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【銀行デジタル革命】63規制を嫌う海外投資家が日本へ流入

第二章で触れた通り、中国政府は2017年9月に仮想通貨取引所の閉鎖と言う

強硬策を決めました。 

この動きに韓国当局が続きました。

2018年1月に法務長官が「取引所での仮想通貨取引を基本的に禁じる法案を

議会に提出する準備をしている」と発言しています。 

発言を機に、仮想通貨の価格が世界的に大幅に下落しました。

それを受け、仮想通貨投資に熱心な若年層を中心に取引所の閉鎖の防止に

反対する反発が起こり、大統領府が「最終的に決めていない」とのコメントを出すに至っています。

しかし、規制強化の動きは突然浮上したものではなく、

韓国当局はすでに2018年の年初から、仮想通貨取引に実名制を導入し、

青少年、外国人による取引を禁じていました。

日本でのビットコインの取引は2017年夏以降、活発化した要因には、

前述の通り、適切な法整備と中国での取引所閉鎖がありました。

中国からの資金流入は、金融規制の回避を狙って投資家などが活動を海外に移す、

規制アービトラージの1種だといえます。

1018年3月には、アルゼンチンで開催されたG20で仮想通貨が初めて議論され、

投機による急激な価格変動や、脱税、マネーロンダリングなどに利用される可能性など、

仮想通貨の負の側面が指摘されました。

具体策はありませんでしたが、国際的な規制強化のきっかけになる可能性はあります。

世界的に仮想通貨取引に対する規制が強化される中、

日本の規制が現行のまま維持されれば、相対的日本の規制は緩やかであることになり、

それが規制逃れの投資家を海外から日本に呼び込む誘因となる可能性があります。

海外の投資家が日本の仮想通貨市場に殺到することになれば、

日本は諸外国政府から批判を受け、規制の見直しを余儀なくされるかもしれません。

韓国の仮想通貨関連の報道を受け、

麻生太郎財務相は「何でもかんでも規制すればいいとは思わない」と発言したと報道されています。

現時点で、日本政府は海外での規制強化の動きを静観していますが、

今後、規制アービトラージが大きな問題と発展して行く可能性は否めません。

──────────規制アービトラージ

規制のアービトラージとはある管轄権の規制が厳しい場合、

グローバルな金融機関はより対 応が容易な他の管轄権に移動することで

規制を回避することが可能なことを言う。

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【銀行デジタル革命】62イノベーション促進か規制強化か

コインチェック事件より仮想通貨投資の負の側面が露呈したことを受け、

金融庁は規制強化へと舵を切りました。 

民間でもカード会社やクレジットカードを利用した仮想通貨の購入を停止したり、

仮想通貨交換業者の買収が進んだりするなどの動きが出てきています。

金融庁は2018年1月にコインチェックに行政処分を下した後、

3月には、立ち入り検査の結果に基づいて仮想通貨交換業者社に行政処分を課しました。 

みなし業者2社に1ヶ月の業務停止命令、登録業者2社とみなし業者3社に業務改善命令を出しています。

4月にはさらに6社を行政処分しました。

また、3月に仮想通貨交換業者に関する研究会も設置しています。 

レバレッジ取引(借り入れを活用して収益を拡大する取引)や後述するIC Oが

今後の主な議題になるとみられ、将来的には仮想通貨を商品取引法の対象とする可能性もあります。

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【銀行デジタル革命】61登録申請中の「みなし業者」制度に問題

