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【銀行デジタル革命】16、IT企業との連携

全銀システムの稼働時間拡大、独自のデジタル通貨発行準備と並行し、

各メガバンクはフィンテック対応のために、独自の研究開発や、

IT企業やフィンテック企業との連携も加速させています。

その動きを見てみましょう。

三菱UFJ銀行は2013年にシリコンバレーにイノベーションセンターを設置しています。

また、フィンテックの研究開発を目的とした新会社を2017年秋に設立しました。

決済の迅速化やコスト削減につながる技術開発などを素早く進めるために、

銀行とは別組織の、研究開発に特化した独立した会社を設立したものと思われます。

2017年7月には、オンライン決済サービスPaidy (ペイディー)を手がける

ベンチャー企業に出資しました。

ペイディーは、携帯電話の電話番号とメールアドレスを入力するだけで、

クレジットカードなしで通販サイトから衣料品などを購入できるオンライン決済サービスです。 

みずほFGは2017年6月に新会社ブルーラボを設立しました。

人工知能(AI)技術やビックデータを活用して事務作業を自動化するための

ソフトウェア開発や、決済プラットフォームの構築などを目指しています。

また、家計簿や会計アプリを提供するフィンテック企業マネーフォワードの

法人向けサービス「MFクラウド請求書」を活用した、法人向けの振り込みサービスを開始しました。

LINEを利用した「LINEでかんたん残高照会サービス」やメガバンク初の

ロボアドバイザーサービス「スマートフォンフォロー」も提供しています。

三井住友FGは、指紋認証や顔認証などの技術を利用して安全で、

インターネットバンキングを利用できる技術や、AIでクレジットカードの

不正利用を検出する仕組みなどの研究開発を強化しています。

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【銀行デジタル革命】15デジタル通貨構想の前に“100万円の壁“

両行が構想していたのは、法律上は電子マネーに分類されるとみられる

デジタル通貨の発行でした。

ところが、それぞれが発行準備を進める中で、

構想には大きな障害があることがわかってきました。

当初構想では、設立が予定されているMUFGコインやJコインの運営会社は、

法的に、払い戻し可能な電子マネーを扱う事業会社と定義される会社とする方針でした。

その場合、マネーロンダリング(資金洗浄)対策の観点などから、

資金決済法により送金の上限は1回あたり100万円に制限されます。

これでは高額の送金に使えず、普及の妨げとなるのは明らかです。

Jコインはその解決策として、運営会社は電子マネーや電子マネーを扱う

事業会社ではなく銀行とすることも選択肢に入れているようですが、

その場合、金融庁に登録されるまでに、相応の時間を要する可能性があり、

2020年の東京5輪、パラリンピック前の実現を目指しているようですが、

難しいかもしれません。 

他方、三菱UFJ銀行はこの問題を回避するために、当初の計画を修正して、

MU FGコインの法的位置づけを電子マネーではなく

仮想通貨とすることを検討していると伝えられています。

その場合、MUFGコインの運営会社は仮想通貨事業者として登録されることになります。

しかし、MUFGコインを仮想通貨にすることで、ビットコインのように

価格変動が激しくなれば、

決済手段として敬遠される可能性が高くなります。

三菱UFJ銀行は、その対応策として自前の取引所を開設する方針を固めたようです。

取引所を自らが管理し、MUFGコインの価格の変動を押さえ込もうと言うわけです。

2018年度中の実現を目指すと言われていますが、もし実現すれば、

邦銀による仮想通貨の発行や取引所解説は初めてと言うことになります。

しかし、MUFGコインの取引量が拡大し、また仮に投資目的で取引する人が

出てきたときに、取引所の介入が価格の安定に充分機能するかどうか不透明です。

以上のように、フィンテック対応の1つとして、

デジタル通貨の発行に舵を切ったメガバンクですが、

実現には課題山積と言うのが実情で、開始時期は予定よりかなり遅れることも予想されます。

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【銀行デジタル革命】14メガバンクのデジタル通貨構想②Jコイン

