最終更新日 2020年9月30日水曜日 10:56:18
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【米中もし戦わば】021-05母親を北朝鮮の暗殺者に殺された朴槿恵大統領

こうした戦略地政学的、経済的、政治的、歴史的な理由から、

中国と北朝鮮の運命は未だに緊密に結びついている。

このような結びつきからどのように戦争が誘発されるのかについて、

まず「北朝鮮内部崩壊」、シナリオ利用から考えてみよう。

中国の援助にもかかわらず北朝鮮経済がついに崩壊し、混乱が北朝鮮全土に及んだと

考えてみよう。

この崩壊をきっかけに、北朝鮮から何百万人もの難民が韓国へ、

あるいは北上して鴨緑江を渡り中国へ押し寄せるだろう。

北朝鮮軍は無法状態の大混乱に陥り、北朝鮮の核兵器は誰の手に渡るか

予断を許さない状態になる。

この時点で、韓国とアメリカは北朝鮮に部隊を派遣して核兵器を確保し、

朝鮮半島の融和を測るのが最善策だと判断するだろう。

当然、中国も軍隊を派遣してくるだろう。

中国、北朝鮮、韓国、アメリカの軍隊が出会ったら何が起きるだろう。

事態が速やかにエスカレートするだろう事は火を見るより明らかである。

次に、「北朝鮮による挑発」シナリオについて考えてみよう。

「歴史は繰り返す」事は、過去の事例を見ればすぐにわかる。

北朝鮮の挑発事例の1部をリストアップしてみよう。

・北朝鮮のMiG戦闘機がアメリカ海軍の偵察機を撃墜しアメリカ兵31名が死亡

・北朝鮮の工作員が韓国の民間航空機に爆弾を仕掛けて撃墜させ、

乗員乗客115名全員が死亡

・北朝鮮の特殊部隊が潜水艦で韓国に上陸、韓国の兵士及び一般市民16名を殺害

・北朝鮮の潜水艦の攻撃を受け韓国海軍艦艇が沈没、乗組員46名が死亡

・北朝鮮がおよそ170発の砲弾とロケット弾を延坪島目掛けて発射、深刻な損害を与える。

 韓国の海兵隊2名、一般市民2名が死亡このような挑発行為があった場合に

紛争がエスカレートする可能性をさらに高めているのが、

2012年の朴槿恵政権発足以来、韓国がとっている政治的強硬路線である。

この冷たい目をした韓国初の女性大統領は、韓国の独裁者だった僕世紀の娘である。

母親を北朝鮮の攻撃北朝鮮の暗殺者の「パククネパクチョン日を狙った)銃弾によって

失っている彼女は、確かに身をもって北朝鮮の攻撃を体験している。

自分よりもはるかにリベラルな対抗馬を破って政権の座についた翌年の2013年、

朴槿恵は、北朝鮮の挑発に対して今後、「いかなる政治的配慮も行うことなく」

「迅速かつ断固たる」対応をとると言明した。

さらに、各攻撃を仕掛けるようなことがあれば、北朝鮮は「地球上から消し去られる」

だろう、とも宣言している。 

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【米中もし戦わば】021-04世界で4代目に大規模な陸軍を持つ北朝鮮