なぜ、コインチェック事件のようなことが起こったのでしょうか。

多くの仮想通貨取引所では不正アクセスを防ぐために、

外部からのアクセスを遮断したコンピューターでデータを保管するなどの安全策をとっています。

しかし、コインチェックは仮想通貨NEMについてその対応をとっておらず、

不十分なセキュリティー体制が不正流出を許したとみられています。

タレントを利用したテレビコマーシャルに多額の資金を投入し

利用者の獲得を図る一方で、セキュリティー対応を先送りしたとの指摘もあります。

金融庁が仮想通貨取引所の新規登録を認める際には「利用者保護措置」

「利用者が預託した金銭仮想通貨の分別管理」に加え「システムリスク管理」が審査されます。

システムのリスク管理が不十分であれば登録は認められません。 

厳しい審査が取引所の安全性を担保するはずでした。

ところがコインチェックは未登録業者でした。

登録制度には抜け道があったのです。 

登録制度を導入したにもかかわらず、未登録のコインチェックが取引所の運営を

続けていたことについて、金融庁は次のように説明しています。

「資金決済に関する法律の1部改正に伴う経過措置により、平成29年4月1日より前に、

現に仮想通貨交換業を行っていたものは、平成29年4月1日から起算して

6月間に登録の申請をした場合は、その期間を経過した後も、その申請について

登録または登録の拒否の処分があるまでの間、当該仮想通貨交換業を行うことができる」

つまり、「経過措置」を受け、登録申請中のいわゆる「みなし業者」の扱いで

取引所の運営を続けていたわけです。

金融庁の資料では、登録の申請から合否の判断までの期間はおおむね1ヵ月から

2ヶ月とされています。

コインチェックは2017年9月に登録申請していましたが、

申請から4ヶ月が経過した事件発生時点でも登録が認められていませんでした。

その理由は明確ではありません。

金融庁がコインチェックの登録を認めていなかったのは、

審査で指摘された不備が改善されていなかったからに違いなく、

ずさんなシステム管理を事前に把握していた可能性もあるでしょう。

それでも認可の決定をしなかったのは、業界最大手のコインチェックの取引所の閉鎖が

及ぼす社会的影響に配慮した面があったと推察されます。 

今回の事件は未登録業者で起こった事件であるうえ、仮想通貨取引所の利用者に、

登録事業者であるかどうかを確認するように呼びかけていたため、

金融庁が世間から強いや批判を受ける事は無いかもしれません。

しかし、経過措置として未登録の仮想通貨取引所の業務が認められているために、

コインチェックは取引所の運営を続けることができ、

そこで事件が発生したと言う形を踏まえると、みなし業者と言う制度の是非、

未登録業者への監視や取引所全体に対する規制のあり方は再検討すべきです。

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【銀行デジタル革命】60第6章仮想通貨投資の行方投資ブームの功罪、露呈した負の側面—コインチェック事件

ビットコインなどの仮想通貨が投資ブームを巻き起こし、

日本でその取引量が急速に拡大しています。 

第二章で概観した通りです。

そのブームに水を差すような事件が起こりました。

コインチェック事件です。

2018年1月26日未明、仮想通貨取引所大手のコインチェックが

顧客から預かっていた仮想通貨NEM(ネム)ほぼ全て約580億円分が、

不正アクセスにより外部に流出しました。

前述の通り、日本では2014年にもマウントゴックス社でビットコイン約470億円分が

消失する事件が発生していますが、コインチェックの流出額はそれを上回り、

過去最大規模の流出事件になりました。

海外でも仮想通貨の流出消失事件は繰り返されています(図表6-1)。

日本は2017年4月に資金決済法を改正し、世界に先駆けて登録制などの

規制を導入したことで、仮想通貨取引の信頼性を高めてきたはずでした。 

しかし、コインチェック事件で、日本の仮想通貨取引所に対する信頼が

再び問われる事態となってしまいました。

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【銀行デジタル革命】59コラム03キャッシュレス化を睨みATMを共通化

