最終更新日 2020年10月9日金曜日 12:18:22
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【米中もし戦わば】028-01、第20章、地方官僚の暴走

問題

中国政府の政策決定について正しく述べている記述を選べ。

①中国政府は、中国共産党の支配する一枚岩的な独裁組織である。

 トップダウンで行われた決定は上意下達され、官僚、軍人、産業関係者によって

忠実に遂行される

②中国政府も中国共産党も民主的な組織ではないが、官僚、産業、郡、地方からの

幅広い利権圧力の影響を受けている。

 この「派閥の弊害」が、エスカレーションの危険が高いボトムアップの行動や

決定につながる恐れがある中国のポピュラーなイメージは1の「一枚岩的な独裁組織」だが、

中国全土を自分の足で歩いてつぶさに見てきたアメリカ平和研究所の

ステファニー・クライネ・アールブラントのような長年の中国通は、

2の記述のほうが現状により近い可能性があると指摘している。

 もしこれが真実であれば、それは平和にとって憂慮すべきニュースである。

 というのも、アメリカ流の「派閥の弊害」(アメリカ第4代大統領

ジェームズ・マディソンの共著書「ザ・フェデラリスト」中の言葉)によって

動かされるボトムアップの中国政府の方がはるかに無謀で、

はるかに交渉や説得がしにくく、結局のところ、命令系統のしっかりした

トップダウンの独裁的政府よりもはるかに付き合いにくいからである。 

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【米中もし戦わば】027-04、ナショナルナショナリズムに火つけ、国内問題から目をそらさせる

中国の社会不安を煽っている問題は、農民や労働者の経済的欲求のほかにもたくさんある。

 中国では毎日500件以上もの抗議行動や暴動やデモが起きている。

 こうした騒動を引き起こしている問題は、深刻な大気汚染や水質汚濁、

農民の強制移住、有害食品スキャンダル、時限爆弾的な人口問題など多岐にわたっている。

例えば大気汚染問題について言えば、世界で最も大気汚染が深刻な20都市のうち16が中国にある。

 また、河川も湖も水も海もありとあらゆる有害物質に溢れ、

「13億の人口ののうち9億8000万人が何らかの物質で汚染された水を飲んで生活している」。

 時限爆弾的な人口問題について言えば、中国は経済成長を上回る速度で

高齢化しているとこれまで何度も指摘されてきた。

 中国の年齢中央値は、1980年には、若い発展途上国の古典的定義とされる22歳だった。

ところが2050年までには、年齢中央値は悪評高い「一人っ子政策」のおかげで

その2倍以上になると言う(この政策は、最近になって緩和された)。

 人口問題の時限爆弾が生み出している社会的混乱について言えば、若い現役世代は、

高齢者の健康保険や年金を負担したくない、あるいは負担しきれないと考えている。

 ヨーロッパや日本やアメリカも同様の問題に直面しているが、

中国の問題の方がはるかに社会不安に直結しやすい性格をはらんでいる。

国内問題が激化している原因として、反体制派の数自体が、収容人数が多いことで

知られる中国の刑務所がお手上げになりそうなほど増加していることも挙げられる。

 反体制派に含まれるのは、民主化を求める政治的グループ、信仰の自由を求める

宗教的グループ、一人っ子政策に強く反発する妊娠中絶反対派、人権活動家などである。

 これらに加えて、中国政府からありとあらゆる虐待を受け、

文化的ジェノサイドの犠牲になっているチベット人やウイグル族の民族問題もある。

 中国政府は、中国の御用メディアが「またしても中国に屈辱を与えようとしている

大悪党」に仕立て上げてきた多くの国々のどこかとの陽動作戦をでっち上げ、

こうした問題から国民の目をそらさせようとするかもしれない。

 だが、ナショナリズムの高まりには次のような問題がある。

一旦国民のナショナリズムに火をつけてしまうと、領海や国境線といった問題で

仮想敵国と妥協することがそれだけ困難になるのである。

 少しでも妥協すれば、外交として今度は国民からの非難にさらされることになる。

だから戦争でっち上げる作戦が本物の戦争につながる危険は決して小さくは無い。

 アメリカを含めた関係諸国のほうもそれぞれの国内事情を抱えていることを考えれば、

陽動戦争を始めるのが必ずしも中国とは限らない位である。 

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【米中もし戦わば】027-03、10億人以上の中国人は貧困に苦しんでいる

