最終更新日 2020年10月20日火曜日 11:44:50
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【米中もし戦わば】035-04日中衝突を防ぐ抑止力としての存在

「アジアのアメリカ軍基地及び同盟諸国は、アメリカ本土の防衛の最前線で

重要な役割を果たしている」と言う論拠は、新孤立主義者は「地球の裏側の話」と

主張するにせよ、経済的な論拠よりははるかに明快である。

この超音速弾道ミサイルの時代にあっては、中国の地下長城のサイドから発射される

にしろ、北朝鮮の丘から発射されるにしろ、今や核弾頭はほんの数10分で

ポートランドにでもミネアポリスにでも、ボルチモアにでも到達する。

戦略・国際、研究センターのマイケル・グリーンは次のように述べている。

太平洋は脅威を防ぐバリアにはならない。

北朝鮮が核兵器を開発しているし、弾道ミサイルも開発している。

今後10年で、その核兵器を弾道ミサイルに搭載しようとしている。

そして、それはヨーロッパを攻撃するためのものではない。

それは、アメリカ西海岸を攻撃するためのものなのだ。

 ゴードン・G・チャンが「アメリカの防衛の最前線はアラスカやカリフォルニアではなく、

韓国や日本なのだ」と書いているが、その通りである。

韓国や日本やオーストラリアやグアムのアメリカ軍基地は、アメリカの

ミサイル防衛システムに共有して知らせる早期警戒システムにおいて重要な役割を果たしている。

これと同様に重要なのが、先制攻撃を受けた場合にアジアの基地から

速やかに反撃できると言う利点である。

この力のおかげで、中国や北朝鮮のミサイルが先に飛んでくる危険は

うんと低く抑えられている。

アジアに基地を持つべき理由は、真珠湾攻撃を思い出せばすぐにわかる。

 10年以上にわたってアメリカ軍のプレゼンスがアジアの平和のために果たしてきた

重要な役割について、新アメリカ安全保障センターのパトリック・クローニン博士は

こう述べている。

アメリカ軍撤退の結果何が起きるのか起きるか考えるときには、

歴史を理解する必要がある。

第二次大戦終結以来、アメリカはアジア太平洋地域の支配的大国だった。

アメリカの存在によってアジア諸国の間の深い歴史的怨恨は表面化しないで済んでいた。

アメリカ軍が撤退すれば、こうした歴史的憎悪や不信感や人種差別や怨恨は

必ず顕在化するだろう。

現在の日中韓、中越間の緊張にはそうした歴史的背景がある。

緊張は存在するが、今のところ抑えられている。

つまり、アメリカ軍のプレゼンスによって、あからさまな衝突を防いでいるのだ。

ゴードン・G・チャンは、アメリカの経済安全保障と国防は不可分の関係にあると言う

重要な事実について次のように述べている。

平和な時代が続かなければ繁栄はありえない。

そして、これまで東アジアが平和と繁栄を享受してきたのは、

アメリカのプレゼンスのおかげだ。

アメリカのプレゼンスがなければ、東アジアの平和と繁栄はありえなかった。

だから、アジア諸国はアメリカのプレゼンスを望んでいるのだ。

だから、彼らはアメリカのプレゼンスを要求しているのだ。

だから、アメリカは、「軍の駐留と安全保障同盟は抜きにして、

アジアとは貿易だけの関係にしたい」とは言えないのだ。

平和と繁栄は不可分の関係だ。

この2つはセットなのだ、平和を繁栄から切り離すことはできない。 

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【米中もし戦わば】035-03、米軍がアジアから撤退したら何が起きるか?