三菱UFJ銀行と三井住友銀行がATM (現金自動預払い機)を共通化することを検討し始めました。

メガバンク3行のうち、2018年6月から1年ほどかけて口座管理などを担う

勘定系システムを次期システムに移行するみずほFGは、当初こそ加わりませんが、

作業終了後はこのATM共通化の協議に参加するとみられています。

メガバンク3行のATM設置台数は、三菱UFJ銀行が約8300台、

三井住友銀行が約6000台、みずほ銀行が約5600台、合計で約20,000台にものぼります。 

この先キャッシュレス化が進んでいけば、ATMの利用は減っていきます。

その中で、各行が自前のATMを維持していく事は、さらに大きな負担となります。

ATMの運営コストは、警備員や現金の輸送費等で、1台あたり月額数十万円とされます。

今までの自前主義を捨てて、相手行のATMを自行のATMのように

顧客が無料で使えるようにする一方、ATMの設置台数を減らしていけば、

顧客の利便性を損なわずにコストを削減することができます。 

一方でATMの運営費を賄うために、無料を止めて、新たに顧客の手数料の支払いを求める銀行も出てきました。

新生銀行はこれまで無料だったATM手数料の1部を2018年10月から有料化する計画です。

またあおぞら銀行も2018年8月から独自のATMを順次廃止して、

郵貯銀行のATMに置き換えていく予定です。

三菱UFJ銀行と三井住友銀行は、2018年夏ごろをめどに、

ATM共通化に向けた課題を整理して、ATMの使用や手数料の分配の仕方等の詳細を詰める予定です。

できるだけ早い時期に、東京都内の1部地域で共通化の実証実験を行って、

顧客の反応を見極めたいとしています。

さらに両行は、ATMを他校の顧客に無料開放することにとどまらず、

将来的にはATM自体を共通とすることも視野に入れています。

これが実現すれば、ATMの開発や維持にかかるコストをさらに大幅に圧縮できます。

しかしこれにはまだ障害もあるのです。 

メガ三行で異なる通帳の仕様をどのように共通するか、

またメガ三行のATMの調達先メーカーはそれぞれ異なっているため、

これをどのように調整していくかが大きな課題です。

このような課題を抱えつつも、マイナス金利下での収益悪化やキャッシュレス化など、

大きな環境変化を踏まえて、ATM無料や自前主義から脱却しようとする動きは、

既に銀行業界での大きな潮流になりつつあります。

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【銀行デジタル革命】58構造改革を迫られる銀行

フィンテックはサービスよりコスト削減の切り札日本銀行が

「金融システムレポート」を公表した直後の2017年10月末に、

メガバンクグループのリストラ(構造改革)計画が相次いで明らかになりました。 

前年2017年の2月には、長引く低金利に追い打ちをかけるように

日本銀行が日本では初めてのマイナス金利政策を導入していました。

収益見通しを一段と悪化させた銀行が、生き残りをかけて大幅な人員調整を含む

行動改革を実施せざるをえないのは、誰の目にも明らかでした。 

過去の計画の中で改めて注目されたのは、経費削減の手段として、

IT、つまりフィンテックの活用が盛り込まれていたことでした。

皮肉なことに、日本では大手銀行のリストラに、フィンテックが大いに活用される見通しなのです。 

顧客利便性の向上フィンテック導入の目的に掲げている銀行ですが、

人員削減とコスト削減の切り札と位置づけていると言ったほうがより本音に近いのかもしれません。 

メガバンクグループのリストラ計画を順に見ていきます。 

● 9500人分の業務削減—三菱UFJフィナンシャル・グループ三菱UFJフィナンシャル・

グループ (FG) 2017年11月の中間決算説明会で公表した資料で、

三菱東京UFJ銀行(当時、現三菱UFJ銀行)で9500人分の業務に相当する、

業務量の30%を 2023年度までに削減する計画を示しています。