独裁制には、陽動戦争勃発の危険性を増大させる重要な要因がもう一つある。

民主主義国なら、国民には投票によって平和的に「悪党を追い出す」チャンスがある。

 だが、独裁国家では、悪党を管理するのは悪党人だから、往々にして

腐敗と横領がはびこることとなる。

誤解のないように、そして公平のために言えば、中国の為政者はたとえ国民の支持を

取り付けるためだけだとしても、国の安全と繁栄を保障しようとする強い動機を持っている。

だが、中国共産党員は、権力を利用して私腹を肥やすと言う抗し難い誘惑にも直面している。

中国が前代未聞の経済成長を謳歌するとともに腐敗もはびこったのは、

おそらくそのためだろう。

現在、中国は世界の腐敗大国ランキングで常にトップクラスである。

収入格差が激しくなるにつれて国民の間で政治に対する不満が高まっているが、

その少なくとも1つの大きな理由がまさにこの腐敗の激しさである。

最上位5%の世帯が全世帯収入の25%近くを得ている一方、最下位5%の世帯の収入が

全世帯収入に占める割合はわずか0.1%に過ぎない。

70年足らずの前に発足した時は富が平等に分配されていたはずの国で

このようにいびつな収入配分が行われている事は特に注目に値する。

現代の中国は、基本的に3つの経済階層に分かれている。

最上層は「スーパーリッチ」である。

アメリカのいわゆる「ワンパーセント」に相当するこの階層に属している中国人は数千人。

その内訳は共産党の大物幹部と、党員の銀行口座残高を潤沢にしている大物経営者

大物企業家である。

第二層は、奇跡の経済成長の恩恵に預かることができた裕福なミドルクラスである。

推計によってかなりのばらつきがあるが、この階層に属する中国人は

1億人から2億5000万人と考えられる。

そのほとんどが豊かな沿岸部に居住している。

中国の中間層の人口は、非常に印象的だが、14億と言う総人口と比較すると

そうではないことがわかる。

中国の経済革命が豊かさを生み出した事は紛れもない事実でも10億人以上の中国人は

今も貧しいままであり、そのうちの5億人以上は自給自足的農村で文字通り

赤貧の生活を送っている。

農村の不満を煽っているのは、この極端な貧困だけではない。

産業振興のために力ずくで土地を収奪しようとする中国共産党幹部の強欲な行動も

農民の不満をかき立てている。

ガーディアン紙は、百万件以上の不法な土地収奪事件が中国政府自身によって

報告されているとして、その手口を次のように述べている。

警察やヤクザが農民を土地から追い出すために暴力に訴える場合、

それは凶器を持った強盗の行為と大差ないことがある。

これよりさらに多いのが詐欺的な収奪である。

開発業者から賄賂を受け取った地方の役人は、十分な保証するからど農民をだますのである。

貧しい農民たちが都市に流入することによって農村の反乱は防止されるかもしれないが、

このような大量移住と2035年までに70%に達すると予想される急速な都市化は、

農村の反乱とは全く違う種類の、すなわち現在中国の劣悪な労働環境に対する、

古典的に純粋なマルクス主義的「労働者革命」につながる恐れがある。

中国には、劣悪な労働環境に耐えながらカツカツの生活を送っている労働者が既に数億人いる。

支配者層や中間層がBMWやロレックスなどを新たに手に入れた富を誇示しているのを見て、

彼らは嫉妬と羨望を募らせている。

したがって、安定と平穏を求める中国共産党にとって、平和と繁栄の道として

産業化をしゃにむに推し進めることが最上の戦略とは限らないと言うことになる。

 しかし、共産党指導部にとって、経済成長の鈍化、あるいは後退な反政府運動に

つながる事はたやすく想像できるはずである。 

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【米中もし戦わば】027-02中国共産党の目標は中国の存続ではなく、共産党支配の存続である

