【米中もし戦わば】033-04、海上封鎖戦略の5つの問題点

ハメスの主張には確かに説得力があるが、エアシーバトルと同じように

オフショア・コントロールも潜在的な問題点には事欠かない。

第一に、中国は現時点では封鎖戦略に対して脆弱かもしれないが、

中国の指導者も当然その脆弱性を理解している。

中国は、エネルギーや輸出入品を輸送するための海上ルートに代わる

陸上ルートを急ピッチで開発している。

 例えば「マラッカ・ジレンマ」を回避すべく、中国はベンガル湾内のチャウピュー港

(ミャンマー)雲南省昆明を結ぶ石油及び天然ガス・パイプラインを建設した。

 また、同様のリスクヘッジ策として、ユーラシア大陸横断する航空路、道路、鉄道、

パイプラインのネットワーク構築を進めている。

海上封鎖の影響を全く受けない「新シルクロード経済ベルト」を

形成しようとしているのである。

 この新シルクロードはすでに、新疆ウィグル自治区とトルクメニスタンや

ウズベキスタンといった中央アジアの国々と結んでいる。

それと同時に、モスクワ経由で北京とハンブルク(ドイツ)を結ぶ鉄道も既に完成している。

これによって、中国の輸出品の輸送時間は海上輸送の場合の丸5週間から

わずか21日間まで短縮された。

オフショア・コントロールの第二の問題点としては、次のような愕然とする現実がある。

アメリカ海軍の艦艇は中国のミサイルの届かない遠海に出ればいいとしても、

日本や韓国やグアムにあるアメリカ軍基地はミサイル集中攻撃の格好の標的として

取り残されてしまう。

そのような猛攻撃に直面した場合、アメリカの政治指導者や軍司令官としては、

エアシーバトルのような中国本土への反撃を我慢することは難しいだろう。

反撃しなければ、基地の海軍・後方支援能力は深刻なダメージを被るだろうし、

そうなれば第一列島線以東に「立入禁止区域」を設ける事は不可能になってしまう。

そして、その時点でオフショア・コントロールは崩壊してしまう。

 第3の問題点は、ハメスも認めているように、封鎖が中国の経済政治情勢に

望ましい影響を与えるまでにはかなりの時間がかかるだろうと言うことである。

 この根比べの間、オーストラリア、日本、韓国といった、封鎖に参加する主要同盟諸国も

アメリカも凄まじい経済的打撃を受けるだろう。

中国に代わる貿易相手国はいずれ見つかるし、それにつれて国際貿易は回復すると

ハメスは主張するが、核保有国である中国が世界市場からの排除を長期にわたって

容認するとは考えにくい。

さらに言えば、アメリカつの同盟国が一致団結してオフショア・コントロールを

やり抜けるかどうかさえ疑わしい。

例えば、韓国やオーストラリアは自国の経済を犠牲にしてまで台湾の独立を

維持しようとするだろうか。

同様に、アメリカが同盟国フィリピンを支援することになった時、

日本はアメリカに味方するだろうか。

アメリカ海軍大学校のジェームス・ホームズ教授はこの問題について次のように述べている。

 長期にわたる経済戦争は諸刃の剣だ。

 経済戦争が長引けば、敵だけでなく味方も疲弊する。

 外国との貿易で生計を立てている自国民については言うまでもない。

 各人の経済的利益が損なわれているときに国民と同盟諸国を一致団結させておくのは

控えめに言っても難題だ。

そしてこれこそが真のアキレス腱かもしれないオフショア・コントロールの

最後の問題点として、封鎖と言う持久戦はかえって中国に既成事実への道を

開きかねない、と言う不愉快な真実を上げておかなければならない。

かなりの人命や資産が失われ、世界経済が崩壊寸前に追い込まれれば、

アメリカも足並みのそろわない同盟諸国も、台湾にしろ、日本の尖閣諸島にしろ、

フィリピンのセカンド・トーマス礁にしろ、インドのアルナーチャル・プラデーシュ州にしろ、

ベトナムの石油・天然ガス採掘権にしろ、戦争の原因となったものは何であれ、

それを中国にくれてやってでも戦争を終わらせようとするであろう事は想像に難くない。

特に台湾に関しては、その占領に1度成功すれば、いわゆる「離反した省」を

中国が明け渡すとはとても考えられない。 

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