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【米中もし戦わば】040-01、第40章 (大取引)で平和を訪れるのか?

問題

平和維持するために次のような「大取引」を行うことに賛成か反対か?

「アメリカは台湾の防衛を放棄する。

それと引き換えに、中国が東シナ海・南シナ海におけるその他の領土要求を

全て放棄するとともに、アメリカ軍がアジアに駐留し続ける権利をも認める」

①賛成

②反対

外交の世界で最も誘惑的な考えは「大取引」と言う概念である。

「大取引」とは、鋭く対立するイデオロギーや意図を持ち、確固たる立場にある

当事者同士が抱えるすべての紛争に一挙に決着をつける取り決めのことである。

大取引と言うこの言葉は、ウェストファリア平和条約(1648年)や第二次大戦の遠因となった

ヴェルサイユ条約(1919年)など、これまで様々な歴史上の出来事を表すのに用いられてきた。

さらにこの言葉は、1919年の天安門事件で民主化運動を弾圧した後、

中国政府が中国国民と結んだ「国民の沈黙と引き換えに経済発展を約束する」と言う

暗黙の取引を説明するときにも使われてきた。

実際、大取引は非常に魅力的である。

何しろ、問題の一挙解決を約束してくれると言うのだから。

そこでこれから、このような大取引が米中間の対立を恒久的に解消し、

平和への究極の道として役立つかどうかを考えてみることにしたい。 

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【米中もし戦わば】039-04公然と条約を破る中国と交渉する余地はあるか?