正解がわかったところで、次の問題に移ろう。

この世の戦争論は中国に、ひいてはアジア全体に当てはまるだろうか。

もし当てはまるとすれば、中国の反政府運動や社会不安が戦争の被害になる場合も

あると言うことである。

それでは、少なくとも複数の中国通が憂慮している陽動戦争の可能性について

検討してみよう。

彼らの論拠の出発点は、「中国は、選挙を経て選ばれたわけではない、

つまり、正当性を持たない中国共産党によって支配されている国だ」と言う見解である。

事実、中国と言う人口14億人の国は、基本的に互選によって選ばれた

およそ2500人の共産党員によって支配されている。

さらに肝心なことを言えば、中国共産党が政権を掌握していられるのは

国民に幅広い支持や求心力のあるイデオロギーのおかげではなく、

世界最大の軍隊や警察力のおかげである。

求心力のあるイデオロギーと言うことを言えば、1970年代の経済革命前は、

共産主義と言うイデオロギーが国民を1つにまとめる接着剤の役目を果たしていた。

だが、経済革命によって共産主義を放棄して以来、イデオロギーよりもずっと単純で

しばしば残酷な、極めて中国的な性格を帯びた独裁主義が中国を支配するようになった。

 求心力なるイデオロギーが存在しなくなると、国を1つにまとめる力として

ナショナリズムが利用されるようになる。

そして、そのナショナリズムを助長し掻き立てるには、

外部に適役をこしらえるのが1番の上策である。

まさに「ウワサの真相-ワグ・ザ・ドッグ」と同じ展開だ。

中国国民の敵になりそうなのは、中国の御用マスコミ流の言い回しを使えば、

過去を反省する再び軍国主義化する日本、南シナ海に浮かぶ中国固有の聖なる島々を

占拠しようとしている野蛮なフィリピン、中国の領海から石油と天然ガスを

盗み取っている裏切り者ベトナム、そしてもちろん、中国の領土を分割しようとしている

悪辣な米帝、などである。

 こうした状況の潜在的な危険性は、中国自身の持つ独裁主義的性質によって

一層拡大している。

少なくともアーロン・フリードバーグやマーク・ストークスらの意見によれば、

中国共産党の目標は中国そのものの存続ではなく、もっと単純に共産党自体の存続である。

 だとすれば、自分たちの権力が脅かされた場合には、その脅威を取り除くためなら

共産党指導部は国民を危険にさらすことも意に介さないだろう。 

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【米中もし戦わば】027-01、第27章火のついたナショナリズム

