例えば、中国との貿易によって、アメリカの製造業界は真っ二つに割れてしまった。
一方の側には、中国のような輸出補助金によって大打撃を被っている
無数の中小企業が存在する。
これら中小企業は、中国に通貨操作をやめさせ、相殺関税を導入し、
その他にも適切な救済策を取るべきだと主張してきた。
その一方で、アップル、ボーイング、キャタピラー、ゼネラルモーターズ、
IBMといった、アメリカに本部を置く多国籍大企業が存在する。
これら大企業は生産拠点を中国に移し、製品はアメリカ市場に輸出することによって、
中国の違法な輸出補助金や搾取労働や税金の抜け穴を利用して大儲けしている。
それで、製造業界のこのような利害の衝突を解消するためには、
政治はどのように対応してきたのだろうか。
全米製造業協会や事業者協会といった有力圧力団体は多国籍企業に牛耳られているため、
結局は中国の重商主義に反対しない。
これらは「中国は脅威では無い」と主張するロビイストらは、中国の違法行為を
取り締まろうとするホワイトハウスや議会の努力をことごとく公然と妨害する。
こうした分裂は、各業界レベルで見られる。
不当に安い値段でアメリカ市場に流れ込んでくる違法な補助金を受けた
中国製ソーラーパネルに相殺関税をかけるべきだと製造業者が声を上げたとき、
最も強硬にこれらこれに反対したのは中国ではなかった。
それは、ソーラーパネルの価格上昇によって仕事が減ることを恐れた、
ソーラーパネル設置業者たちだった。
分裂は州レベルでも見られる。
例えば、オハイオ州は中国の経済攻撃によって製造業に壊滅的被害を受けている州だが、
大統領選挙の激戦州と知られるこの州の有権者は真っ二つに割れてしまっている。
アクロン、クリーブランド、デイトン、ヤングズタウンなどの工場労働者
(その多くは現在失業中である)は全員、違法な中国の補助金に対して
政府が断固たる措置をとるべきだと考えている。
一方、ダーク郡、マジソン郡、ウッド郡など農業地域の農民は、
とうもろこしや大豆を大量に中国に輸出して儲けているため、
貿易不均衡是正策に公然と反対している。
オハイオ州の分裂は、自由で開かれた民主主義が中国の国家資本主義に立ち向かうときに
直面する政治問題の縮図である。
一例として、オハイオ州選出の民主党下院議員ティム・ライアンが中国の通貨操作を
取り締まるための法案を提出したときのことを挙げておく。
ライアンの地盤は、ヤングズタウンやアクロンといった製造業の盛んな都市である。
ライアンの法案は否決されたが、その時はほとんど1人で否決に持ち込んだと
言っていいほどに強硬に反対したのは、皮肉なことにオハイオ州選出の多数党
(当時は共和党)院内総務ジョン・ベイナーだった。
ベイナーにとってこの政治的勝利は、まさに「1粒で2度おいしい」結果となった。
地元オハイオ州最大の農業地域を大いに喜ばせただけでなく、
中国に生産拠点を移している多国籍大企業から彼自身と共和党への
多額の選挙献金を得ることができたからである。
労働組合や環境保護団体や人権団体等にも、同様の分裂が見られる。
例えば、雇用をさらに外国に奪われるのではと言う懸念から、
労働組合は日本や韓国など同盟国との自由貿易協定に強硬に反対している。
しかし、適切に結ばれさえすれば、このような自由貿易協定はアメリカと同盟諸国の
双方の経済成長を後押し総合国力の増大と経済力及び軍事力による
平和の構築に貢献するだろう。
環境保護活動家や人権活動家らはとかくペンタゴンを目の敵にし防衛費増額には
何が何でもとにかく反対と言う立場をとる。
皮肉なことに、彼等のそういった行動は回り回って、アメリカの国家安全保障に
危険をもたらす可能性があるだけでなく、間違いなく世界で最も環境汚染し
人権を抑圧している独裁政権を援助しているのである。
ペンタゴンの元アナリスト、マイケル・ピルズベリーは、
利益団体が作り出すこのような分裂状態について次のように述べている。
アメリカに8ないし10ある重要な利益団体と、それらの団体の利益を代表する議会勢力は
協力しあおうとはしない、それどころか、お互いに反目しあい、
様々な哲学的理由で対立している。
減税に賛成、減税に反対。
企業は悪だ、組合は悪だ、などなど。
中国の脅威に対して結束するところが、小さな問題で言い争ってばかりいる。
この有り様を見て中国は、「ワシントンで大きく取り上げられないよう気をつけよう。
目立たないようにしていよう。
ああいう団体が1つにまとまることがないようにしておかなければ」と考えているのだ。