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【米中もし戦わば】041-04、ハードパワーとソフトパワーの相乗効果

「力による平和」を実現するために総合国力がどれほど重要かを真に理解するには、

総合国力の個々の要素である様々なハードパワー・ソフトパワーが

どのように相乗効果を生み出し、その結果、中国(北朝鮮、ロシア、イランなど)の

あからさまな攻撃を継続的に抑止できるようになるのかを

まず深く理解しておく必要がある。

それでは、一国の軍事力を構築するのに必要な相乗効果について考えてみよう。

軍事力の構築にはまず、強い経済に必要であると言う経済は、

実際に武器を製造するためのためだけでなく、そうした軍事費を賄うのに必要な

歳入を生み出すためにも必要である。

だが、経済が強くなるためには、高度な技術を持った労働力とたゆみない技術革新が

必要である。

また、質の高い労働力を生み出すためには、当然のことながら優れた教育制度が

必要となる。

同時に、迅速な技術革新には科学や数学や工学に特化した教育制度が不可欠だし、

さらに、研究開発のための設備投資を可能にする金融制度、

企業や技術革新を有する税制も必須である。

 今日のグローバルな金融システムの中では、どの国の国内経済も、

外国市場に自由かつ迅速にアクセスできなければ反映することができない。

当然のことながら、、こうした自由貿易には貿易相手国との強力な同盟関係だけでなく、

世界通商路の自由な航行も必要となる。

 これがまた海と空を通商のために開かれた空間にしておくための、

強力な軍事力の必要性へとつながっていく。

だが、相乗効果はこれで完結ではない。

 こうした相乗効果を生み出すための国家的基礎として、

正常に機能する政治体制が必須である。

このような政治体制は、社会の安定をもたらすだけでなく賢明な公共選択

(社会や政治による意思決定)も生み出す。

 賢明な公共選択によって、近代的道路や橋、航空管制や公共交通機関や上下水道など、

「公共財」やインフラが供給され、民間部門の成長が促進される。 

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【米中もし戦わば】041-03、戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり」

総合国力と言うコンセプトは、「戦わずして人の兵を屈するは善の善なるものなり」と

言う孫子の格言に深く根ざしている。

中国人民解放軍軍事科学院の著名な戦力家・呉春秋の言葉に、

その日の時代から連綿と受け継がれた精神を見ることができる。

 呉は次のように言う。

 戦わずして勝つとは、全く戦わないことを意味するものではない。

 政治戦、経済戦、科学・技術戦、外交戦などなど、戦わなければならない戦争は数々ある。

 これを一言でまとめれば総合国力戦である。

 軍事力は重要なファクターではあるが、平時には、軍事力は通常は予備的な力であり、

目に見えない力としての役割を果たしている。

 ジョーンズ・ホプキンス大学のデビット・ランプトン教授は、総合国力が

平和維持にとって重要であることを全面的に認めて、

アメリカの経済、教育、技術、人的資源、研究開発、等々の分野で健全な総合国力を

保っていれば、中国はアメリカを尊重するだろうと述べている。 

しかし、もしもアメリカの総合国力が衰退し始めれば「中国はそれに手に負えない国に

なるだろう」。

 元NATO軍最高司令官ウェズレー・クラーク将軍も、NYタイムズ紙に同様の意見を

寄稿している。

 軍事力は通常は予備的な力であり、目に見えない力としての役割を果たしている。

 アメリカが国際指導力を維持し、台頭する中国の建設的な対抗勢力勢力になるためには、

アメリカ独自の長期的戦略ビジョンが必要である。

 つまり、エネルギー自給を基礎とする強い成長、経済、活力ある効率的な民主主義に

裏打ちされた積極的かつ粘り強い外交、危機的事態において一対一で

中国に立ち向かえる軍事力を維持していくことが必要である。

 ランプトン教授は、アメリカが「国内事情に最も注意を払うべき時が来ている」の

かもしれないと言う。

「長期にわたって国力を維持するための基礎を築きあげることによって、

アメリカはより効果的に」中国の攻撃的拡大路線を阻止することができる、と彼は言う。 

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【米中もし戦わば】041-02、中国は単なる軍事力ではなく「総合力総合国力」の視点から世界を見ている

