—時間がなかったので一節だけ
ところが、中国の場合は、中国共産党の独裁体制が強化されていくように思われるだけでなく、
経済的関与が中国の軍事力増強を強力に推進する経済的援助を提供してしまっている。
これまで見てきたように、新たに得たこの経済力を使って中国は次第に攻撃的行動を
エスカレートさせている。
1972年にリチャード・ニクソン大統領とヘンリー・キッシンジャー国務長官が
「ピンポン外交」の新時代を開いたときには、こんな展開は想定されていなかった。
幸先が良いと思われたその当時、ニクソンもキッシンジャーも、経済的関与について
中国を平和的でリベラルな国にしようと言う壮大な計画を立てていたわけではなかった。
毛沢東とニクソンの取引はずっと実際的なものだった。
そして、両方とも、自分がまさに期待していたものを手に入れた。
「敵の敵は友」の原則に従って、ニクソンとキッシンジャーは中国と手を組むことで
ソ連の力を弱めようとしていた。
毛沢東とソ連書記長ニキータ・フルシチョフの関係は次第に悪化していたから、
中国側もそれに依存がなかった。
また、ベトナム戦争からの名誉ある撤退とは言わないまでも有利な撤退を望んでいた
キッシンジャーは中国に、パリの講和会議に出席するよう北ベトナムを
説得してもらいたいとも思っていた。
中国はと言えば、毛沢東の権力の衰えが見え始めていた当時、周恩来首相のような
より実用主義的な指導者は、大躍進運動と文化大革命と言う二度の壊滅的失敗を経て
国際貿易の必要性に目覚め始めていた。
そこで、中国は見返りとしてアメリカに、経済制裁を解除して世界経済に
参入させてもらいたいと要求した。
ニクソンのこの実用主義とは対照的に、ビル・でクリントンの経済的関与によって
中国を変えると言うビジョンが壮大かつ理想主義的だった。
任期満了間際の2000年、クリントンはアメリカ経済界の強いアドバイスを受けて
中国を欧米流の平和的民主国家に変えるためのツールとして中国との経済的な関わりを
積極的に進めた。
クリントンは、中国との経済的関わりをするための中国のWTO加盟を支持するよう
議会に要求し、「中国を受けることで、われわれはより大きな影響力を
中国に及ぼせるようになる」と厳かに述べ、次のように説いた。
経済面から見れば、この「(中国のWTO加盟)承認は一方通行の道路のようなものだ。
中国がWTOに加盟すれば、世界人口の5分の1を擁する市場、
つまり世界最大の潜在的市場が開かれることになる。
史上初めて、中国は我々と同じように、開かれた通商ルールに従うことに同意するのだ。
史上初めて、アメリカの労働者によってアメリカで作られた製品を、
アメリカ企業が中国で販売することができるようになるのだ。
壊滅的な経済的帰結を招いたと言う点でこれほど誤った判断を下した
アメリカ大統領は他にない。
中国がWTOに加盟すると、産業界のクリントン支持者たちが一斉に生産拠点を
中国に作り、その結果アメリカでは70,000もの工場が閉鎖に追い込まれた。
失業者・非正規雇用労働者の数は最終的に2500万人以上になり、
アメリカの貿易赤字は年間3000億ドル以上にまで膨れ上がった。
現在、アメリカの対中貿易赤字は何兆ドルにも達している。
もちろん、こうした経済的大打撃があったにせよ、中国は攻撃的な独裁国家から
平和的でリベラルな民主国家に変えると言う目標が達成できたのであれば、
中国との関わりも無駄ではなかったと言えたかもしれない。
だが、エコノミストのイアン・フレッチャーが言うように、
「中国の経済成長は中国の民主化にはつながらなかった。
それは、独裁国家の経済の向上にしかつながらなかった」のである。
米中委員会のダン・スレインはこう述べている。
アメリカが2001年に中国の世界貿易機構加盟を承認し、
中国に相応の市場開放をさせることなく自国市場を解放した時、
アメリカが大きな経済的損害を被る事は分かっていた。
だが、アメリカの指導者の多くは、そこに経済的損失に見合う利益になると考えた。
貿易が増大すれば中国が民主主義国へと変化せざるをえなくなると考えたのだ。
後に判明したように、その変化がついに起きなかった。
中国はあらゆる機会をとらえて自由貿易システムを操作し、利益を最大化し、
自国経済を発展させ、アメリカ経済に深刻なダメージを与えた。
中国との経済的関わりから、リベラルな民主主義国家と言う期待された結果が
生まれなかった理由を、中国人の性格や中国文化に帰するべきではない。
少なくとも、シンガポールや台湾と言う成功例がそれを証明している。
何が間違っていたのだろうか。
そして、最終的にはそれはうまくいくのだろうか。
その答えを探すため、「経済的関与が民主化と平和を促進する」と言う主張の
3つの論拠と、「民主化と平和を促進」うんぬんの建前は実は自国の労働者を犠牲にして
グローバルに拡大しようとしている大企業の利益を守るための方便に過ぎない、
と言ううがった見解について検討を加えてみよう。
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