1953年の朝鮮戦争休戦協定締結以来、北朝鮮はほぼ鎖国状態をつけている。

鎖国と言う選択は、北朝鮮初代の「偉大な指導者」金日成によって

1955年に導入された主体思想と言うイデオロギーに基づいて行われた。

60年以上も主体思想に従って自律的な道を歩むことによって、

金王朝3代の独裁者たちは、常に飢餓状態にある人民をホッブス流の

「汚らしく、野蛮で、短い」存在とまっすぐ響いてきた(「短い」の部分は、

ホッブスのもともとの意味としては変わってしまったが

—-慢性的な飢餓状態のせいで北朝鮮の若い世代の平均身長は韓国の同じ世代と比べて

何センチか低いのである)。

主体思想に基づく自給自足経済を60年以上続けてか、現在、北朝鮮経済は

破綻状態にあると考えられている。

だが、経済成長を妨げた要因は鎖国政策だけではない。

飢えた国民を養うため、北朝鮮は昔も今も第一に農業国である。

しかし、痩せた土壌、耕作に適さない山がちの国土、共産主義スタイルの生産方法、

繰り返される洪水と干ばつ、および適切な治水インフラの欠如が原因で

次々に飢饉が起き、全人口(約25000万人)の10%以上の餓死者が出た。

北朝鮮がわずかに保っている生産能力は、主に兵器制度により向けられている。

弾道ミサイル計画だけでも年間国内総生産が約150億ドルしかないこの国の経済から

年20億ドルを吸い上げている(韓国の年間国内総生産は1兆ドル以上)。

北朝鮮は、中国、アメリカ、インドに次いで世界で4番目に大規模な陸軍を保持している。

北朝鮮の人口がアメリカの8%、中国の2%に過ぎないことを考えれば、

これは驚きの数字である。

その上、金王朝は昔から、国家収入を自分たちの個人的消費に湯水のように浪費し、

「化粧品、ハンドバック、革製品、時計」や「電子機器、自動車、高級酒」など

贅沢品の購入に当てていることで有名である。 

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【米中もし戦わば】021-03なぜ中国が北朝鮮を支援し続けるのか?