それでは、本書冒頭の難問はどのように解けば良いのだろう。

 力による平和に至る真の道筋をどのように見つけたら良いのだろう。

 そのためにはまず、真の国力とは何かについての理解を深める必要がある。

 真の国力は、単なる軍事力をはるかに超越したものである。

 中国人自身が、このような真の国について熱心に研究している。

 彼らはそれを、「総合国力」と呼ぶ。

 総合国力と言う言葉の奥には、真の国力は軍事力や能力といった「ハードパワー」だけに

根ざしたものではないと言う洞察がある。

真の国力は、そういったハードパワーと同程度に、経済力、労働力の熟練度、

政治体制の安定度、天然資源基盤の奥深さと幅広さ、教育制度の質、

科学的発見の状態やそれに伴うイノベーションや技術革新の程度、

さらにはその国の外交的・政治的同盟の性質や強度といった幅広い「ソフトパワー」にも

左右される。

その昔、副首相だった頃の鄧小平がいみじくもこう述べている。

 「ある国の国力をはかる際には、総合的に、あらゆる面から見る必要がある」

ペンタゴンの元アナリスト、マイケル・ピルズベリーによれば、

中国は総合国力を信じられないほど正確に計算していると言う。

その最も注目すべき点はおそらく、軍事力が国力全体の10%程度にしか

評価されていないことだ、として彼は次のように述べている。

総合国力を重視する中国の考え方は、「戦争でどの国が勝つか」について

ペンタゴンが考える方法とは最初から全く異なっている。

測定対象だけでなく、測定基準も異なっているのだ。

ペンタゴンにしろアメリカ政府や議会にしろ、中国に対する防衛力を考える際に

グローバルな視点が欠けている。

アメリカの軍事力だけを問題にしているのに対して、中国は総合的な国力について

考えている。

ピルズベリーが言わんとしているのは、明らかにこういうことである。 

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【月間成績】10/01~10/31

1.5枚で取引して、一万ちょいの勝ち。

エントリーして反転したらひたすら損切り。

白紙 2のコピー

勝ち負けチャート

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【米中もし戦わば】041-01、第6部、力による平和への道、第41章「戦わずして勝つ」唯一の方法

問題

次のうち、正しいと思われる記述を選べ

①弱さは侵略を招く

②強さは侵略を抑止する

③アメリカが軍事力に頼ってアジアに平和をもたらそうとすれば軍拡競争を招き、

戦争の可能性が増大する

④ 1 ~3のすべて

最初に、「弱さは侵略を招く」と言う明快な定理に賛同しよう。

現代、中世、原始時代を問わず、常に強者は弱者を餌食にしてきた。

 ライオンは子羊と共に寝そべる事は無いし、弱者は領土拡張に余念のない強者の

侵略を思いとどまらせることはできない、。

その昔、トゥキュディデスが「ペロポネソス戦争史」に書いてある通りである。

彼は、何が「正しい」かと言う問題は「力の等しい者たち」の間でしか解決できない、

と述べている。

強いものは自分のしたいことをするし、弱いものは強いられたことを堪え忍ぶしかない、

と。

 しかし、「弱さは侵略を招く」のが事実だからといってその逆、

「強さは常に侵略を抑止する」は必ずしも真ならずである。

 この公式は単純化されすぎている。 

そこで、「軍事力だけに頼って平和を達成しようとすれば、かえって戦争の可能性を

増大させると言う予期せぬ結果を招く」と言う選択肢も考慮に入れる必要がある。

 実際、「安全保障のジレンマ」を分析した際に紹介したように、

このパラドックスの裏付けとなる実例にはことかかない。

防衛力増強の試みが他国から攻撃力増強の試みと誤解されると、

「安全保障のジレンマ」が軍拡競争引き起こし、戦争勃発の可能性は急速に増大する。

 と同時に、このような軍拡競争によって、その費用を賄わなければならない国民の生活は

苦しくなる。 

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【米中もし戦わば】040-05、残る選択肢は「力による平和」以外にない