中国がアシアンと言う交渉の枠組みを操作するやり方は、法による秩序と平和の実現に

尽力している主要な国際機関を悪用するときのパターンと同じである。

例えば、国際安全保障理事会の常任理事国として、中国は国連決議に拒否権を発動することができる。

残念なことに、中国が過去数十年にわたって、戦争で荒廃した国は紛争地域で

天然資源を獲得するための交渉の切り札として拒否権を利用してきた。

最も顕著な例は、ダルフールでのジェノサイドを理由に国連がスーダンに対して

制裁措置を貸そうとした時、スーダンの石油利権と引き換えにそれを阻止しようとしたことである。

交渉に平和を維持することを難しくしている最後の、致命的な障害として、

次のような頭の痛い問題がある。

中国には、公然と条約を破る傾向があるのである。

その典型例が、2012年にアメリカの仲介によって中比間で結ばれた条約(177ページ参照)である。

双方がスカーボロ礁から撤退し、その上で交渉によって解決を図る、と言うことで力が合意した。

だが、フィリピンがが約束通り撤退すると、中国はスカーボロ礁に入って

これを実行支配してしまった。

こんな真似をされたのでは、誰も中国が条約を守ると思わなくなるだろう。

結論を言おう。

中国が「透明性ゲーム」や「交渉ゲーム」でフェアプレーを見せるようになる可能性は、

少なくとも今後しばらくはゼロととは言わないまでも非常に低い。

だからこそ、われわれは別の手段で平和を模索する必要がある。

中国との交渉を避けるべきではないと言っているわけではない、

デビット・ランプトン教授もこう述べている。

中国とは話し合える、中国とは話し合いはできない、といった0か100かの議論は

すべきではないと思う。

私なら、「中国と話し合うことができるが中国と話し合うのは難しい。

だから、粘り強く取り組む必要がある」と言う。

だが、アメリカン・エンタープライズ研究所のマイケル・オースリンは、

そのような粘り強さも現実に見合ったものでなければならないと考えている。

今こそ現実を直視することが必要だ、むしろ遅過ぎる位だ、としてオースリンはこう述べている。

我々西側の人間は、国際関係のあり方についてこう考える。

まず誰もが他人の主権を尊重し、誰もが互いに対等に交渉する。

そして、問題を解決し理解を深める最良の方法は多様である、と。

こうして、われわれは対話依存の罠にはまる。

中国問題ではまっている罠がそれだ。

問題を解決することでも我々自身の理解をきちんと述べることでも、

正直に言ってしまえば彼らの利害をきちんと理解することでもなく、

単に話し合うことが目標になってしまっている。

「とにかく話し合いましょう。

 次の会合の議題は?次は何をしましょうか」と言うだけなのだが。

 それは少しポチョムキンの村(「見せかけだけのもの」のたとえ。

ロシアの女帝エカテリーナ2世の寵臣ポチョムキンが女帝の行幸のために

偽物の村を作ったと言う故事に由来する)似ている。

われわれはこうした話し合いの上辺に満足し、「見てごらん、素敵な家が並んでいる。

 素敵なシャッターやドアがある」などと言う。

 (だが、)ドアから中に入れば、そこには荒涼とした砂漠が広がっているのだ。 

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【米中もし戦わば】039-03多国間協議を嫌い、二国間協議にこだわる中国

