最終更新日 2020年11月3日火曜日 12:35:04
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【米中もし戦わば】043-05、潜水艦戦と機雷戦が抑止力の鍵を握る

このような厳しい見通しを踏まえた上で、「問題に対処するためにアメリカは

何をすべきか」と言う問題に戻ろう。

アメリカ海軍大学校のトシ・ヨシハラは、非対称戦と領域拒否をそっくりそのまま

お返ししてやればいいと考えている。

つまり、孫子の助言「上兵は謀を伐つ」に従って、中国自身の戦略を

攻撃してやればいいのだ、と。

ヨシハラの言うような「やられたらやり返す」戦略を実行に移すとすれば、

まずはアメリカ軍の再編成が必要となるだろう。

ヨシハラのアイデアは、第一・第二列島線の主なチョークポイントに攻撃用潜水艦を

並べ、有事の際に中国の軍艦及び商船の太平洋へのアクセスを管理できるようにする、

と言うものである。

つまり、潜水艦を建築ブロックがわりに使って、難攻不落の水中「長城」を建造するのである。

「潜水艦を槍の穂先として使う」この戦略は、中国の侵略行為に対する

強力な抑止力になる、と言うヨシハラが言う。

 そんなことをしても自国の経済と軍事力がダメージを受けるだけだと悟れば、

中国も侵略を控えるだろう、と。

 アメリカ海軍大学校のジェームズ・ホームズ教授も、こうした戦略に賛成して

次のように述べている。

潜水艦戦は、アメリカ流の得意分野だ。

 冷戦時代もそうだったし、現在でもそうだ。

 中国はなぜかいままで対潜水艦あまり力を入れてこなかった。

 したがって潜水艦戦でアメリカが有利な状態は、今後かなりの間続くと考えて差し支えない。

 しかし、水中「長城」の建造を潜水艦だけに任せておいてはならない。

 アメリカも同盟諸国も、機雷戦能力を向上させる必要がある。

 そうすれば、中国や台湾や尖閣諸島や南シナ海の島々等を機雷によって

孤立させようとした場合、アメリカと同盟諸国はその報復として上海や

大連や福建省の港を簡単に封鎖することができる。

 機雷や潜水艦の配備が進むにつれて、対潜水艦戦対機雷戦の向上が求められるようになる

(アメリカは、歴史的に対潜水艦戦は得意だが、対機雷戦のほうは現在ほとんど

無視している)ここでも、目標は抑止力の向上と現状維持である。 

これが、アメリカにとっての「戦わずして勝つ」なのである。 

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【米中もし戦わば】043-04、第5世代戦闘機の製造機数は中国の方がはるかに多い

