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【銀行デジタル革命】36アリペイ上陸を拒否した日本—ビックデータをめぐる攻防

アリペイは日本人向けの決済サービスを2018年春に開始することを目指していましたが、

ビックデータのアリペイあるいは中国への流出を懸念する邦銀の協力を得られず、

3年で1000万人の利用者獲得を目指した日本進出計画は暗礁に乗り上げました。

アリペイは日本の銀行を指定銀行とする計画でしたが、

提携を持ちかけられた複数の銀行は、今のところいずれも応じていません。

アリペイはアメリカの進出も目指し、米国の決済サービス会社

money gram internationalの買収に動きましたが、米国当局は買収を認めませんでした。

消費者の購入履歴など、情報として価値の高いビックデータの管理のあり方は、

日本の官民の頭を悩ませている問題です。

モノの販売から得られる情報には顧客や商品ごとの売り上げの金額だけではなく、

来店客数、回数、時刻に加え、広告や値引きといった販促活動への反応など、

膨大なデータが含まれます。

それらを分析すれば顧客行動を可視化し予測することができるようになるため、

商品やサービスの開発や顧客対応など、様々な場面で利用できます。 

ある客がよく購入する商品がわかれば関連商品を進めることができるし、

就職や結婚などのライフイベントを把握できれば生命保険やマンションなどを

紹介することもできます。

ビックデータは宝の山なのです。

第一章で指摘した、銀行が「土管化」を懸念するも同じ理由からです。 

日本のメガバンクがデジタル通貨の発行を急ぐ背景には、

アリペイなどの外資の決済サービスの上陸を想定した、

ビックデータの国内確保の狙いもあると思います。 

アリペイのような外資のブラットフォーマーに上陸されては、銀行の「土管化」ではすみません。

ビックデータの活用は日本経済の競争力を左右する国家レベルの課題だと考えられているからです。 

デジタル通貨構想を持つ銀行が何も動きがないわけではありません。

2017年9月17日の「日経新聞電子版」はJコインの管理会社は利用者の買い物や

送金の履歴を蓄積し匿名データに加工した上で、他の銀行や企業と共有して、

商品開発や価格戦略に生かす考えであることを報じました。

アリペイの日本上陸が遠くないと推測される状況下、外国企業が決済に関わる

ビックデータを蓄積することを警戒してのことだと、当該記事は指摘しています。

ビックデータの海外流出を強く警戒する日本政府がこの構想に関与している可能性も

否定できないでしょう。

 一方、中国共産党中央委員会の機関紙「人民日報」を発行する人民網日本語版は、

2017年10月26日付で、Jコインの創設の目的はアリペイの対抗にあると報じました。 

「経済」日本のJコインはアリペイの対抗策?モバイル決済のデータ争い激化」の

見出しを冠した記事は、前記の日経電子版が報じた内容を報告し、

それが日本政府の経済政策決定に重要な役割を果たすと指摘しました。

日本の銀行がアリペイの日本進出計画に協力しないのは、

背後にそれを強く警戒する政府の意向もあるからだと、著者が推測しています。

 今後、利用者のさらなる拡大が予想される第三者決済サービスをめぐる攻防は、

企業間や国家間のビックデータ加工をめぐる攻防でもあるのす。

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【銀行デジタル革命】35戸惑う各国中央銀行

アリペイなど中国の第三者オンラインプラットフォームの海外進出が加速する中、

金融機関ではない企業が提供する決済サービスに対し、

どのように介入していくべきか、各国の中央銀行は頭を悩ませています。

アリペイなどの決済サービスは現金決済の代替と考えられますが、