 問題

反政府運動や社会不安によって不安定になった国家外国と戦争を始める理由として

考えられるものを選べ。

①外部の敵に対する戦争によって、現政権への支持が増すかもしれないから

②戦時体制を利用して、反政府運動の抑圧を正当化できるかもしれないから

③外国との戦争によって、現政権に対する国民の不満をそらせるかもしれないから

④対外的な脅威によって国民の愛国心が高まり、現政権の下で国が

1つにまとまるかもしれないから

⑤ 1 ~4のすべて

「ウワサの真相-ワグ・ザ・ドックカフェ」は、

アメリカ大統領のセックススキャンダルもみ消し騒動を描いたコメディー映画である。

再生を目指す現職大統領が、選挙戦真っ最中にセックススキャンダルに巻き込まれる。

これでは再選が危ういと、大統領の政治顧問がハリウッドの映画監督を雇い、

メディアように架空の戦争の映像を撮影させる。

すると、果たして国民は勇敢な大統領の下に、一致団結する、と言うストーリーである。

さて、この映画を地で行くような出来事がアメリカで実際に起きている。

ビル・クリントン大統領は、セックススキャンダルの最中に、しかも不思議なことに

「ウワサの真相-ワグ・ザ・ドック」を見た後、三度も軍事作戦を命令した。

最初は、妙齢のホワイトハウス実習生と肉体関係を持ったことを認めてから

わずか3日後の、アフガニスタン及びスーダンへのミサイル攻撃、

2度目は、議会で大統領弾劾が話し合われていた中でのイラク空爆、

3度目が、上院での弾劾をかわした直後のセルビア空爆である。

空爆の最中、セルビア国営放送は「ウワサの真相-ワグ・ザ・ドック」を放映して

クリントンを皮肉った。

「ウワサの真相-ワグ・ザ・ドック」は架空のコメディーだが、

「政権の内憂が、戦争と言う外患の引き金を引く場合がある」と言う

この映画のロジック自体はれっきとした国際関係理論として認められている。

(「陽動外交政策」とか「陽動戦争」などと呼ばれている)。

この理論の提唱者たちによれば、本書の冒頭の問題の正解は5の「1 ~4の全て」である。 

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【米中もし戦わば】026-04インドに流れる水の水源地帯を中国は支配している

こうしたぞっとするような事実に加えて、さらに次のような背筋の寒くなる現実がある。

 力ずくでチベットを領土に加えたことによって、今や中国はインドの水資源地帯の多くを

支配しているのである。

チベット高原は、「極地方の氷に次ぐ、世界最大の淡水の貯水所」であり、

タイ、ラオス、カンボジアを通ってベトナムで海に注ぐメコン川や、

ミャンマーを流れる川など、いつものアジアの大河の源流となっている。

 チベットと言う「世界の給水塔」を中国が支配していることが、

実際にどのように戦争につながっていく恐れがあるのだろうか。

インドを流れるブラフマ±虎川の水量の実に60%にあたる水の流れを変えて、

水量が減り続けている黄河に引き込みたいたいと言う中国政府の厚かましい提案に、

インドは不安を募らせている。

川の流れをこのように変えることがどれほど甚大な損害を与えるかをイメージし、

それが戦争の火種としての、アルナーチャル・プラデーシュの重要性と

どう関わってくるのかを理解するために、まず地理を把握しておこう。

現在、ヒマラヤのカイラス山脈からチベットを東およそ3000キロ流れ、

チベットとアルナーチャラム、との国境のすぐ北にあるその名も「大きなカーブ」を

意味するグレートベンドに到達する。

 ここでブラフマプトラ川は急カーブを描いてUターンしてアルナーチャル・プラデーシュを

西へ向かって流れ、インドの聖なるガンジスと合流してから最後は

バングラディッシュでベンガル湾に注ぐ。

 中国が本当に年間2000億立方メートル注ぎ込むように

ブラフマープトラ川の流れを変えてしまったら、それはインドの環境及び経済に

大打撃を与えるだけではなく、インドの川下のバングラディッシュにも

大激変をもたらすだろう。

この恐ろしい現実から、中国がアルナーチャル・プラデーシュを中国領だと

言い募るもう一つの、おそらく最も重要な理念が見えてくる。

つまり、威圧か武力によって「南チベット」を中国領とすることができれば、

中国は、ブラフマプトラ川からの分水に抗議するインドに対して

強気な態度に出ることができると言う理由である。 

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【米中もし戦わば】026-03、水不足の危機に直面してるインド

