最終更新日 2020年10月5日月曜日 23:37:58
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【米中もし戦わば】025-04、領海外で米艦船を取り囲んだ中国の民間船

もちろん、中国が脅かそうとしているのは上空通過の自由だけではない。

 公海の航行の自由をめぐっても数々の衝突が起きている。

 その典型例が「インペッカブル事件」である。

 アメリカ艦船インペッカブルは比較的小型で非武装の双胴型海洋調査船で、

最新鋭の「曳航アレイ・ソナーシステム」(文字通り、船尾から海中を曳航される)を

使って潜水艦活動を偵察するのがその任務である。

 インペッカブルは、中国の排他的経済水域内ではあるが、

中国の領海から十分に離れた海域で作業行っていた。

 すると、中国のフリゲート艦一隻がインペッカブルの前方およそ90メートルを横切った。

 これは海軍の標準から言えば危険な接近にあたる。

 この嫌がらせから間髪入れず、もう一隻がいインペッカブルの鼻先をを横切り、

さらに、中国海軍Y-12哨戒機がいインペッカブルの船橋の上空180メートルと言う

すれすれの高さを11回も飛行した。

 その2日後、威嚇はさらにヒートアップした。

 中国海警局の監視船が船舶無線を通じて、違法な活動を停止してこの海域から退去せよ、

さもないと「報いを受けることになる」と警告してきたのである。

 翌日、インペッカブルは中国の民間船五隻(うち二隻はトロール漁船)に取り囲まれた。

 トロール船二籍はインペッカブルからわずか15メートルのところまで迫ってきた。

もっとも挑発的だったのは、インペッカブルが退去しようとした際、

トロール漁船がその進路を塞ぎ、曳航アレイをフックで引っ掛けようとしたことである。

ここへきてついに、アメリカ最高司令官バラク・オバマ大統領は

インペッカブル護衛のための誘導ミサイル駆逐艦チャン=フーに出動命令を出した。

 この事件は、小さな衝突が重大な対応につながりかねないことをまざまざと示している。

 「開かれた海」派のアメリカと「閉じられた海」派の中国とのこうした縄張り争いは、

今では数え切れないほど頻繁に起きている。

こうした偶発事件から砲火の応酬が起き、それが戦争へと

発展する可能性があるのは明らかである。

そのシナリオまで、簡単に予想がついてしまう。

 例えば、軍用機が空中衝突し、パイロットが死亡したとする。

 それをきっかけに、米中双方に極端な愛国主義的反応が起き、

対立が一気にエスカレートすることが予想される。

 こうした事態は十分に考えられるものの、戦争のきっかけになる可能性が

最も高いのは事件や事故では無いかもしれない。

 中国が意図的に武力に訴えてアメリカ軍をアジアの海と空から締め出し、

「閉じられた海」と言うその世界観を実現しようとする可能性もある。

もちろん、アメリカの安全保障と経済的繁栄に深刻な打撃を与える

そのような行動を容認するアメリカ大統領はいないだろう。

台湾独立が中国から見てゆずれない線だとすれば、航行と上空通過の自由は

アメリカにとってのゆずれない線なのである。

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【米中もし戦わば】025-03、挑発の末に米国の偵察機に衝突