銀行預金制度に依存しており、銀行預金を蝕むこともなく、

銀行の金融中枢機能を損なうリスクも小さい中立的な仕組みだと考えられます。

また、銀行のように短期の預金で調達した資金で長期の貸付を行う期間変換機能を

持たないため、破綻リスクは小さく預金者保護の必要もありません。

しかし、問題がないわけではありません。

第三者オンラインプラットフォームを通じて資金の動きは、

中央銀行の決済システムを経由しないため、マネーロンダリングに悪用される危険性があります。

すでに小口決済に大きな影響与えている第三者決済サービスに対し

決済の安定性確保と言う視点から各国中央銀行ではその対応策がよく議論されています。

英国の中央銀行イングランド銀行は2017年、金融機関では無い決済サービス業者に対して、

中央銀行口座を開設することと中央銀行決済システムに直接参加することを認める考えを示しました。

決済サービス業者を既存の中央銀行の決済の中に取り込むことで、

監視を強化し決済の安定性を確保することを願ってのことです。

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【銀行デジタル革命】34規制に乗り出した中国当局

アリペイなどの第三者オンライン、プラットフォームの台頭は、

中国の銀行に深刻な打撃を与えています。

銀行口座を利用した決済の機会を奪われるからです。 

「ウォールストリートジャーナル」紙が報じたアーンストアンドヤング社と

シンガポールのDBS銀行の推計によると、中国の国営銀行は、

第三者オンラインプラットフォームの台頭によって、

2015年に230億ドルの手数料を失ったといいます。

第三者オンラインプラットフォームが支えるインターネット金融の拡大を、

中国当局は一定期間放任していました。

一般に、民間レベルでの新しい取り組みに対しては、まずは静観して

犯罪などで問題が深刻化してから規制に乗り出すと言うのが常套手段のようです。

中国当局はインターネット金融で詐欺などの問題が深刻化したことを受けて、

2015年7月を機に、本格的な規制に乗り出しました。 

インターネット決済の分野では、詐欺やマネーロンダリングの問題が生じたことを受け、

2015年12月に中央銀行の中国人民銀行は

「非銀行支払い機関インターネット支払い業務管理弁法」を公布し、

利用者の登録時実名制度を設け、本人確認方法による異なる支払い上限額を

設定しました。 

2018年2018年4月からは、印刷されたQRコードを、消費者がスキャンして支払う際の

一人当たりの決済上限額を500元(約8300円)に制限しています。

店頭に貼ってあるQRコードを別のものにすり替え、

こっそり送金させる詐欺が横行したためです。

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【銀行デジタル革命】33余剰資金で資産運用サービス

アリペイが提供するサービスは決済だけではありません。 

例えば、当座貸し越しのサービスも行っています。

利用者は38日間を上限にアリペイ口座にチャージしている残高以上の金額を

無利子で使うことができます。

つまり、アリペイは短期の信用機能も持っているわけです。

アリババは2013年6月から、アリペイ口座にチャージした有休資産を

オンラインでオンライン理財商品「ユエバオ(余額宝)」

(MMF= マネー マーケットファンド)運用するサービスも開始しています。

利用者がアリペイ口座から「ユエバオ」の口座に資金を移転すると、

アリババから委託を受けた基金管理会社が比較的リスクの低いインターバンクの

短期金融市場で運用し、その収益を利用者に還元する仕組みです。

「ユエバオ」の口座に資金を移転しても、資金の制限はなく、

オンライン決済の支払いに使うこともできます。

銀行の1年物定期預金よりも運用利回りが1から3%も高い「ユエバオ」は