こうした専門家の意見を踏まえて、グレーザー教授の提案する大取引が

実際のアジア外交で勢いを得る可能性は低いものと思われる。

つまり大取引は「役立たず」なのだが、にもかかわらずグレーザーの提案は

本書の目的にとって非常に役に立つ。

中国とアメリカ(およびアジアの同盟諸国)との間に存在する、戦略・イデオロギー上の

明確な違いをより鮮明に見せてくれるからである。

これは鮮やかに浮かび上がらせることによって、グレーザーの提唱する大取引は、

本書がこれまでに明らかにしてきた中で最も重要な事実を強調しているのだと

言えるかもしれない。

つまり、アジアの緊張の高まりは、文化的な行き違いや中国の意図への誤解、

あるいは当事国の戦略上の判断ミスの結果ではないと言うことである。

どぎつさを増す中国の領土要求とアジアにおけるあからさまな覇権の追求をめぐって、

中国とアジア諸国の間には著しい意見の相違が実在する。

その結果、緊張が高まっているのである。

ジョージタウン大学のオリアナ・マストロ教授は、平和への道筋を模索する講演の中で

こう述べている。

我々(米中)お互いの見解を公開しているわけではなく、単に相手の見解が

気に入らないだけなのかもしれない、と言う事実に早く率直になれば、

それだけ早くこの緊張状態を抜け出し、協力体勢へと移行することができるだろう。

したがって、残る問題は、「この緊張状態を抜け出し」て平和を確かなものにするには

どんな対中政策を取るべきなのか、である。

 これまで数章にわたっていくつかの平和実現案を検討してきたが、残念なことに、

いくつかの誤った選択肢を排除できたに過ぎない。

これまで見てきたように、経済的関与も経済的相互依存も核兵器も、

恒久平和を保証するものでは無い。

新孤立主義を採用したアメリカ軍はアジアから撤退させれば、紛争と不安定な状態が

緩和されるどころか悪化するばかりだし、攻撃的で不透明な中国相手に実りある交渉を

行うのも極めて困難と言わざるを得ない。

こうしたぞっとするような結論から判断すると、大取引も実行不可能

(と言うより、ほとんど論外)だとすれば、残る選択肢は「力による平和」以外に

ないと思われる。

最終部で、この選択肢とその危険性について考えることにしよう。 

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【米中もし戦わば】040-04、米国が台湾を見捨てれば、多くのアジア諸国が核武装する