基地および人工衛星の脆弱性はどちらも対処可能で、その解決法も比較的安価だと思われる。

 これに対して、空母戦闘群の脆弱性が近年とみに高まっている問題についてはそうは言えない。

 この脆弱性の原因は、中国の非対称兵器及び従来型兵器の量が増えているだけでなく、

中国の兵器全般の技術的な質も急速に向上していることにもことにあると思われる。

第8章ですべて述べたように、航行中の空母に1600キロ彼方から対艦弾道ミサイルを

発射して命中させる能力を中国が獲得した事は、明らかにゲームの流れを変える出来事だった。

凄まじい力でアメリカの艦船を文字通り海から吹き飛ばす、最高速度マッハ10の

超音速滑空ミサイルも同様である。

数と量では圧倒する中国のやり方についてはすでに何度も述べたが、

中国が現在すでに記録的な数の最新式非対象兵器を製造している事実は、

新ためてもう一度述べておく価値が充分あると思う。

このまま製造量が増えていけば、中国はミサイルの大量一斉射撃によって

ついにアメリカの防衛システムを圧倒できるようになるかもしれない。

千発のうちたった1発の弾頭が命中するだけで、任務阻止には充分なのである。

 中国が大量生産しているのは非対称兵器だけでは無いことも、

ここでもう一度述べておきたい。

「世界の工場」は、自前の空母戦闘群を出動させるのに必要となるあらゆる航空機や

艦船を大量に製造している。

さらに、中国は今では、盗み出した技術を使って、第5世代の戦闘機まで製造している。

その製造機数は、予算不足に悩まされているアメリカのF-35やF-22のそれよりもはるかに多い。

 アメリカン・エンタープライズ研究所のマイケル・オースリーは、

アメリカ議会がF-22の製造中止を決定したことを嘆き、数の力を侮ってはならないと

警告する。

F-22には高高度を高速で飛行し、ステルス性が高いためレーダーに捕捉されにくい。

だがいつか、彼ら(中国)の防空技術は今よりも向上するだろう。

彼らのレーダーは、より高高度をより高速で飛行する対象をとらえるようになり、

感度も向上するだろう。

F-22をはっきりとらえることができなくても、今より早く発見できるようになるだろう。

これはあらゆることに影響を及ぼす。

だから、やはり数も大切なのだ。

F-22が2機しかなければ、それは大した影響にはなり得ない。

第二次大戦時のように敵の上空を大編隊で埋め尽くすことができれば、

確実に大きな脅威となる。

残念ながら、今のアメリカにはそんなことはできないし、これからもできないだろう。

空中戦でアメリカが圧倒されるかもしれないとなれば、当然のことながら、

「アメリカは太平洋の制空権を維持できるのか」と言うさらなる問題が生じる。

ヘリテージ財団のディーン・チェンは、「制空権があっても勝てるとは限らないが、

なければ確実に負ける」と警告している。 

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【米中もし戦わば】043-03、中国の司令官は北京の指示がなければ動けない

それでは、もっと簡単に、さらに比較的安価に対処できる弱点から見ていこう。

 それは、固定されたソフトターゲットつまりアジアのアメリカ軍基地のことである。 

すでに述べたように、第一に基地の「強化」が必要である。

これは、燃料タンクや兵器庫を地下深部に移動させる、航空機をサイロに格納する、

膨大な量のコンクリートと鉄筋で滑走路や建物を要塞化する、といった方法によって

実行できる。

同時に、この「基地=ソフトターゲット」問題解決のためには、現在グアムや

沖縄の嘉手納基地などに集中しているアメリカのアジア中に点在する

ずっと小規模の基地に分散する必要がある。

この分散・多様化戦略の目標は、ターゲットを絞り込みにくくすることである。

基地と同じように、人工衛星資産も「強化」する必要がある。

基地の多様化と同じ意味で、宇宙通信中継点の数を大幅に増やし、

そのサイズを縮小する必要がある。

このような宇宙資産の多様化は、「キューブリック」と呼ばれる小型衛星や

高高度気球や、近年急速に普及したドローンなど様々な新技術によって

比較的簡単かつ安価に実現することができる。

しかし、結局のところ、通信能力を確保するための最良の方法は、

人工衛星に全く依存しない代理機能システムを構築することかもしれない。

具体的には、これは、紛争が勃発した際には水上捜索レーダーや高周波無線機といった

昔ながらの技術を使って通信を行えるようにしておくと言うことである。

人工衛星資産について最後に指摘しておきたいのは、アメリカはほぼ間違いなく、

中国の人工衛星ネットワーク撃墜を目的とする対人工衛星兵器の開発を

さらに進めなくてはならなくなるだろうと言うことである。

これは、軍拡競争の観点から残念ながら避けがたいことである。

戦略上興味深いのは、アメリカ軍の衛星通信依存度が高まるにつれて、

将来的には中国の方がさらにその依存度が高くなるかもしれないと言うことである。

その原因は、中国の中央集権化された指揮統制体制にあると言えるかもしれない。

このような集中化は、中国の独裁的政治体制の副産物である。

中国はアメリカ軍の司令官が航海上や上空で通常有しているような分権的裁量権を

軍司令官に与えることを毛嫌いする。

中国軍の司令官が細かい事まで北京の指示を仰がなければならないことを考えると、

もしアメリカが紛争時に衛星通信の主要中継点を見つけてこれを破壊することができれば、

より迅速に中国にダメージを与えたり麻痺させることができるかもしれない。 

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【米中もし戦わば】043-02、米中それぞれの「三本柱戦略」