利用者に支持され、2017年1月時点で利用者が3億人、

残高は8000億元(約13兆円)を超えたと言われています。

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【銀行デジタル革命】32スマートフォン決済の広がり

中国でのスマートフォンの急速な普及は、アリペイ利用者拡大の追い風となりました。

小売店や飲食店などでスマートフォンを使って支払いができるからです。

電子商取引大手のテンセントが運営するウィーチャットペイの参入も、

第三者オンライン、プラットフォームの市場拡大に拍車をかけていきました。

スマートフォンを使ってアリペイで支払いをするのは簡単です。

QRコードをスマートフォンの画面に表示してレジ端末のスキャナで読み取るか、

あるいは商品に印刷されたり端末の画面に表示されて表示されたりしている

バーコードやQRコードをスマートフォンのカメラで読み取るかのどちらかで決済します。

QRコードやバーコードを使った決済方式は、米国jpモルガンチェイスの

Chase pay(チェイスペイ)、日本のラインペイなどでも採用されています。

中国で第三者プラットフォーム決済が爆発的に普及した大きな理由の1つは、

前述の通り、クレジットカードが普及していなかったからです。

中国政府がビザやマスターカードなど海外の大手カード会社の活動を制限し、

またクレジットカードの信頼性が低かったことなどが原因です。 

その他、銀行の支店やATMの台数が少ないなど、

銀行のサービスが充実していないことも遠因となったと思われます。

スマートフォン決済は、店舗での支払いに限らず、公共料金の支払いから、

知人間での割り勘精算、果ては祝儀やお年玉にまで幅広く利用されています。

アリペイの利用料は店舗側から受け取る売り上げの0.6%程度の手数料だけです。

消費者側には、アリペイが買い物履歴をビックデータとして活用する対価として、

ほとんどの決済サービスが無償で提供される仕組みです。

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【銀行デジタル革命】31アリペイの快進撃

アリペイの利用者は5億人を超え、中国では第三者決済は現金をしのぐ決済手段として

定着しています。

利用するにはアリペイが指定する銀行にアリペイ口座を開設する必要があります。

そのため、利用者は中国のほか香港、韓国、インド、タイなど6カ国地域の国民に

限られていますが、観光客のインバウンドを取り込むために

アリペイ決済を導入する店舗、サービス範囲は36カ国地域に足しています。

日本でも百貨店家電量販店、コンビニエンスストアなど4万店以上でアリペイが使えます。

 一方、ウィーチャットペイのサービス範囲も25カ国地域に広がっています。

 アリペイの決済の仕組みはこうです。

 アリペイを利用するには、まず、アリペイのウェブサイトでアカウントを取得して、

アリペイが指定する銀行にアリペイ専用の口座を開設します。

利用者は指定銀行に預金口座とアリペイ口座の2つを開設することになります。

アリペイ専用口座は、取引の安全性を確保するために第三者に委託する、

いわゆるエスクローサービスのための口座です。

これで利用の準備が整いました。

利用開始するには、ユーザーは銀行預金口座からアリペイ口座に資金をチャージしておきます。

商品の売買契約が成立すると、アマゾン は買い手のアリペイ口座から

代金分をロックします。

そして、買い手が商品を受け取ったことを確認した後に、ロックしていた代金を

売り上げの口座に送金し取引が完了します。

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【銀行デジタル革命】30中国で急成長するスマートフォン決済第三者オンラインプラットフォーム