アメリカが台湾を放棄したりすれば他の同盟国がどう思うか、と言う

非常に現実的な問題もある。

この点について、ヘリテージ財団のディーン・チェンはこう述べている。

 40年間守ってきた約束を破棄しようなどとはアメリカが考えれば、

(アジアだけでなく世界中の)アメリカの同盟国はアメリカの誠意に対して

深い疑念を抱くだろう。

そうなれば、アジアにおけるアメリカの地位だけでなくヨーロッパにおける地位にまで

悪影響が及ぶことになる。

ブルッキングス研究所のマイケル・オハンロンは、同盟の不安定化と言う問題を

さらに掘り下げ、次のように述べている。

アメリカは、主に道義的理由から台湾に対して義務を負っているため、

居心地の悪い立場に置かれている。

「道義的義務のために、このような状況でアメリカ人の命を危険にさらす覚悟が

本当にできているのか」と言う問題に直面しているのだ。

だが、アメリカに台湾を見捨てる覚悟ができたとしても、世界中の国々や台湾以外の

アジアの同盟諸国はどうするだろう。

彼らはどんな結論に立つだろう。

どれだけの国々が核兵器を保有しようとするだろうか。

台湾自身、核兵器製造と言う誘惑に駆られるだろう。

台湾が核兵器を保有しようとすれば戦争になる、と中国は最初から言明しているのだが。

だから、台湾を見捨てることによって危険を避けようとすれば、

危険をかえって増大することになるのだ。

ジョン・ミアシャイマー教授は、大取引がありえない理由を、

中国のナショナリズムの高まりと中国政府の自信の両面から次のように説明している。

中国は、アメリカやその同盟国に譲歩しようとはしないだろう。

台湾と引き替えに尖閣諸島に対する領土要求を放棄したりはしないだろう。

南シナ海の問題でも譲歩しようとはしないだろう。

それには2つの理由がある。

1つは、昔ながらのナショナリズムだ。

そこは自分たちの土地だと信じているから、妥協するつもりはないのだ。

さらに、彼らは時間が自分たちに味方すると信じている。

ゆくゆくは、どんなことでも自分の思い通りに解決できるほど強大な国になる。

と信じているのだ。

最も哲学的な批判は、おそらく長年ペンタゴンで顧問を務めたマイケル・ピルズベリーの

それだろう。

彼は、中国との大取引と言う考えは「非常にアメリカ的なアプローチ」だと言う。

 これは、一般的な言い回しを使えば、「ではこうしましょう、取引しませんか」と

言うことだ。

このアプローチは、過去何度も困難な問題に対して試みられ、

不幸にも戦争と言う結果に終わってきた。

第一次大戦及び第二次大戦の発端は、これと非常によく似ている。

「協力しあいませんか」と提案した善意の人々がいた。

その提案は相手方に誤解され、悲劇的な結果に終わった。 

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【米中もし戦わば】040-04「大取引」が成立する可能性は本当にあるのか?

もちろん、この「非常に有益な取引」には2つの大きな問題がある。

 つまり、

①「この取引は実際に平和維持に役立つのか」と、

②「民族主義とモラルと言う、それぞれの例を大取引と言う悪魔に売る果たすような、

そんな条約に米中が本当に署名するだろうか」と言う2つの問題である。

この2つの問題に答えを出すため、他の専門家たちが大取引について

具体的にどう考えてるか見てみよう。

まずは、台湾問題の第一人者であるブルッキングス研究所の

リチャード・ブッシュの発言から。

 ブッシュは次のようにきっぱりと述べている大取引等と言う話を、

聞いただけで髪の毛を掻きむしりたくなる。

そんなものはうまくいくはずがないからだ。

 第一に、この件については台湾国民に発言権がある。

 第二に、中国が東シナ海や南シナ海に進出しているのは中国なりの理由があってのことだ。

 中国は、中国は、国防の一手段として戦略的縦深性を高めようとしている。

 だから、大取引を提案するのは、中国に、自国の利益(だと中国が考えてること)に

反する行動をとってくれと言う等しい。

 さらに不信と言う問題がある、とブッシュは言う。

 中国は非常に巧妙に取引を行う。

 取引を自分に都合よく解釈し、アメリカの側の意図とは違うものにしてしまう。

 だから、このような取引を行えば、さらなる対立と論争を生む結果になるだけだ。

 この問題は、「現在、米中は互いを信頼していない」し「中国はアメリカの意図に

深刻な疑念を抱いている」ためさらにこじれるてと、ブッシュは言う。

 (だから、仮にアメリカの大取引を提案したとしても)中国はおそらくそれを、

アメリカが仕組んだ罠だとみなすだろうし、したがって興味も示さないだろう。

 台湾と民主主義政権を守ると言う責任の重さについて、

元国務次官補カート・キャンベルは怒りを込めて次のように述べている。

「他の諸々と引き換えに台湾を引き渡す」などと言う19世紀的な取引は、

そんなことを考えるだけでもアメリカの戦略的利益に反する。

というか、誰がそんなことを考えるだろうか。 

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【米中もし戦わば】040-03台湾と引き換えに東シナ海と南シナ海での譲歩を引き出すと言う選択肢

さて、ここからがグレーダーの考える大取引の最重要の前提である。

 台湾が中国にとってそれほど最重要事項(中国の外交上の決まり文句では「革新的利益」)