昨日は野暮用で

さらに重要な問題で米中が直接対話する場合にも、同様の文化と戦略の違いが見られる。

 特に厄介なのが、東シナ海や南シナ海で両国の軍艦が遭遇した時

(こうした事例はますます増えている)、

軍艦同士の適切な直接的コミニケーションがないことである。

アメリカ側から見れば、このようなコミュニケーションは、

戦争の引き金となりかねない判断ミスを防ぐために極めて重要である。

 しかし、中国側はこれと全く異なる戦略的観点に立っている。

 カート・キャンベルは言う。

 中国は、中国本土のすぐ近くに展開しているアメリカ軍に、

「危機が起きても、前もって試しておいたコミニケーション手順がある。

 この切り札があるから大丈夫」と言う安心感を与えたくないのだ。

キャンベルやアメリカ平和研究所のステファニー・クライネ=アールブランドが言うように、

中国にとってはこのようなコミニケーションは「スピード違反者を守る

シートベルトのようなもの」なのである。

 こうした立場から、中国軍司令官では「中国の反応に対して懸念を持っている方が

アメリカ軍は慎重になるから、そのほうがはるかに好都合だ」と答えている。

 直接的コミニケーションの欠如から判断ミスが起き、エスカレーションを招いたとしても、

それはそれで仕方がない、と。

 だが、中国がコミニケーション・チャンネルを増やそうとしないことで、

「事態の収拾がつかなくなり」「前代未聞の難問が出来する」恐れがある、

とキャンベルは言う。

交渉プロセス自体について言えば、中国が東シナ海と南シナ海で無数に抱える領土紛争の

主な問題は、中国が多国間協議を嫌って二国間協議こだわることと、

拘束力を持つ国際仲裁機関の利用を頑なに拒むことである。

中国がこのような態度をとる理由は明らかである。

 それは、フィリピンやベトナムなどの比較的小さな国と個別に交渉する方が、

同時に交渉して一致団結されるよりも、力にものを言わせて

自分の主張を押し付けられるからである。

 典型例は、中国では東南アジア諸国連合(アセアン)加盟10カ国の間で

繰り返されている、「行動規範」をめぐる駆け引きである。

アシアン加盟国とは、ブルネイ、カンボジア、インドネシア、ラオス、マレーシア、

ミャンマー、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの10カ国である。

10年以上前、中国とアシアン諸国はすべての東南アジア諸国が守るべき

行動規範を採択する第1歩として「南シナ海行動宣言」に署名した。

戦略・国際研究センターボニー・グレーダーのようなアジア問題の専門家が言うように、

こうした行動規範が実際に採択され、中国とアジア諸国によって遵守されれば、

南シナ海の領土問題をめぐる武力衝突は事実上なくなるはずである。

というのも、それがどんな行動規範にせよ、「どの国も、武力や威圧によって

一方的に現状変更を試みてはならないし、領土領海をめぐる紛争はすべて

国際法廷の調停に委ねられる」と言う

条件がその土台になるはずだからである。

 行動規範が採択されれば、西沙諸島や南沙諸島、スカボロー礁で中国が

既に行ったような現状変更工事は未然に防げるだろう。

 さらに言えば、このような行動規範があれば、あらゆる領土問題は平和的手段によって

解決されるだろう。

しかし問題は、行動宣言に署名して以来、中国が行動規範の最終的な取り決めを

ひたすら引き延ばそうとしていることである。

このような引き延ばし戦術を取るのはおそらく、巨大化する軍事力にものをいわせて

アシアン諸国に自分の思い通りの条件を押し付けられるようになるのは時間の問題だと

考えているからだろう。

 したがって、拘束力のある条約に実際に署名する理由は1つもないのである。

 反対に、決定的な軍事力を蓄える時まで引き延ばす理由なら山ほどある。

その時が来たら、アジアのその他の国々、そしておそらくアメリカも、

中国の出す条件で交渉するしかなくなるだろう。 

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【米中もし戦わば】039-02、ガラス張りの米軍と不透明な中国軍

まず初めに理解しておくべきなのは、対話や交渉に対する中国の姿勢は

文明の衝突を表しているだけではないと言うことである。

それは、彼らが我々とは全く異なる戦略的計算に基づいて行動していることを示している。

これを理解するため、交渉をポーカーゲームに例えて、透明性に対するイメージの

対象的な姿勢について考えてみよう。

ポーカーゲームが行われているテーブルの一方の端には、超大国アメリカが座っている。

 元国務次官補キャンベルは次のように言う。

 アメリカは、自分が持ってるカード全て見せる。

 我々がどれだけ強いかを見ろ。

 なめた真似はしないほうがいい、と。

 アメリカ側から見れば、このような透明性は自己中心主義や虚勢に基づくものではない。

 これは、もし自分がカードを全て開示し、エース4枚が全て揃っていることを示せば

みんなが負けを認めるだろう。

と言う仮定に基づく合理的な戦略なのである。

完全ガラス張りのアメリカ軍はこのようにして平和を維持するのだ、

とペンタゴンやホワイトハウスは考える。

ポーカーゲームが行われているテーブルもう一方の端には、不透明性と言う正反対の

戦略を駆使する中国が座っている。

キャンベルはは言う。

中国は潜在的敵国に対して自国の能力を隠し、不透明性によって抑止力を実現しようと

することが多い。

もちろんアメリカの力ずくのゲームに対して、台湾問題などでずっとカードを伏せてきた

プレイヤー=中国の視点から見れば、これもやはり合理的な戦略である。

地下長城にどれだけ核弾頭を保管してるのか、どんな兵器を宇宙へ打ち上げているのか、

対艦弾道ミサイルを本当に航行中のアメリカ空母に命中させるのかどうかといった

問題に中国が答えなければ、競合国の不安は高まる。

 紛争時には、このような不安が疑念や躊躇を生み出す元になる。

 特にアメリカは結局のところ、中国の非対称兵器という「ストレート・フラッシュ」の方が

手持ちの4枚のエースよりも強いのではと心配せざるをえなくなる。

だから、中国としては手の内を見せるわけにはいかない。

これでは平和に向けての話し合いと言うよりもにらみ合いであり、手詰まり状態である。

ジョンズ・ホプキンス大学のデビット・ランプトン教授は、この状況について

次のように述べている。

アメリカは透明性が抑止力につながると信じ、中国は曖昧さと不透明性が

抑止力につながると考える。

もちろん、中国の不透明な態度は、中国が軍事力でアメリカと肩を並べるか上回ったと

感じた時点で変化するかもしれない。

それ以降は、中国も現在のアメリカと同じ理由で、つまり、あからさまに

相手を怖気付かせようとして自分の力を誇示しようとするようになるかもしれない。

しかし、必ずそうなると言う保証がない。

今のところ、透明なアメリカが不透明な中国を前にして身動きが取れない状態が

続いている。

これでは、交渉によって、軍縮や宇宙の非軍事化といった重要な分野で

有意義な条約を締結すると言う展望が見えてこない。 

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【米中もし戦わば】039-01、第39章中国との対話は可能か?