これと似た戦略的次元をもう一つの領土紛争が、インドが実効支配する

アルナーチャル・ブプラデーシュ州の問題である。 

オーストリアほどの大きさの、この「朝日に輝く山々の国」はインドの北東端に位置し、

西はブータン、東はミャンマーと国境を接している。

 北隣はチベットだ。

 中国側があるアルナーチャル・ブラデーシュを「南チベット」と呼ぶ所以である。

 1962年の中印戦争終結以来50年以上にわたって、

中国軍は定期的にアールチュアル・プラデーシュへの極めて挑発的な侵入行為を

繰り返している。

 インド側の戦略と言う観点から見れば、この東の玄関口を奪われれば、

第二の進入路を中国に提供することになってしまう。

 つまり、入り口も軍事施設も多い雲南省を発し、ブラフマプトラ谷を抜けて

インドに侵入するルートである。

だが、この紛争をこれほど激しいものにしているのは、軍事戦略と安全保障問題だけではない。

最近、アルナーチャル・ブラデーシュは、技術革新のおかげで抽出可能になった

シェールオイルの宝庫だと判明したのである。

 しかし結局のところ、中国がアルナーチャル・ブラデーシュを狙っている本当の目的は、

多くのアナリストが見落としてる水利権かもしれない。

その理由を知るために、中国とインドの水利権争いについてもっと詳しく見てみよう。

 水のようにありふれたものをめぐって戦争が起きると言うのは、多くの人にとって

想像しにくいことだろう。 

だが、歴史を注意深くひもといてみると、唯のH2Oが実に様々な紛争の源に

なってきたことがわかる。

 例えば、1898年、フランスの遠征隊がイギリスの植民地エジプトよりも川上の、

白ナイルの源流を支配しようとしたことから、

両国はもう少しで武力装置衝突しそうになった。

1978年青ナイルにダムを建設したいと言うエチオピアの厚かましい申し出に対して、

エジプト大統領アンワル・サダトはこう警告した。

 我々エジプト人は100%、ナイル川に依存して生きている。

 だから、我々から生命を奪おうとするものがいれば、どんな時でも躊躇せず

戦いに打って出る。

 本書の文脈に当てはめれば、分水プロジェクトは特に「戦争の引き金になりやすい」と言える。

 例えば、1967年の第三次中東戦争の背景には、エジプト、ヨルダン、シリアによる

ヨルダン川源流の分水の陰謀があった。

中印間に水戦争が起きる可能性がある事は、少し考えてみればはずである。

 中国とインドの人口は世界人口の40%近くを占めるが、

両国がアクセスできる水資源は、世界の水資源の10%に過ぎない。

 加えて、公害が中国の水不足をさらに悪化させている。

 湖や河川の多くは汚染が激しく、河川の40%が飲用に適さない。

 インドも似たり寄ったりの状況である。

 農業に大きく依存しているこの国は、世界銀行の予想によれば、

2025年までに「水不足」に、2050年までには「深刻な水不足」に陥ると言う。 

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【米中もし戦わば】026-02、チベットと新疆ウイグル自治区で急速に進む軍備増強