中国でフィンテックと言えば、近年高成長を務めているインターネット決済や

インターネットネット貸借など、いわゆるインターネット金融を指すことが多いようです。

中国でのインターネット金融の発展は、オンラインショッピングの拡大と

平仄を合わせてきたところが大きな特徴です。

そのオンラインショッピング拡大には、消費者と販売事業者の間に入って、

中国の消費者がスマートフォンを使って簡単に買い物ができる仕組みを開発した

銀行以外の決済業者、いわゆる第三者オンラインプラットフォームは

大きな役割を果たしています。

2015年末のデータでは、中国でのインターネット利用者比率は人口の約50%で、

うちスマートフォンを使っての利用者は約90%に達するといいます。

驚くべきは2015年のオンラインショッピングによるインターネット消費額です。

年間約61兆円に上り、中国の消費総額に占める比率は2007年の1%弱から約13%にまで

急成長を遂げたと言われています第三者オンラインプラットフォームの代表格は、

日本でも有名なアリペイ (支付宝)とウィーチャットペイ (微信支付)大手2社です。

オンライン決済の領有の占有率はアリペイが54% ウィーチャットペイが40%だといい、

両社でオンライン決済の9割を超えています。

電子商取引大手のアリババグループが運営するアリペイは、

同社のインターネット販売では、商品の未着、購入者の未払い等ネット販売に絡む

トラブルが後をたたなかったことや、クレジットカードの普及が

遅れていたことが要因となり、インターネットショッピングの拡大が滞っていました。

そこに登場したのがアリペイで、ネット販売の安全性、信頼性を高め、

タオバオの成長を支えていきました。

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【銀行デジタル革命】29ITリテラシーの低さも障害に

近未来に各銀行の独自デジタル通貨が標準化されたり統合されたりすれば、

その利用が相互に広がっていくことが期待できます。

しかし残念なことに、銀行デジタル通貨を利用したスマートフォン決済が

店頭での支払い等の現金決済の多くと代替され、資金決済全体を支配するような

地位を築く事は、当分の間は起こりそうにありません。

他の仮想通貨や後述する第三者オンラインプラットフォームを介したモバイル決済も同じです。

それには、3つの壁があるからです。

第一の壁は、スマートフォン自体の普及が充分でないこと、持っていてもITリテラシー

(理解度)が低い人が多いこと、安全性や個人情報に対する不安が大きいことです。

 スマートフォンの普及は中若年層までに留まり、高齢層には広がっていません。

 また、日本人のITリテラシーは相乗想像以上に低く、

スマートフォンを持っていても十分にその機能を使いこなすことができない人が少なくありません。

日本人には、安全性や個人情報の流出利用に対して極めて敏感であると言う国民性もあります。

それらの要因がスマートフォン決済の普及の制約になる可能性は高いと思われます。

第二は、日本人の現金志向です。

第4章に詳述しますが、店頭での支払い等小口決済に占める現金利用の比率や、

現金発行額のGDP比率が主要国の中で突出しているのが日本です。

日本人の現金への親和性が、デジタル通貨の利用やスマートフォン決済の

普及の壁となる可能性は非常に高いと思われます。

第3は、キャッシュレス社会を実現させるためのコストです。

民間銀行が発行するデジタル通貨を社会によく利用される社会インフラとするためには、

すべての人がそこから排除されないようにしなければなりません。

 スマートフォンを持っていなかったり、使い方がわからない人が買い物をしたり

電車に乗ったりできなくなるようなことは、あってはならないからです。

そうした考えを「金融包摂」と言います。

そのためには、相当なコストが必要です。

しかし、厳しい自然環境の下にある日本の銀行に、大きなコストをもって

社会的な役割を十分に果たす体力はなさそうです。

このように、3つの壁に阻まれて、日本でスマート決済が社会インフラとなる日は

そう近くはないと思われます。

 さて、3つの壁については、後に詳細に検討することにして、

次節では、日本では普及してないスマートフォン決済が諸外国で

どのように広がっていったのかを見てみることにします。

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【銀行デジタル革命】28第3章スマートフォン決済は日本で広まるか? 銀行デジタル通貨が直面する3つの壁、 QRコード統一への動き

