第一章米中戦争が起きる確率問題、歴史上の事例に鑑みて、
新興勢力=中国と既成の超大国=アメリカとの間に戦争が起きる可能性を選べ。
①非常に高い
②ほとんどない
かつてのアテネとスパルタのように、中国とアメリカは「トキュディデスの罠」と
へと真っ逆さまに落ちていくのだろうか。
「トキュディデスの罠」とは、紀元前5世紀のペロポネソス戦争に由来する言葉である。
「ペロポネソス戦争史」を著した古代アテネの歴史家中トゥキュディデスは、
この戦争の原因をこう述べている。
「戦争を避けがたくし原因は、アテネの勃興及びそれがスパルタに引き起こした
恐怖心であった」紀元前5世紀のスパルタは、現在のアメリカと同じように強大な覇権国家だった。
そこで突然表舞台に躍り出て、当時の文明をリードする存在となったのがアテネだった。
ハーバード大学のグラハム、アリソンは次のように述べている。
この劇的な勃興にスパルタはショックを受け、為政者たちは恐怖心から対抗策を取ろうとした。
威嚇が威嚇を呼び、競争から対立が生まれ、それがついには衝突へと発展した。
30年に及ぶペロポネソス戦争の末、両国はともに荒廃した。
「トゥキュディデスの罠」の典型例をもう一つ見てみよう。
時代ははるかに降って、19世紀。
1世紀以上にもわたって七つの海と世界を支配してきた大英帝国の派遣に、
皇帝ヴィルヘルム統治下のドイツ帝国が挑んだ。
新興勢力と既存の大国とのこの衝突は第一次世界大戦へと発展し、
何百万もの兵士や一般市民が犠牲になると言う恐ろしい結果につながった。
既成の大国と台頭する新興国が戦争に至る確率は70%以上もちろん、
実例2つだけでは理論の証明にはならない。
そこで、次の驚くべき統計の出番となる。
世界史を概観すると、1500年以降、中国のような新興勢力がアメリカのような
既存の大国に対峙した15例のうち11例において(すなわち70%以上の確率で)戦争が起きている。
この事実だけを考えても、賢明な投機家なら、「今後数十年間中国は平和的に台頭する」
に大金を閉じようと思わないだろう。
アテネとスパルタ、ドイツ帝国とは大英帝国のような、新興勢力と既存の強国との
組み合わせがなぜ戦争と言う結果を招くのかと言う問題についても
シカゴ大学教授ジョンミアサイマーが説得力あふれる理論を「大国政治の悲劇」の中で展開している。
ミアシャイマーの理論は3つの過程に基づいている。
第一の仮定は「世界体制では無政府状態だ(つまり国家を取り締まる権威を持った組織は
存在しない)と言うものである。
この「警察官不在仮定」の意味するところは、「ある国がトラブルに巻き込まれても
110番して警察に助けを求めるわけにはいかない。
だから、軍事力を構築していて措置を講じ必要がある」と言うことである。
「すべての国が軍事力、つまり戦争のための兵器を増強する」というのが、
ミアシャイマー説の第二の仮定である。
しかし、相手国の軍事力は航空機や火器船舶その他の兵器の数を数えれば
簡単に判断できるが、相手国の意図を知るのは、これに比べてずっと困難である。
単に自衛のために軍事力を増強しているのか、征服を目論んでいるかは判断しがたい。
実は、これこそがミアシャイマー説の第三の仮定である。
つまり、「他国の真意を知る事はほぼ不可能だ」と言うことである。
かつてスパルタがアテネに対して、ヨーロッパが皇帝ヴィルヘルムのドイツ帝国と
アドルフヒトラーの第3帝国に対して抱いた、そして現在アジア諸国及びアメリカが
独裁主義的な中国の台頭に対して感じている恐怖の原因はまさに、
国家の意図のこの不透明性と、国家間のトラブルを解決する警察官的存在の欠如なのである。
当然、このような実存的恐怖を感じた側はあ自衛能力の増強に努めるようになり、
その結果、危険な拡大スパイラルが生じる。
これがいわゆる「安全保障のジレンマ」である。
軍拡競争が際限なくエスカレートしたあげく、例えば、オーストラリア皇太子
フランツフェルディナントの暗殺事件が引き金となって第一次大戦が勃発したように、
判断ミスや偶発事件によって実際に戦争が起きると言うのが「安全保障のジレンマ」の
典型的な経過である。