みずほFGもデジタル通貨発行の準備を進めています。

詳細は明らかではありませんが、こちらの仕組みは従来の電子マネーに近いもののようです。

異なる点は一旦チャージしても現金に自由に払い戻しができることだけで、

あまり革新的な技術は無いように思います。

個人利用者間の送金手数料や個人の商店での利用手数料は無料とし、

手数料負担は加盟店側だけにすることが発表されており、

こちらはクレジットカードとの競合が意識されています。

みずほFGの佐藤康博会長は、Jコインによる決済を中国などで高いシェアを占める

決済サービスのアリペイと接続することを目指すと明言したことがあります。

Jコインを通じて外人、特に中国人旅行者のインバウンド需要を取り込むことが狙いです。

加盟店手数料をクレジットカード手数料よりも低く抑え、

加盟店の拡大を目指す方針を公表しています。

佐藤会長は、現金を電子マネーに切り替えれば、社会や経済全体にプラスの影響があり、

Jコインが普及すれば、小売、外食産業や金融機関の経費削減等で

10兆円の経済効果があるとの見通しを示しています。

メガバンクが発行する新たなデジタル通貨は、プリペイド式の電子マネーが持つ

利便性と高い信頼性や流通性を兼ね備え、キャッシュレス社会に向けた

新しい決済手段として普及する可能性も秘めたものとなりそうです。

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【銀行デジタル革命】13メガバンクのデジタル通貨構想

① MUFGコイン2017年5月に実証実験を開始した三菱UFJ銀行の

MUFGコインについて、詳しく見てみましょう。

MUFGコインは、ビットコインで利用されている分散型台帳技術(DLT)の1つである

ブロックチェーンを用いて、低コストで送金ができるシステムで利用されます。

ビットコインなどの仮想通貨については後に詳述しますが、

ビットコインには、円などを法定通過の価格に対する価格変動が大きいこと、

決済が完了するまで10分ほどの時間を要するため、

店舗での支払い通貨としての利便性に劣るなど、

決済手段としては欠点があります。

そのためビットコインを敬遠する小売業者は多く、決済用の通貨としての普及が滞っています。

さて、MUFGコインの仕組みですが、利用するには三菱UFJ銀行の口座と

スマートフォンなどの端末機を持つことが前提です。

利用者は、まずスマートフォンにアプリをインストールして

新たにMUFGコイン専用の口座を作り、預金口座の預金から希望額を

デジタル通貨専用の口座にチャージします。

当初の構想では1円=1MUFGコインで、円をMUFGコインに交換できる固定価格制でした。

ここがビットコインなどの仮想通貨との大きな違いで、固定価格ならば、

価格の不安定を理由に小売業者等に敬遠される事はなくなります。

口座間での送金はスマートフォンを使って簡易にできますから、

MUFGの利用者間では、飲食店などで小銭を使う面倒なく簡単に支払いの

割り勘計算ができるなど利便性にも優れています。

しかし、ブロックチェーンを採用するため決済完了までに

タイムラグがあると言う問題は解消されていないと思われます。

MUFGコインは、2017年10月の家電、ITの見本市「シーテックジャパン」で、

スマートフォンを利用して自動販売機でペットボトルの飲料を購入するなどの実演で、

一般に公開されました。

現在、グループ内の1500人が実証実験に参加しており、

2018年4月からは実際の店舗で買い物をする実証実験も始まっています。

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【銀行デジタル革命】12 銀行のフィンテック対応、全銀システムの稼働時間拡大—24時間365日稼働