問題

透明性、交渉、法による支配に対する中国の姿勢について、最も正しい記述を選べ

①緊張を最小化し、判断ミスを避けるため、直接対話を望んでいる

②自国の軍隊の能力を公表する際、透明性を重視している

③二国間協議よりも他国環境にお好み、自分よりも小さな影響力を及ぼす事はしない

④国連や世界貿易機関など国際組織のルールに厳密に則って行動している

⑤交渉結果を遵守してきた実績がある

⑥1 ~5のいずれも正しくない

冷戦中に核爆弾が1つも落ちなかった大きな大きな理由の1つは、

米ソが対話に前向きだったことである。

最高レベルでは、アメリカ大統領とソ連書記長がホットラインでつながっていた。

前線や公海上でも、両国の海軍司令官が定期的に艦橋から艦橋へ連絡を取り合っていた。

さらに、米ソ間には、互いの衛星ネットワークには手を出さないと言う

暗黙の取り決めがあった。

互いの報復が攻撃能力を温存し、「相互確証破壊」が核抑止力を保つためである。

冷戦末期に両国が重ねた条約交渉が両国の核軍備の驚くべき透明性につながり、

最終的には核軍縮に革命的な前進をもたらした。

締結された条約を両国が概ね遵守し、それによって条約締結が可能になったことも

重要な事実である。

残念ながら、現在、米中間にこのような「エスカレーション遮断機」は

1つも存在しない。

また、本書の冒頭の問題の正解は6の「1 ~5のいずれも正しくない」だと思われるから、

交渉によって平和への道を探る事は難しくなりそうである。

したがってこの問題をさらに精査し、この難題を解く方法があるかどうか

探ってみる必要がある。 

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【米中もし戦わば】038-05、人民解放軍を本当に掌握しているのは誰か?

本章の締めくくりに、核抑止力では通常戦争防ぎきれない理由をあと2つ述べておこう。

 まず、人民解放軍が本当に掌握しているのは誰か、と言う恐ろしい問題がある。

 これに関してはかなりの異論があり、意見の一致を見ていない。

 とは言え、軍の1部が暴発して通常戦争の引き金を引き、

そこから核戦争へとエスカレートすると言う最悪のシナリオも考えられる。

さらに次のような、やはり恐ろしいゲーム理論的な可能性もある。

 中国指導部は完璧に合理的に考えた結果、純粋にクラウゼヴィッツの「代数による戦争」

と言う観点から通常戦争と言う結論に達するかもしれない。

計算の結果、中国は、自国の軍事力がアメリカにアジアからの撤退を

余儀なくさせるほどの打撃を与えられ段階に達した、と合理的に結論づけるかもしれない。

だがもし、アメリカのほうも、そのような撤退は経済的、道徳的、国家安全保障的に

容認しがたい、と言うやはり合理的な判断を下した場合、最悪の計算間違いにより

第三次世界大戦の「試合開始」となる。

結局のところ、言える事は、米中間で現在ほぼ拮抗している核能力がアジアの通常戦争を

抑止すると言う確証は無い、と言う事だけである。

歴史上の事例も抑止理論から引き出される結論もあまりにもまちまちで、

恒久平和の明快なビジョンも保証も与えてはくれない。 

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【米中もし戦わば】038-04、「核兵器の保有は、違う種類の戦争への道を開くだけ」

