中国の「A2/AD」戦略の脅威は、1990年代から指摘され、
「戦略・予算評価センター」や「ランド研究所」といった
有力シンクタンクから警鐘が鳴らされていました。
その指摘と言うのは、戦略態勢が、冷戦時の「前方展開体制」から
冷戦後の「戦力投射態勢」へ移行しつつあることを大いに関係していました。
と言うのは、後者の弱点は、部隊を展開するための戦場へのアクセスになるので、
将来の敵(中国)を前方展開した後の米軍と戦うより、
その前段階の展開中の米軍の弱点を突いて「A2」(接近阻止)で撃退を試み、
それでも領域に侵入してきた部隊には「AD」(領域拒否)で侵入を排除するだろうと
考えられたからです。
国防省は、2010年の「QDR」で初めて「エアシーバトル構想」に言及し、
その後、2013年5月に統合参謀本部に置かれた「エアシーバトル室」が公式の
「エアシーバトル構想」として、その要約を発表しています。
その後、エアシーバトル室は2015年に閉鎖され、統合参謀本部内の
別部署J-7にうつされました。
そして見直しが行われましたが、その基本的な枠組みは維持され、
逐次改善されています。
この構造を簡単に言うと、陸、海、空、宇宙、サイバーの5領域の垣根を越えて
一元的に戦力を運用し、同盟国の軍事力とともに敵の「A2/AD」下で
米軍の戦力を展開すると言うものです。
なお、「エアシーバトル構想」は海軍と空軍を中心とした戦略構造です。
では、「エアシーバトル構想」では、具体的にどのような作戦が展開されるのでしょうか?
作戦は、中国を想定して考えると、概ね次のように構成されています。
まず、中国の第一撃を避けるため米海空軍を第二列島線以遠へ待機させます。
それと同時に15分中国軍の「C4ISR」機能(指揮、統制、通信、コンピュータ、情報、
監視、偵察)などを麻痺させる「盲目化作戦」と、潜水艦を撃破して水中を支配する
「水中作戦」を遂行します。
この盲目化作戦と水中作戦を継続して行い、その成果を拡大しながら、態勢を整え、
米軍の戦略を展開します。
一方、この構想とは別に陸軍と海兵隊は、2012年に連名で「A2/AD」下の
陸上作戦構想である「アクセスの獲得と維持」と言う構想を発表しています。
これは、海空軍への対抗策と言えるものです。
米軍においても、海軍と陸軍は基本的に作戦のフィールドや戦い方が異なるため、
相互のすり合わせや調整が難しいようです。
そのため、下院軍事委員会では、陸軍と海兵隊の役割が過少に抑えられていると言う
批判が出ました。
これは、「エアシーバトル構想」が、中国を念頭に置いたものにもかかわらず、
国防省が特定の地域や敵を対象とした作戦計画や戦略ではないと
公式に説明していたことにも影響されているのかもしれません。
つまり、中国を名指しすることを避けたが故の混乱です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
コメントを残す