中央銀行デジタル通貨をめぐる問題点をさらに詳しく検討していきましょう。
中銀デジタル通貨に金利が付利され、それが民間銀行の預金口座の金利より高ければ、
民間銀行仲介型の場合はその預金口座からデジタル通貨専用口座へ、
直接発行型の場合は銀行預金口座から
中央銀行のデジタル通貨口座へ、資金を移動させる利用者が増えます。
料金の流出が急激に進めば、銀行の貸出業務に打撃を与え、金融仲介機能が低下し、
また金融システムの不安定化を引き起こす要因となります。
そうした事態を回避するためには、中銀デジタル通貨の金利と銀行預金の金利を
適切に調整する必要があります。
ただ、銀行預金の金利をそれぞれの銀行が決定する銀行制度の下では、
調整は容易ではありません。
こうした問題の対応策について、欧州中央銀行(ECB)のイブメルシュ理事が
詳細な議論を展開しています。
やや細かい話になりますが、ここで紹介しておきたいと思います。
メルシュ理事が提示した第一の対応策は、現金や銀行預金と中銀デジタル通貨の共存を
前提とした、中銀デジタル通貨の供給制限です。
例えば、中銀デジタル通貨の供給は、中央銀行や中央銀行が個人や銀企業から債券などの
金融資産を買い入れ、その代金を支払うと言う経路に限る、といった方策です。
その場合、企業や個人は中央銀行に売却する金融資産を持っていなければ、
中銀デジタル通貨を入手できないため、中央銀行はデジタル通貨の供給量を
コントロールすることが容易になります。
この対応策には、中央銀行や中央銀行が企業や個人からどのような金融資産を
いくらで買い入れるかと言う問題があります。
中銀デジタル通貨の需要量と中央銀行が適切と考える供給量が異なる場合は、
その差は中央銀行が買い入れる金融資産の価格で調整せざるを得ず、
市場で取引される金資産の価格を歪めることにもなりかねなりかねません。
第二の対応策は、中央銀行デジタル通貨に金利をつけ、
その金利水準を適切に調整することです。
中銀デジタル通貨にどのように付利すると、どのような経済効果が生まれるかを考えてみましょう。
現在、ECBはマイナス金利政策をとっており、民間金融機関から
受け入れた超過準備等の金利はマイナスです。
一方、民間銀行の預金金利はマイナスにしづらいのでほとんどはプラスになっています。
そして金利体系のままで中央銀行デジタル通貨が発行されたと仮定した場合、
プラス金利の銀行預金からマイナス金利の中央銀行デジタル通貨への資金シフトは
起こりにくいでしょう。
しかし、平時は超過準備への付利金利はプラスです。
銀行預金の金利は一般にそれよりも低いため、中銀デジタル通貨に超過準備と
同水準の金利をつけた場合、銀行預金から中銀デジタル通貨への資金シフトが
起こってしまいます。
それでは、中銀デジタル通貨の金利を常に0とするとどうなるでしょうか。
その場合、銀行預金の金利がプラスを維持する限り、
中銀デジタル通貨の資金シフトが生じなくなります。
しかし、仮にその時超過準備にマイナス金利が付利されていたとすると
、民間銀行が預金準備制度が適用されないノンバンク子会社を設立して超過準備を
そこに移し、そのノンバンク子会社がゼロ金利の中央銀行デジタル通貨に交換すれば、
双方の金利差から簡単に利益を上げることができてしまいます。
中央銀行は量的緩和政策の一環として、民間銀行に潤沢な超過準備を保有させることが
ありますが、今述べたような意図で民間銀行が超過準備を大きく削減してしまえば、
量的緩和政策の効果が殺がれてしまうことになりますにもなります。
まとめると、意図しない資金シフトを抑制するには、次のような状況を作り出すことが
必要なのです。
●超過準備の付利金利がプラスの場合、中銀デジタル通貨の金利をゼロとする
●超過準備の付利金利がマイナスの場合、中銀デジタル通貨の金利も
同じマイナスとする(銀行預金金利はいずれの場合もプラス)このようにすれば、
中銀デジタル通貨の金利は超過準備の付利金利を上回ることがなく、
同時に銀行預金金利を下回るため、資金シフトを回避できることになります。