最終更新日 2020年11月7日土曜日 11:28:58
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【米中もし戦わば】045-05、ハリウッド映画も中国をネガティブにかけなくなった

中国の脅威を正しく知らされていない人々が世界中に存在するのは、

ニュース報道だけの責任ではない。

自主規制は、ニュースと並んで世論形成に大きな役割を果たしている

エンターテイメント産業にも広がっている。

中国市場への参入を望んでいるテレビ局や映画会社は、中国政府を怒らせないように

細心の注意を払わなければならない。

 映画やテレビ番組の中で1作でも中国をネガティブに書いたものがあれば、

その会社の作品全てが中国でボイコットされる危険がある。

これが暗黙のルールである。

その結果、少なくとも、自主規制を行う経営者の頭の中では、中国と言う巨大市場で

成功したければすべての作品で中国をポジティブに描かなければならないと

言うことになる。

映画会社やテレビ局がそんなことを本気で心配しているのだと言うことを

理解するためには、MGMスタジオが「若き勇者たち」(原題は「RED Dawn」(赤い夜明け)。

 リメイク版の邦題は「レッド・ドーン」)を2012年にリメイクしたときのことを

知るだけで充分である。

1914年のオリジナル版はソ連がアメリカの小さな町に奇襲攻撃を仕掛け、

勇敢な少年たちが赤い脅威(原題はこれに由来する)を撃退するために立ち上がり、

と言うストーリーだった。

リメイク版では、すでに崩壊したソ連に代わって中国を侵略者として書くことが想定されていた。

 ところが、中国でこのリメイク版について否定的な報道が出始めると、

MGMが映画のプロデューサーに指示して侵略者をデジタル処理で「非中国化」に

してしまった。

この自主規制の最も興味深い点は、MGMが中国政府からの公式な抗議によって

変更を加えたわけではないことである。

実際、抗議は一切なかった。

MGM広報によれば、、それは単に「今やアメリカ映画の主要なマーケットとなった

中国での興行収入を上げるため」の変更だったと言う。 

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【米中もし戦わば】045-04中国の圧力に屈した米国メディア

自分の言い分を西側に押し付けるために中国政府がやってるのは、

ロビイストや広告費を使って発信することだけではない。

中国政府は、自分に都合の悪いことが報道されないよう世界中のジャーナリストに

圧力をかけている。

 西側の報道機関に自主規制が広まった主な原因は、中国政府の圧力である。

 中国国内のニュースを報道するためには特派員を中国に派遣することが必要だが、

中国政府はビザの発給を利用して、中国政府の方針に批判的すぎたり、

政府批判や政治腐敗や環境汚染で民主化運動や労働者の暴動といった

「避けたい話題」を掘り下げすぎるジャーナリストの入国を長年にわたって制限してきた。

元「ニューズウィーク」北京市支局長で、現在は「コンデナスト・トラベラー」誌で

世界情勢を担当している長年の中国通リンダ・エリオットの告白を聞いてみよう。

「恥ずかしい話だが、私は微妙な問題を報道するリスクを心配していた。

入国を拒否されたらどうしよう、と」「アトランティック」誌のジェームズ・ハローズの

証言もある。

中国脅威論に対して長年ハト派の立場を貫いてきたバローズだったが、

それは彼でさえとうとう、自分は「中国政府の怒りぽさを知っていた」ために

それに配慮した記事を書いていたと認めたのである。

だが、西側ジャーナリストが直面する問題はビザ発給拒否だけではない。

中国国営メディアの御用記者は自由に世界を渡り歩いているのに、西側の記者たちは

中国の至るところで立ち入りを禁止され、取材現場でそれこそ日常的に

嫌がらせや干渉に悩まされ、ときには身体的暴力まで受けることがある。

こうした圧力がどれほど効果的に自主規制を引き出すかを理解するためには、

ブルームバーグ・ニュースの実例を見るだけで充分である。

中国共産党幹部の腐敗をブルームバーグが報道すると、中国はブルームバーグの

ドル箱である金融市場情報端末(その売り上げは、ブルームバーグの収益の80%以上を

占める)不買運動を仕掛けた、すると、ブルームバーグが中国に関する硬派の

ニュース報道事業から撤退してしまった。

中国の圧力に屈したブルームバーグ会長ピーター・グローアーは中国市場の重要さを

認め、「我々には中国に残る必要がある」と語った。 

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【米中もし戦わば】045-03、ワシントンで巨額の金をばらまいている中国勢力