金融庁による金融関連法体系の迅速な見直しは、決済や融資などの銀行業務に

参入したいIT企業や、フィンテック関連のスタートアップ企業にとっては、

市場に新規参入しやすくなる環境整備でした。

他方、銀行などの既存の金融機関にとっては、金融庁からフィンテック対応を知らせる

圧力にほかにならないものです。

フィンテック対応を促す金融庁の方針に対し、銀行はこれまでのところ、

序章で触れた独自のデジタル通貨発行、振り込みサービスの年中無休化、

IT企業との連携模索等で対応しています。

最新技術を使う、使わないはともかくとして銀行のそうした対応を

詳しく検討していくと、金融に革新的な技術変化をもたらすとされるフィンテックを

銀行がどのように受け止めているのかが浮き彫りとなります。

例えば、ATM等利用した振り込みの24時間化です。

現在は平日の午前8時半から午後3時半までに限られている、

ATMを利用した送金サービスの利用時間を2018年10月9日から

24時間365日に拡大する計画です。

今ですと、時間外に振り込み手続きをすると、相手先の口座に振り込まれるのは

翌営業日の朝になります。

利用時間の拡大が予定通り実施されれば、振り込み指示をすれば

いつでも送金がなされることになり、利用者にとってはとても便利になります。

ATM等を利用して振り込みや送金ができるのは、

金融機関同士が資金決済を行っているからです。

金融機関の間での資金決済は、全国銀行データ通信システム(全銀システム)と、

日本銀行金融ネットワークシステム(日銀ネット) の2つの仕組みを使って

オンライン処理されています。

全銀システムは、全国の民間銀行が出資、運営している全国銀行資金決済ネットワーク

(全銀ネット)を運営しています。

名前は仰々しいですが、全銀システムは、私たちが日常的にお世話になっている

旧来の金融技術です。

ATMなどを使った振り込み等の決済は、このシステムを利用して処理されています。

ATMを利用した送金サービスの利用時間は全銀システムの稼働時間で決まります。

A銀行に口座を持つ人が、企業から購入した商品の代金をB銀行の企業の口座に

振り込む場合、その決済は全銀システムによってリアルタイムで処理されます。

このとき、送金の情報は受取人となる企業が口座を持つB銀行に送信されますが、

実際に現金で決済がなされるわけではありません。

1日の銀行間の送金は双方向で膨大な数に及びますから、

全銀システムは各銀行からの双方向の支払い指図を集めて、

1日の業務終了後に受払の差額、いわゆる決済尻を計算します。

ここで登場するのが日銀ネットです。

全銀ネットは決済尻を日銀ネットに送信します。

日本銀行は、全銀システムからの送信情報に基づいて各銀行が日本銀行に持っている

当座預金への入金や引き落としを行い、最終的な銀行間の決済が完了します。

一億円以上の大口取引も、全銀ネットではなく日銀ネットで決済されます。

全銀システムは半世紀近く前の1973年に稼働開始したシステムです。

稼働時間内ではリアルタイムで決済でき、以前は世界に誇れるシステムでしたが、

英国やシンガポールなどで銀行間決済の24時間週7日稼働が広がったことで、

稼働時間が平日の7時間に限られている全銀システムが不便だと言う指摘が高まっていました。

今回の24時間365日稼働への拡大の狙いは、その批判に対応したもののようです。

この時間拡大のために全銀ネットは新しいシステムを開発し金額は不明ですが

相当な投資をしたと言われています。

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【銀行デジタル革命】11「利用者の視点」を重視し始めた金融庁

