これを現在の米中関係に当てはめると、中国はクレイジーだから核ボタンを押しかねない
とアメリカの指導者が本気で信じていれば、アメリカは中国が通常戦争を始めても、
核戦争に発展するのを恐れて躊躇するかもしれないと言うことになる。
このような通常戦争がアメリカ本土を直接脅かす事はまずないだけに、なおさらである。
このように、アメリカが「中国は何をするかわからない」と感じ、
中国が「報復を受けるとは限らない」と感じている状況下では、
通常戦争起こりえるだけではなく、「アメリカ本土を直接攻撃することさえしなければ、
思うままに近隣諸国を核で威嚇できる」と中国が思い込むことによって、
その可能性がさらに高まると言えるかもしれない。
カーネギー国際平和基金のアシュレー・テニスは次のように警告している。
米中双方が確実な報復攻撃能力を備えているにもかかわらず、今後数年のうちに
両国が深刻な軍事衝突に巻き込まれるリスクが高まっているのは、
アメリカが駆けつけられないようにする能力は中国が着実に獲得してきたためである。
アメリカ海軍大学校のトシ・ヨシハラ教授は、この頭の痛い問題を次のように掘り下げている。
戦略核兵器使用される事はないと言う相互保証が米中間に存在し、
中国が原則的にはアメリカ海軍に対して沿岸で接近阻止戦略を押し通すことができれば、
中国にとって通常軍事作戦を行う戦略的空間がアジアの海域に生まれることになる。
これが、理論家たちの言う「安定-不安定のパラドックス」である。
つまり、双方に確実な核報復能力がある場合には核兵器と言う最高レベルにおいては
戦略的安定が生まれる一方で、相互に保証された核抑止力の傘の下で、
代理戦争や、より低レベルの通常戦争が起きる余地ができてしまうのである。
したがって、核兵器の保有は戦争が起きないことを必ずしも保証するものではなく、
違う種類の戦争への道を開くだけなのである。
さて、ここからがゲームの最悪の部分である。
中国がアメリカを見くびってその意思力を過小評価し、通常戦争のボタンを
強く押しすぎた場合、ありえないと鷹を括っていた核攻撃を招く結果になるかもしれない。
なぜ中国がロナルド・レーガン大統領やジョージ・W・ブッシュ大統領のような
「非合理的なタカ」よりもバラク・オバマ大統領のような「合理的なハト」を好むかは
明らかである。
それは、少なくとも中国にとっては「ハト」には意志力や決断力が欠けているように
見えるし、「タカ」の方がマッドマンの策略(それがほんとうに策略だとすれば、だが)を
企みそうだからである。
だが、不確実性では中国の方が遥かに上だろう。
中国共産党のこれまでの歴史を考えれば、中国の合理性と意図について
確実に分かる人間がアメリカ側にいるとは思えない。
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