潜水艦について論じた第十二章で、海南島が観光地であると同時に

中国の最も重要な軍事施設の集中する場所であることを述べた。

そこには、ミサイルを搭載した極めて機能性の高いロシア製戦闘機が

大量に配備されているだけではなく、高性能の通信傍受施設もあり、

その地域で活動するアメリカ軍などの通信を傍受している。

おそらく最も印象的なのは、楡林海軍基地内の巨大な地下基地に弾道ミサイル搭載の

晋級潜水艦が巧みに隠されていると言う事実だろう。

今やこの潜水艦隊はサンフランシスコやセントルイスやボストンにまでも

核弾頭を打ち込む能力を有している。

アメリカ軍が海南島の動きを監視しようとするのは当然である。

2001年4月1日アメリカ海軍の偵察機EP-3が海南島付近の上空で

通常飛行を行なっていたところ中国軍のJ-8戦闘機2機の妨害を受けた。

実は、その中国軍機のパイロットの1人王偉少佐は、何度もアメリカ軍機に

至近距離まで接近するなどの、

トップガンばりの危険で挑発的な操縦のせいで、以前からアメリカ軍のパイロットに

マークされていた人物だった。

その日、自動操縦で直線飛行していたEP-3の進路妨害したトップガン王偉は、

その危険行為の報いを受けることとなった。

彼の戦闘機の垂直尾翼がEP-3の左補助翼にぶつかったのである。

J-8戦闘機は2つに切断され、王偉は脱出したもののそのまま行方不明になるなった。

衝突の衝撃でEP-3のほうも急降下し始めた。

搭乗員24名もろとも、EP-3は30秒間に2400メートル落下し、

それからもう1800メートル降下した後、パイロットのシェーン・オズボーン大尉は

翼を水平に戻し、機体を上昇させた。

この危機的状況で、オズボーン大尉は重大な決断を下した。

海南島の陵水飛行場に緊急着陸する道を選んだのである。

着陸後、搭乗員は直ちに身柄拘束された。

このような緊急着陸は国際法で認められた行為であるにもかかわらず、である。

この空中衝突は外交上の大騒動に発展したが、中国は一貫して、

「中国側には200カイリの排他的経済水域内で軍用機の飛行を阻止する権利がある」と

主張し続け、アメリカ側からいくつか屈辱な謝罪を引き出した。

搭乗員は10日後にようやく解放されたが、その間に中国はEP-3の

コンピュータ・ハードディスクから重大な機密データを抜き出す事に成功していた。

その後の国際的な事件を考えると、海南島事件でおそらく最も注意すべき点は

現在も中国軍機とそのトップガンパイロットが極めて危険な挑発行為によって、

アメリカ軍の偵察機日常的に嫌がらせをしていると言う事実である。

つい最近も、嫌がらせの典型のような事例があった。

ペンタゴンによれば、中国軍機がアメリカ海軍のポセイドン(P-8)哨戒機の上方で

バレルロールを行ったり、搭載兵器を見せながらP-8の鼻先を直角にかすめて飛んだり、

翼端から6メートル以内と言う至近距離を「通過」したりして威嚇してきたと言う。

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【米中もし戦わば】025-02国連海洋法条約を無視し始めた中国