ここ10年以上もの間、中東での戦争で失敗が続き、国内でも、高い失業率や

膨らむ財政赤字を抱えて、アメリカは政治的手詰まり状態に陥っている。

この状況で孤立主義を主張するのは簡単なことである。

だが、根本的な大問題は言うまでもなく、アメリカ軍のアジアからの撤退が

本当に世界平和とアメリカの経済及び国家安全保障のためになるのか、である。

この問題に応えるため、アジアにおけるアメリカ軍のプレゼンスを継続

(と言うよりむしろ強化)すべき理由を、個別に深く掘り下げてみよう。

まずは、雇用と貿易についてである。

21世紀、アジアは世界で最も経済成長率の高い地域になるだろう。

世界人口の60%を要するアジアは通商の要である。

アメリカが力強く成長するためには、その成長の少なくともいくらかは

貿易に依存することになる。

そして、停滞するヨーロッパや貧しいラテンアメリカと比較して、

アジアは地理的には遠くても最高の貿易相手になるだろう。

しかし、結局のところ、「アジアにおけるアメリカ軍のプレゼンスは、

アメリカ経済のために必要だ」と言うこの論拠は、不確定要素に基づいている。

つまり、そのプレゼンスがなくなった時中国がどんな行動に出るかは未知数である。

中国はアメリカの商船がアジア市場に自由にアクセスするのを容認し続けるだろうか。

中国は自由貿易のルールに従うだろうか、それとも、重商主義的・保護主義的な

貿易を拡大し、自国の有利になるように貿易をさらに歪めるだろうか。

重要な原料の域外への輸出を容認するだろうか。

他のアジア諸国と共同で経済圏を作り上げ、アメリカの不利益となる独自の条件で

貿易を行うような事は無いだろうか。

こうした事は、アメリカ軍が実際にアジアから撤退してみないことにはわからない。

そして、中国の出す答えは、アメリカの望むものとは違うかもしれない。

プリンストン大学のアーロン・ブリードバーグは次のようにはっきりと警告している。

中国は、アメリカを排除する地域体制を作り上げるつもりかもしれない。

そのような体制は、他の利害関係を別にしてもアメリカ経済にとって有害である。

だから、この論拠には(少なくとも経済的な次元では)不確定要素が絡んでいる。

確実に言えるのは、中国は歴史的に強い重商主義的傾向を持つ国であり、

アメリカのプレゼンスがなくなればその重商主義がさらに強まるかもしれない、

と言う事だけである。

だから、問題は、「アメリカはそのリスクを犯してまで撤退すべきなのか」と言うことになる。 

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【米中もし戦わば】035-02ルーズベルトも苦慮した孤立主義のイデオロギー