 第1章で見た通り、日本の民間銀行の独自のデジタル通貨は、

三菱UFJ銀行のMUFGコインが先行し、みずほFGのJコインがそれを追う構図となっています。

しかし、先行するMUFGコインが三菱UFJ銀行単独の枠組みであるのに対して、

JコインはみずほFGに加え、郵貯銀行や他の数十の地銀との連携が見込まれていて、

利用範囲がより広がる可能性を秘めています。

現在の仮想通貨が決済手段として使いにくいために決済分野で普及していない事は、

前章で見た通りです。

 その事は、デジタル通貨を利用してスマートフォン決済を日本でも普及させようと

考えるなら、使いやすさに最大限の配慮をしなければならない、

と言うことを示しています。

 具体的に言えばデジタル通貨は統一されていた方がより便利であり、

仮に複数の銀行がすべて発行するとしても、皆同じように使えることが重要です。

 デジタル通貨の種類や企画が違うために支払いに使えない店舗があったり、

知人間の送金ができなかったりすれば非常に不便であり、復旧は難しいでしょう。 

 使用規格を統合すれば共通したシステムは利用できるため、

銀行側にもコストを抑えられると言うメリットがあります。

そうした観点から、銀行デジタル通貨の連携、統一に向けた議論が進み始めています。

2017年10月には、三菱東京UFJFG (当時)、みずほFG、三井住友FGがデジタル通貨の

連携に向けた協議会を設置することになったと報じられました。

金融庁が協議会設置を促したりと言う観測もあり政府主導が窺われましたが、

その後、協議会が設置されたり、連携、統一に向けた議論が進展したりしているとの

報道はなく、連携、統一化の動きが難航しているのではないかと推察されます。

一方で、銀行デジタル通貨の統一はなされていなくても、

それぞれのスマートフォン決済に用いるQRコードを統一すると言う議論がは進んでいます。

銀行デジタル通貨を使って小売店や飲食店で支払いをする場合、

価格等の情報が記録されたQRコードにスマホをかざすだけで、

現金を使わずに支払いをする場合、価格などの情報が記録されたQRコードに

スマホをかざすだけで現金を支払わずに支払いを済ませると言う形になります。

QRコードの読み取りには、小売店が読取り機を備える方式と消費者の

スマスマートフォンのアプリを使う方法があります。

読取り機を利用する場合、銀行デジタル通貨がそれぞれ独自の企画のQRコードを

使用すると、小売店はすぐに対応する読取り機を用意しなければならず、

初期費用がかさみます。

また、例えばJコインの読取機しかない小売店ではMU FGコインが使えない

と言うようなことが起こってしまいます。

消費者のスマートフォンのアプリを利用してQRコードを読む方式の場合は、

 それぞれの QRコードを客に対応するアプリをインストールしなくてはなりませんし、

使う時もアプリを使い分けなくてはならず不便です。

2018年 5月の報道によれば、 3メガバンクグループは QRコードの統一規格で

合意したとされています。

 統一規格 BabkPay(バンクペイ )という仮称で、 2019年の実用化を目指すといいます。

 藤原弘治全国銀行協会会長 (みずほ銀行頭取 )は、それに先立つ 2018年 4月、

 QRコードの企画を統一すると「利用者の利便性が向上し、

新しいサービスへの大きな基盤となる」と、その意味を強調しています。

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【銀行デジタル革命】27超低金利で加熱するボラティリティーの追求

仮想通貨が投資対象として注目を集めている背景には低金利の長期化と言う

金融市場の状況があります。 

2008年のグローバル金融危機を機に、先進国では潜在成長力が低下し、

低インフレの長期化あるいはデフレも懸念される事態に陥りました。

対応策として、日米大手国債の大量買い入れなどを柱とした金融政策が実施され、

各国の金利は歴史的低水準に立ちました。

そうした状況下では、国債の利率もゼロに近づき、

国債投資からほとんどインカムゲイン(利息収入)が得られません。

投資家は、国債よりリスクが高くてもそれに見合った高いインカムゲインが

得られる債券に投資する傾向を強めていきました。

その一例が、投機的な格付けで信用リスクの高い社債、

いわゆるハイイールド債への投資の拡大でした。

高い利回りを追求するこうした投資行動は、「サーチフォーイールド(利回りの追求)」と

呼ばれています。

ところが、多数の投資家がそうした行動に走ったことで、

債権の金利は一段と低下してしまいました。

信用力の高い国債と信用力の低い社債との金利差、いわゆるスプレッドが

これまた歴史的な低水準に対し、投資家がインカムゲインを得る機会は

さらに低下してしまったのです。 

金融資産への投資では通常、インカムゲインのほかにキャピタルゲイン(売却益)も

収益の源泉になります。 

恋しかし、こうした超低金利の局面ではボラティリティーが極端に低下し、

キャピタルゲインを得るチャンスも失われてしまいます。

投資家はどちらの収入も得る機会を失い、八方塞がりに陥りました。

それでもハイリスクハイリターンを目指す投資家は、

なんとしても短期的なキャピタルゲインを稼ごうと、ボラティリティーの高い資産を

探し始めます。

「サーチホイールド」の投資行動は「サーチフォーボラティリティー」の行動へと

進んでいきます。

そこで彼らの注目を集めたのが、ボラティリティーの高さを特徴とする仮想通貨でした。

多くの投資家が市場に参入し、仮想通貨の市場規模は急激に拡大しました(図表2-3)。

仮想通貨が高いボラティリティーを持っているのは、他の金融資産との価格連動性が弱く

裁定関係が働きにくい、いわば異質の存在であるためです。

同じリスクに対してリターンの大きさがどの程度になるかを示す仕様である

シャープレシオで見ると、ビットコインは他の金融資産に比べて大きいとの

分析もあります。

その分析が妥当だとすれば、ビットコインへの投資は合理的な投資行動だと

見ることができます。

ただし、仮想通貨取引の歴史は浅く、ビットコイン投資のリスクとリターンの関係を

正確に計測するのに十分なデータが揃っていない事は留意しておくべきでしょう。

本章での仮想通貨についての言及はここまでとし、仮想通貨投資が今後

どのような展開を見せるのかについては、第6章で詳細に検討することにします。

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