「中国の対抗戦略(中国側の用語では反干渉作戦と言う)は現在、アジアにおける

アメリカの優位を支えてる戦略の三本柱に狙いを定めている。

戦略の三本柱とは、

①圧倒的な戦力によって制空権・制海権を確保している空母戦闘群

②第一、第二列島線上に数カ所配置されている、攻撃の起点及び広報支援の拠点となる

大規模な基地、

③最先端の「C4ISR」システム(指揮、統制、通信、コンピュータの頭文字の4つと、

情報のI、監視のS、偵察のRを表す)によって戦場の状況認識を可能にする

人工衛星システム、の3つである。

中国側も、独自の三本柱戦略に基づいてアメリカの三本柱を破壊する計画を進めている。

中国の三本柱とは、

①アメリカの非常に高額な空母戦闘及び基地(固定された「ソフトターゲット」)

破壊ないし無力化する能力を持った、比較的安価な非対称兵器を大増産する、

②将来的にアメリカ軍を量的に凌ぐことを目的として、空母戦闘群を大量生産する、

③アメリカの人工衛星システムの破壊及び中国自身の人工衛星ネットワーク構築によって

制宙権を握り、アメリカのC4IRS優位を打破する、と言うものである。

 現在のところ、中国がこの対抗戦略を的確にかつ整然と遂行しているのに比べて、

この急激な変化に対するアメリカ及び同盟国の反応は非常に鈍い。

このままでは、数十年のうちに(さらに早いかもしれない)アジアの軍事バランスは

逆転してしまうだろう。

当然のことながら、これは極めて危険な傾向である。

中国がアジアで優位に立てば、あるいは「優位に立った」と中国自身がある段階で

判断しただけでも、それがさらなる侵略につながるだろう。

考えるべき問題は当然、「このまま昔ながらの予測可能なコマの動かし方を続けていれば

確実にチェックメイトを待っているゲームに、ペンタゴンはどう対処すべきか」である。

この重大な問題に答えを出し、ひいては軍事力による平和への正しい道を生み出すため、

これから、中国の対抗戦略のターゲットにされているアメリカの戦略の脆弱性を

一つ一つシステマチックに検討していこう。

その過程で必然的に、これまで本書で述べてきた主張の多くを繰り返すことになるだろうが、

それは、これまでもそうした主張が、力による平和への道を模索するための

ものだったからである。 

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【米中もし戦わば】043-01、第43章、軍事力による平和

問題

現在、米中どちらのアジア軍事戦略がより優れているか?

①中国

②アメリカ

「軍事力による真の平和」をアジアにもたらすために必要とされる軍事力とは、

中国が直接的な脅威と感じるほどではないが、その一方で、中国軍の最大限の威嚇にも

びくともしない程度の軍事力である。

この微妙なバランスは、軍事力による平和を模索する際の判断基準になるに違いない。

どちらも暴力に訴えることなく中国の拡張主義を抑止できるのは、

このような状況しかありえない。

そのようなバランスを見つけて維持できるかどうかは、

少なくとも2つの理由で疑わしい。

まず、最も明らかな理由は、中国の軍事能力が急速に増大するにつれて、

アメリカと同盟諸国のそれが相対的に弱体化すると言うことである。

2番目の、もう少し微妙な理由は、アメリカと同盟諸国がこれまでのところ、

1枚上手の中国の軍事戦略に対して何ら明確な手を打っていないように見えると言うことである。

誤解のないように言うと中国の戦略は実は戦略ではない。

戦略と言うより、むしろ対抗戦略といったほうがいいようなものである。

これはまさに、孫子の「上兵は謀を伐つ(最高の戦い方は、

敵の戦略を見破ってそれを封じることだ)」を地で行くやり方である。 

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【米中もし戦わば】042-04、「経済を健全化しなければ、アメリカは中国に対抗できない」

