今の日本は外交でそれなりの成果を上げてはいるが、まだ脇の甘い面も見られる。
2015年8月、原発事故を理由に韓国が福島など8県産の水産物を禁輸した措置について、
日本は不当だとして世界貿易機構(WTO)に提訴した。
2018年2月に紛争処理小委員会(パネル)の是正を勧告する報告書を公表したが、
韓国は二審にあたるWTOの上級委員会に上訴した。
2019年4月、上級委員会はパネルの判断を1部破棄し、日本は敗訴した。
日本政府の立場は「既に輸入規制を実施した後54の国のうち31の国で輸入規制が撤廃されている。
日本産食品は科学的に安全。
韓国の安全基準をクリアしているとしたWTOパネルの事実認定については
上級委員会でも維持された」と言うものだ。
しかし、韓国が是正措置を取らなければ日本が対抗措置を取るとした判断は取り消された。
政府の説明によれば、常識的には韓国の安全基準に照らすと輸入制限は不当だ。
しかし、不当なものに対して対抗措置を取るのはけしからんと言う判断だからわかりにくい。
WTOのパネルと上級委員会は、裁判所で言えば、パネルが一審、
上級委員会が二審と言う二審制となっている。
上級委員会の判断が最終的な判断となる。
一審を覆した韓国側のロジックを見ておこう。
韓国は「日本はサンプル検査の実測値だけで安全性を主張している」とし、
原発事故の処理が完全に終了していないから、国民の安全を理由とした韓国の輸入制限は
不当な貿易制限ではないと主張した。
その結果、上級委員会では、日本での1部サンプル産品調査で検査をクリアしても
別の産品でクリアしてない可能性があるのに、パネルはWTO協定の解釈を誤って判断したと言う、
1部分だけの手続きに瑕疵があったとしている。
法技術的な上級委員会の判断で分かりにくくなってはいるが、筆者なりに大胆に言えば、
国民の安全に関するものについては貿易制限としてWTOに持ち込まないでくれと言う
意思表示ではないか。
そのために、パネルの1部の手続き論だけを問題にしただけと言うことだろう。
特にこの件は、原発事故と言う世界的に見てもイメージが悪く、微妙なものだ。
さらに韓国は日本への対抗意識も強く、絶対に負けられないとしてロビー活動にも積極的であり、
「厄介な案件」なのだ。
54の国のうち31の国で輸入規制は撤廃されたが、逆に言えば韓国のほかに
中国、台湾、シンガポールなど23カ国もまだ残っていた。
そうした国の輸入規制も不当なものだと、WTOが判断を下すことを避けたかった。
あるいは、せめて親日的な対応などを二国間交渉で説得してからにしてほしいと言うことでは無いだろうか。
日本政府は、韓国をWTO提訴して、結果として主張が十分に通らなかったことを認識した方が良い。
韓国に対して科学的根拠に基づき禁輸措置全体を撤廃するように
二国間協議を通じて求めていくとしているが、
それと並行して輸入制限を行っている23カ国に制限措置の撤廃を求めていくべきだ。
この一件では、改めて国際社会では意のままにならないことがあることを感じさせられた。
ただ、日本も脇が甘かった。
これは農林水産省が担当していたが、最初から台湾などを落としやすいところから落としていくべきだった。
そうしておけば、残るハードコアは中国と韓国だけだった。
それくらいまで輸入制限国が減っていれば、まずパネルでは負けない。
その根回しをする前にパネルに持ち込んでしまったから負けたのだ。
この件は日本に合理性があるのだから、二国間で地道に口説き落としていけばいい。
大変もったいないことをした。
WTOのパネルといっても、数の論理で判断してるから、
大半が輸入を認めていれば日本は正しいとなる。
声の大きい方が勝つ可能性が高いから、数で落としていかなければ、
どちらに転ぶかわからないものだ。
これは農水省が悪い。
正論さえ主張すれば何とかなると思っていたのが、パネルでの敗因だ。
国際機関といってもきちんと平等に判断してくれるわけではない。
国際司法もデタラメだし強制力は無いから筋論を言っても意味がない。
文句が出ないように数の論理で判断しているだけだ。
このように、日本側の詰めの甘さが目立ったWTOパネルの一件だが、
ここから日本政府の逆襲が始まる。
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