だから、北朝鮮経済が常に危機的状況にあるのは理由のないことではない。

腐敗と共産主義的な非効率の重みに耐えかねてソ連がついに崩壊したのとは違い、

北朝鮮がいまだに崩壊しないのは、ひとえに中国のおかげである。

中国は北朝鮮に、北朝鮮が輸入するエネルギーの90%、食料の45%を供給している。

中国と言う命綱を奪われたら、北朝鮮は速やかに崩壊するだろう。

ここで、当然のことながら疑問が湧いてくる。

なぜ中国は、中国人地震を戦争の、それもおそらく核戦争の渦に巻き込む恐れのある

政権にテコ入れし続けるのだろうか。

同じ疑問を抱いている中国の指導者も少なくとも数人はいるのだが、

その一方で中国が明らかに恐れているのは、北朝鮮が崩壊した場合、

あるいは、西ドイツが事実上東ドイツを吸収したのと同じような形で北朝鮮が

韓国と和解した場合でも、統一された朝鮮半島は中国ではなく、

民主的な米韓同盟の側につくだろうと言うことである。

経済的な面でも、中国は北朝鮮を、自国の産業が必要としている資源の調達に利用でき、

自分の思い通りになる植民地だと考えている。

外交問題評議会によれば、「北朝鮮に投資する企業が増えており」

「こうした企業は北朝鮮北部の鉱物資源開発の巨額の投資を行っている」と言う。

政治レベルでも、北朝鮮が数十年にわたって非常に重要な「交渉の切り札」として、

(シニカルの意味で、ではあるが)中国の役に立ってきた。

というのも、北朝鮮がミサイルを発射したり、核実験をしたりして

挑発的な態度を見せるたびに、毎度お人好しのアメリカが、

中国が自分の「だだっ子」をおとなしくさせてくれるだろうと期待して、中国に頼るからである。

だが、アーロン・フリードマン教授がいみじくも述べているように、

中国は「テーブルセッティングをすると言う点では有効だが、

食事を出してくれた事は1度もない」。

不安定な度を増していく北朝鮮を中国が支援し続ける重要な理由として

最後にあげられるのは、朝鮮戦争以来の中朝の軍隊の親密な関係である。

朝鮮戦争中、躊躇中朝の兵士100万人以上が「米帝」の手にかかって命を落とした。

それから60年以上が経った今でも、中朝両軍の結びつきには根強いものがある。

この絆のせいで、中国の文民指導部は北朝鮮に対してなかなか強硬路線を

取ることができないのである。 

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【米中もし戦わば】021-01第2章問題児・北朝鮮

問題

次の想定される時代のうち、米中戦争の引き金になる可能性が高い最も高いものを選べ。

 ①飢餓、国内の権力争い、社会不安によって北朝鮮が内部崩壊する

②韓国領の島を砲撃する、民間航空機を攻撃する、船舶を沈没させるなど、

北朝鮮が韓国に挑発行為を行う

③北朝鮮の核開発を阻止するため、アメリカが北朝鮮の核関連施設を先制攻撃する

④アメリカとアジア同盟諸国が北朝鮮のミサイル攻撃を想定した

最先端の弾道ミサイル防衛網を配備する

⑤北朝鮮軍が韓国に大規模な侵攻を仕掛ける

⑥北朝鮮が日本、韓国、アメリカに核ミサイル攻撃を仕掛ける

賢明な投機家が上記の選択肢のどちらかどれかにかけるとすれば、

「少なくとも過去の歴史から考えれば(内部崩壊)と(挑発)シナリオが

おそらく最も可能性が高い」と判断するだろう。

同時に、「核ミサイル攻撃」シナリオの可能性が最も低いと考えるはずだ。

それは北朝鮮にとって兵器による自殺行為だ、と。

だが、ここに大きな問題がある。

賢明な投機家なら、合理性に基づいて判断しようとするだろう。

だが、ひとたび38度線を越え、北朝鮮と言う閉鎖されたりスターリン主義の

王国に足を踏み入れれば、合理性に基づく判断は通用しない。

そこは、世界最大級の軍隊を後ろ盾にした、若い気まぐれな誇大妄想狂が支配する

警察国家なのだ。

実際問題として、合理性に基づいて判断できない以上、上記のシナリオの全てを

「起こりえること」と考えておかなければならない。

したがって、これらのシナリオのうちどれかが現実になった場合に、

そこから、米中の直接攻撃に発展ししかねないどんな連鎖反応が起きるかを

理解しておく必要がある。

まずは、歴史と背景を簡単に見ておこう。 

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【米中もし戦わば】020-03中国が台湾を併合すれば、国米軍の最前線は分断される