実際、新孤立主義を擁護する方が、アジアにおけるアメリカ軍の強力なプレゼンス維持を

主張して説得力のある論拠を述べるよりも、いろんな意味でずっと簡単である。

 ジョン・ミアシャイマーは、孤立主義の影響力についてこう述べている。

 孤立主義擁護論を過小評価すべきではない。

 介入主義的立場をとる政治指導者があらゆる手段を使って孤立主義を

貶めようとするのは、孤立主義の論理にそれだけ強い説得力があるからだ。

(フランクリン・)ルーズベルト大統領も孤立主義を打ちまかすのにひどく苦労した。

 真珠湾があって初めて打ち負かすことができたのだ。

 孤立主義とは、それだけ魅力的なイデオロギーだということだ。

 例えば、選択肢1の「海上交通路を守るため」と言う論拠について考えてみよう。

 孤立主義者からすぐに帰ってくる答えは、「貿易への依存度なら、

中国の方がアメリカよりも高い。

 そんな国が海上交通路や平和的通商を破壊するはずがない」と言うものである。

 同様に、選択肢2の「アジアのアメリカ軍基地はアメリカ本土の防衛に役に立つ」と言う論拠も、

「アジアとアメリカは10,000キロ余り離れているし、アメリカ本土は

太平洋と大西洋によって西海岸も東海岸も守られている」と指摘されると、

空々しく聞こえてしまう。

 選択肢3の「アメリカ軍がいなくなると、アジア諸国の間で戦争が起きる」と言う

論拠に対しては、孤立主義者は「それで?アジアの事はアジアに任しておけ。

 核爆弾がアジア中に落とされるなどと言う恐怖で脅かしても無駄だ。

 どの国もそんなことをするほど馬鹿じゃない。

違うか?」と言うだろう。

 最後に、選択肢4の道義的責任について言えば、アメリカが超大国として

「世界の警察官」の役割を果たさなければならないことに多くのアメリカ人が

心底うんざりしている。

 そこには、明らかに偽善的なアメリカの外交政策もひと役買っている。

 アメリカがそんなに「道徳的」で「特別」なら、どうしてアメリカは

サウジアラビアといった人権抑圧国家にテコ入れしてるんだ?石油が出るからとか、

そこにアメリカ軍基地を置いておきたいからとかの下心からじゃないか、と

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【米中もし戦わば】035-01、第5部交渉の余地はあるのか?第35章米軍はアジアから撤退すべきか?

問題

アジアにおけるアメリカ軍のプレゼンスを正当化する理由として、

最も適切と思われるものを選べ

①世界で最も急速に成長している地域の海上交通路を守り、

アメリカの雇用を創出する貿易を促進するために、

アメリカの艦船、部隊、基地が必要だから

②オーストラリア、日本、韓国など必要な重要な国々との防衛同盟及び

アジアのアメリカ軍基地が、アメリカ本土への攻撃に対する防衛の

最前線として役立つから

③アメリカがアジアから部隊と艦船を撤退させれば、中国と日本、北朝鮮と韓国といった、

歴史的に対立関係にある国々の間で戦争が起きる恐れが劇的に高まるから

④アメリカには、長期にわたって防衛条約を結んできた、日本、フィリピン、韓国、

台湾といった民主主義国を守る強い道義的責任があるから

⑤ 1 ~4のすべて

⑥どれも適切ではない

新孤立主義、あるいは、単に戦争に疲れたアメリカの納税者にとって、

今挙げた論拠のうち賛成できるものはほとんどないだろう。

新孤立主義者の視点から見れば、(少なくとも米中間の)平和への近道は、

アメリカが艦船と部隊を本国に引き上げて2つの超大国間の摩擦解消することである。

この点について、アメリカン・エンタープライズ研究所のマイケル・オースリンは

次のように述べている。

最近の世論調査で、大多数のアメリカ人が世界中に展開しているアメリカ軍の

プレゼンスの削減を望んでいることがわかった。

これは財政上の負担のせいだけではなく、テロと戦ってきた10年間のどっちつかずの結果や、

さらに正直に言えば、いわゆる冷戦を戦ってきた40年間の結果のせいでもある。

この国は1945年以来、国際秩序をずっと守ってきた。

そして今、アメリカは転換点にあるのかもしれない。

アメリカ人は、「もうたくさんだ。豊かな国は世界中にたくさんある。

 そういう国は自分で自分を守り、近所の無法者に自分で立ち向かったら良いのだ。

 どうしてアメリカが守ってやらなければならないんだ」と感じている。

 中でも特に関心が低いのは、アジア太平洋地域だ。

 アジア太平洋地域はアメリカから遠く、大半のアメリカ人はそこに人種的なルーツも

文化的な結びつきを持っていない。

しかもそこには、アメリカの真の潜在的ライバルである大国がある。

アメリカ人はそんな国と面倒を起こしたくないのだ。 

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【米中もし戦わば】034-04、新たな冷戦時代が訪れる可能性も