であるなら、中国は取引に応じるはずだ。

 東シナ海で日本との間に、南シナ海でフィリピン及びベトナムとの間に

中国が考えている領土問題は革新的利益と言うほどのものでは無いから、

中国はそのために戦争しようとはしないだろう。

こうした前提を踏まえれば、「中国は、台湾と言う究極の戦利品と引き換えに、

東シナ海及び南シナ海におけるその他の領土要求を進んで放棄するはずだ」と

言うことになる。

 さらに、アメリカ海軍はこれまで地域を安定化させる役割を果たし、

それによって貿易と経済成長を促進してきたのだから、ただでたとえそれだけの理由にせよ、

中国はアメリカ軍がアジアに永続的に駐留することを進んで認めるはずだ。

 アメリカとしても、恒久平和の為なら喜んで台湾を犠牲にするだろう、

とグレーザーは推論する。

グレーザーは、大取引が将来実際に行われた場合、米中双方の指導者は大きな、

そしておそらくは手痛い代償を支払うことになるだろうと認めている。

 中国政府側の敗北ではないことを国民に納得させなければならなくなるだろう。

 中国政府自身が民族主義をこれまで煽ってきただけに、このような取引は

「屈辱」の再来と受け取られかねない。

アメリカ大統領と議会は、台湾に対する「道義的」責任を放棄せざるをえなくなるだろう。

 このような冷血で計算高い大取引は、他の(アジア諸国だけではなく、

ヨーロッパ諸国との同盟も含めた」)防衛同盟に深刻なダメージを及ぼすだろう。

 台湾を見捨てることによって、アメリカはこうしたダメージにも直面しなければならない。

 しかし結局グレーダーは次のように大取引を肯定する。

 大取引を成立させることができれば、それは不幸な取引であるが

非常に有益な取引になると思う。 

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【米中もし戦わば】040-02米国は台湾を犠牲にすべきなのか?

中国との大取引の内容については、ジョージ・ワシントン大学の

チャールズ・グレーザー教授の提案がおそらく最も具体的だと思われる。

本書冒頭の問題文として要約されている彼の提案は非常に具体的に恒久平和への道筋を

示しているし、これを賛否両面の立場からより詳しく分析することで

アジアの緊張の複雑な構造を明確にすることができるため、

まずはここからしっかりと検討していくことにしよう。

グレーザーの「中国との大取引」論の出発点には、「国家は自国の利益を促進するための

(大戦略)を追求する」と言うリアリズム派(第37章参照。

国際関係論で言うリアリズムは、日常用語としての現実主義とはかなり異なっている)の

前提がある。

アメリカの大戦略の特徴は、追求する主な目的は少なくとも3つの段階に分かれている

事だ、とグレーザーは言う。

最上ランクに位置してるのが国家安全保障である。

これは、アメリカだけでなくどんな国とっても最重要な目標である。

2番目が経済的繁栄である(重要度は最高ランクとわずかしか違わない)。

 国家安全保障と経済的繁栄と言うこの2つの目標は現在、

アメリカの外交政策の主な推進力だし、そうであるのが当然だ、とグレーザーは言う。

 アメリカ外交政策の3番目の(とは言え、上位2つに比べてかなり重要度が低い)目標は、

「アメリカ例外主義」と言うイデオロギーに基づく1連の理想を追求することだ、

とグレーザーは言う。

この目標の根底にあるのは、「この世界がより良い、より安全な、より豊かな、

より正しい場所になるためには、政治レベルでは民主主義を、

経済レベルでは自由貿易と自由市場を、個人レベルでは意思と表現の自由を

世界中に行き渡らせることが必要だ」と言う信念だ。

 こうした理想には暗黙のうちに、「アメリカには強い道徳的義務がある。

 アメリカは、自分よりも弱い国を圧政から守り、世界的人道危機が起きた場合には個人を助けなければならない」と言う信念が付随する。

グレーザーのリアリズム的前提によって、「経済的・国家安全保障上の目標達成のためには

イデオロギーや道徳的義務を進んで犠牲にしようとする、冷淡で実利的なアメリカ」への

道が開かれる事は明らかである。

 フレーザーは、「民主主義を援助し、促進することでアメリカは関心を持っているが、

それはアメリカ最大の関心事ではない」と言う。

 つまり、「約束を破ったほうがいい」場合もあるのだ、と。

台湾とその民主主義政権を犠牲にした方が良いと考える理由について、

グレーザーは、台湾をめぐる論争が米中関係の唯一最大の障害だからと述べている。

 問題は、軍事衝突の際にアメリカが実際に台湾を守る可能性があると言う事だけではない。

 守る、と言う約束そのものが米中関係を緊張させるのだ。

 中国は、アメリカが内政に干渉していると思っている。

 アメリカはそうは思っていないが、中国の本音はそうなのだ。

 だから、それは関係を緊張させる。

 それは、アメリカが台湾に武器を売っていることよりもさらに関係を緊張させている。 

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