この複雑な方程式がもう一方の側には、もちろんアメリカが存在する。

 アメリカが台湾を守るための戦争に備えて留まり続けるかどうかは、

中国でもアメリカでも、そして台湾でも常に疑問視されてきた。

 アメリカにとって、台湾をめぐる利害は中国と比較してはるかに小さいように見える。

 実際、数十年にわたって歴代のアメリカ大統領は、

「アメリカは、何らの政治的和解もしくは経済的実利のために台湾を

犠牲にする用意があるかもあるのかもしれない」と

中国に思われても仕方のない言動を繰り返してきた。

例えば、リチャード・ニクソン大統領とヘンリー・キッシンジャー国務長官が台湾を、

ソ連を牽制してベトナム戦争から都合よく抜け出すための単なるコマとして

扱ったことを思い出してほしい。

こうした目的のために、1971年、ニクソンとキッシンジャーは国連からの

台湾の除名と中国の国連加盟への道を開いた。

2000年代まで話を進めよう。

 台湾を「何としても」守ると約束しておきながら、ジョージ・w・ブッシュ大統領は

2003年、「現状を一方的に変更するための決定を下す用意がある」ことを示す発言と

行動」があったとして台湾総統を公然と非難し、

現状の変更に「我々(アメリカ)は反対だから」と述べた。

 民主党のバラク・オバマ大統領も前任者(ブッシュ)の日和見的行動になるならい、

台湾への防衛用高性能兵器の売却を拒否した。 

もちろん、ワシントンの政治指導者たちが台湾に対して慎重路線を取る背景には常に、

「アメリカ経済は中国との貿易に大きく依存している。

 だから、中国と事は荒立てたくは無い」と言う事情がある。

 さらに、ワシントンの政治家の多くは、成長を続ける対中貿易に既得権を持っている

アメリカの多国籍企業から寄せられる多額の選挙献金にも大きく依存している。 

だから、台湾への援助となると、政治も経済も二の足を踏む。

 だが、ヨシハラ教授のような専門家は、今アメリカのこうした「自制」と

歴代大統領の躊躇が危険を増大させていると言う。

 中国がその優柔不断と弱腰の表れと受け取って増長し、最終的な侵攻へと

生み出す危険があるからだ、と。

 台湾侵攻は中国にとって致命的な判断ミスとなるだろう、アメリカは台湾問題について

実は断固たる決意を抱いているんだから、とヨシハラは言う。

それは単に、台湾と言う自由で平和主義的な貿易を旨とする豊かな民主主義国家の

存続が、アメリカにとって道義的・イデオロギー的利益につながるからだけではない。

そこには、ヘリテージ財団のディーン・チャンが次のように述べている

冷たい戦略地政学的な現実もある。

 台湾は、日本本土と沖縄以外では第一列島線上で唯一の非常に発展した部分である。

だから、台湾から立ち去る事はある意味、中国海軍に、他の障害物に

ほとんど邪魔されることなく太平洋に出ていける門を開いてやることと同じだ。

 これに補足する形でヨシハラ教授は次のように述べている。

 平和的な方法によってせよ、武力によってせよ、中国が台湾を併合するように

なることになれば、中国は第一列島線を半分に切断できることになる。

これは、本質的に、アジア太平洋地域におけるアメリカ軍の最前線を分断することと

同じである。

 これは、第二大戦終結以来の、アジア太平洋地域におけるアメリカの軍事体制史上、

前代未聞の事態である。

 この「アメリカの軍事体制」は、第一列島線に位置する国々との同盟、

第一列島線上の島々の多くに配置されたアメリカ軍基地、第一列島線で

当然の最重要部分にして中心である台湾の防衛、と言う3つの要素のうち

どれが欠けても成り立たない。

 この軍事態勢は、真珠湾攻撃の教訓から生まれた。

「屈辱の日」によってアメリカは、孤立しアジア太平洋地域から艦隊と部隊を

引き上げるとどんな目に遭うのかを学んだのである。

この軍事態勢は、少なくともある面では、第二次大戦中のもう一つの凄惨な出来事から

生まれたとも言える。

 真珠湾攻撃について、ダグラス・マッカーサー将軍がフィリピンから屈辱的な退却を

余儀なくされた際、彼の爆撃機や戦闘機、さらにはフィリピン列島の滑走路を

破壊しつくしたのは、台湾から次々と襲来した日本軍の飛行中隊だった。

 台湾は「不沈空母」と呼ばれることがあるが、その有名な言い回しを初めて使ったのが

マッカーサーだったのも不思議ではない。 

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【米中もし戦わば】020-02「中国復活のために戦略上欠くべからざる空間」