2017年の金融行政方針では、「フィンテックによる金融イノベーションの促進を通じて、

利用者利便の向上や企業の成長力強化を実現し、わが国経済、金融の発展に

つなげていくことが重要である」と、意欲的に改革の方向性が示されています。

さらに、イノベーションの促進には金融機関とインテック企業との共同、連携が

重要だと指摘した上で、次のような3つの具体策を示しました。

①金融サービスのオープンイノベーションを推進するため、

平成29年改正銀行法等を円滑に施行するルートとともに、

オープンAPIの推進促進に向けた環境整備を図る

②フィンテック企業等によるイノベーションに向けたチャレンジを後押しするため、

フィンテックサポートデスクやインテック実証実験ハブを通じた、

新しい金融事業サービスの開始に対する支援を強化する。

③非対面取引に係る本人確認方法の見直しや、銀行代理業制度や店舗制度の課題の検討、

フィンテック時代に対応した制度の点検、見直しを行う。

金融庁の方針は、金融庁がフィンテックの企業経済社会の発展につなげることに向けて、

相当に強い意志を持ってさらなる法整備に取り込む考えであることを

示したものだと思われます。

金融庁は1990年代後半に起こった金融危機の真っ只中の1998年に

金融監督庁としてスタートしたのですが、当初は銀行の不良債権処理を

促すことなどを通じて、金融システムの安定回復に全力をあげました。

しかし、その後は、銀行による地域経済の活性化や、銀行や金融センターの

国際競争力の向上、利用者の利便性向上などの面で指導的役割を果たすようになりました。

金融システムの安定の観点から、当初、金融庁は金融機関とフィンテック事業者との

垣根を取り払う払う事に慎重でした。

表向きは銀行が子会社化したフィンテック企業が経営不振に陥ると、

その影響が銀行に波及し金融システムの安定を脅かすことを懸念しての事だと説明されていました。

それに偽りはないと考えられますが、閉鎖的な“島“意識が強く、

IT企業の金融業進出を嫌う銀行側のロビー活動の影響もあったのではないかと思われます。

しかし、実際に、IT企業が決済代行サービスを開始するなど金融業務の

アンバンドリング(切り離し)が進行する中で、金融庁が適切な規制を行うためには

業態別の金融法制を業務別へと改正する必要が生じたこともあり、

国際競争力の向上、銀行の構造改革の必要性、利用者の利便性向上等の観点を

打ち出して政策方針を転換し、フィンテックの旗振り役を果たすようになってきたのだと思います。

前述のように、フィンテック企業と銀行との関係は、

アメリカでは「破壊→競争→協調」と言う変遷を辿りました。

それに対して金融庁は、「協調→競争」と言う変化を想定した政策を目指しているように見えます。

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【銀行デジタル革命】10業態ごとの縦割り構成も再考へ

金融庁は2017年11月に発表した金融行政方針で、業態別から業務別の規制に

金融法体系を見直す方針を打ち出しました。金融機関には普通銀行、信託銀行、

信用金庫などの業態、さらに広義では証券、生命保険等といった業態があります。 

それらが行う業務には、預金の受け入れ、決済(お金の受け渡し)、融資、資産運用、

保険などなど様々なものがあります。 

現行法は業務別ではなく業態別になっているため、法律が現実の経済社会の変化に

追いつかず、例えば同じような業務でも業界ごとに異なるといったことが見られます。

それに対して、今後は同一の機能やリスクには同一のルールを適用する形で

法体系を変えていくと言うことです。

各業務に関するルールがこれまでによりこれまでより明確化されることの効果は、

多岐に渡ると考えられます。

金融機関とフィンテック企業の双方にとって新しいビジネスが始めやすくなりますし、

両者間の競争が促進される一方で、連携も容易になります。

金融庁には、競争促進を通じて既存の金融機関に決済や送金の手数料値下げを促す

意図もあるようです。

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【銀行デジタル革命】09オープンAPIの推進続く

2017年の銀行法改正は、フィンテック企業を想定し、

銀行や信用金庫などの金融機関のコンピューターシステムに接続する

「電子決済代行事業者」の登録制を導入すると同時に、銀行や信用金庫に対しては

API (アプリケーション、プログラミング、インターフェース)を電子決済代行事業者に

公開する努力義務を課しました。 

金融庁はこの改正について、利用者保護を確保しつつ、金融機関とフィンテック企業との

オープンイノベーション(連携、協働による革新)を進めやすくするためだと説明しています。

その考えの背景には、海外でフィンテックを活用したサービスが拡大していることがあります。

フィンテック企業は、顧客の銀行金口座管理、家計簿の作成や送金の代行など、

銀行業務と密接に関わるサービスを商品として提供しているにもかかわらず、

これまで法的位置づけは不明確でした。 

2017年の法改正で、審査を経て電子決済等代行事業者として登録された

フィンテック企業は、顧客情報の適切な管理や業務管理体制の整備などが

義務付けられる一方、登録事業者としての法的地位、社会的な信用を手にすることになります。

銀行などの金融機関には、電子決済等代行事業者と連携するオープンAPIの

体制整備が努力義務とされました。

APIとは、ウェブなどのサービスを利用するアプリケーションを作成するための

インターフェースのことで、金融機関がAPIを公開すれば、

銀行とフィンテック企業の間の安全な顧客データのやり取りや、

アプリケーションの連携等が可能になり、サービスの利便性が高まります。

例えば、フィンテック企業の顧客はそのサービスを利用する際、

これまで銀行口座のログインIDやパスワードをフィンテック企業に知らせなければなりませんでした。

オープンAPIによって銀行とオリンピック企業のデータ連携が実現すれば、

ログインID等を知らせることなく、これまでと同じサービスを受けることが

できるようになると言うわけです。

2017年の改正銀行法の施工日は、政令により同年6月の公布から1年以内、

つまり遅くとも2018年6月までと定められていますが、

主要銀行は前倒しでオープンAPIの取り組みを進めているようです。

例えば、みずほファイナンシャルグループ(FG)は、改正法成立前の2016年9月に

「みずほダイレクトアプリ」の残高照会機能等の提供を開始し、

フィンテック企業にその機能をAPI経由で提供しています。

新サービスで、顧客はクレジットカード引き落とし日に

残高不足が生じるかどうかを事前に確認できるようになりました。

また、三菱UFJ銀行は、開発者向けポータルサイトを用意して、

API接続を希望する開発者が、同行が提供するAPIの使用を確認したり、

技術検証できるようにしたりしています。

三井住友フィナンシャルグループ(FG)も、

既にApplication Programming Interface公開の工程表を公開しています。s 

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【銀行デジタル革命】08第1章悩める巨人—挑戦がもたらす矛盾□ 1競争促進へと転換した法整備5%ルールの緩和

