最初に、アメリカの抑止力をリストアップしてみよう。
アメリカの報復攻撃能力には、確かに、地上発射大陸間弾道ミサイルや長距離爆撃も含まれている。
だが、アメリカが保有する抑止力の三本柱の中で最も確実な破壊力を有しているのは、
3番目の、弾道ミサイル搭載原子力潜水艦(SS BN)である。
それはなぜか。
その理由は、すでに述べたようにこのGPS時代にあっては、
地上発射ミサイルが発射される前に精密爆撃によっていとも簡単に破壊されてしまうだろうからである。
同時に、アメリカの老朽化した爆撃機は、中国やロシアなどのますます高性能化する
防空システムに次第に太刀打ちできなくなってきている。
対照的に、原子力潜水艦隊にはこのような弱点は無い。
その優れたステルス能力と長距離潜航能力によって、原子力潜水艦はまさしく
大海原の真っ只中に潜り、アメリカに先制攻撃を仕掛けてくるかもしれない国を
射程に収めてじっと隠れていることができる。
こうして、アメリカの保有する弾道ミサイル搭載原子力潜水艦14隻は、
冷戦時代初期以来数十年にわたって最高の見張り番の役目を果たしてきた。
これまで近代的な原子力潜水艦大が配備できなかった中国にとっては、
これは言うまでもなく実に面白くない状況だった。
2014年、中国がついに晋級弾道ミサイル潜水艦の開発と配備に成功した時、
状況は一変した。
フットボール競技場よりも長い、この094型原子力潜水艦は、
最大射程距離12,000キロの巨浪2号ミサイルを最大16発発射することができる。
ここに驚くべき数字がある。
中国は、運用可能な晋級原子力潜水艦を五隻保有しているかもしれないと言うのである。
そして、複数の軍事アナリストが示唆しているように、そこから発射される
巨浪2号ミサイルに16発それぞれ最大4つの弾頭搭載できるとすると、
中国はアメリカ本土に合計300発以上の核弾頭を打ち込む能力を持っていることになる。
こうして、「シアトルの不眠症」(1993年製作のアメリカ映画のタイトル。
邦題は「めぐり逢えたら」)と言う言葉は全く別の意味を持つことになった。
中国の弾道ミサイル搭載原子力潜水艦の現実的脅威に関して、
軍事アナリストたちはそのステルス能力を大いに疑問視している。
例えば、ジョージワシントン大学教授アミタイ・エツィオーニは、
中国海軍の兵器は総じて「ジャンク品」だと片付け、潜水艦も
「非常にスクリュー音が大きい」と軽視している。
軍事研究家クリスチャン・コンロイも、もう少し冷静な口調ではあるが、
晋級潜水艦は「検出可能なソナー信号」を出すと述べているし、
アメリカ国防総合大学のT・X・ハメス教授等は晋級潜水艦はあっさり
「かなりやかましい」と評している。
だが、中国は音の静かな096型唐級原子力潜水艦を既に開発中である。
だから、中国の弾道ミサイル搭載原子力潜水艦の報復攻撃能力を過小評価すべきではない。
ハドソン研究所のセス・クロプシーは、次のように注意を呼びかけている。
現在のところ、中国の潜水艦はアメリカの潜水艦ほど高性能ではないが、
中国はコピーにかけては独創性と想像力と創意工夫にあふれる素晴らしい能力を持っている。
だから、将来、中国の潜水艦は次第に高性能になっていくものと思われる。
中国の新しい弾道ミサイル搭載原子力潜水艦が抑止力としての機能を
きちんと果たすためには、海南島の基地から(アメリカの海岸を射程内に収められる)
太平洋の新海域へと自由かつ秘密裏に潜航できるようにならなければならない。
だが、太平洋の比較的安全な海域に到達するまでに、中国の原子力潜水艦はまず、
第一列島線に沿って並んでいるチョークポイントのどれかを通り抜ければなならない。
したがって、アメリカの大陸間弾道ミサイルの固定式格納庫が中国の長距離精密爆撃の
危険にさらされているのと同じように、中国の潜水艦が深海域に到達するまでの間に
アメリカの攻撃型潜水艦に阻止される危険にさらされている。
対照的に、アメリカの原子力潜水艦はこのようなチョークポイント問題は存在しない。
ニューポートニューズやサンディエゴなどから出港した潜水艦はほとんど即座に
深海域に入れるからである。
中国が弾道ミサイル搭載原子力潜水艦を建造している理由は、
第一列島線と言う束縛を破らなければと考えているからである。
だが、これと同じ目的のために、中国は世界最大にして最強の通常型ディーゼル電気式
潜水艦も着々と建造しつつある。
アメリカとその同盟諸国にとって、このディーゼル電気方式潜水艦は発展途上の
原子力潜水艦よりもさらに危険な存在かもしれない。
次章ではこれについて述べることとする。
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