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【米中もし戦わば】023-02、中国の狙いは南シナ海の天然資源である

こうした経済的・安全保障上の重要性を考えれば、南シナ海の激しい紛争の

中心になっていることも驚くには当たらない。

米中戦争の引き金になりそうな場所は、少なくとも2カ所ある。

 1つ目は本章で検討する、南シナ海北部に位置する西沙諸島であり、

これはベトナムとの紛争地である。

2つ目はフィリピンとの紛争地で、南シナ海南部の南沙諸島を始めとする島々である

(これについては次章で述べる)。

 それでは、西沙諸島から話を始めよう。

 ほぼ間違いなく、ここは中越間の潜在的戦争の中心部である。

 中国海南島から500キロほど、ベトナムのダナンからは300キロの海域に位置する

西沙諸島は30の小島と砂州、サンゴ礁からなり、総面積わずか3.4平方キロメートルである。

陸地の面積こそ小さいが、西沙諸島は一万5千平方キロの海域にわたって広がっている。

 だから、国連海洋法条約に則って、西沙諸島の領有権には広範囲の資源権益が

伴うことになる。

 具体的に言うと、既に述べたように、国連海洋法条約によって

各国の領土の海岸線から200カイリ以内ならその国の排他的経済水域(EEZ)と定められている。

 排他的経済水域内の天然資源は、海中の資源(魚)資源(石油と天然ガス)も

すべてその国に帰属する。

 さて、ここから本書にとって重要なポイントである。

排他的経済水域の起点は、一国の本土の海岸線だけではない。

居住可能な島と認められれば、それがどんな小さな島でも

そこから半径200カイリの円を自国の排他的経済水域にすることができる。

西沙諸島や南沙諸島をめぐる紛争を無価値な「海中の岩」をめぐる

無意味な小競り合い扱いしようとする短絡的なアナリストやジャーナリストには、

この重要なポイントが分かっていない。

 マサチューセッツ工科大学教授リチャード・サミュエルが指摘ているように、

国連海洋法条約が「岩」にしか見えないような小島まで広範囲な権益を認めているため、

島が海に含まれているよりは島に海が含まれているのである。

 以前ホワイトハウスの顧問を務めていたステファン・ヘルパーは、

中国の戦略について、「中国のような大陸国家は、どんなに小さな島でもいいから

南シナ海の島々を支配下に置くことができれば、それによって海洋権益を「同心円状」や

「飛び石状」に著しく広げることができる」と述べている。

 実際、西沙諸島をベトナムから奪取することによって、中国は排他的経済水域を

中国大陸から測って350キロの水域から500キロ以上の水域へと事実上拡大することに成功した。

 同様に、南沙諸島を奪取したことにより、中国は現在大陸の沿岸から800キロの範囲に

まで排他的経済水域を主張している。

 このようないわゆる失地回復プロセスによって、中国の排他的経済水域は近隣諸国の

それと著しく重なり合うようになったため、資源権益の問題はどのように解決すべきかを

めぐって激しい紛争が起きている。

こうした紛争を有利に決着させようとして中国があからさまに武力に訴えれば、

南シナ海に波風が立つのは必至である。 

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【米中もし戦わば】023-01、ベトナムの西沙諸島問題

中国とベトナムの関係を述べた記述として正しくないものを選べ。

①中国もベトナム共産党政府によって支配されている

②中国でもベトナムでも、仏教と儒教が伝統的文化の重要な部分を占めている