アメリカのような民主主義国が力による平和を模索する際に直面する問題は、

残念なことに、利益団体が共通の脅威に対して団結するより足の引っ張り合いに熱心な

ことだけではない。

独裁的な中国と民主主義国アメリカとのあいだには、著しい不均衡が存在する。

開かれたアメリカの政治プロセスに中国が影響を及ぼす方法はいくらでもあるが、

著しく不透明な政治プロセスにアメリカの影響を及ぼす方法はほとんどない。

中国がアメリカの政治プロセスに入り込んでいる事について、

米中委員会委員マイケル・ウェッセルは次のようにズバリと述べている。

中国はあらゆる方面で総合国力を伸ばしている。

ここワシントンでは、彼らは勢力を伸ばそうとしている。

中国企業は金をばらまき、法律事務所を雇い、ロビー団体を雇い、

パーティーを主催するなど、普通の特定利益団体がワシントンで勢力を伸ばすために

やるようなことをすべて行っている。

しかも、非常に効果的に行っている。

「金をばらまく」作戦の一環として、中国に対してマスコミの論調を和らげるために

中国政府は巨額の広告費を注ぎ込んでいるとウェッセルは警告する。

多くの全国紙に、チャイナデイリーやチャイナニュースといった、

英語版インチキ中国紙が折り込み広告として定期的にたっぷりと織り込まれている。

 これを目にするアメリカ人はそれがただのプロパガンダとは気づかず、

本物のニュースだと思い込んでしまう。 

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【米中もし戦わば】045-02、中国の通貨操作を取り締まる法案はなぜ米国で否決されたのか?