短期先がありえないとすれば、セカンドベストな選択肢は2の、

「経済に壊滅的な打撃を与える、明確な勝敗のつかない長期戦」と言うことになるだろう。

つまり、はっきりと決着がつかなかった朝鮮戦争の再来であり、

その後には、新たな冷戦時代が訪れるかもしれない。

こんな気の滅入る選択肢がベストだと言う理由は単に、

選択肢3の「速やかに核戦争に発展する」が論外だからに過ぎない。

この論外の選択肢が現実のものとなり得る理由はと言えば、

第一に、中国の独裁的政府が中国国民から明らかに乖離していることである。

多くの中国問題専門家が指摘し、本書でもすでに述べたように、

中国政府の第一にして最優先の目標は中国国民の福祉の向上ではなく、

中国共産党の権力の維持である。

だから、通常戦争で中国が劣勢になり、このままで政権が持たないと思えば、

共産党指導部は躊躇なく核戦争を選択し、国中に張り巡らされた核シェルターの中で

事態を切り抜けようと考えるかもしれない。

戦争が短期間で終わる事はありえないし、核戦争では無いにしろ、

長期間の通常戦争もそのダメージを考えればやはり論外である。

だからこそ、戦争にならない方法を見つけ出す必要がある。

第五部と第6部で平和への道筋を探ることにしよう。 

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【米中もし戦わば】034-03、米中戦争が短期間に終わる事は無い