③ベトナムがフランスから独立した時も、アメリカ軍を駆逐した時も、

中国はベトナムを助けて重要な役割を果たした

④中国とベトナムは現在も同盟国として有効関係を保っている正解は4。

数多くの共通点を持ちながら、現在、中国とベトナムは友好国でも同盟国でもない。

これには色々と歴史的な理由がある。

紀元前100年頃、中国はベトナムを侵略し、1000年間その土地を支配したが、

その後ベトナム人が蜂起して征服者を追い出した。

すでに述べたように1979年にも中国は、ベトナムがソ連と同盟を結んだことを理由に、

その「罰」としてベトナムに侵攻した。

ただし、多大な死傷者を出して「罰」を受けたのは、主に中国の側だった。

こうした侵略の歴史はあるものの、現在、両国が敵対関係にある主な原因は、

中国が南シナ海でベトナムに対して繰り返しているいじめである。

南シナ海は「縁海」(島々によって部分的に囲まれている海」と言う言われることが多いが、

その海域は他の縁海よりも広く、太平洋、大西洋、インド洋、南氷洋、北極海に次いで

6番目に大きい。

世界の海を航行する輸送船の3分の1が、350平方キロメートルの面積を持つ

南シナ海を通過している。

 南シナ海が重要視される理由は、そこが現代の「海のシルクロード」だから

と言うだけではない。

南シナ海は世界有数の豊かな漁場でもある(しかも、その地域の人々にとって

魚は重要なタンパク源である)さらに、その海底に天然ガスが眠っているとも言われている。

 戦略的な観点から見れば、インド洋への玄関口であるこの南シナ海を制するものは

南アジアそのものを制するといえよう。

 のみならず、日本や韓国へ運ばれる石油の大半が南シナ海を通過しなければ

ならないことを考えれば、南シナ海を制するものは東アジアも制すると言えるかもしれない。 

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【米中もし戦わば】022-06、日本が戦争の引き金あるいは火種となる危険は大きい

「日本核武装」シナリオの方が「日本が中国に乗り換える」シナリオよりも

さらに悪いとなれば、残ったのは「ぶれない同盟国」シナリオだけである。

このシナリオのほうがまだマシかどうかは、日米間の経済・軍事同盟の強化に

中国がどう反応するかにかかっている。

一方では、中国が現在のようなやり方で実利的日本の日米の決断力の限界を

探ってくるだけなら、「ぶれない同盟国」なりは平和に貢献するはずである。

ペンタゴンの元アナリスト、マイケル・ピルズベリーは、この「力による平和」主義について

こう説明する。

中国が探りを入れ、弱点を見つければ前進してくる。

だが、進んでみて相手が強いとわかれば、撤退するだろう、と。

他方、国内で民族問題が噴出する危険が高まったり、アメリカの後押しを受けた

日本の軍事力増強に脅威を感じたりした場合は、中国は「安全保障のジレンマ」シナリオ

に従って軍拡の努力を倍加させるだろう。

その時点で、当然のことながら戦争の危険性が高まっていく。

したがって、恒久平和をもたらすには日米中の指導者が自国の能力と意図について

フランクに話し合うことが非常に重要である。

だが、後述するように、アジアの平和にとって最大の障害は、交渉と透明性を

拒否する中国の姿勢である。

だから、今後数十年の間日本が戦争の引き金あるいは火種になる危険が大きい。

鍵となるのは、アジア地域に対するアメリカの熱意と決意の度合いである。 

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【米中もし戦わば】022-05日本が核武装する可能性はあるか?