例えば、中国との貿易によって、アメリカの製造業界は真っ二つに割れてしまった。

 一方の側には、中国のような輸出補助金によって大打撃を被っている

無数の中小企業が存在する。

 これら中小企業は、中国に通貨操作をやめさせ、相殺関税を導入し、

その他にも適切な救済策を取るべきだと主張してきた。

その一方で、アップル、ボーイング、キャタピラー、ゼネラルモーターズ、

IBMといった、アメリカに本部を置く多国籍大企業が存在する。

これら大企業は生産拠点を中国に移し、製品はアメリカ市場に輸出することによって、

中国の違法な輸出補助金や搾取労働や税金の抜け穴を利用して大儲けしている。

それで、製造業界のこのような利害の衝突を解消するためには、

政治はどのように対応してきたのだろうか。

全米製造業協会や事業者協会といった有力圧力団体は多国籍企業に牛耳られているため、

結局は中国の重商主義に反対しない。

これらは「中国は脅威では無い」と主張するロビイストらは、中国の違法行為を

取り締まろうとするホワイトハウスや議会の努力をことごとく公然と妨害する。

こうした分裂は、各業界レベルで見られる。

不当に安い値段でアメリカ市場に流れ込んでくる違法な補助金を受けた

中国製ソーラーパネルに相殺関税をかけるべきだと製造業者が声を上げたとき、

最も強硬にこれらこれに反対したのは中国ではなかった。

それは、ソーラーパネルの価格上昇によって仕事が減ることを恐れた、

ソーラーパネル設置業者たちだった。

分裂は州レベルでも見られる。

例えば、オハイオ州は中国の経済攻撃によって製造業に壊滅的被害を受けている州だが、

大統領選挙の激戦州と知られるこの州の有権者は真っ二つに割れてしまっている。

アクロン、クリーブランド、デイトン、ヤングズタウンなどの工場労働者

(その多くは現在失業中である)は全員、違法な中国の補助金に対して

政府が断固たる措置をとるべきだと考えている。

一方、ダーク郡、マジソン郡、ウッド郡など農業地域の農民は、

とうもろこしや大豆を大量に中国に輸出して儲けているため、

貿易不均衡是正策に公然と反対している。

オハイオ州の分裂は、自由で開かれた民主主義が中国の国家資本主義に立ち向かうときに

直面する政治問題の縮図である。

一例として、オハイオ州選出の民主党下院議員ティム・ライアンが中国の通貨操作を

取り締まるための法案を提出したときのことを挙げておく。

ライアンの地盤は、ヤングズタウンやアクロンといった製造業の盛んな都市である。

ライアンの法案は否決されたが、その時はほとんど1人で否決に持ち込んだと

言っていいほどに強硬に反対したのは、皮肉なことにオハイオ州選出の多数党

(当時は共和党)院内総務ジョン・ベイナーだった。

 ベイナーにとってこの政治的勝利は、まさに「1粒で2度おいしい」結果となった。

 地元オハイオ州最大の農業地域を大いに喜ばせただけでなく、

中国に生産拠点を移している多国籍大企業から彼自身と共和党への

多額の選挙献金を得ることができたからである。

労働組合や環境保護団体や人権団体等にも、同様の分裂が見られる。

例えば、雇用をさらに外国に奪われるのではと言う懸念から、

労働組合は日本や韓国など同盟国との自由貿易協定に強硬に反対している。

しかし、適切に結ばれさえすれば、このような自由貿易協定はアメリカと同盟諸国の

双方の経済成長を後押し総合国力の増大と経済力及び軍事力による

平和の構築に貢献するだろう。

環境保護活動家や人権活動家らはとかくペンタゴンを目の敵にし防衛費増額には

何が何でもとにかく反対と言う立場をとる。

皮肉なことに、彼等のそういった行動は回り回って、アメリカの国家安全保障に

危険をもたらす可能性があるだけでなく、間違いなく世界で最も環境汚染し

人権を抑圧している独裁政権を援助しているのである。

ペンタゴンの元アナリスト、マイケル・ピルズベリーは、

利益団体が作り出すこのような分裂状態について次のように述べている。

アメリカに8ないし10ある重要な利益団体と、それらの団体の利益を代表する議会勢力は

協力しあおうとはしない、それどころか、お互いに反目しあい、

様々な哲学的理由で対立している。

減税に賛成、減税に反対。

企業は悪だ、組合は悪だ、などなど。

中国の脅威に対して結束するところが、小さな問題で言い争ってばかりいる。

この有り様を見て中国は、「ワシントンで大きく取り上げられないよう気をつけよう。

目立たないようにしていよう。

ああいう団体が1つにまとまることがないようにしておかなければ」と考えているのだ。 

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【米中もし戦わば】045-01、中国の脅威を直視する

問題

本書のこれまでの内容を踏まえて、「急激に軍事大国化する中国は、

アジアの平和と安全にとって脅威である」と言う主張に対する最終的判断を選べ

①国防費の大幅増額への支持を煽るため右派が考え出した、偏執狂的妄想である

②中国の現状変更的意図、急速な軍事力増強、次第にエスカレートする侵略行為を

合理的に判断した結果に基づく、当然の懸念である「団結すれば栄え、

分裂すれば倒れる」と言うよく引用される格言があるが、

新約聖書にも「どんな町でも家でも、家で争えば成り立っていかない」(新共同訳)と

書かれているように、これは昔も今も変わらない真実である。

ここで重要なのは、経済力と軍事力によってアジアに平和を構築し、

同盟関係の堅持によってこれを守るためには、まず「中国アジアの安全保障にとって

大きな脅威となり得る」と言う政治的合意が不可欠だと言う事実である。

 もちろん、このような行為はなかなか得られるものではない。

 なかなか家がまとまらないと言う、特にアメリカで深刻なこの問題の根には、

民主主義そのものの性質と民主主義体制ならではの利害の競合がある。 

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【米中もし戦わば】044-04、米国が尖閣問題で日本に助力できなかった時、何が起きるか?

