカ海軍を打ちまかすか、あるいは、アメリカ海軍を従わせる以外に方法は
無いのである。
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