これまで述べてきた事実や手がかりや結論から明らかになったのは、

紛争が勃発する可能性はますます高まっていると言うことである。

第4部で潜在的戦場を調査した結果、少なくとも2つの重要な事実が判明した。

その1つ目は、アメリカ海軍とアジアのアメリカ軍基地は中国の攻撃に対して

極めて脆弱であり、適切な「強化、分散、再編」戦略を実行しない限り

脆弱なままだと言う事実であるまた。

また、アメリカが脆弱であれば中国の勝利の見込みはそれだけ高まるから、

アメリカの脆弱性が中国の攻撃を誘発すると言う側面もある。

2つ目は、中国の攻撃へのアメリカの対応策としてエアシーバトルと

オフショア・コントロールと言う2つの戦略が考えられるが、

そのどちらにも中国を確実に阻止する力はないと言う事実である。

どちらの戦略にも厄介な問題があり、成功の保証はどちらにもない。

こうした状況を踏まえた上で本書の冒頭の問題に立ち戻り、

アジアで通常戦争が起きた場合に「勝利」がどのようなものになるかを考えてみよう。

3つの選択肢(1短期戦、2長期戦、3核戦争)のうち、最も望ましいものは言うまでもなく

1の短期戦である(もっとも、仮に中国が勝者になった場合世界はどうなるかと言う

疑問が生じる)。

ただ問題は、選択肢1の、世界経済にほとんどダメージを与えないため、

短期先で勝敗がはっきり決まる戦争と言うものは、3つの中で最も実現の可能性が

低いと言うことである。

それはなぜか。

まず、米中両国が戦争遂行のための莫大な資源を有する大国だと言う基本的事実がある。

戦争が通常の戦争の枠内で収まるとすれば(大いに疑問ではあるが)、

両国は通常兵器で長期間、互角の戦いを続けるだろう。

だから、開戦直後に勝利宣言を行えるはずだなどと、

ジョージ・W・ブッシュ大統領のように思い込んだりしてはいけない。

アメリカのような大国がアフガニスタン戦争やイラク戦争やベトナム戦争といった

はるかに小規模の戦争で10年以上も泥沼にはまったことを考えてみれば、

中国のような強大な国を短期間で打ち負かせるなどと言うのはありえない話である。

もちろん、中国も短期間でアメリカに勝てるはずはない。

短期戦は幻想に過ぎないが、どちらかが抱いた時はそれは非常に危険な幻想になると

言わざるを得ない。

というのも、どちらか一方が短期決戦で処理できると考えれば、

その国が戦争を仕掛ける可能性は劇的に高まるからである。

残念なことに、この短期決戦幻想こそまさに、エアシーバトル・ドクトリンを

下支えしている類の幻想なのである。

この幻想のシナリオの中で、攻撃を仕掛けてくるのは中国の方である。

アメリカは驚異的な技術力に物を言わせて、中国の指揮系統システムを

ノックアウトし、ミサイル発射装置を破壊し飛んでくるミサイルを全て迎撃し、

速やかに中国を屈服させる。

同様に残念なのは、中国の権力機構内部にもこれと同じ短期決戦幻想を抱いている

グループが存在するかもしれないことである。

このところ、中国軍人の論文や中国政府のプレスリリースなどいたるところに、

「中国の軍事力はますます巨大になり、いずれ日本やアメリカなどの強豪国を

迅速かつ決定的にノックアウトできるようになる」といった論調が見られる。

アメリカ国防総合大学のT・X・ハメス教授は歴史上の有名な事例を挙げ、

このような自信過剰の危険性について述べている。

 最新式の兵器を多数保有してはいるが、30年以上もの間大きな戦争を経験しておらず、

戦争の悲惨さを忘れてしまっている中国軍にとってはこのような傲慢さは

特に危険だとして彼は次のように述べている。

軍当局者は「戦争は長引く」と正直に言うべきだ。

 短期戦などと言うものはありえない。

 第一次大戦を思い出してみると良い。

 当時、ドイツは戦略的な問題の悪化に直面していた。

 その時、軍部が発言した。

 「大丈夫、そんな問題は一掃できる。2~3ヶ月で方がつく」。

もしも、「戦争は4年続き、百万人が戦死し、経済は破綻する」と言っていれば、

(ドイツ)政府は「いや、結構!」と答えただろう。

中国指導部の現在の状況はこれとよく似ている。

 彼らは短期決戦で勝利を手にすることができると信じているのかもしれない。

 この点について、アメリカ海軍大学のトシ・ヨシハラ教授は、アメリカが中国に、

「短期決戦で勝利を収め、そのまま勝ち逃げできると思うのは大間違いだ」と言う

強いメッセージを送ることが重要だと述べている。

 抑止力を高め、戦争を回避するには、長期戦の悲惨さを中国にわからせることが

非常に有効だ、と彼は言う。 

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【米中もし戦わば】034-02、東シナ海と南シナ海の支配を目指す中国の「積極的防衛」

こうした無数の紛争が実在すること自体には疑いの余地は無い。

 これについては、客観的な証拠がある。

 だが、中国の拡張主義がアジアの覇権国になるための攻撃的行動なのか、

それとも単に自国の通常路の保護と国土防衛と言う正当な防衛行動なのかについては、

甚だしい見解の相違が存在する。

中国側の視点から見れば、中国の行動は自らの「積極的防衛」主義の実践に他ならない。

「積極的防衛と言うプリズムを通して、中国は、東シナ海と南シナ海の支配を、

そして、おそらくはアルナーチャラム・プラデーシュ州の支配をも、

天然資源問題と「マラッカ・ジレンマ」を解決するための手段とみなしている。

アメリカ軍を追い出し、東シナ海と南シナ海を支配すれば、中国の海岸線と領土を

防衛する能力も大いに高まることになる。

だが、中国の脅威にさらされている国々の目から見れば、

中国の行動は「積極的」かどうかを問わず、とても「防衛」と呼べるものではない。

中国の全方位的進出はあらゆる意味で攻撃的行動にしか見えない。

戦略・国際研究センターのシニアアドバイザー、ボニー・グレーザーは、

この感じ方の大きなズレを次のような率直な心理分析によって見事に言い表している。

中国は他国の身になって考えないから、中国と言う国とその行動を他国が

どう見ているかを理解しない。

これこそ、中国が抱えている問題だと思う。

私が中国をよく自閉症国家と呼ぶのはそのためだ。

自分の行動が近隣諸国をどれほど怖がらせているか、中国には理解できないように思われる。 

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【米中もし戦わば】034-01どんな「勝利」が待っているのか?

