ハリー・ポッター・シリーズで悪役ヴォルデモートの名前を呼ぶことが
タブーとされているのと同じように、こうした真実は残念ながらワシントンの政界では
タブーとされ、あえてこれに言及する政治家はほとんどいない。
実際、この「都合の悪い事実は見て見ぬふり」と言う態度にはそれなりの政治的理由がある。
第一に、ホワイトハウスも議会も、中国が着実にアメリカとの軍事力の差を縮めている
ことを正式に認めたがらない。
そんなことを認めれば、世論が厭戦ムードに傾き、予算状況が既に逼迫している今
何らかの行動が必要になってしまうからである。
中国の脅威が高まっていることを認めれば、ただでさえ2極分化している政治体制の中で、
「大砲かバターか」の悩ましい選択をしなければならなくなる。
同時に、政治家も軍幹部も、アメリカの相対的な凋落を認めるより、
自信たっぷりにアメリカ軍の優越性をアピールしたがる。
そうしなければ、東シナ海や南シナ海、さらに、ことによると、インド亜大陸における
中国のサラミ・スライシング戦術を助長することになるからである。
加えて、「アメリカ軍の有意は永遠に続く」と言う神話は、中国の貿易で
多額の利益を上げているアメリカ産業界にとって都合の良いストーリーにも
ぴったりマッチしている。
アメリカの経済新聞やケーブルニュースで特に人気の高いこうしたストーリーの中では、
中国はアメリカと平和的に貿易を行うことだけを望んでいる「友人」である。
ボーイング、キャピタル、GE、ゼネラルモーターズといった大企業が、
中国で営業する権利と引き換えに「軍民両用」技術を積極的に中国に移転している。
もちろん、「軍民両用」であるからには、こうしたアメリカの技術は必然的に
武器に転用され、アメリカの陸海空兵士に向けられることになる。
最後に、本章冒頭の問題の正解が、これまで述べてきたことから推論できるように
5の「1~4の全て」だとすれば、そのゾッとするような現実は
ミアシャイマーの書き出す未来ものである。
アメリカの持つ軍事力に追いついたと思えば、中国はアジアにおける覇権を
いっそう強く主張するようになるだろう。
もちろん、その過程で中国はアメリカと言う派遣国をアジアから追い出そうとするはずだ。
となれば、これから考えなければいけない問題は、「中国の非対称兵器と
強大化する軍事力に対して、アジアのアメリカ軍は実際にどの程度脆弱なのか」と
「脆弱性を踏まえた上で、アメリカの艦船や航空機や前進基地に対する
中国の攻撃に対処するためにはどうしたらいいか」の2つ、と言うことになる。
これから数章を割いて、この2つの問題に取り組むことにしよう。
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