これを現在の米中関係に当てはめると、中国はクレイジーだから核ボタンを押しかねない

とアメリカの指導者が本気で信じていれば、アメリカは中国が通常戦争を始めても、

核戦争に発展するのを恐れて躊躇するかもしれないと言うことになる。

このような通常戦争がアメリカ本土を直接脅かす事はまずないだけに、なおさらである。

このように、アメリカが「中国は何をするかわからない」と感じ、

中国が「報復を受けるとは限らない」と感じている状況下では、

通常戦争起こりえるだけではなく、「アメリカ本土を直接攻撃することさえしなければ、

思うままに近隣諸国を核で威嚇できる」と中国が思い込むことによって、

その可能性がさらに高まると言えるかもしれない。

カーネギー国際平和基金のアシュレー・テニスは次のように警告している。

米中双方が確実な報復攻撃能力を備えているにもかかわらず、今後数年のうちに

両国が深刻な軍事衝突に巻き込まれるリスクが高まっているのは、

アメリカが駆けつけられないようにする能力は中国が着実に獲得してきたためである。

アメリカ海軍大学校のトシ・ヨシハラ教授は、この頭の痛い問題を次のように掘り下げている。

 戦略核兵器使用される事はないと言う相互保証が米中間に存在し、

中国が原則的にはアメリカ海軍に対して沿岸で接近阻止戦略を押し通すことができれば、

中国にとって通常軍事作戦を行う戦略的空間がアジアの海域に生まれることになる。

 これが、理論家たちの言う「安定-不安定のパラドックス」である。

 つまり、双方に確実な核報復能力がある場合には核兵器と言う最高レベルにおいては

戦略的安定が生まれる一方で、相互に保証された核抑止力の傘の下で、

代理戦争や、より低レベルの通常戦争が起きる余地ができてしまうのである。

 したがって、核兵器の保有は戦争が起きないことを必ずしも保証するものではなく、

違う種類の戦争への道を開くだけなのである。

 さて、ここからがゲームの最悪の部分である。

中国がアメリカを見くびってその意思力を過小評価し、通常戦争のボタンを

強く押しすぎた場合、ありえないと鷹を括っていた核攻撃を招く結果になるかもしれない。

 なぜ中国がロナルド・レーガン大統領やジョージ・W・ブッシュ大統領のような

「非合理的なタカ」よりもバラク・オバマ大統領のような「合理的なハト」を好むかは

明らかである。

 それは、少なくとも中国にとっては「ハト」には意志力や決断力が欠けているように

見えるし、「タカ」の方がマッドマンの策略(それがほんとうに策略だとすれば、だが)を

企みそうだからである。

 だが、不確実性では中国の方が遥かに上だろう。

 中国共産党のこれまでの歴史を考えれば、中国の合理性と意図について

確実に分かる人間がアメリカ側にいるとは思えない。 

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【米中もし戦わば】038-03、核抑止力が働くための2つの条件