問題

米中間で通常戦争が勃発した場合、最も可能性が高いと思われる結末を選べ。

①通常戦争が戦争に発展する事は無い。

どちらが開けて的な勝利を収め、戦争が非常に短期間で終わる。

世界経済が受けるダメージが比較的小さい

②通常戦争が戦争に発展することはないが、戦争は非常に長期間続き、

どちらかが明確な勝利を収めることもない。

中国経済とアメリカ経済だけではなくだけでなく、世界経済もかなりのダメージを受ける

③そのような通常戦争は必ず、速やかに核戦争へと発展し、悲惨な結末を迎える

第4部を締めくくるにあたって、まずはここで一旦立ち止まって

これまでわかったことを簡単にまとめておこう。

その後、本書の冒頭の問題について考えることにする。

 そう、われわれは皆、1が正解であって欲しいと言う一縷の望みをすてていない。

 まず中国の真意についてだが、中国が、少なくともアヘン戦争以前の事まで持ち出して

領土と東シナ海・南シナ海の海洋権益を拡大しようとしているのは明らかである。

同様に、中国のこうした報復主義的行動が、日本、フィリピン、ベトナムといった

近隣諸国との紛争の原因であることも明らかである。

これより規模は小さいがインドネシア、マレーシアとの間にも紛争を抱えている。

さらに中国は、航行の自由と上空通過の自由を強引に制限しようとしている。

 この強引な動きも、アジア地域での軋轢を生む原因となっている。

 それから中国はインドのアルナーチャル・プラデーシュ州(中国側の呼称は

「南チベット」)にも領土的野心を抱いている。

インドのほうも、現在中国が実効支配しているアクサイチンに対する領有権の主張を

放棄していない。 

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【米中もし戦わば】033-05中国本土への報復攻撃を選択肢から外してしまうのは得策ではない

これまで2章にわたって、エアシーバトルとオフショア・コントロールと

比較検討してきたが、どちらを選択すべきは本当に難しい問題である。

この難しい選択について考えているとその複雑さのあまり

本質を見せ見失いそうになるが、最も重要なのはおそらく次の点だろう。

エアシーバトルは、核戦争へとエスカレートする最速の道かもしれない。

仮にそれが起きた場合、被害は計り知れない。

だがその一方で、これには中国本土を聖域にさせないと言う利点がある。

だから、中国本土への報復攻撃を選択肢から完全に外してしまうと言うのは得策ではない。

中国側の不安が抑止力になるかもしれないからである。

アメリカ海軍大学校のトシ・ヨシハラ教授はこの点について次のように述べている。

アメリカが中国に「わが同盟国内のアメリカ軍基地は攻撃してくれて差し支えない。

中国本土は原則的に聖域とする」といったとしたら、いったい中国側は、

それをどう受け取るだろうか。

それは何も、こちらが攻撃されたら、即、中国本土を徹底的に攻撃しろと言う意味ではない。

だが少なくとも、中国人の心の中に若干の不安が残る程度の戦略的曖昧さを維持する

選択肢を残しておく必要がある。

こちらの態度が曖昧であればあるほど、中国は警戒心を抱けば抱くほど、

抑止力が強まる。

このような意見を聞くと、「それなら、中国の攻撃の対処法として、エアシーバトルと

オフショア・コントロールを並行して使うと言う戦略がありだろうか」と言う疑問が湧いてくる。

この問題については、平和への道筋について考える第五部以降で改めて取り上げることにする。

さしあたっては、「どちらの戦略にも利点はあるものの、それぞれに落とし穴も

あるから、落とし穴に落ちるのを避けるためには最初から紛争を防ぐのが1番だ」と言う。

これは非常に難しい注文ではあるが、少なくとも平和への道を探るために

われわれは全力を尽くさなければならない。

とはいうものの、第五部以降で「平和への道筋」について考える前に、

まずは、仮に戦争が突然戦争が実際に勃発した場合に「勝利」とはどんなものになるかを

分析し、第4分の締めくくりとしよう。

その分析結果は必ずや中国との軍事衝突を避ける道をなんとしても見出そうとする

究極のモチベーションとなるはずである。 

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【米中もし戦わば】033-04、海上封鎖戦略の5つの問題点

