独裁制には、陽動戦争勃発の危険性を増大させる重要な要因がもう一つある。
民主主義国なら、国民には投票によって平和的に「悪党を追い出す」チャンスがある。
だが、独裁国家では、悪党を管理するのは悪党人だから、往々にして
腐敗と横領がはびこることとなる。
誤解のないように、そして公平のために言えば、中国の為政者はたとえ国民の支持を
取り付けるためだけだとしても、国の安全と繁栄を保障しようとする強い動機を持っている。
だが、中国共産党員は、権力を利用して私腹を肥やすと言う抗し難い誘惑にも直面している。
中国が前代未聞の経済成長を謳歌するとともに腐敗もはびこったのは、
おそらくそのためだろう。
現在、中国は世界の腐敗大国ランキングで常にトップクラスである。
収入格差が激しくなるにつれて国民の間で政治に対する不満が高まっているが、
その少なくとも1つの大きな理由がまさにこの腐敗の激しさである。
最上位5%の世帯が全世帯収入の25%近くを得ている一方、最下位5%の世帯の収入が
全世帯収入に占める割合はわずか0.1%に過ぎない。
70年足らずの前に発足した時は富が平等に分配されていたはずの国で
このようにいびつな収入配分が行われている事は特に注目に値する。
現代の中国は、基本的に3つの経済階層に分かれている。
最上層は「スーパーリッチ」である。
アメリカのいわゆる「ワンパーセント」に相当するこの階層に属している中国人は数千人。
その内訳は共産党の大物幹部と、党員の銀行口座残高を潤沢にしている大物経営者
大物企業家である。
第二層は、奇跡の経済成長の恩恵に預かることができた裕福なミドルクラスである。
推計によってかなりのばらつきがあるが、この階層に属する中国人は
1億人から2億5000万人と考えられる。
そのほとんどが豊かな沿岸部に居住している。
中国の中間層の人口は、非常に印象的だが、14億と言う総人口と比較すると
そうではないことがわかる。
中国の経済革命が豊かさを生み出した事は紛れもない事実でも10億人以上の中国人は
今も貧しいままであり、そのうちの5億人以上は自給自足的農村で文字通り
赤貧の生活を送っている。
農村の不満を煽っているのは、この極端な貧困だけではない。
産業振興のために力ずくで土地を収奪しようとする中国共産党幹部の強欲な行動も
農民の不満をかき立てている。
ガーディアン紙は、百万件以上の不法な土地収奪事件が中国政府自身によって
報告されているとして、その手口を次のように述べている。
警察やヤクザが農民を土地から追い出すために暴力に訴える場合、
それは凶器を持った強盗の行為と大差ないことがある。
これよりさらに多いのが詐欺的な収奪である。
開発業者から賄賂を受け取った地方の役人は、十分な保証するからど農民をだますのである。
貧しい農民たちが都市に流入することによって農村の反乱は防止されるかもしれないが、
このような大量移住と2035年までに70%に達すると予想される急速な都市化は、
農村の反乱とは全く違う種類の、すなわち現在中国の劣悪な労働環境に対する、
古典的に純粋なマルクス主義的「労働者革命」につながる恐れがある。
中国には、劣悪な労働環境に耐えながらカツカツの生活を送っている労働者が既に数億人いる。
支配者層や中間層がBMWやロレックスなどを新たに手に入れた富を誇示しているのを見て、
彼らは嫉妬と羨望を募らせている。
したがって、安定と平穏を求める中国共産党にとって、平和と繁栄の道として
産業化をしゃにむに推し進めることが最上の戦略とは限らないと言うことになる。
しかし、共産党指導部にとって、経済成長の鈍化、あるいは後退な反政府運動に
つながる事はたやすく想像できるはずである。
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