1つ目の選択肢は、「中国に乗り換える」シナリオ、つまり「長い物には巻かれろ」的

戦略である。

中国をアジアの覇権をめぐる戦いの最終的な勝者と認め、あっさり寝返って今度は

「中華帝国」と運命を共にする、と言うことである。

日本にとっては明らかに不利な点は、そうなれば必然的に尖閣諸島を

明け渡さざるをえなくなることである。

その上、海洋権益についても中国の主張を認めざるをえなくなり、

東シナ海における漁業及び石油・天然ガス権益の大半を失うことになる。

さらに、中国が本気で言ういわゆる失地回復に乗り出すとすれば、

日本は沖縄の領有権まで明け渡さざるをえなくなり、琉球諸島は

中華帝国に帰属することになるだろう。

経済面では日中の「共同統治」と言うことになるだろうから、

日本にとって領土問題よりは少しマシな結果になるだろう。

おそらく、日中両国はアメリカを貿易相手とする保護貿易圏を形成し、

アメリカドルに変わって中国人民元が準備通貨に採用されるだろう。

実際、日中両国の間に既に高度の相互依存関係が存在することを考えれば、

この「中国に乗り換える」のリアルシナリオは少なくともある程度は筋が通っている。

このシナリオがなぜ米中戦争の引き金になり得るかと言えば、

中国主導の経済圏ができた場合、アメリカの経済的繁栄と安全保障の両面に

深刻な悪影響を及ぼすと予想されるからである。

経済面では、アメリカは中国経済圏との貿易を不利な条件で行わざるをえなくなる

と言うリスクを冒すことになる。

これはアメリカの輸出とGDP成長率の両方に悪影響及ぼすだろう。

軍事面でも、3つの悪影響が考えられる。

アメリカはアジアの基地を失い、アジア地域のミサイル防衛網が弱体化し、

中国は次第に太平洋の広い範囲に戦力を投射してくるだろうから、

それにつれて、シアトルからワシントンDCに至るまでのアメリカの諸都市は

ますます中国の核攻撃ないし核攻撃の脅しに対して無防備になるだろう。

これらの理由だけでも、「日本が中国に乗り換える」シナリオは、

いずれ米中間の軋轢を大きくすることにつながりかねない。

 それでは「日本核武装」シナリオはどうだろう。

 唯一の被爆国として、日本は核兵器の保有には拒否感を持っているが、同時に、

高性能の核兵器を速やかに製造・配備するだけの技術力もほぼ確実に保有している。

過去60年以上にわたる原子力発電の経験から、日本は、速やかに原子爆弾を

開発するだけの専門技術も核物質も十分に持ち合わせている。

時間をかけて小さな原子爆弾を開発しているイランや北朝鮮などとは違い日本なら、

ほとんど一夜のうちに最大級の原子爆弾をいつでも製造してのけるだろう。

 この予測から浮かび上がってくるのは、アジア地域におけるアメリカの戦力投射の

最も重要な機能は核抑止力による平和維持だと言う事実である。

日本や韓国は核保有国にならずアメリカの核抑止力に頼る方が、

アジアで核戦争が起きる可能性ははるかに小さくなる、とほとんど専門家が考えている。

だが、一旦このアメリカの核の傘の信頼性が疑問視されれば、

拡散に歯止めがかからなくなり、何が起きるか分からない状態になってしまう。 

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【米中もし戦わば】022-04、日米安全保障20便安保条約が結ばれた時、日本領内での紛争は想定されていなかった

1952年に日米が防衛条約を初めて結んだ時、これは双方にとって好都合な条約だと

思われた。

アメリカ側から見ればこれによって、アジアにおける自国の利益を守るための基地を

日本領内に維持できることになり、日本が国土防衛だけを目的とした

小規模な軍隊を持つと約束したことで、アメリカ国民は真珠湾攻撃の再来を

心配する必要がなくなった。

日本側から見ても、これは悪くない取引だった。

防衛費はアメリカの納税者に事実上肩代わりさせた結果、日本はその経済的資源を

平和的発展と貿易に振り向けることができた。

60年以上の間、日米安全保障条約が現代史上最長の防衛条約として存続してきたが

日本もアメリカも、この条約は日本の領土への攻撃と言う理由で

実行される日が来るとは考えてもみなかった。

外交問題評議会回上級フェローのシーラ・スミスは次のように述べている。

締結当初、日米同盟は第一に、当該地域へのアメリカ軍の前方展開を可能にして

冷戦に対処するための条約だった。

 日本領内で紛争が起きる事は想定されていなかった。

 アジア地域の紛争として想定されていたのは、朝鮮半島問題や台湾海峡の

偶発事件だった。

だが現在、日米両方とも、(理論的にはその可能性は低いとは思われるものの)

