【日中もし戦わば】新たな日米共同海軍打撃構想について

エアシーバトル構想では、繰り返しになりますが、作戦当初の防勢作戦では

中国のミサイル攻撃からの損害を回避するため、

アメリカ海空軍は第二列島線以遠に退避することになります。

 そのかわり、電子戦による盲目化作戦や水中の作戦などで中国軍の行動の自由を奪い、

また潜水艦戦力を漸減しつつ、攻勢の機会をうかがいます。

ただし、中国本土への攻撃についてアメリカは「懲罰的抑止力」として捉えており、

軍事的に合理的でも、政治的判断で本土への攻撃は行われない可能性があります。

 こうして米中が様々なやりとりを行う一方で、日本が自分の国の命運を

自分で決めることができないのは、大いに問題があると思います。

 アメリカは日本の同盟国ですが、だからといって日本を守るため、

わざわざリスクを冒して中国本土まで攻撃してくれるとは限りません。

 中国は第一列島線の国々を短期決戦で占領しようと試みるはずですが、

アメリカは「長期戦に持ち込んで中国を疲弊させ、長期戦に持ち込む」と言う考え方を、

エアシーバトル構想の中で提示しています。

 そのため、日本は自らの国の防衛を自らで決着させる力をもたなければなりません。

 こうした日米間の思惑の違いを同時に解決できるアイディアと言うべきものが、

アメリカ海軍大学で2012年に発表された「海上制限戦争戦略」に見ることができます。

WaSS構想では、核戦争への発展を避けるため、中国本土への攻撃は行わずに

紛争を海洋に限定させると述べられています。

 遠隔地における中国の海上交通路を遮断しつつ、中国の軍港や商業港に機雷を敷設し、

さらに東アジア諸国に向けた友好的な交通路を確保しながら、封鎖水域を設定して

その中にある中国の商船を撃沈します。

さらにこれに連携して、中国に取って象徴的な1部の艦艇と核ミサイル発射型の

原子力潜水艦を除き、すべての中枢となる艦艇と潜水艦を沈めると言うものが、

WaSS構想のあらましです。

中国が海洋強国として発展するための中核となる中国海軍や海上交通路に的を絞り、

これを撃滅できる能力を誇示して中国の侵略の野望を断念させることがこの作戦の狙いです。

仮に抑止が破綻したとしても、中国海軍の息の根を止めて終戦に導けると考えられています。

この海軍を主体としたWaSSの考え方を戦略の基底に置き、日本の中国に対する

AD/AD0ネットワークとアメリカの長距離打撃力を一体化させれば、

中国に対して強力な抑止力を発揮することができます。

そして万が一抑止が破れても、日米が一体となった実体のある打撃力を行使すれば、

中国の侵略の野望を徹底的に破砕することができます。

これが新たな「日米共同海軍打撃構想」であり、

より強固な対中抑止の核心的戦略として提起することができるはずです。

こうした考え方は日米双方にとって魅力的であり、なおかつ実現の可能性は

極めて高いといえます。

事実、米海軍は「打撃力の分散」を掲げ、「軍艦を沈める」ために沢山の

対戦対艦攻撃用の精密誘導弾を保有しようとしています。

例えば、空母艦載機にあるF-18 は 2019年から新型の艦艇を攻撃する

長距離ミサイルを装備化するとともに、トマホーク巡航ミサイルや防空ミサイルなどにも

艦艇を攻撃する能力を付与しようとしています。

 長距離作戦のイメージは(35)の通りですが、いずれも南西諸島や日本自体が

強力な力を持ち、強靭に生き残っていることを前提として、

米軍の長距離作戦は成立することになるでしょう。

 米空母などは、従来のような日本近海に早期に進出することなく、

長距離作戦で日本の防衛に関与することになります。

一方、陸海空自衛隊は、艦艇攻撃用の精密誘導弾を保有していますが、

射程が短いため、今後、長射程化する必要があります。

 また中国が保有しているDF-21D(空母キラーと言われる対艦弾道ミサイル)のような、

少なくとも東シナ海を射程に収め、中国の空母にらみを利かせられるような

精密誘導弾の保有は必須です。

 政治的に日本ではこのような兵器の開発を嫌う空気がありますが、

日米共同作戦構想の下に開発し、運用することが必要でしょう。

 このように、実現が可能であり、さらに抑止効果が大きい「日米共同海軍打撃構想」の

原型であるWaSSはアメリカ海軍の構想ですから、アメリカも受け入れやすく、

また日米のコントロール下で作戦が実施できるので、アメリカが懸念する

「日本単独による中国本土への攻撃」の懸念も払拭されます。

 そのため、すべての日米共同海軍打撃構想の有効性については、

アメリカ側も一定の理解を示しています。

この構想を歴史から見れば、三国志における「赤壁の戦い」に似ているかもしれません。

 すなわち、魏が中国であり、呉がアメリカです。

 正面切ってことを構えたくない呉を説得して、「赤壁」で戦わせた蜀は日本です。

 もちろん蜀も全力で戦ったのですから、ただ魏と呉の戦いを見ていたわけではありません。

 日本の防衛努力なしにアメリカが動かないのは自明なことでしょう。

 以上が、本書で提起する抑止戦略、共同防衛戦略そして制限戦争戦略の3つを骨格とした

「アジア太平洋・インド地域防衛戦略」の全体像です。 

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