このように見てくると、核抑止力がちゃんと働くために最も大事なのは

その抑止力に信憑性があることなのだとわかってくる。

実際、中国にアジア諸国への侵略を思いとどまらせるためには、

アメリカの抑止力に少なくとも次の2つの点で信憑性が伴っていなければならない。

第一に、「アメリカとの同盟諸国は、中国を打ちまかす、あるいは少なくとも

中国と戦って引き分けに持ち込む軍事力を持っている」と中国は信じていなければならない。

そうでなければ、中国には「厳罰」を恐れる理由がなくなってしまう。

相手に「厳罰」を恐れさせることこそが効果的な抑止力の特徴だ、

と国際政治学者ケネス・ウォールズは述べている。

もちろん、このような信憑性は、中国が通常型非対称兵器で防備を固めるにつれて

ますます怪しくなってきている。

第二に、中国に通常戦争を思いとどまらせるためには、「アメリカとの同盟諸国には、

必要とあれば通常戦争を戦う覚悟も、やむを得ない場合には核兵器の使用も

辞さない覚悟もある」と中国が信じていなければならない。

ここで重要になってくるのが、抑止力理論のもう一つの重要な概念である

「相手の合理性の認識」である。

抑止力分析理論の最も重要なツールの1つであるゲーム理論を使って、

合理性の認識の重要性を強調することができる。

それでは、ノーベル賞受賞者トーマス・シェリングによって提案された

この典型的な抑止力ゲームを米中関係と言う文脈の中で考えてみよう。

もしも中国がアメリカの型通りにの想定に従って行動しなければ、

アメリカは中国の行動を「非合理的」だと考えるだろう。

 そして、アメリカに非合理的だと認識された中国の行動は中国に勝利をもたらすかもしれない。

 だが、もしも中国が実際には非合理的(あるいは狂気)ではなく、駆け引きや競争の

戦略の1部として認識的にそのような型破りな行動をとっているのだとすれば、

この言われる非合理的な行動はゲームの「利得」に関しては事実上合理的な行動なのである。

言い換えれば、「狂気」を装う事は「極めて合理的」かもしれないと言うことである。

このような考え方は「マッドマン・セオリー」と呼ばれている。

そんなのは絵空事だと思われるといけないので、実例を挙げておこう。

最も有名な「マッドマン ・セオリー」の実践者は毛沢東ではなく、

リチャード・ニクソン大統領である。

彼は常軌を逸した怒りっぽい態度を装うと言う戦略をとり、

パリ平和会議で北ベトナムにアメリカ側の条件を承諾させることに成功した。

自らの「マッドマン・セオリー」について、ニクソンは側近に次のように打ち明けている。

北ベトナム側に、戦争を終わらせるためなら私がどんなことでもやりかねない男だと

信じ込ませてくれ。

彼らにちょっと口を滑らせるだけでいいんだ。

「お願いだ、ニクソンが反共に凝り固まっている事は知っているだろう。

ボタンを押しかねない」とな。

そうすれば、2日後にはホーチミン自身がパリに出て来て和平を求めるだろう。 

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【米中もし戦わば】038-02、何の躊躇もなく核保有国・ソ連に攻撃を仕掛けた中国