アジア諸国との同盟関係が重要であることは事実なのだから、

真の問題は、同盟諸国との関係にどう対応するのがベストか、である。

 アメリカン・エンタープライズ研究所のマイケル・オースリンの、

現在の最悪の状況に対する分析とその打開策は傾聴に値する。

 問題は、アメリカが十分な兵員と航空機と艦船を太平洋に派遣しているか否か、では無い。

アメリカは過去50年にわたって30万人の兵を派遣してきたのだ。

 真の問題は、「われわれは何のためにそこにいるのか」だ。

 同盟国が懸念しているのは、「アメリカは30万人の軍隊を派遣してはいても、

アジア地域の秩序を維持すると言う政治的意思を持っていないのではないか」と言うことなのだ。

アメリカから見捨てられるのではないかと言う懸念をアジアの同盟諸国が

募らせている原因についてオースリンは、問題はアジアの重視政策の失敗や

防衛費削減だけではなく「アメリカ軍は何のためにそこにいるのか」と

言う核心部分にある、と言う。

 同盟諸国は、非常時(つまり、戦争になった場合)にアメリカが助けに来ないと

思っているわけではない。

問題は、同盟諸国が、生活の大部分に関わりがあるのは戦争ではなく、

非戦時の諸々の事柄だと考えていることだ。

オースリン「非戦時」とは、「日常の外交活動と、全面戦争の間の幅広い状態」だと

述べている。

 違法な漁業活動の問題や大気汚染問題、石油掘削問題や領土問題など、

同盟諸国が不安を感じているありとあらゆる問題がこの広大な範囲に入るとオースリンは言う。

 だが、オースリンにとって問題は、アメリカが「明確な戦略を持っていないように

見える」ことである。

 アメリカは、「大規模な軍隊を駐留させていればそれで充分だ」と考えているが、

アジアの同盟諸国は「そこにいるだけでは困る。

 ちゃんと関わってもらいたい」と言っているのだ、とオースリンは述べている。

「ちゃんと関わる」とはどういうことか。

 オースリンは、南シナ海で中国の侵略行為のターゲットにされているフィリピンの例を

挙げて説明している。

フィリピンの領土の防衛はアメリカの仕事ではない、と考えるオースリーだが、

それでも、情報の共有や軍隊の訓練、国土防衛に必要な兵器の提供などによって

フィリピンを援助することができると言う。

 残念ながら、アメリカはそうしたことを何一つとしてやってこなかった、と。

 アジアの諸問題にきめ細かく関与しなければアメリカの影響力は着実に弱まっていく。

 政治的意思が妨げになって例えば尖閣問題で日本に助力できなかったり、

あるいはもっと広い意味で言えば、アメリカの言う「アジア重視」や

「アジア・リバランス」が単なる言葉のあやだということが

同盟諸国に明らかになっていけば、アメリカの信頼性が疑問視されると言う結果を招く。

 そして、アメリカの信頼性が揺らげば、次のステップはアメリカの影響力の低下である。

そして、アメリカの影響力が低下すれば、同盟諸国は当然のことながら、

中国に追随

してアメリカに損害を与えるにせよ、中国の攻撃をかわすために自ら核武装するにせよ、

独自の道を歩み始めるだろう。

どっちにせよ、アメリカにとって壊滅的な結果をもたらす政策の大失敗だ、

とオースリンは言う。 

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【米中もし戦わば】044-03、「弱さは常に侵略への招待状」

現在のアメリカの行動は、歴代アメリカ大統領の最も有名な格言の1つと言える、

「大きな棍棒を携えて、穏やかにあるけ」がまさに正反対を行っているように思われる。

抑止力を的確に表現したセオドア・ルーズベルト大統領のこの格言に従うどころか、

現在のアメリカは、超ミニサイズの棍棒を振りながら声高にアジア重視を言いたて、

いたずらに中国を怒らせている。

ハドソン研究所上級研究員セス・クロプシーはこの問題をさらに掘り下げて

次のように気にしている。

 アメリカすでに防衛予算を5千億ドル削減しているが、

さらに5千億ドルの削減を目指している。

これでは、安全保障と協力と支援を期待しているアジア諸国に、

アメリカが本気だと言うシグナルを送ることができない。

少なくともクロプシーの世界観にとっては、「弱さは常に侵略への招待状」なのである。

防衛費削減は抑止力と言う究極の目的に対して引き起こす問題について、

以前ヘリテージ財団のディーン・チェンは次のように簡潔に述べている。

 弱いアメリカは、同盟諸国への約束を守れないアメリカであり、

したがって、信頼性を疑問視されるアメリカだ。

 逆に、強いメリカ、同盟国への約束を守るアメリカは、紛争を抑止できる可能性が

はるかに高い。

 対中穏健派で知られるジョンズ・ホプキンス大学教授デビット・ランプトンでさえ、

アジア諸国との同盟関係が破綻している安定化・均衡化機能の重要性を次のように認めている。

 仮にアメリカの軽率にアジアの同盟諸国との関係を弱めたり断ち切るようなことを

すれば、これはアジアの不安定化に直結するだろう。

そうなれば同盟諸国は自力で抑止力を獲得せざるをえなくなり、

それが核武装につながる可能性も十分考えられ、

あるいは、これらの国々が経済問題その他で中国に追随する道を選ぶ可能性もあり、

そうなればアメリカの利益にとってマイナスだ。

 したがって、同盟諸国との関係を軽率に断ち切れば、壊滅的な結果を招くことになる。 

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【米中もし戦わば】044-02、一貫して縮小を続けてきた米艦の艦船保有数