しかし、台湾を取り戻すと言う中国の強い意志を、「屈辱の100年、二度と許すまじ」と

言うプライドとナショナルズム的情熱だけに根ざしたものと考えるのは誤りである。

台湾という「離反した省」を再び本土の権威に従わせることを北京が必須事項だと

考えるのには、少なくともあと2つ、非常に切実な理由がある。

 戦略地政学的な理由とイデオロギー的な理由の2つである。

 戦略地政学的な理由は、不動産の価値を決める3条件と同じである。

 つまり、1に立地、2にも3にも立地リッチ、である。

 台湾は、第一列島線のほぼ中央に位置している。

 人民解放軍少将、彭光謙と、姚有志は、台湾の持つ戦略地政学的な意味を、

「仮に台湾が本土から切り離されるようなことになれば…中国は永久に、

西太平洋の第一列島線以西に閉じ込められてしまうだろう」、

そうなれば「中国の復活のために戦略上欠くべからざる空間が失われてしまう」と

述べている。

イデオロギー上の理由は、「離反した省」、すなわち台湾の自由民主主義は

ほぼ完璧に成功していることである。

 歴史的事実をはっきりさせるために述べておくが、台湾の民主主義は、

1949年に中華民国総統・蒋介石と国民党支持者らが台湾入りした時に

もたらされたものではない。

 それどころか、蒋介石が数十年間総統の座にあった中華民国政府は、体制こそ違え、

その残酷さと過酷さにかけては毛主席率いる大陸中国と何ら変わりがなかった。

だが、注目すべき点は、台湾がその後民主国家に生まれ変わったことである。

 1996年に初めて民主的な総統選挙が行われて以来、

台湾では活発な民主主義が正しく機能している。

 台湾の公開討論ーの白熱ぶり、極端に高い投票率、権力の平和的移行は、

政治的自由が経済成長と経済の解放とともに発達していくことを見事に示している。

 実際、台湾の民主主義は北京の独裁政権を大いに脅かしている。

 というのも、北京が熱心に繰り返している、「文化と国民性の違いから、

中国人は、経済発展と儒教的社会秩序の維持のために国際的な強い政府を

必要としているんだ」と言う主張が真っ赤な嘘だと言うことを、

民主主義国家・台湾の存在が証明しているからである。

 ナショナリズム、戦略、地政学、イデオロギーと言うこれらの3つの理由から、

中国は台湾を大陸の支配下に取り戻そうとしている。

 それを守るためなら戦う用意があると中国が明言している、

いわゆる「革新的利益」の中でも、台湾は必須の「革新的利益」なのである。 

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【米中もし戦わば】019-02中国は間違いなく、アジアの平和と安全にとって脅威となる

このような状況から明らかに導き出される結論は、

ほぼ間違いなく現状変更意図を持っている中国の軍事力が増大し続けるにつれて、

紛争が起きる可能性も増大し続けると言うことである。

 言い換えれば、本章冒頭の問題の正解は、「中国の軍事戦略及び軍事能力は、

アジアの平和と安定にとって脅威になる」でほぼ決まりと言うことである。

 したがって、次の問題になるのは、「衝突の引き金や導火線が火種になりそうなものは

何か」である。

 さらに具体的に言えば、中国と多くの国(日本、インド、フィリピン、ベトナム、韓国、

アメリカ、台湾)のいずれかとのあいだで衝突が起きるきっかけとなりそうな状況は

どうだろう、と言うことである。

第三部では、そのような状況とそこから予想される展開を見ていた。

 第二部の最後に、チェスの元チャンピオン元世界チャンピオン、ガルリ・カスパロフの

警告を引用しておこう。

 自由主義世界の多くの政治家や評論家は、自国が戦争状態にあることを認めなければ

敗北を避けられると考えているように見える。

戦争の現実を無視すれば、訓練された兵士ではなく、より多くの罪もない人々を

前線に立たせることになるのだ。 

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【米中もし戦わば】019-01「非対称兵器」が勝負を分ける

問題

中国の軍事戦略及び軍事能力は、アジアの平和と安全にとって脅威になるか?