ハメスの主張には確かに説得力があるが、エアシーバトルと同じように

オフショア・コントロールも潜在的な問題点には事欠かない。

第一に、中国は現時点では封鎖戦略に対して脆弱かもしれないが、

中国の指導者も当然その脆弱性を理解している。

中国は、エネルギーや輸出入品を輸送するための海上ルートに代わる

陸上ルートを急ピッチで開発している。

 例えば「マラッカ・ジレンマ」を回避すべく、中国はベンガル湾内のチャウピュー港

(ミャンマー)雲南省昆明を結ぶ石油及び天然ガス・パイプラインを建設した。

 また、同様のリスクヘッジ策として、ユーラシア大陸横断する航空路、道路、鉄道、

パイプラインのネットワーク構築を進めている。

海上封鎖の影響を全く受けない「新シルクロード経済ベルト」を

形成しようとしているのである。

 この新シルクロードはすでに、新疆ウィグル自治区とトルクメニスタンや

ウズベキスタンといった中央アジアの国々と結んでいる。

それと同時に、モスクワ経由で北京とハンブルク(ドイツ)を結ぶ鉄道も既に完成している。

これによって、中国の輸出品の輸送時間は海上輸送の場合の丸5週間から

わずか21日間まで短縮された。

オフショア・コントロールの第二の問題点としては、次のような愕然とする現実がある。

アメリカ海軍の艦艇は中国のミサイルの届かない遠海に出ればいいとしても、

日本や韓国やグアムにあるアメリカ軍基地はミサイル集中攻撃の格好の標的として

取り残されてしまう。

そのような猛攻撃に直面した場合、アメリカの政治指導者や軍司令官としては、

エアシーバトルのような中国本土への反撃を我慢することは難しいだろう。

反撃しなければ、基地の海軍・後方支援能力は深刻なダメージを被るだろうし、

そうなれば第一列島線以東に「立入禁止区域」を設ける事は不可能になってしまう。

そして、その時点でオフショア・コントロールは崩壊してしまう。

 第3の問題点は、ハメスも認めているように、封鎖が中国の経済政治情勢に

望ましい影響を与えるまでにはかなりの時間がかかるだろうと言うことである。

 この根比べの間、オーストラリア、日本、韓国といった、封鎖に参加する主要同盟諸国も

アメリカも凄まじい経済的打撃を受けるだろう。

中国に代わる貿易相手国はいずれ見つかるし、それにつれて国際貿易は回復すると

ハメスは主張するが、核保有国である中国が世界市場からの排除を長期にわたって

容認するとは考えにくい。

さらに言えば、アメリカつの同盟国が一致団結してオフショア・コントロールを

やり抜けるかどうかさえ疑わしい。

例えば、韓国やオーストラリアは自国の経済を犠牲にしてまで台湾の独立を

維持しようとするだろうか。

同様に、アメリカが同盟国フィリピンを支援することになった時、

日本はアメリカに味方するだろうか。

アメリカ海軍大学校のジェームス・ホームズ教授はこの問題について次のように述べている。

 長期にわたる経済戦争は諸刃の剣だ。

 経済戦争が長引けば、敵だけでなく味方も疲弊する。

 外国との貿易で生計を立てている自国民については言うまでもない。

 各人の経済的利益が損なわれているときに国民と同盟諸国を一致団結させておくのは

控えめに言っても難題だ。

そしてこれこそが真のアキレス腱かもしれないオフショア・コントロールの

最後の問題点として、封鎖と言う持久戦はかえって中国に既成事実への道を

開きかねない、と言う不愉快な真実を上げておかなければならない。

かなりの人命や資産が失われ、世界経済が崩壊寸前に追い込まれれば、

アメリカも足並みのそろわない同盟諸国も、台湾にしろ、日本の尖閣諸島にしろ、

フィリピンのセカンド・トーマス礁にしろ、インドのアルナーチャル・プラデーシュ州にしろ、

ベトナムの石油・天然ガス採掘権にしろ、戦争の原因となったものは何であれ、

それを中国にくれてやってでも戦争を終わらせようとするであろう事は想像に難くない。

特に台湾に関しては、その占領に1度成功すれば、いわゆる「離反した省」を

中国が明け渡すとはとても考えられない。 

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