【米中もし戦わば】038-03、核抑止力が働くための2つの条件

このように見てくると、核抑止力がちゃんと働くために最も大事なのは

その抑止力に信憑性があることなのだとわかってくる。

実際、中国にアジア諸国への侵略を思いとどまらせるためには、

アメリカの抑止力に少なくとも次の2つの点で信憑性が伴っていなければならない。

第一に、「アメリカとの同盟諸国は、中国を打ちまかす、あるいは少なくとも

中国と戦って引き分けに持ち込む軍事力を持っている」と中国は信じていなければならない。

そうでなければ、中国には「厳罰」を恐れる理由がなくなってしまう。

相手に「厳罰」を恐れさせることこそが効果的な抑止力の特徴だ、

と国際政治学者ケネス・ウォールズは述べている。

もちろん、このような信憑性は、中国が通常型非対称兵器で防備を固めるにつれて

ますます怪しくなってきている。

第二に、中国に通常戦争を思いとどまらせるためには、「アメリカとの同盟諸国には、

必要とあれば通常戦争を戦う覚悟も、やむを得ない場合には核兵器の使用も

辞さない覚悟もある」と中国が信じていなければならない。

ここで重要になってくるのが、抑止力理論のもう一つの重要な概念である

「相手の合理性の認識」である。

抑止力分析理論の最も重要なツールの1つであるゲーム理論を使って、

合理性の認識の重要性を強調することができる。

それでは、ノーベル賞受賞者トーマス・シェリングによって提案された

この典型的な抑止力ゲームを米中関係と言う文脈の中で考えてみよう。

もしも中国がアメリカの型通りにの想定に従って行動しなければ、

アメリカは中国の行動を「非合理的」だと考えるだろう。

 そして、アメリカに非合理的だと認識された中国の行動は中国に勝利をもたらすかもしれない。

 だが、もしも中国が実際には非合理的(あるいは狂気)ではなく、駆け引きや競争の

戦略の1部として認識的にそのような型破りな行動をとっているのだとすれば、

この言われる非合理的な行動はゲームの「利得」に関しては事実上合理的な行動なのである。

言い換えれば、「狂気」を装う事は「極めて合理的」かもしれないと言うことである。

このような考え方は「マッドマン・セオリー」と呼ばれている。

そんなのは絵空事だと思われるといけないので、実例を挙げておこう。

最も有名な「マッドマン ・セオリー」の実践者は毛沢東ではなく、

リチャード・ニクソン大統領である。

彼は常軌を逸した怒りっぽい態度を装うと言う戦略をとり、

パリ平和会議で北ベトナムにアメリカ側の条件を承諾させることに成功した。

自らの「マッドマン・セオリー」について、ニクソンは側近に次のように打ち明けている。

北ベトナム側に、戦争を終わらせるためなら私がどんなことでもやりかねない男だと

信じ込ませてくれ。

彼らにちょっと口を滑らせるだけでいいんだ。

「お願いだ、ニクソンが反共に凝り固まっている事は知っているだろう。

ボタンを押しかねない」とな。

そうすれば、2日後にはホーチミン自身がパリに出て来て和平を求めるだろう。 

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