①なる

②ならない

第二部の最後に、これまで明らかになったことを簡単にまとめておきたい。

中国の意図、戦略、新たに獲得した能力を検討した結果、我々の推理作業は

どこまで進んだかを振り返ってみよう。

まず、中国の軍事的意図について言えば、国土及び国際通商路の防衛と言う正当な願望、

領土、領空、領海、交通の拡大と言う、正当とはとても言えない攻撃的な願望とかが

不可分に結びついているように思われる。

例えば、東シナ海、南シナ海を意のままにすることに成功すれば、

中国の国土及び通商路の防衛能力は大いに向上するだろう。

だが、こうした防衛上のメリットは、日本やフィリピン、ベトナムなど

自分よりも軍事力で劣る近隣諸国に対する攻撃的行動によってしか達成できない。

同様に、東シナ海の尖閣諸島や南シナ海のセカンド・トーマス礁を

攻撃的行動によって奪取することに成功すれば、そこに駐屯地や滑走路や

レーダー施設といった軍事施設を建設することによって防衛力を強化することができる。

さらに、このような領土拡大によって、中国は大量の石油や天然ガスを

手に入れることになり、それはペルシャ湾の石油への依存度を減らすことから

「マラッカ・ジレンマ」の解決にもつながる。

だが、このような防衛力向上はやはり攻撃的な現状変更行為によってしか達成できない。

経済的動機、膨張主義的動機、国家安全保障上の動機がこのように

重なり合っていること、防衛と攻撃の境界がハッキリしないことを考えると、

現在の状況の説明として、少なくとも1つの妥当な解釈が上がってくる。

中国の軍事力は、最初は国土と自国の経済的利益を守るための純粋に防衛的な理由で

増強されたのかもしれないが、今では近代的で攻撃的な軍事力へと危険な変貌を遂げ、

いずれは世界的に展開する能力を持つようになるだろう。

 中国の軍事能力については、中国の保有する兵器がお決まりの通常兵器

(機雷、ミサイル、空母戦闘群、戦闘機)だけではないことをこれまで見てきた。

中国は、アジアのパワーバランスをラジカルに帰る恐れがある、

破壊力が極めて大きい軍事技術の数々を保有している。

対艦弾道ミサイル(空母キラー)や様々な種類の対人工衛星兵器、F-35戦闘機などの

戦闘機を墜落させたり、さらには航空管制や銀行ネットワークシステムや

地下鉄システムなど敵国内の民間施設を麻痺させる能力を持つ

コンピューター・マルウェアがそれである。 

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【米中もし戦わば】018-03軍事力を行使せずに領土拡大を達成する

大局的見地からこの三戦と言う問題を見てみよう。

ステファン・ハルパーやディーン・チェンなど専門家の意見が正しいとすれば、

中国が現在行っている法律戦、メディア戦、心理戦は、「領土拡大・現状変更」を

目標とする中国の新たな攻撃形態である。

この観点から見ると、現代における三戦の利点は、以前ならキネティックな

手段によってしか実現できなかった目標を達成するための、

新しい手段を提供していると言う点である。

 さらに、三戦は互いに結びついて非常に高い相乗効果を生み出す。

 例えば、中国が東シナ海・南シナ海で近隣諸国との間に多くの領土問題を抱えているが、

その多くの事例において、中国はまず、曖昧な歴史に基づいて不当に領有権を主張する。

 これが法律戦である。

 次に、問題の海域に民間船を大量に送り込んだり経済的にボイコットするなど、

あらゆる形態のノンキネティックな戦略を展開する。

これが心理戦である。

 そして最後に、「中国は、屈辱の100年間に列強の帝国主義踏みにじられた。

平和を愛する中国は、歴史的な不正行為を正そうとしているだけなのだ」と言う

ストーリーを広め、

国際世論をコントロールすることによって、メディア戦を制しようとする。

 このレンズを通すと、三戦の実績がありありと見えてくる。

中国の競合国はまだそれと気づいていないが、これは新しいタイプの戦争なのである。

 以前なら軍事力の行使によってしか達成できなかった、領土拡大・現状変更と言う

目標の達成を、三戦は明らかに目指している。

中国の行動をこのように解釈することが本当に正しいとすれば、

我々が取り組んでいる「米中戦争が起きるか」と言う問題にある意味

はっきりとした答えが出たことになる。

 つまり、中国はアメリカとその同盟国相手に、ノンキネティックな

新しい戦場で既に戦っている。

中国のサイバー選手たちが宣戦布告なしの戦争をサイバー空間で遂行しているのと

全く同じように。

この現実を考えれば、ペンタゴンやアジア各国の防衛省はその任務範囲を拡大し、

三戦に直接対抗する戦略を取るべきだろうが今からでは遅すぎるかもしれない。 

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【米中もし戦わば】018-02、景気低迷に苦しむ日本を威圧する「心理戦」