アメリカの外交にとってこのように望ましい政治的展開になっているにもかかわらず、

効果的な同盟関係を構築するのに現在ほど最悪な状況もない。

 その元凶は、嘘の約束や関係の無視、限定的寛容、乱暴なあるいは空虚なレトリックである。

問題の根本には、アメリカ議会やペンタゴンやホワイトハウスが世界中の他の問題に

かまけて注意散漫になっていることがあるかもしれない。

最悪の状況を象徴しているのは、アメリカのいわゆる「アジア重視」戦略である。

 2011年、アジア地域の経済的及び安全保障上の重要性に遅ればせながら気づいた

バラク・オバマ大統領は、当時の国務長官ヒラリー・クリントンの熱心な勧めに従い、

「今後アメリカはアジア太平洋地域を国家安全保障政策の主要な焦点とする」と華々しく宣言した。

 その一環として、ペンタゴンは、太平洋に回す海軍艦隊の割合を

およそ60%にまで引き上げると発表した。

しかし、こうした発表は口先だけの嘘の約束だったと判明した。

 アメリカは、約束の実行に見事に失敗したのである。

 失敗の原因は簡単な計算をすればすぐにわかる。

 まず、アメリカ海軍の艦船保有数は、ピークであったレーガン政権時代

(1970年代)当時の500隻以上から現在の300隻以下にまで、一貫して縮小を続けてきた。

 継続的かつ大幅な防衛予算削減により、さらに100隻程度にまで縮小するものと思われる。

 この右肩下がりの艦船保有数について、アメリカ海軍大学校のトシ・ヨシハラ教授は言う。

 2020年までにアメリカがアジア地域に回す戦力は、

2011年にアジア重視政策が始まった時と全く変わらないだろう。

相対的な「配分」は確かに太平洋へシフトするけれども、絶対数が減少しているのだから。

 数学的用語を使って言えば、縮小した艦隊の60%がアメリカのアジア重視政策を

振り出しに戻すだろう。

と言うことになる。

艦隊の縮小がアジアでのアメリカのリスク計算に大きな影響与えることによって

壊滅的な結果を招くかもしれないとしてヨシハラは次のように言う。

 アメリカ艦隊を大幅に縮小しても良いとする意見の根本的な論拠は、

「現在の兵器システムは10年前や15年前と比較してもはるかに高性能だから、

量的削減を質の向上で埋め合わせることができる」と言うものだ。

 だが、私は「量も質のうち」と言う格言は真理だと思う。

 それに、沈没した船は救いようがない。

 だから、戦域で使用できる艦船が少なくなれば、一隻一隻はより貴重になり、

艦船を危険にさらす事には一層躊躇せざるをえなくなる。 

これではまさに中国の思惑通りだ。

 中国問題に介入するコストとリスクの負担感を増大させるのが中国の戦略的計算なのだから。

 こうなると、例えば台中間で戦争が勃発したような事態に対して、

アメリカのが躊躇した挙句に何もしないことを選ぶ可能性がさらに高まる。

 ヨシハラのこのぞっとするような決断に追い打ちをかけるように、

ヨシハラの共著者でやはりアメリカ海軍大学校教授のジェームス・ホームズは、

ペンタゴンが将来アジアに配備しようとしているのは小型の沿岸警備隊であって

「最高級の戦闘資産」ではない、と言う。

 外交シグナルとしても抑止シグナルとしても、これではアジア重視政策が

みすぼらしくなってしまう。 

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【米中もし戦わば】044-01、第44章同盟国を守り抜く

問題

次のうち正しい記述を選べ

①アメリカは、自国の経済的及び安全保障上の利益を守るために

アジアの同盟諸国を必要としている

②アジアの同盟諸国は、中国の拡張主義から自国を防衛するため、

アメリカの安全保障の傘を必要としている

③アジアの同盟諸国との同盟関係が破綻すれば、アジア地域はさらに不安定化する

④ 1 ~3の全て

アメリカにとって、今ほどアジアで同盟関係を構築するのに絶好の時期は無い。

だが同時に、今ほど最悪な状況もない。

絶好の時期だと言う理由は、2008年以来特に顕著になった中国の拡張主義的な行動に

アジアの近隣諸国が危機感を募らせ、強力な対中同盟の必要性に目覚めたことである。

それ以来、日本やフィリピンなど従来の同盟国は、アメリカとの連携の強化を求めている。

インド、インドネシア、マレーシア、シンガポール、ベトナムといった他の国々も、

アメリカの安全保障の傘とのさらに密接な関係を結ぼうと(あるいは結び直そうと)