同時に、国内516店舗のうち70から100店舗を機械化して無人店舗とする計画です。

「機械化店舗」では住宅ローンの相談なども含め、AI技術を活用して行員が行ってきた

窓口業務を自動化するといいます。 

9500人分の業務削減のうち6000人分程度は、退職等自然減を通じて実施し、

残りの人員は資産運用等の相談業務に配置転換する方針のようです。

行員を配置する残りの店舗でもAIなどを活用して大胆な省力化を進めるとしています。

例えば、税金の関係など様々な書類を読み込んで振り込み手続きができる

新型のATMで窓口業務を代替し、2023年度末までに一般的な窓口業務を半減させる計画です。

三菱UFJ FGは、国内トップクラスの非対面チャネルの確立を目指すとしています。 

個人取引のうちモバイルで完結する取引の比率を、2017年度上期の約78%から約95%に

引き上げるのが目標です。

アマゾンが提供する「アマゾンアレクサ」に対応したスマートスピーカーのサービスは

生体認証技術を活用する方針で、スマートスピーカーはすでに2017年11月から提供開始しています。 

● 4000人分の業務量削減—三井住友フィナンシャルグループ、

三井住友フィナンシャルグループ(FG)も同年11月の投資家説明会で、

業務を効率化し2020年度までに4000人分の業務量を削減する計画を示しました。

業務量削減による余剰人員のうち半分程度は海外事業などの成長分野に振り分け、

残りは新規採用の抑制などの自然減で対応する方針を示しています。

業務効率化は、全店舗で振り込みや入金の手続きに書類を使わず、

タッチペンや電子辞書署名で済ませるペーパーレス化を進め、

全店舗ペーパーレスの次世代型店舗への転換することや、

支店の事務機能を全国10カ所のセンターに集約することなどで進めるといいます。

また、4000人分の業務削減のうち1500人分については、

RPA (ロボテックプロセスオートメーション)と呼ばれるソフトウェアを活用して

自動化する計画です。

RPAは人が処理している高度な業務を、AIロボット技術を活用して自動化する仕組みです。

例えばRPAを導入すると電話オペレーター業務を代替することができます。

投資信託の購入顧客に最新の基準価額を自動音声で伝えることもできます。

また、人の手を使わずに、支店から本店に送られてくる各種書類の数値を読み取って、

全支店分を集計した資料を作成することができます。 

三井住友FGが導入の先陣を切りましたが、各行も構造改革の秘策として

活用を模索しているとみられています。

● 19,000人の人員削減—みずほフィナンシャルグループ一方、

みずほフィナンシャルグループ(FG)は2026年度末までに、

国内外の従業員約19,000人を削減すると公表しました。

行員全体の約4分の1に相当する規模です。

人員削減は、退職に伴う自然減と新規採用の抑制で対応し、

早期退職者の募集などを行わない方針といいます。

統廃合により全国約800店に及ぶ店舗を100店舗を削減する計画も公表しました。 

人員削減のための業務削減は、事務処理のデジタル化等で進める計画を示しています。

2018年度中に運用開始を予定している次期システムにより、

フィンテックも導入しやすくなるといいます。

みずほFGは店頭で顧客に資産運用などを説明するロボットを

既に開発していると報じられています。

構造改革は、みずほ銀行に限らず、みずほFG傘下のグループ全体で取り組む方針を示し、

グループ内で重複する業務やシステム管理や資産運用などの統合も検討しています。

●追い詰められる地域銀行金融機関全体の収益環境が厳しさを増す中、

地域銀行が危機的とも言える状況に直面しています。

上場地銀80行グループの2018年3月期決算で、

最終利益は前期比8%減の9824億円と2年連続の減益となりました。

低金利で融資の利ざやが縮小したことや、外国債券の値下がりで損失が生じたことが

影響しています。

