フィンテックはサービスよりコスト削減の切り札日本銀行が
「金融システムレポート」を公表した直後の2017年10月末に、
メガバンクグループのリストラ(構造改革)計画が相次いで明らかになりました。
前年2017年の2月には、長引く低金利に追い打ちをかけるように
日本銀行が日本では初めてのマイナス金利政策を導入していました。
収益見通しを一段と悪化させた銀行が、生き残りをかけて大幅な人員調整を含む
行動改革を実施せざるをえないのは、誰の目にも明らかでした。
過去の計画の中で改めて注目されたのは、経費削減の手段として、
IT、つまりフィンテックの活用が盛り込まれていたことでした。
皮肉なことに、日本では大手銀行のリストラに、フィンテックが大いに活用される見通しなのです。
顧客利便性の向上フィンテック導入の目的に掲げている銀行ですが、
人員削減とコスト削減の切り札と位置づけていると言ったほうがより本音に近いのかもしれません。
メガバンクグループのリストラ計画を順に見ていきます。
● 9500人分の業務削減—三菱UFJフィナンシャル・グループ三菱UFJフィナンシャル・
グループ (FG) 2017年11月の中間決算説明会で公表した資料で、
三菱東京UFJ銀行(当時、現三菱UFJ銀行)で9500人分の業務に相当する、
業務量の30%を 2023年度までに削減する計画を示しています。
同時に、国内516店舗のうち70から100店舗を機械化して無人店舗とする計画です。
「機械化店舗」では住宅ローンの相談なども含め、AI技術を活用して行員が行ってきた
窓口業務を自動化するといいます。
9500人分の業務削減のうち6000人分程度は、退職等自然減を通じて実施し、
残りの人員は資産運用等の相談業務に配置転換する方針のようです。
行員を配置する残りの店舗でもAIなどを活用して大胆な省力化を進めるとしています。
例えば、税金の関係など様々な書類を読み込んで振り込み手続きができる
新型のATMで窓口業務を代替し、2023年度末までに一般的な窓口業務を半減させる計画です。
三菱UFJ FGは、国内トップクラスの非対面チャネルの確立を目指すとしています。
個人取引のうちモバイルで完結する取引の比率を、2017年度上期の約78%から約95%に
引き上げるのが目標です。
アマゾンが提供する「アマゾンアレクサ」に対応したスマートスピーカーのサービスは
生体認証技術を活用する方針で、スマートスピーカーはすでに2017年11月から提供開始しています。
● 4000人分の業務量削減—三井住友フィナンシャルグループ、
三井住友フィナンシャルグループ(FG)も同年11月の投資家説明会で、
業務を効率化し2020年度までに4000人分の業務量を削減する計画を示しました。
業務量削減による余剰人員のうち半分程度は海外事業などの成長分野に振り分け、
残りは新規採用の抑制などの自然減で対応する方針を示しています。
業務効率化は、全店舗で振り込みや入金の手続きに書類を使わず、
タッチペンや電子辞書署名で済ませるペーパーレス化を進め、
全店舗ペーパーレスの次世代型店舗への転換することや、
支店の事務機能を全国10カ所のセンターに集約することなどで進めるといいます。
また、4000人分の業務削減のうち1500人分については、
RPA (ロボテックプロセスオートメーション)と呼ばれるソフトウェアを活用して
自動化する計画です。
RPAは人が処理している高度な業務を、AIロボット技術を活用して自動化する仕組みです。
例えばRPAを導入すると電話オペレーター業務を代替することができます。
投資信託の購入顧客に最新の基準価額を自動音声で伝えることもできます。
また、人の手を使わずに、支店から本店に送られてくる各種書類の数値を読み取って、
全支店分を集計した資料を作成することができます。
三井住友FGが導入の先陣を切りましたが、各行も構造改革の秘策として
活用を模索しているとみられています。
● 19,000人の人員削減—みずほフィナンシャルグループ一方、
みずほフィナンシャルグループ(FG)は2026年度末までに、
国内外の従業員約19,000人を削減すると公表しました。
行員全体の約4分の1に相当する規模です。
人員削減は、退職に伴う自然減と新規採用の抑制で対応し、
早期退職者の募集などを行わない方針といいます。
統廃合により全国約800店に及ぶ店舗を100店舗を削減する計画も公表しました。
人員削減のための業務削減は、事務処理のデジタル化等で進める計画を示しています。
2018年度中に運用開始を予定している次期システムにより、
フィンテックも導入しやすくなるといいます。
みずほFGは店頭で顧客に資産運用などを説明するロボットを
既に開発していると報じられています。
構造改革は、みずほ銀行に限らず、みずほFG傘下のグループ全体で取り組む方針を示し、
グループ内で重複する業務やシステム管理や資産運用などの統合も検討しています。
●追い詰められる地域銀行金融機関全体の収益環境が厳しさを増す中、
地域銀行が危機的とも言える状況に直面しています。
上場地銀80行グループの2018年3月期決算で、
最終利益は前期比8%減の9824億円と2年連続の減益となりました。
低金利で融資の利ざやが縮小したことや、外国債券の値下がりで損失が生じたことが
影響しています。
全体の6割にあたる48行グループが減益で、33行が2桁以上の大幅な減益となりました。
また本業の儲けを示す業務純益の合計は5%減で、全体の7割弱にあたる51行が
減益となっています。
金融庁は近年、地銀の経営環境の悪化に強い関心を持っています。
2016年に公表した金融レポートでは顧客向けサービス業務
(貸し出し、手数料ビジネス)の利益を推計し、2025年3月には約6割の地域銀行で
利益がマイナスになるとの試算結果を示しています。
2017年3月期決算では前期と比べ、貸し出し利鞘がさらに縮小し役務取引等利益も
減少するなど、顧客向けサービス業務の利益は過半数の地域銀行で赤字でした。
そのため金融庁は2017年に公表した金融レポートで、2016年のレポートでの推計を
上回るペースで収益が減少していると言う判断を明らかにしました。
レポート公表の直前に、金融庁の森信親前長官は「25年後に約7割の地銀が赤字になる」
との試算結果を示したと言われています。
海外市場にも収益源を持つ大手銀行の収益環境は、地域銀行よりは良好です。
しかし、その大手銀行が揃って国内支店の削減、業務量の削減を進める構造改革に取り組み始めました。
大手の動きの背景には、地域銀行の構造改革を促す金融庁の意向があるとの指摘も聞きます。
真偽は定かではありませんが大手銀行で始まったこの大規模な構造改革が、
地域銀行に広がっていく可能性は高いと思われます。