するようになった。 

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【米中もし戦わば】043-06、「これらの兵器を製造する理由はこれらを使用するためではない」

アメリカの戦略上の脆弱性を是正するためのこうした様々な方策の他にも、

軍事力による平和への道を模索する上で実行すべき措置はまだまだいくつもいくつかある。

第一に、停滞してる宇宙計画をもう一度軌道に乗せることが極めて重要である。

でないと、アメリカは、それこそ戦わずして、戦略的高地を中国に譲ることになる。

そして、一度失ったら、取り戻すことは難しいだろう。

第二に、第5世代の戦闘機F-35や現在空軍が開発中の長距離攻撃爆撃機を

大幅に増産することも非常に重要である。

どちらも非常に金のかかる計画だがそれぞれが独自の方法で抑止力を高め、

力による平和の実現に大きく貢献する。

F-35について言えば、太平洋戦域における制空権を維持するためには

その優れた性能が不可欠である。

この航続距離の比較的短いジェット戦闘機は、アジア地域全体に分散して

周到に配備する必要がある。

この場合、ものを言うのは数である。

第5世代戦闘機を大量生産していることを考えればなおさらである。

長距離攻撃爆撃ついて、アメリカン・エンタープライズ研究所の

マイケル・オースリンなど推進派は、中国や潜在的敵国が配備を進めていると思う

統合防空システムや防空システムに対応するためにこれが不可欠だと主張している。

この爆撃機は、戦時に空母戦闘群や基地が中国に無力化ないし破壊されたときの

重要な保険と言うだけではない。

これは、無人の大陸間弾道ミサイルに変わる、はるかに安全な兵器でもある。

オースティンは言う。

現在、アメリカには中国領空にまで無事にたどり着けない爆撃を送り込むと言う選択肢しかない。

それでは、どうする?潜水艦やアメリカ中西部のサイロからミサイルを打ち上げるのか?

中国は、そのミサイルにどんな弾頭が搭載されているかわかるだろう。

だから、こんなことを言うと冷戦時代に戻ったように思われるかもうしれないが、

長距離攻撃爆撃機のような、中国領空やロシア領空まで深く侵入できれる爆撃機は、

実は事態を安定化させる要素なのだ。

爆撃機なら、送り込むこともできるし送り込んでから呼び戻すこともできる。

戦闘機はっきりと目に見える。

これに対して、ミサイルをいちど発射してしまえば取り返しがつかない。

新アメリカ安全保障センターのパトリック・クローニンは次のように述べている。

21世紀には、海軍力と組む力のバランスのとれた軍事力、十分な数の従来型資産が

必要だ。

例えば、空母が必要だ。航空機も必要だ。潜水艦もいる。

 海岸線をパトロールする艦船も必要だ。

 それと同時に、サイバー技術や宇宙技術システムに投資し続けることが必要だ。

 それはそれはゲームチェンジャになる可能性があるからだ。

 だから、最新技術と従来型の技術のバランスが大切なのだ。

 これらの全ての兵器システムにかかる多額の費用を考える際には、

抑止力に関するオースリーの金言「これの兵器を製造する理由はこれを使用するためでは

ない」を思い出すべきかもしれない。

 B-52が50年間現役だったのは驚くべきことだ。

 祖父、父、息子、と三世代のパイロットがこの同じ機に乗ってきたのだ。

 B-52は素晴らしい爆撃機だが、現代の自動ミサイル防衛システムの前でひとたまりもない。

 その上、現役のB-2ステルス機は20機しかないし、しかも時代遅れにもなりつつある。

 だから新しい爆撃機が必要だし、必要な場合に地上と上空の障害物を除去できるように

しておくためには、F-35を大幅に増やす必要がある。

 軍事的な理由だけでなく、政治的な理由からもそうする必要がある。

実際にはアジアの(不安定化ではなく)安定化に貢献するだろう。

 ジョージタウン大学のフィリップ・カーバー教授は、抑止力構築のためには

こうした具体的方策の外に次のような原則が不可欠だと述べている。

 必要なのは、中国に対して(他の国に対しても同様だが)それ相応の対応を取ると言う原則だ。

 そっちが戦力を削減するなら、こっちも削減しよう。

 ミサイル配備を強化してこっちの基地や同盟諸国を脅かすような挑発的な

真似をするなら、こっちも相応の対応を取る。

 そして肝心なのはこうした原則をちゃんと伝えることだ。

 今まで、われわれは基本的に、中国にただ乗りを許してきてしまった。 

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