全体の6割にあたる48行グループが減益で、33行が2桁以上の大幅な減益となりました。

また本業の儲けを示す業務純益の合計は5%減で、全体の7割弱にあたる51行が

減益となっています。

金融庁は近年、地銀の経営環境の悪化に強い関心を持っています。

2016年に公表した金融レポートでは顧客向けサービス業務

(貸し出し、手数料ビジネス)の利益を推計し、2025年3月には約6割の地域銀行で

利益がマイナスになるとの試算結果を示しています。

2017年3月期決算では前期と比べ、貸し出し利鞘がさらに縮小し役務取引等利益も

減少するなど、顧客向けサービス業務の利益は過半数の地域銀行で赤字でした。

そのため金融庁は2017年に公表した金融レポートで、2016年のレポートでの推計を

上回るペースで収益が減少していると言う判断を明らかにしました。

レポート公表の直前に、金融庁の森信親前長官は「25年後に約7割の地銀が赤字になる」

との試算結果を示したと言われています。 

海外市場にも収益源を持つ大手銀行の収益環境は、地域銀行よりは良好です。

しかし、その大手銀行が揃って国内支店の削減、業務量の削減を進める構造改革に取り組み始めました。

大手の動きの背景には、地域銀行の構造改革を促す金融庁の意向があるとの指摘も聞きます。

真偽は定かではありませんが大手銀行で始まったこの大規模な構造改革が、

地域銀行に広がっていく可能性は高いと思われます。

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【銀行デジタル革命】57日銀が指摘する高コスト体質

日本銀行は2017年10月に公表した半期に1度の「金融システムレポート」で、

日本の銀行の低い収益性を俎上に載せ、そのビジネスモデルに根ざした問題点を指摘しています。

日銀としてはかなり踏み込んだ興味深い内容ですから、その指摘を紹介しながら、

問題点を検討してみましょう。

 ①多すぎる従業員数と店舗数「金融システムレポート」はまず、

1つの金融機関あたりの従業員数が欧米と比較して多い傾向と、

従業員一人当たりの利益が小さい傾向してきています。

その傾向が特に強いのは、比較的規模が小さい地域金融機関です。

また、店舗数の過剰についても触れています。 

人口10万人あたりの金融機関の店舗数は、深刻なオーバーバンキング状態とされる

ドイツで47ですが、日本は郵便局も含めた2015年末の数字で

44とドイツに近く、店舗数の過剰が収益性を損ねているとしてきています。

 ②無料のサービスが多くないか銀行の低い収益性には、

低金利環境の長期化による金利収入の減少に加え、

それ以外の手数料等の収入が少ないことも影響してとも指摘しています。 

金利以外の収入でも、大手銀行を除けば、日本の銀行の収益性は欧米に遅れをとっています。

レポートは日本の金融機関に相応にコストがかかる金融サービスを無償で

提供している例が少なくないことを問題視しています。

例えば欧米では、以前から銀行口座の残高が一定水準を下回ると

手数料が課される口座管理手数料と言う制度が一般的ですが、

日本ではまだそれは導入が検討されていると言う段階です。

また預金通帳には印紙税が課せられますが、それも銀行が負担し、

預金者は無料で預金通帳を受け取っています。

レポートは、いわば社会慣習、社会通念に埋め込んだ問題にまで言及しているのです。

銀行が小口顧客の口座管理手数料を無償とせざるを得ない背景には、

戦前から郵便局も含めて激しい預金獲得競争をしてきたことがあり、

それが口座管理手数料を無償にする慣例やビジネスモデルを

日本に定着させてしまった、と言う興味深い指摘もあります。

この分析を踏まえで、中曽宏、日銀前副総裁が2017年11月の公演で

「適正な対価を求めずに銀行が預金口座を維持し続けるのは困難になってきている」と

指摘し、口座維持手数料を新たに預金者に求めることも検討対象との趣旨を述べ、

「適正な対価について国民的議論が必要だ」と問題提起しています。