日中の直接的軍事衝突や、中国が戦争時に核攻撃や、核攻撃の威嚇に出る可能性について

懸念せざるをえなくなった。

このような核攻撃シナリオを考えているうちに、日本は当然のことながら

アメリカの真意を疑わざるをえなくなる。

中国の核能力はロサンゼルスやニューヨークへの報復攻撃も可能な水準に

達している現在、アメリカは日本防衛のために本当に自国の核兵器を提供するだろうか、と。

簡単に言えば、これが日本の抱える「アメリカは、ロサンゼルスと引き換えに

東京を救う用意があるだろうか」と言うジレンマである。

実のところ、主要都市を核攻撃の危険にさらしてくれと同盟国に頼むのは

確かに大きなお願いである。

東京もワシントンも、日米安保条約の根底にあるこの隠れた条文を

意識せざるをえなくなってきている。

ハザードいわゆるモラルハザードと言う付随的問題も生じるだけに、

ワシントンにとってはこれはいっそう悩ましい問題である。

つまり、日本を確実に守ると言うアメリカの約束によって、

それがない場合に比べて日本の行動はより大胆に(おそらくは、より無謀に)

なるかもしれない、とワシントンとしては懸念せざるをえないのだ。

もちろん、ここに問題の核心がある。

「アメリカが約束通り核の傘を提供するかどうか疑わしい」と判断すべいなや

日本は「ぶれない同盟国」シナリオに変わる少なくとも2つの選択肢を

検討するに違いないからである。 

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【米中もし戦わば】022-03、有事の際、米国は本当に核の傘を日本に提供するのか?

それでは、最重要の同盟国にして守護者たるアメリカの約束を信じられなくなった

日本は、今後どんな行動に出るだろうか。

日本が中国の脅威を実感する機会が多くなっているだけに、

これは特に重大な問題である。

実際、中国軍が自衛隊を挑発する行為は日常茶飯事と化している。

 軍艦で日本の領海スレスレを航行したり、戦闘機や偵察機で日本の領空を侵犯したり、

民間船や準軍事船舶の大船団を使って尖閣諸島を取り組んだり(キャベツ作戦)、

「軍国主義の復活」などと日本を非難する必要なメディア戦を仕掛けたりして、

中国はあの手この手でこの地域の緊張を高めている。

「日本が最終的にどんな道を選択するか」と言う問題を「日本が中国に攻撃された時、

アメリカは安全保障条約と言う約束を守るだろうか」と言う問題から

切り離せないのは、まさに日中間のこの緊張状態のせいである。

だが、日本のこの選択について考える際には、日米安全保障条約に基づいて

アメリカが履行しなければならない

義務の真の範囲を正しく理解することが必須である。

ここで本当に重要なのは、この義務が、中国が尖閣諸島に侵攻したり

紛争空域に入った日本の航空機を撃墜したりした場合に、

アメリカが日本を助けるために軍艦や部隊を派遣するかどうかだけの

問題ではないことである。

 日米安全保障条約に定められたアメリカの義務は、衝突が実際に勃発した場合に

核の傘を(60年以上にわたって約束してきた通りに)本当に提供するかどうか

と言う問題にも直接関わってくるのである。

ここで、日米安全保障条約の歴史について、もう少し詳しく説明しておこう

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【米中もし戦わば】022-02、日米安保の義務を米国は遂行できなくなってきている