以上、経済力を高め、それによって総合国力と抑止力を高めるための方法を

考えてきたが、その全てに共通するのは、どんな改革が必要であるにせよ

改革には政治的合意が必要だと言うことである。

 これについては、最終章でもう一度取り上げることにする。

さて次は、「力による平和」を考える上で欠かせないもう一つの力、

つまり軍事力について検討することにしよう。

 だがその前に、元国務次官補カート・キャンベルとヘリテージ財団の

ディーン・チェンの、不気味なほど似通った言葉を引用して本章を締めくくることにする。

キャンベルは言う。

 私はよく、「アメリカが国際舞台でリーダーシップを維持するためにも

最も重要な事はなんですか」と聞かれる。

そんな時は、どこそこの軍事作戦をどうするとか、どこそこ地域をどう扱うといった

答えを期待されていることが多い。

 言っておくが、最も重要な事は、アメリカ本国をきちんとしておくことだ。

 ディーン・チェンも同意見である。

 何よりもまず必要な事は、アメリカ経済を健全化することだ。

 その他の事は自然についてくる。

 経済を健全化しなければ、つまり赤字を削減しなければ、アメリカは中国に対抗できない。

 これは、他の何よりも、我々自身の努力次第でできることだ。

 これはアメリカ国民とアメリカ政府の努力次第で成し遂げられることだし、

中国政府はこれをどうすることもできないのだ。 

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【米中もし戦わば】042-03、世界一高い法人税のせいで米国の金と技術が流出している

対中貿易の不均衡の是正は確かに、アメリカとアジア同盟諸国の経済を強化し、

それと同時に中国の軍拡資金調達能力を弱体化させるための最も直接的な方法の1つである。

だが、このように貿易不均衡の是正だけが、唯一の「経済力による平和」戦略ではない。

第二の戦略とは、税制改革である。

これも、貿易不均衡の是正と同じく政治的論争を巻き起こしたがこのような改革は、

現在、法人税が世界一高いアメリカには特に重要である。

この法人税率の高さが、アメリカの製造業と雇用がどんどん国内へ流出する原因になっている。

理由は単純である。

工場と雇用を海外に移すだけで、企業はアメリカの高い法人税を免れ、

納税額を減らすことができる。

第3の戦略は、現在中国に略奪されるままになっている、軍用及び民間の知的財産権の

保護を大幅に手厚くし、企業秘密や軍事機密の窃盗を中国に一切許さないように

することである。

もちろん、アメリカの知的財産を守るための最も直接的な方法は、

中国で営業しているアメリカ企業に自国技術の譲渡を強制すると言う中国のような政策に

対してアメリカ政府が断固たる措置をとることである。

 この強制的は疑似樹移転は明確な世界貿易機構協定違反だが、

最大級のアメリカ企業でさえ、このような被害にあっても抗議の声あげることには消極的である。

 ダン・スレインは次のように述べている。

優れた軍事力を保有するには、優れた技術力が不可欠だ。

 だから、ボーイングやゼネラル・エレクトロニックといった「(アメリカ)企業に

中国への技術移転を許せば、わが国は甚大な不利益を被ることになる。

アメリカがこれほどの超大国になったのは、わが国の技術力と技術革新と

兵器システムは世界中のどの国よりもはるかに優れているおかげなのだから。

 最後に、教育制度の再建(というか再構築)と言う厄介な問題をクリアする必要がある。

 アメリカの教育制度は義務教育から高校、大学に至るまで混乱状態である。

 国が繁栄するためには、奨学金と言う多額の負債を生徒自身に負わせることなく、

将来の職業人を育てる必要がある。

本書では教育改革まで論じることができないが、教育制度改革も喫緊の問題である事は

確かである。

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【米中もし戦わば】042-02、私たちは中国製品を買うたびに、中国の軍事力増強に手を貸している

