【米中もし戦わば】032-03 「中国が軍備を拡張するのは、西太平洋地域のアメリカの接近を拒否するため」

 エアシーバトル戦略の論理的根拠は、3つの基本的前提に基づいている。

 エアシーバトル戦略の立案者である、アンドリュー・クレピネヴィッチが、

1つ目の前提を次のように述べている。

この論争の始まりとなった、ペンタゴンへの報告書に彼とその共著者はこう書いている。

 半世紀以上にわたって、アメリカは世界的な利益を守る世界的な大国だった。

 世界的な利益とは、民主主義を擁護し世界に広めること、重要な貿易相手国及び資源への

アクセスを維持すること、アメリカと共通の利益を守ることに協力する

同盟国及びパートナー国の安全を保障することなどである。

そのためには、大規模な軍事力の投射・維持能力が不可欠である。

 もちろん、アメリカが「世界の警察官」として、民主主義も自由貿易も同盟国も、

何もかもを守り続ける必要があるかどうかについては反対意見もある。

 新孤立主義的な立場からの反応については、平和への道筋を探る第五部以降で

改めて検討することにする。

だが今は、「アメリカは世界の警察官の役割を果たすべきだ」と言う

クレピネヴィッチの主張が正しいものと仮定して議論を進めよう。

 その場合、第二の前提になるものは何だろうか。

彼とその共著者はこう述べている。

 重大な利益に関わる地域、つまり西太平洋地域においてアメリカ軍が作戦行動を行う能力が

現在、次第に脅かされつつある。

第二列島線(つまり、グアムやニューギニアにまで及ぶ範囲)以西を「立ち入り禁止区域」

にしようとする試みを中国が変更する兆しは、現在ほとんど見られない。

 中国が現在の行動方針を変えない限り、アメリカ軍が西太平洋で作戦行動を行うための

コストが急激に(大方の人間が考えているよりもずっと急激に、

そしておそらくは容認できない程度にまで)上昇するものと思われる。

このシナリオの中で、クレピネヴィッチは中国が西太平洋からアメリカ軍を追い出す

準備をしていると仮定している。

実際、この前提についてはほとんどの議論の余地は無い。

すでに述べたように、中国軍はミサイル、潜水艦、機雷からサイバー兵器、宇宙兵器に

至るまで、あらゆる種類の接近阻止・領域拒否兵器の保有を明らかに拡充しつつある。

 さらに、中国の指導者たち自身が、劉華清提督の昔から、「中国は軍備を拡張するのは、

西太平洋地域のアメリカの接近を拒否するため、あるいは少なくともでアメリカ軍が

その地域で自由に作戦行動するコストとリスクを劇的に高めるためだ」と公言している。

そうなると当然、第一及び第二の前提でからクレピネヴィッチの第3の前提が導き出される。

 クレピネヴィッチと共著者はたちは、アメリカの戦略と言う選択肢は、アメリカの

安全保障及び、その国を守ることが条約や法律によってアメリカに義務付けられている。

 重要な同盟国の安全保障にとって不可欠な地域の軍事アクセスを失うリスクを冒すか

その地域に空前の平和と繁栄をもたらした軍事バランスを安定的に維持するための方策を

探るかのどちらかと主張する。

 少なくともクレピネヴィッチにとっては、エアシーバトルはペンタゴンの取り得る

ベストな選択である。

 エアシーバトルには、2つの全く異なるコンセプトが含まれている。

 エアシーバトルは、極めて合理的なコンセプトと、論理的であると同時に

物議をかもしそうなコンセプトから成り立っている。 

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