だが、ここではっきり言っておかなければならないのは、
1連の非対称兵器の開発において中国が必ずしもアメリカ艦船の撃沈を
目標としているわけではないかと言うことである。
中国はむしろ、「戦わずして勝つ」ことを最初の目標とする孫子の兵法に則り、
中国がその気になりさえすればアメリカの空母撃沈できるのだと
アメリカに思わせようとしているのである。
だから中国は、アメリカ海軍大学校ジェームスホームズの言う「ハードシールド」
(「アメリカ海軍を完全にアジア海域から駆逐するための」防御壁)を
構築しようとしているわけではない。
中国は単にアジア海域で作戦行動を行うアメリカ艦船のコストとリスクの負担感を
上げようとしているに過ぎない。
そして、そうすれば、すでに戦争に疲れているアメリカが戦わずして
逃げ出すだろうと踏んでいるのである。
中国が反干渉作戦のお手本にしているのは孫子だけではない。
この戦略は、カールクロワゼヴィッツの「代数による戦争」と言う
西洋的な考え方の典型例でもある。
この名高いプロイセンの軍事理論家の精神にのっとり、中国はアメリカに費用対効果
と言う問題を提起している。
アメリカの政治家や軍司令官は、「アジアに駐留することで得られる
経済的国家安全保障上のメリットは、著しく増大しつつあるリスク及び
海軍やアジアの基地の付随的コストに見合っているだろうか」と言う不愉快な問題に
直面せざるを得ない。
中国の力が増大するにつれて、費用対効果を厳密に考えれば、
この重大な問題にアメリカはいずれ「ノー」と答えざるをえなくなる、
と中国は考えているのである。
いつかアジア太平洋地域の海と空で東(孫子)と西(クラウゼヴィッツ)がどのように
出会うことになるかを、アメリカ海軍大学校教授トシヨシハラが次のように説明している。
(中国の)目標は、アメリカ海軍を軍事的に打ちまかすことではない、中国の目標は、
ホワイトハウスの戦略的政治的計算法を変化させ、コストとリスクの負担感から
アメリカの政策決定者がアジアへの介入を躊躇するように仕向けることである。
ホワイトハウスが躊躇し、決定を遅らせれば、それだけ中国は紛争を
自分に都合よく解決する時間を稼げるようになる。
これによって現地の状況は不可逆的に変化するだろう。
そして、それによって中国の望みが実現するだろう。
中国の望みとは、戦わずして勝つこと。
つまるところそれは「立入禁止区域」を設けることである。
このような恐ろしい結果を防ぐため、さらに、中国の最新式対艦弾道ミサイルの脅威に
対抗するため、アメリカは日本やオーストラリアといった同盟国の協力を得て
最新鋭のミサイル防衛システムを導入しようとしている。
もちろん、こうしたミサイル防衛システムを当該地域が持ち込むことそれ自体も、
事態のエスカレーションを招く行動である。
と言うこともというのも、中国は防衛システムを数で圧倒しようとして
さらに多くのミサイルを配備するだろうからである。
典型的な「安全保障のジレンマ」の軍拡競争が起きようとしている。
アメリカのミサイル防衛システムは、中国の通常型ミサイルを無害化するにとどまらず、
必然的に、そしておそらくは意図的に、中国の「報復核攻撃」能力をも脅かす。
すると、この行動は状況の不安定化も招くことになる。
というのも、このような核報復能力こそが「核抑止力」
(「こちらに核ミサイルでやり返す力があれば、先制攻撃を仕掛けられる心配は無い」
ということ)の基礎だからである。
核抑止力の話が出るところで、次章では、中国の核に関する最も厄介な問題である
「核の万里の長城」について述べることにする。
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