こういうと単純明快な方策のように思われるのが、言うは易く行うは難しである。

その実行には、様々な経済的・政治的・イデオロギー上の障害が伴う。

 アメリカが相殺関税を賦課するなどして中国の不公正な貿易方法を是正し、

中国製品への依存度を削減しようとすれば、確実にインフレ率の上昇を招くだろう。

 消費者が安い中国製品の代わりにもっと値段の高い国産品や他の国々からの

輸入品を買うようになれば、必然的に物の値段は上がる。

 この経済的障害のほかに、政治的な問題も生じるだろう。

 安い中国製品が市場に入ってこなくなれば、社会の中でもっと最も深刻な打撃を受けるのは

貧困層である。

 貧困層に負担が偏ると言うこうした不公平は、少なくとも左派からの激しい批判に

さらされるだろう。

 イデオロギー上の問題も、中国製品の流入を食い止めようと言う運動の足かせになるだろう。

自由貿易をこれまでずっと信奉してきたアメリカ人、

特に、「保護主義」とみなされかねない政策を支持することにみなされかねない政策を

支持することには後ろ向きなのである。

 しかし、米中委員会メンバーで共和党支持者のダン・スレインは、

「防衛関税」政策を支持してこう述べている。

アメリカの景気は後退している。

 それは、対中貿易赤字を放置しているからだ。

 貿易赤字を解消し製造業を復活させなければ、国内に大きな経済問題を

抱えることになるだろう。

対中貿易のリバランスが模索される中で、こうした経済的・政治的・イデオロギー上の

障害が克服されるかどうかは未知数である。

 しかし、はっきりさせておかなければならない事実がある。

それは、中国製品を買うたびに、我々消費者(「我々」には、アメリカ国民だけでなく、

インド、日本、フィリピン、シンガポール、韓国、台湾といった、

中国との間に問題を抱えている国々の国民も含まれる」は、

自分と自分の国に危害を加えようとしているかもしれない中国の軍事力増強に

手を貸しているのだ、と言う事実である。

投票箱とレジの前で、我々一人一人がこの認識を具体的な行動に変換し、

中国への経済的依存度を減らしていかなければ、実際に弾丸やミサイルが飛び始めた時、

あるいは、中国が意のままに振る舞うのを黙って見ているしかなくなったとき、

われわれは自分を責めるほかなくなるだろう。

この重大な点を踏まえ、米中委員会の元メンバー、パット・ムロイは、

アメリカのアジア重視政策は軍事のみ偏ってるのは大きな誤りだとして次のように述べている。

大統領は、これからはアジア重視だと言う。

 それはなぜか。

 中国が台頭しているからだ。

 それなら、なぜ中国はこれほど急速に台頭してきたのだろう。

それは、アメリカが巨額の貿易赤字を抱え、投資と技術を急速に流出させているからだ。

向こうの能力が強化されるにつれて、こちらの能力は弱体化している。

 だから、アジア重視には賛成だ。

 同盟諸国を安心させるため、(軍事の)軸足をアジアに移そう。

だがそれなら、対中貿易のリバランスを図り、アメリカの消費者にこれ以上中国台頭の

後押しをさせないようにする方がさらに理にかなっているのではないだろうか。

これが、アジア重視の真で賢明な方法だろう。

 米中委員会のマイケル・ウェッセルは、経済面に重点を置いたアジア重視政策を

実行に移すためには、アメリカ政府上層部に「中国政策通」を据えるべきだとして

次のように述べている。

第一に、アメリカは本気を出すべきだ。

 アメリカ政府内には、米中関係を専門に担当する人物がいない。

 これまでは、「中国も、世界経済の善良な一員と言う点で、我々と同様の関心を

持っている」と言う前提の下、何事も中国10億人のためにものを売る機会だと

単純に考えられてきた。

 だが、過去10年から20年の間に、中国が我々とは全く違う関心を持っていること、

他者を排除してそれを推し進めようとしていることがわかってきた。

それは彼の勝手だが、問題は我々がそれに異議を申し立てるかどうかだ。

だからまず、米中関係の経済面と国家安全保障面の両方に明るく、

この2つが不可分に結びついていることを認識している責任者が必要だ。

例えば、中国に自国通貨の操作を許せば、中国が予算留保を増やし、

その金でアメリカを打ちまかすための兵器システムを外国から買うだろう。

 そんなことが毎年のように起きているのだ。 

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【米中もし戦わば】042-01、第42章経済力による平和