それでは、三戦、つまり3つの戦い方とは一体何だろうか。

 1つ目は「心理戦」であり、その目的は、相手国とその一般国民を脅したり

混乱させたり、あるいはその他の方法でショックを与え、

反撃の意思をくじくことである。

 ハルパーは中国の心理戦の方法について、「外交圧力、風評、嘘、嫌がらせを使って

不快感を表明し、覇権を主張し、威嚇する」と述べている。

 さらに、「中国は経済を効果的に利用する」とも述べている。

 例えば、中国は、日本のレアアースの輸出を規制したり、日本への観光旅行禁止したり

することによって、景気低迷に苦しむ日本を威圧し、尖閣諸島に対する領土要求を

認めさせようとしている。

同様に、スカーボロ礁やセカンド・トーマス礁といった紛争地域を取り込むように

大量の民間船を送り込んでいるのは、威圧的な数を頼んでフィリピンを恫喝し、

フィリピン軍に退却を余儀なくさせるためである。

 このようなやり方が「キャベツ戦略」と呼ばれる。

 三戦の2つ目は「メディア戦」である。

その目的は、国内外の世論を誘導し、騙されやすいメディア視聴者に

中国側のストーリーを形成させることである。

 「現代の戦争を制するのは最高の兵器ではなく、最高のストーリーなのだ」と

述べているのは、中国のメディア戦はまさにこの格言に従っている。

 ヘリテージ財団のディーン・チェンはこのようなメディア戦を、

「感じ方と考え方に長期的影響与えることも目的とした、持続的に進行する活動」と表している。

ハルパーが述べているように、その目的は「味方の士気を維持し、

国内外の世論の支持をとりつけ、敵の戦意をくじき、敵の況判断を変更させること」

である。

 中国は書籍、映画、雑誌、インターネットなど様々な媒体を通じてメディア戦を行っている。

 中でもテレビに力を入れ、大金を投じて中国中央電子台(CC TV)国際的宣伝部隊に作り替えた。

 中国の政治と軍事の指導者たちが三戦を初めて正式に承認した2003年、CCTVは、

国際世論の支持をBBCやCNNと直接張り合う、24時間インチキニュースチャンネルの

放送を開始した。

 2011年、中国はメディア戦への出資金を大幅にアップしCC TVはワシントンDCに

立派なスタジオを開設した。

このスタジオには、「白い顔」や「黒い顔」のアメリカ人アンカーやリポーターが

うようよしている。

 こうした偽CNNニュースを流す利点は、本物のニュースにプロパガンダを混ぜ込み、

4000万人以上ものアメリカ人視聴者や世界中の何千万人、何億人と言う視聴者に

送り届けられることである。

 南沙諸島やセカンド・トーマス礁を巡ってさらに問題が起きれば、

CC TVがすぐに現れ、たいていは西側メディアがそのニュースを知る前に

中国側のストーリーを広める。

 同様に、尖閣諸島めぐって緊張が高まれば、CC TVはどんな衝突やエスカレーションも

「日本の右翼」のせいにして激しく非難する。

「三戦」の最後は「法律戦」である。

 法律戦における中国の戦略は、現行の法的枠組みの中で国際秩序のルールを

中国の都合の良いように曲げる。

 あるいは書き換えることである。

 例えば、「国際海洋法条約に明示されているように、中国は200海里の

排他的経済水域内の航行の自由を制限することができる」と言う中国側の主張に

ついて考えてみよう。

実は、現行の海洋法条約にそんなこと一言も書かれていない。

この点について、条約はかなり明確に規定している。

 だが中国は根拠ある」と言う嘘を繰り返し主張してきた。

 まさに、「嘘も繰り返せば真実になる」の精神である。

攻撃的「法律戦」には、インチキ地図を使って領有権を正当化すると言う方法もある。

 あるコメンテーターは、この戦術に「地図戦」と言うあだ名をつけた。

例えば、2012年、中国は南シナ海の紛争地域の多くを中国固有の領土として

書いてある地図をパスポートの内側に掲載し、近隣アジア諸国の怒りを買った。

中国は地図をこのように巧みに使い、領有権の主張を強化しようとしたのである。

 そして、三戦は続行される。

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