アクサイチンには、インドのジャムカシミール自治州の東端に位置する、

スイスとほぼ同じ大きさの地域である。

中国が実効支配しているが、インドも領有権を主張している。

この事実上無人の高地は中国にとって、その領土の最西端の新疆ウィグル自治区と

チベットを結ぶ重要な南北輸送路であり補給先である。

新疆ウィグル自治区のイェチェンからチベットのラツェまで1500キロ以上にわたって

伸びているこの重要な輸送路(正式名称は中国国道219号線)は、

アクサイチンをまさに貫通している。

中国の策を弄して1950年代半ばに建設したこの道路がインド側の怒りに火をつけ、

1960年の中印戦争の引き金になった。

皮肉なことに、インドの初代首相ジャワハール・ネルーは1950年代初め、

当時は世界から正式な中国とは認められていなかった中華人民共和国に肩入れしていた。

1954年にネルーは「インドと中国は兄弟だ」とのスローガンを掲げ、同年4月、

中印両国は相互不可侵条約を締結した。

その際ネルーが中国側に、アクサイチンがインド領に含まれている辺境地域の地図を

贈呈したのに対して中国外相・周恩来は、中国はこの山がちの飛地やインドの

その他の領土に何の下心も抱いてないと断言した。

この確約にもかかわらず、中国は早くも1956年にアクサイチン横断道路の建設を開始した。

 1958年、中国は公式地図にアクサイチンを中国領として記載し、

危機をさらにエスカレートさせることになる。

アクサイチンに既成事実を設けることによって、領有権の主張を

法的に強化しようとしたのである。

すでに見てきたように、この手の「法律戦」や「地図戦」は今では、

領有権を主張するときの中国の典型的なやり方だが、当時は斬新な手法だった。

1962年にインドがアクサイチンのために戦争も辞さなかった理由について、

カーネギー国際平和基金のアシュレー・テリスは、アクサイチンはインドの

「西の玄関口」として戦略的に重要な場所だからと述べている。

中国はチベットから平和的に北進して新疆ウィグル自治区へ移動するかもしれないが、

南西に方向を帰ればインドに進軍できることも事実である。

だから、インドはアクサイチンを進入路として非常に警戒している。

中国軍がそこを経由してジャームカシミール州に侵入し、

そこから南進してインド本土に侵攻してくることを恐れているのである。

ニューデリーからアクサイチンまでの距離は、ワシントンDCからボストンまでの

距離ほどしかないため、中国が過去数十年間にチベット及び新疆ウィグル自治区で

急速に軍備を増強している事はインドの懸念材料になってきた。

インドの戦略上の懸念が正しいかどうか判断する上で、

ヒマラヤ山脈が歴史的に中印間の、ほとんど越境不可能な天然の障壁に

なっていたと言う事実に留意する必要がある。

だが、現在では、中国軍は空陸共同作戦によってこの障壁をたやすく超えることができる。

インド亜大陸への中国の脅威が増している理由は、チベットと新疆ウイグル自治区に

50万人もの兵士が駐留し、中国陸空軍の舞台として最新鋭機で溢れかえっているから

だけではない。

すべての近代的な軍事規格の道路網も、中国軍の脅威を増大させている。

56,000キロにわたって張り巡らされたこの道路網が、

アクサイチンの地上侵攻ルートに合流している。

チベット及び新疆ウィグル自治区から陸路インドへ侵攻した場合に必要になる、

航空支援能力を中国が増強していることも、インド側は深刻に受け止めている。

さらに、新疆ウィグル自治区には、世界最大の核兵器・弾道ミサイル実験場がある。

馬欄にある核実験施設だけでも、25万平方キロメートル以上の面積を占めているのだ。

一方チベットには、ガルグンサ、ゴンガル、ホピン、リンチ、パンタの五箇所に

戦略上重要な飛行場がある。

これらの基地には戦闘機及び爆撃機とともに巡航・弾道ミサイルが配備され、

その数は次第に増加している。

アシュレー・テリスはこう述べている。

弾道ミサイルと言う点で中国とインドの差は歴然としている。

中国の弾道ミサイル保有数を数える単位が100であるのに対して、

インドのそれはダースである。

ミサイル保有数でも性能でも、中国はインドを遥かに上回っている。

つまり、インドの中核地域に脅威が及ぶ可能性が非常に高いと言うことになる。

この脅威の戦略的中心には、中国によるアクサイチンの実効支配である。