③店舗が過密で儲からない「レポートは銀行の出店戦略も分析の対象としています 

日本の銀行は、企業の数が多い都市圏に店舗を集中させる傾向があります。

これについて、個々の銀行にとっては合理的な判断であっても、

多くの銀行が同じ戦略をとれば、銀行間での競争が高まり収益が低下すると言う「

合成の誤謬」が発生するとしてきています。

さらに、もう少し踏み込んで、地域銀行と、信用金庫を対象に、

店舗密度が高い地域に出店し激しい競争にさらされている金融機関は、

市場支配力(貸し出しなど金融仲介における価格決定力)が低下していると言う

検証結果も公表しました。

競争が激しい所では、金融機関は取引先に対して、

金利などの貸し出し条件は甘くせざるをえなくなっているということでしょう。

メガバンクと地域金融機関の収益構造には違いもありますが、

両者とも海外の同業者と比べて収益性やビジネスモデルの転換の遅れが目立ち、

そのことが今日、非常に大きな問題となっているのです。

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【銀行デジタル革命】56大銀行ほど変われない

製造業が消費者ニーズや輸出採算、技術革新などに応じて柔軟にビジネスモデルを

変えていくのに対して、銀行の動きは極めて緩慢だと言わざるを得ません。

理由の1つには、「護送船団方式」と言われた、かつての金融行政もあるでしょう。

金融当局は、船団の中で最も遅い船にスピード合わせて進むかのように、

最も収益体質が弱い銀行も生き残っていけるようなやり方で銀行業界を統制し、

過度な競争が生じないようにしてきました。

それは弱い銀行が破綻して社会不安を引き起こすような事態を避けたいと言う

考えからの事でした。 

そうした経営環境の下では、規制を破ってでも新たなサービスを始めるとか、

利便性を高めて顧客を増やすといった発想はなかなか生まれません。 

他の産業とは異なる規制が「銀行は特別な存在である」と言う意識と

プライドが生んでしまい、新しいことに挑戦しずらくなったと言う面もあったでしょう。

ビジネスモデルの転換を阻んだ要因としてはほかにも過去の巨額な投資や

大量の大量の従業員など負の遺産とも呼べるインフラを抱えていたことや、

バブル崩壊の経験からリスクテイクに過度に慎重になってしまったことも

あったと思われます。

フィンテック企業の台頭は、銀行に利用者の利便性向上の重要性を改めて認識させました。

しかし、その後の銀行業界を見ると、従来型の銀行ほど変わりなかったと言えそうです。

フィンテック企業の動きも睨んで新サービスにまず積極的に乗り出したのは、

失うものが少ない新興の銀行や、経営破綻した銀行を母体とした旧経営破綻銀行が中心でした。

例えば、ソニー銀行などのネット系銀行は、多数の有人店舗を抱える

伝統的な銀行と比べ、低コストで運営できる強みを生かして預金金利を高めに設定しています。 

ATMやネットバンキング等が普及し、非対面の営業チャネルが伸びる中で、

旧経営破綻銀行であるりそな銀行は、あえて対面営業に活路を求めました。 

りそな銀行では全店の窓口営業を平日午後5時まで延長したり、

年末年始とゴールデンウィークを除き、毎日午後7時まで営業する

「7ディスプラザ」を5箇所に設置したりして成功しています。 

また、2015年4月からは、りそな銀行、埼玉りそな銀行、近畿大阪銀行の三行間で、

土日祝日を含む24時間いつでも振り込みができるサービスを開始しています。 

三菱UFJ銀行と三井住友銀行も最近、自行本店宛の振り込みサービス時間を

いつでも当日決済する形へと拡大し、他行宛でも検討中とされています。 

とは言え、りそな銀行等の動きを横目にようやく実施したと言う感が否めません。

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【銀行デジタル革命】55第5章大リストラ時代を迎えた銀行、「銀行は特別」と言う思い込み貸出の低迷と金利低下が直撃