日本が進むべき道を選ぶ際に最初に障害となる厄介な真実は、

日本が経済的に運命を共にしている中国との国の国民が

根深い反日感情を抱いていると言うことである。

これは驚くには当たらない。

中国の若い世代は、大日本帝国の残虐行為をことさら強調する歴史教科書や、

年間200本も制作される反日映画によって、常に反日を教え込まれて育ったのだから。

これと同様に厄介な真実は、日本が安全保障上の運命を共にしているアメリカと言う

国で、またぞろ伝統の孤立主義が目だってきたことである。

これも驚くには当たらない。

日本のような忠実な同盟国に対して安全保障条約の義務を遂行する上で、

アメリカが現在直面している問題には、経済的な面と政治的な面の両方があり、

この2つは複雑に絡み合っているからである。

経済的な面について言えば、アメリカは慢性的な財政赤字を防衛費の大幅削減によって

解消しようとしている。

防衛予算削減に反対する声はほとんどない。

アメリカ史上最長の2つの戦争、すなわちアフガニスタン及びイラクでの戦争に

律儀に資金を提供し続けた結果、アメリカ国民は戦争に疲れ切っている。

 政治的な面について言えば、アフガニスタンとイラクでの戦争をもっと良い形で

終わらせることができていれば、アメリカの納税者も「アジア重視政策」への資金提供に

もっと前向きだったかもしれない。

だが、イラクへの派兵が失敗に終わり、アフガニスタンで今、アメリカ人の多くが

(経済的余裕のない人々は特に)ととにかくうんざりしてしまっている。

したがってアメリカは、少なくとも日本から見れば、もはや軍事的義務を果たす

経済力のない、政治的に無気力な、防衛予算の優先順位も正しく決められない国

だと言うことになる。

だからたとえアメリカの大統領や国務長官や統合参謀本部議長がアジアの同盟諸国に

対する義務を必ず果たすと約束しても、当然のことながら、

日本や韓国やフィリピンの政治指導者はその言葉に疑念を持つ。 

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【米中もし戦わば】022-01、第二12章尖閣諸島の危機

問題

日本は今後、日米安全保障条約についてどんな判断を下し、中国にどう対処するかを選べ

①弱体化した、もしくは決断力に欠けるアメリカは日本を守ってくれないと判断し、

自前の核兵器を開発して独自路線を模索する—「日本核武装」シナリオ

②弱体化した、もしくは決断力に欠けるアメリカはもう日本を守ってくれないと判断し、

中国の覇権を受け入れて中国主導のアジア経済圏の一員となる—「中国に乗り換える」

シナリオ

③アメリカは今後も条約の義務を守り、日本に核の傘を提供し続けると信じ、

通常戦力及びミサイル防衛能力を増強しつつ、アメリカやその他の同盟諸国との

経済的結びつきを強化する—「ぶれない同盟国」シナリオ

勃興する中国の挑戦に対して、あるいは没落するアメリカに対して、

日本がどのような反応を見せるかは、当然のことながら、アジアの将来の戦争と

平和に重大な影響与えるだろう。

日本が「核武装」すれば、アジアにおける核戦争のリスクは間違いなく高まるだろう。

 日本が「乗り換え」で中国と同盟を結び、アメリカと敵対すれば、

それは「大東亜共栄圏」と第二次大戦の再演となるだろう。

 ただし、結果と勝者は全く違うものになるかもしれない。

「ぶれない同盟国」シナリオでさえ、戦争にならないと言う保証は無い。

 強固な同盟関係は中国を刺激し、すでにお馴染みの「安全保障のジレンマ」によって

中国がさらに軍備拡張に励むだろうからである。

 それでは、帝国主義国家としての過去、平和主義国家としての現在と極めて不透明な

未来とのあいだで進退極まっている世界一の被爆国・日本は、

どんな行動をとると予想されるだろうか。 

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【米中もし戦わば】021-07、韓国の首都・ソウルは38度線から40キロしか離れていない

最後に「北朝鮮が韓国に侵攻する」シナリオについて言えば、

その最も不安な側面は「近距離の過酷さ」である。 

(アメリカがアジアから遠いために生じる問題を表す「(遠い)距離の過酷さ」と言う、

アメリカの軍関係者がよく言う言い回しをもじったもの)。

北朝鮮の首都、平壌が38度線から150キロほど離れているのに対して、

韓国の首都ソウルは40キロしか離れていない。

この戦略上の利点は少なくとも、戦闘を望んでいるだろう北朝鮮軍にとっては

魅力的である。

もちろんアメリカが朝鮮半島で再び地上戦に巻き込まれることはありえない。 

アメリカは、韓国が侵攻を撃退するのを空と海から支援する道を選ぶだろう。

戦闘機パイロットで現在はペンタゴン高官のエド・ティンバーレイクは、

アメリカがとるべき道を次のように明快に述べている。 

真っ先にしなければならないのは、金正恩の命令系統を断ち切る事だ。

なぜなら、彼は核発射ボタンを押すことができるからだ。

北朝鮮が核を持っている事は証明済みだ。 

だから、攻撃は速やかに行わなければならない。

恐ろしい事態になる。 

二万の重火器が大勢の人間を殺すだろう。

 だが、北朝鮮との対称的戦闘、つまり地上戦に訴えれば、核戦争を始める前から

アメリカの負けだ、彼を排除し、容赦なくそして速やかに、彼を抹殺しなければならない。 

だが、北朝鮮と韓国が「容赦なくそして速やかに」戦い、そこに地上戦にせよ、

空からにせよアメリカが加われば、この場合もやはり、

中国としては傍観者ではいられないだろう。

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【米中もし戦わば】021-06、対北朝鮮のミサイル防衛網配備を中国は恐れている