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【米中もし戦わば】026-01、第26章水不足のインド

問題

次のうち、中印戦争の引き金となる可能性が最も高い事案を選べ。

①アクサイチンやアルナーチャル・プラデーシュをめぐる国境紛争

② 中国がインドの宿敵パキスタンに核兵器や通常兵器を供給している問題

③インドがダライ・ラマをかくまっていることなど、中国の人権抑圧的な

チベットを支配に関する問題

④水資源をめぐる争い

⑤ 1 ~4のすべて

これは、正解を1つに決めかねる問題である。

 現時点では、正解に最も近いのは1の「国境紛争」か2の

「一触即発のパキスタン問題」だろう。

しかし、3の「チベット問題」は中印関係を長年ギクシャクさせてきた元凶だし、

常に深刻な水不足に悩まされている両国で水資源が将来ますます枯渇して

いくだろうことを考えれば、4の「水戦争」は今後数十年でトップに躍り出るだろう。

 と言うわけで、本章冒頭の問題の正解は5の「1 ~4のすべて」と言うことになる。

それではまず、アクサイチンとアルナーチャル・プラデーシュをめぐる

国境紛争について見ていこう。

 1960年の中印戦争の舞台となったのも、これら2つの戦略上重要な地域だった。 

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【米中もし戦わば】025-04、領海外で米艦船を取り囲んだ中国の民間船

もちろん、中国が脅かそうとしているのは上空通過の自由だけではない。

 公海の航行の自由をめぐっても数々の衝突が起きている。

 その典型例が「インペッカブル事件」である。

 アメリカ艦船インペッカブルは比較的小型で非武装の双胴型海洋調査船で、

最新鋭の「曳航アレイ・ソナーシステム」(文字通り、船尾から海中を曳航される)を

使って潜水艦活動を偵察するのがその任務である。

 インペッカブルは、中国の排他的経済水域内ではあるが、

中国の領海から十分に離れた海域で作業行っていた。

 すると、中国のフリゲート艦一隻がインペッカブルの前方およそ90メートルを横切った。

 これは海軍の標準から言えば危険な接近にあたる。

 この嫌がらせから間髪入れず、もう一隻がいインペッカブルの鼻先をを横切り、

さらに、中国海軍Y-12哨戒機がいインペッカブルの船橋の上空180メートルと言う

すれすれの高さを11回も飛行した。

 その2日後、威嚇はさらにヒートアップした。

 中国海警局の監視船が船舶無線を通じて、違法な活動を停止してこの海域から退去せよ、

さもないと「報いを受けることになる」と警告してきたのである。

 翌日、インペッカブルは中国の民間船五隻(うち二隻はトロール漁船)に取り囲まれた。

 トロール船二籍はインペッカブルからわずか15メートルのところまで迫ってきた。

もっとも挑発的だったのは、インペッカブルが退去しようとした際、

トロール漁船がその進路を塞ぎ、曳航アレイをフックで引っ掛けようとしたことである。

ここへきてついに、アメリカ最高司令官バラク・オバマ大統領は

インペッカブル護衛のための誘導ミサイル駆逐艦チャン=フーに出動命令を出した。

 この事件は、小さな衝突が重大な対応につながりかねないことをまざまざと示している。

 「開かれた海」派のアメリカと「閉じられた海」派の中国とのこうした縄張り争いは、

今では数え切れないほど頻繁に起きている。

こうした偶発事件から砲火の応酬が起き、それが戦争へと

発展する可能性があるのは明らかである。

そのシナリオまで、簡単に予想がついてしまう。

 例えば、軍用機が空中衝突し、パイロットが死亡したとする。

 それをきっかけに、米中双方に極端な愛国主義的反応が起き、

対立が一気にエスカレートすることが予想される。

 こうした事態は十分に考えられるものの、戦争のきっかけになる可能性が

最も高いのは事件や事故では無いかもしれない。

 中国が意図的に武力に訴えてアメリカ軍をアジアの海と空から締め出し、

「閉じられた海」と言うその世界観を実現しようとする可能性もある。

もちろん、アメリカの安全保障と経済的繁栄に深刻な打撃を与える

そのような行動を容認するアメリカ大統領はいないだろう。

台湾独立が中国から見てゆずれない線だとすれば、航行と上空通過の自由は

アメリカにとってのゆずれない線なのである。

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