フィンテックの利用で日本が諸外国の後塵を拝している原因の1つは、

金融業態を縦割りで厳しく規制してきた日本の金融法制にあります。

序章で指摘した通りです。

しかし、フィンテックの普及を妨げてきたこの金融法制は、

異例とも思える速さで見直されつつあります。

金融庁は、フィンテックを利用したサービスの普及を通じて人々の利便性を

高めるための規制緩和へと方針を変えたのです。 

2016年と2017年には、銀行にフィンテック対応を促すことを目的として、

2年連続で銀行法が改正されています。

2016年の銀行法改正では、いわゆる「5%ルール」が緩和されました。

フィンテック企業に出資したり子会社にしたりして、

新しい金融サービスをグループ内に取り込むことを望む、銀行自身の要請に答えたものです。 

改正前の銀行法は、銀行との子会社が合算して国内の一般企業の株式を

議決権の5%を超えて保有することを禁じていました。

銀行の本業以外の事業を事実上禁じた、厳しい業務範囲規制です。

もしもある銀行が本業以外の事業で失敗して経営危機に陥ると、信用不安が広がり、

金融システム全体が不安定化してしまいます。 

そうしたことを懸念しての規制でした。

またこの規制には、銀行が産業支配したり、銀行が子会社を通じて特定の取引先向けの

貸し出しを優遇するような不正を排除する目的もありました。

改正によって、銀行は子会社保有分も含め5%、銀行持ち株会社は

子会社保有分も含め15%を超えてフィンテック企業の株式を保有することができるようになりました。

基準議決権数を超える議決権の取得等には、原則として内閣総理大臣の

事前の認可が必要とされていますが、実際にはフィンテック企業の範疇を広く捉えて

柔軟に運用されるだろうと予測されています。

ちなみに、改正法はフィンテック企業を「情報通信技術その他の技術を活用した

当該銀行の営む銀行業の高度化もしくは当該銀行の利用上の利便の向上に資する

業務又はこれに資すると見込まれる業務を営む会社」と定義しています。

金融庁は2016年の銀行法改正のポイント

①金融グループにおける経営管理の充実、

②共通、重複業務の集約等を通じた金融仲介機能の強化、

③ ITの進展に伴う技術革新への対応、

④仮想通貨への対応—の4点としています。

そのうち最も大きな意味を持つのが、①の「金融グループにおける経営管理の充実」に

含まれる5%ルールの緩和です。

5%ルールの緩和により、銀行はグループ内に電子商取引やスマートフォン決済を

手がけるIT企業を持ったり、オンラインショッピングサイトを運営する会社を

抱え込んだりすることができるようになりました。

それまで規制されていた事業分野に進出していくことができるようになったわけです。

楽天を始めとして、IT企業が銀行業に参入した例は既にありますが、

今後、あらたなサービスをめぐり、銀行などの伝統的金融機関と

フィンテック企業の競争が促進されることになると思われます。

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【銀行デジタル革命】07メガバンク自身が乗り出すことが日本の特徴

一方、日本では、前に述べたように銀行その他の金融事業者の業務を

縦割りで厳しく規制してきた金融法制が、

フィンテック企業の新規ビジネスへの参入や金融事業者の銀行業務への参入の障害になりました。

銀行自身も他業種の決済業務参入をなんとか阻止しようと動いてきました。

加えて、ベンチャー企業が活発に生まれる風土でないこと、

インテックを利用したサービスを提供する国内IT企業が敵対的でなかったため

銀行側の危機感が希薄だったことなどが、銀行のフィンテック対応が遅れた要因だと思われます。

結果、日本のフィンテックは、フィンティックで可能となったサービスに

メガバンク自身が乗り出したり、フィンテック企業をグループ内に取り込んだりする形で

動き始めていると言う特徴が見られることになりました。

次章では、メガバンクと政府、金融庁の動きを詳細にたどりながら、

デジタル通貨を含めた日本のフィンテックの動向を追いかけます。

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