それでは、「アメリカの先制攻撃」シナリオはどうだろうか。

 北朝鮮に核兵器を成功させないようにするための手段として、

アメリカが北朝鮮の核施設への先制攻撃を決断としたら?

イランのウラン濃縮施設を先制攻撃するかどうかをめぐって、

アメリカとイスラエルがこれと同じことを話し合っていたと言う事実を考えれば、

このシナリオは決して突飛なことでは無い。

北朝鮮の場合、北朝鮮自身が核兵器を使用する恐れだけでなく、

イランやパキスタンであるいはテロ組織アルカイダといった

危険極まりない国や組織に核物質を売る危険もある。

実は、この「先制攻撃」シナリオがありえないと思われる唯一の理由は、

「北朝鮮の核開発がもう既に止められない段階にまで進んでいるから」である。

2003年、ジョージ・ブッシュ政権の安全保障チームがイラク侵攻を準備している

隙をついて、北朝鮮はそれまで封印しておくことに同意していた

使用済み核燃料棒8000本以上を民生用原子炉施設から密かに移動させた。

これら使用済み核燃料棒を再処理することによって、

北朝鮮は十分な量の兵器級プルトニウムの抽出に成功し、

この危険な核物質を先制攻撃を受ける心配のない秘密の場所に隠してしまった。

それ以来、北朝鮮は何度も地下核実験を行い、北朝鮮の核爆弾は次第に破壊力と

完成度を増していた。

これら1連の核実験に基づいて、大半の専門家は現在北朝鮮は韓国、日本、

あるいはアメリカに向けて核ミサイルを発射するようなことがあれば、

アメリカは報復核攻撃に出ると予想される。

そうなれば、朴槿恵大統領の「北朝鮮を地球上から消し去る」と言う約束は

少なくとも「平壌を地球上から消し去る」程度には果たされるだろう。

中国もアメリカの報復攻撃の正当性は認めざるを得ないだろうが、それでも、

アメリカの核ミサイルが中国に向けてではないにしても、

少なくとも中国の方角に向かって発射される事はやはり問題である。

ミサイルが自国に向かって飛んでくるのではと言う懸念を中国が抱いた場合には、

何が起きるかわからないと言えるだろう。

だが、戦争につながる危険があるのは、北朝鮮の可能性だけではない。

この脅威に対してアメリカとアジアの同盟諸国が既に見せている反応が問題なのである。

これが戦争につながるかもしれないというのが次に検討する

「弾道ミサイル防衛網配備」シナリオである。

アメリカ側から見れば、「全面核戦争も辞さない」と言う度重なる北朝鮮の私に対して、

アメリカが従来よりもはるかに強力なミサイル防衛システムをアジアの

戦域配備するのは至極道理にかなったことに思われる。

だが中国は、そのようなミサイル防衛網は北朝鮮だけではなく

中国にも向けられていると主張し、こうしたミサイル防衛網に強く反対してきた。

中国側の主張のレトリックを剥ぎとってみれば、これはまさにエスカレーションを招く

要因としてすでに述べた「安全保障のジレンマ」のバリエーションである。

中国が恐れているのは、アメリカがアジアに最新鋭ミサイル防衛システムを配備すれば、

中国の「報復攻撃」能力をも封じることができるようになるだろう、と言うことである。

この懸念は実際かなり筋が通っている。

そうするとなれば、中国はアメリカの先制攻撃を心配しなければならなくなるからである。

だから、中国としては、アメリカのミサイル防衛システムを数で圧倒するため、

従来よりもはるかに大量のミサイルと弾頭を製造せざるをえなくなる。

このようにして、エスカレーションと言う「安全保障のジレンマ」ダンスは進行していく。 

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