問題

次のうち、正しい記述を選べ。

①中国は、通貨操作、違法な輸出補助金、知的財産権侵害、自国の製造基盤を強化し

輸出主導型経済成長を促進するための自国市場の保護など、数々の不公正な貿易方法に

頼っている。

②経済成長と強力な制度基盤が中国に、軍事力の強化及び近代化のための

豊かな資源をもたらした

③中国は、その優勢な経済力を武器に、貿易や領土問題など様々な問題で

日本、フィリピン、台湾、ベトナムなどの近隣アジア諸国を威圧してきた

④ 2001年に中国がWTOに加盟しアメリカ市場に自由に参入できるようになって以来、

アメリカは70,000カ所以上の製造工場を失い、経済成長率は半分以下に縮小した

⑤経済成長の原則と製造基盤の弱体化により、アメリカにとって、

自国の安全保障を確実にするとともにアジア同盟諸国への条約義務を遂行するにたる

軍事力の規模と質を維持する事は次第に困難になりつつある

⑥1 ~5のすべて

6の「1 ~5の全て」がほんとに正しいとすれば(実際、それらの論点は本書の中で

これまで個別に検証され、事実と認定されている)アメリカの国家安全保障と

アジアの平和のためにとるべき方策は明らかに、中国製品への依存度を

減らすことだと思われる。

なんといっても、このような方策によって中国との貿易関係の「リバランス」を図れば、

中国経済とひいてはその軍拡は減速するだろう。

さらに、アメリカとの同盟諸国が強力な経済成長と製造基盤を取り戻し、

総合国力を向上させることもできる。

シカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授は、この点について次のように述べている。

現在、中国を恐ろしい存在にしているのは、膨大な人口を抱える中国が、

巨大な香港と化すのではと危惧されるほど豊かな国になりつつあると言う事実である。

そして、一人当たりのGNPが香港のそれに近くなれば、中国は手強い軍事大国になるだろう。

 したがって、ずっと魅力的な戦略は、中国の経済成長を減速させる方策を

積極的に打ち出すことである。

経済が成長しなければ、中国は富を軍事力に変換することもできないし、

アジアにおける潜在的覇権国になることもできない。

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【米中もし戦わば】041-05「アメリカにあるルールを守らせる能力がない」

しかし、こうした様々なハードパワー・ソフトパワーの各要素がどのように

相乗効果をもたらすのか、これら全てがどのように総合国力に寄与するのかを考える際、

常に念頭に置いておかなければならないことがある。

 それは、一要素に過ぎないかもしれないが、狼やドラゴンが戸口まで迫ってきたときには、

軍事力は常に最も重要な要素だ、と言うことである。

 この心理を数学的に表現すると総合国力を構成する軍事力以外の要素が

全ての人の国力を作り上げるための必要条件であるのに対して、

その十分条件はどうなるとそれは結局のところ軍事力だ、と言うことになる。

クラウゼヴィッツ流の用語を使って簡単に言えば、強い経済、優れた教育制度、

安定した政治体制、豊富な天然資源、優秀な労働力を持っていても

軍事力を持たない国は、悪意を持った軍隊国に対して完全に無防備だし、

したがってたやすくその餌食になる、と言うことである。

 これは、紀元前にローマがギリシャに対して、その数百年後にゲルマン人が

ローマに対して、力ずくで教えた真実だった。

これは、中央アジアの草原から襲来したモンゴル軍を迎え撃った宋が、

大きな代償を払って学んだ教訓でもあった。

 したがって、「米中戦争が起きるか」と言う問題に対する最終解とは、

アメリカとのアジア同盟諸国がとるべき様々な方策を検討し、

総合国力と言う強力な抑止力を基礎とする力の連合によって平和を構築できるかどうかを

見極めた上でなければ出すことができない。

この第6部では、アメリカン・エンタープライズ研究所のダン・ブルーメンタールと

新アメリカ安全保障センターのパトリック・クローニンの次のような意見を

参考にしながらこの問題を考えることにする。

 ブルーメンタールは言う。

 思うに、これまでアメリカが戦争に巻き込まれたのは、他国に着決断力と意思を

疑問視された時だった。

 この図式は、アメリカが行った多くの戦争に当てはまると思う。

 だから、戦争を回避する最良の方法は、非常に強力な軍隊を持ち、

非常に強力な同盟関係を構築することによって、潜在敵国に、「論争の原因が

何であれ、アメリカは本気だ。 最後の手段として実際に武力を用いるだろう」と

信じさせることだと思う。

クローニンはこう述べている。

 アメリカにはルールを守らせる能力がない、とアジア諸国は感じている。

 これが現代の世界なのだ。

 それは、明確でない世界だ。

 そして、誰がルールを決めるのか分からなくなった時、何が起きるだろう。

誰もが勝手にルールを作るだろう。 

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