このように様々な例から判断すると、「核兵器は通常戦力の抑止力となる」と言う

意見には確かな歴史的根拠があると言うことになる。

 それならなぜ、米中間で核のバランスが取れている現在、

中国がアジアで通常戦争を始める恐れがあるのだろうか。

この問いに答えるためには、あといくつか歴史上の事例について考察し

核抑止力をもっと深く理解する必要がある。

例えば、第5章で既に述べた、1969年に中国がソ連を攻撃した事件について考えてみよう。

当時、中国はまだ核攻撃能力を持っていなかったが、

ソ連のほうは中国の主要都市全てを破壊でできるだけの核兵器を保有していた。

にもかかわらず、中国は何の躊躇もなくソ連に攻撃を仕掛けた。

それどころか、中国指導部は紛争の最中に、「屈辱の100年間に帝政ロシアによって

加えられた歴史的不正を正すため、我々は核の脅しには決して屈しない」と公言してのけた。

核保有国イギリスと非核保有国アルゼンチンが戦った1982年のフォーククランド紛争も、

これと同様のナショナリズムと歴史的不正の是正と言う色合いを帯びた領土紛争である。

国民の不満をそらそうとして、アルゼンチンの軍事政権はマルビナス諸島

(フォークランド諸島のアルゼンチン側の呼称)侵攻を命じた。

 常兵器による攻撃を決定する際アルゼンチンにとってイギリスの核兵器は

何ら考慮の対象とはならなかったようである。

三つめの事例は、3度にわたる台湾海峡危機である。

1954年~55年の第1次台湾海峡危機の際も1958年の第二次台湾海峡危機の際も、

自分自身はまだ核を持たず、アメリカと言う核保有国の脅威に直面していたにもかかわらず、

中国が通常戦争を起こすことに明らかに何の躊躇も示さなかった。

第一次台湾海峡危機の際には再三にわたるアメリカの「核攻撃を行う」と言う

脅しに屈して撤退した中国だったが、早くも1958年にはアメリカの核の脅威を

ものともせず第二次台湾海峡危機を引き起こした。

だが、この第二次台湾海峡危機についておそらく最も興味深い点は

危機が終息したのは通常戦争の戦場で台湾側優勢になったためだったと言うことである。

 台湾が台湾海峡上空で決定的な一撃を加えることができたのは、

アメリカから提供されたサイドワインダー空対空ミサイルのおかげだった。

言うまでもないと思うが、この「台湾が中国を下す」と言うシナリオは現在ではありえない。

それは中国軍が著しく近代化したせいばかりではなく、「決定的な一撃」を加える

ための最新兵器テクノロジーをもう一度台湾に提供することにアメリカは

今では消極的だからでもある。

抑止力を考える上では、第三次台湾海峡危機が最も示唆に飛んでいると言えるかもしれない。

この時もやはりアメリカの核兵器の脅威をものともせず、新たに核保有国となった

中国は、1995年から1996年にかけて威圧行動によって台湾総統選の乗っ取りを試みた。

アメリカの空母戦闘群が現場に到着するに及んで、中国はようやく撤退した。

中国の軍事力増強と非対称戦闘能力の向上を考えると、

今度はこのような結末も二度と期待できないと思われる。 

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【米中もし戦わば】038-01、第38章、核抑止力は本当に働くのか?

問題

米中両国が核保有国であることによって、中国がアジアで通常戦争を始める危険性は

非常に低くなっているか?

①なっている

②なっていない

これは確かに答えにくい問題である。

というのも、経済的関与や経済的相互依存と同じように、核兵器にも戦争を抑止する

力があるとこれまで一般的に考えられてきたからである。

だが、経済的関与や経済的相互依存と同じように、核兵器の抑止力についても強力な

反証が存在する。

 強大な核戦力を盾にして、中国はこれまでよりも攻撃的な行動をとるようになるかもしれない。

 その中には、通常戦争も含まれる。

 それでは、双方の論拠を精査してから我々の立場を決めることにしよう。

 まずは、「核兵器は通常戦力通常戦争の抑止力になった」典型例、

つまり40年にわたる冷戦時代の米ソの対立から見ていこう。

冷戦時代、代理戦争はたくさんあったが、通常戦争にせよ核戦争にしろ

米ソが直接衝突した事は1度もなかった。

この冷たい平和が続いた理由として最もよく挙げられるのが、

「相互の破壊を確証する」核兵器を米ソ両方が大量に保有していたことである。

1962年のキューバ危機の時も、衝突は回避された。

1961年に、数の上で圧倒的に不利な本亡命キューバ人部隊がCIAの支援を受けて

ピッグス湾に侵攻したことを別にすれば、アメリカがキューバに侵攻して

カストロ政権を武力で転覆しようとはしていない。

だが、もしもそのタイミングがあったとすれば、それはキューバ危機の時だった。

 キューバ危機前の数ヶ月間に、それはアメリカのどの都市でも速やかに

攻撃できる能力を持った戦略核兵器をキューバに持ち込んでいた。

 これは明らかに改善の原因となる行動である。

キューバ危機の最中にその後も、アメリカがキューバ侵略を開始する事はなかったが、

それはソ連がカストロに与えた大きな核の傘のおかげだったと思われる。

 もう一つ、「核抑止力」が分かりやすい例としてはインドとパキスタンの対立がある。

 不倶戴天の両国は1947年、1965年、1971年に直接戦果を交えた。

 特に1965年と1971年の戦争は激戦となり、多くの戦死者が出た。

だが、両国が核保有国となってからは、通常戦争は1度しか起きておらず、

それもそれまでの戦争よりはるかに限定的で、外交的手段によって速やかに決着した。 

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