日本の銀行は個人から預金を集め、資金不足の企業に貸し付けると言う資金を

仲介する役割を長く担ってきました。

その役割には、重要産業に優先的に資金を貸し出すといった形で

戦後の産業政策の一翼を担うなど、政府の影響を強く受けた時期もありました。

しかし、1990年代前半のバブル経済崩壊の後、銀行の置かれた状況は一変しました。

バブル景気の反動で生じた需要減で機能は過剰設備の問題に直面し、

投資が大幅に落ち込みました。

銀行から見れば、最大の収益源であった企業向け貸し出しが大きく低迷したのです。

それと同時に、バブル経済の中で不動産等に対して行った過剰融資額について

不良債権となり、その損失計上したために、収益が大きく悪化しました。 

その結果、銀行は優良企業向けに貸し出しを抑える貸し渋り傾向を強め、

これが景気の低迷を助長しました。

過剰設備問題や不良債権処理といったバブルの敗戦処理は、

2000年代に入って徐々にメドがついてきました。 

しかし、銀行が健全性を取り戻してからも、景気情勢が大きく好転する事はありませんでした。

そうした中、緩やかながらも

物価が低下を続ける状態つまりデフレ状態からの脱却こそが

日本経済の再生には欠かせないとの見方が世間に広がり、

そうした下で、著しい低金利を常態化させる金融政策もとられてきました。 

一方、少子高齢化が進み、年金、医療などの社会保障費が膨らみ続ける中で、

国債の大量発行が続きました。

預金は集まり続けるが貸出先がないと言う状況にあった銀行は、

余った預金を運用するために国債を大量に購入しましたが、

低金利の下ではそうした運用益も低水準にとどまりました。

2013年4月からは黒田東彦総裁が率いる日本銀行が「異次元の金融緩和」と名付けて

国債の大量買い入れを始めました。

銀行は保有する国債を日銀に売却し、受け取った代金を日銀当座預金として保有しています。 

日本銀行は、銀行から低金利で安全資産の国債を買い取ることを通じて、

銀行がより高金利のリスク資産を保有するよう促すことを目指しました。

ここで言うリスク資産とは、貸し出しや株式、社債等です。

そうした効果をポートフォリオリバランス効果と言いますが、

実際には銀行が保有する低金利で安全資産の国債が、

同じく低金利で安全資産の日銀当座預金に変わっただけでした。

日本銀行が期待した銀行のポートフォリオリバランス効果は、

実際には生じなかったのです。

このことはまた、銀行の収益性も改善しなかったことを意味します。

貸し出しは相変わらず低迷している上、2016年2月のマイナス金利の導入

(日銀当座預金の1部に適用)に伴って貸出金利や国債の運用率も下がり、

銀行の収益はますます厳しくなっています。

結局、バブル崩壊から30年近く経過しても、銀行の収益構造は変わっていません。

銀行は、経済の変化に対して収益を維持拡大するビジネスモデルを

打ち立てることができなかったのです。

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【銀行デジタル革命】54、15兆円との試算も

ボストンコンサルティングの日本の現金コースの試算法と、

タフツ大学の米国のそれの試算を比較すると、後者の方がATMから現金を引き出すのに

必要な時間など目に見えないコストや脱税による政府の税収減なども考慮に入れ、

幅広く試算しています。

タフツ大学のコスト試算の手法で日本の現金コストを計算すると、

ボストンコンサルティングが試算した2兆円を大きく上回る金額となります。

タフツ大学が試算した現金コストは2013年の名目GDP比1.2%でした。 

これを単純に日本に置き換えると、同じ当時の日本の名目GDPは約500兆円ですから、

約6兆円となります。 

さらに、名目GDPに占める現金発行額の比率が、米国の2.52倍であることを踏まえ、

現金コストも同じように2.52倍だとして計算すると、

日本の現金コストは年間15兆円にのぼることになります。

もちろん治安状態が違いますから、盗難被害や地下経済の規模は日本の方が

はるかに小さいことを考慮すると、年間15兆円の資産が課題でしょう。

ですが、例えば、日本の盗難被害や地下経済の跋扈による損失を大雑把に

米国の1割と見積もって計算し直してみても、

年間5兆円上が現金を利用するコストとして失われていることになります。

現金の流通にかかるコストは、さらに広い概念で捉えることもできます。

第8条に詳述しますが、多くの国で高額紙幣が犯罪に使われています。 

現金の利用とキャッシュレス経済の普及の遅れが犯罪を誘発し

治安を悪化させているとすれば、それは社会にとって大きなコストです。 

衛生の問題もあります。

紙幣や硬貨を介して感染症が広まる可能性や、テロリストがそれを利用する

危険性もないとは言えません。 

それらも広い意味では現金を利用するコストです。 

二次的なコストや機会損失を含めて現金の流通にかかるコストを

広い概念で捉えるとそれは年間5兆円よりさらに大きな額となると

考えることもできるのです。 

一方、キャッシュレス決済が普及すれば、現金利用の直接的なコストだけではなく、

広い概念でとらえた社会全体のコストを低く抑え、経済効率を.高めることができます。

その潜在力は、相当大きさとなるはずです。

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