「海へのアクセスは自由であるべきか、それとも制限されるべきか」と言う問題は、

ローマ帝国が地中海を事実上封鎖していた時代にまで遡る問題である。

この問題を論じる上でまず上げておかなければならないのは、

1609年にオランダ共和国の法律家フーゴー・グローティウスがその著書「自由海論」の

中で提唱した自由海論だろう。

当時、オランダ共和国は海上貿易の首位の座をイギリスと激しく争っていた。

1635年、イギリス人ジョン ・セルディーがその名も「閉鎖海論」と言う著書で

オランダ人グローティウスに反撃した。

海は「青い領土」であり、他の領土と全く同じように1人の支配者が支配することが

できる、と言うセルディンの意見に対してグローティウスは、

海は貿易のためすべての国に開かれた国際的な領域でなければならない、と主張した。

1702年、やはりオランダ人の法律家コルネリス・ヴァン・ビンケルシュキが

グローティウスの自由海論の極めて強い実用的な適用法を考案したため、

この「自由海VS ・閉鎖海」論争は事実上決着することとなった。

ビンケルシェクは、「一国が沿岸を実際に支配できる範囲は、その国の海岸線から

武器が届くところまでとすべきだ」と主張した。

こうして、「大砲射程内ルール」が生まれた。

これにより、領海は当時の最新鋭の大砲の射程にほぼ等しい沿岸海里までとし、

その三海里の領海でのみ各国は他国の航行の自由に制限を加える、と言う規則が確立した。

領海を三海里とし、それ以遠は公海とするこの規則は国際的に広く受け入れられ、

1982年に国連海洋法条約が可決されるまで遵守された。

この条約は領海の範囲を12海里まで広げただけでなくその権利を上空・海底・海底の

下にまで拡大し、すでに述べたように、沿岸200海里の排他的経済水域(EEZ)をも規程した。

海洋権益に関する一見明快なルールを確立したことによって、海洋法条約が

世界の大部分の海については平和と安定をもたらしたのに対して、

東シナ海と南シナ海においては、それは正反対の影響を及ぼした。

その主な理由は、中国が、「航行と上空通過の自由は、排他的経済水域内でも

制限される」と言う従来にない立場とっていることである。

現在、中国はこれを法的根拠として振りかざし、当該地域では現在アメリカの

軍艦及び軍用機に行っている嫌がらせを正当化している。

誤解の余地を残さないために言っておくと、中国の立場を裏付ける文言は

現行の条約の中には一切ない。

このアジアにおける中国流モンロー主義に等しいEEZ作戦は、

中国が新たに仕掛けてきた極めて革新的な「三戦」、つまり軍事力によってではなく、

非軍事的手段で支配領域を拡大しようとする試みの一手である。

仮に中国の「閉鎖海」主義が東シナ海と南シナ海までまかり通れば、

この現場変更主義的ルールによって中国は世界で最も豊かな通商路2つを

支配下に納めることになる。

同時に、このような閉鎖海ルールが適用されれば、アメリカの軍艦は事実上、

アジアの海域の大部分から締め出されるだけではなく、

「世界の海洋の、およそ3分の1 (現在、世界の海洋に占めるEEZ)」で自由な国ができなくなる。

アメリカが国際法のこのような変更に猛反対しているのは、

こうした経済的・安全保障上の理由からである。

ジョン・セルデンが17世紀に唱えた「封鎖された海」に逆戻りするようなことが

あってはならない。

航行と上空通過の自由をめぐってすでに米中間で数々の軍事衝突が起きている。

これから、2001年に南シナ海の海南島付近での上空米中の軍用機が空中衝突した

「海南島事件」を始めとする実例をいくつか見てみよう。 

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【米中もし戦わば】025-01第25章排他的経済水域の領海化

問題国際法に照らして正しい記述を選べ。

 ①他国の領海外(12海里以遠)であれば、すべての国は航行と上空通過の自由を有する

②自国の排他的経済水域内(200海里内)であれば、どの国も他国の航行及び

上空通過の自由を制限する権利を有する

各章の冒頭の問題の中で、これは最も難解な部類に入るかもしれない。

 だが、これは最も重要な問題でもあると言うのも、戦争の引き金になりかねないものは、

中国が近隣諸国との間に抱えた領有権問題だけでは無いからである。

アジア海域でアメリカの通常の軍事行動を行う権利を中国が制限しようとしているため、

アジアの海と空の管轄権問題をめぐって米中の対立が激化している。

 もちろん、この縄張り争いの根本的な問題とは「中国は中国版モンロー主義を

実践しようとしているのか」と言うことである。

 しかも大学教授ジョン・ミアシャイマーははこう見ている。

 中国にとっては、アメリカ西半球で成し遂げたのと同じ事をアジアで達成できれば理想的だろう。

 つまり、アメリカ遠ざけたいのだ。

 かつて19世紀に、アメリカがモンロー主義によってヨーロッパの強国を

全て遠ざけたように。

 もちろん、中国にとって中国流モンロー主義を平和的に実践するベストな方法は、

「法律戦」と威圧によってアメリカの軍艦をアジアの海から締め出すことである。

 本章では中国のこの動きについて述べることにしよう。 

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【米中もし戦わば】024-04国際海洋法裁判所に訴え出たフィリピン

実際、このサラミ・スライシング戦略は、例の壮大な「三戦」戦略(第18章参照)の枠内で

行われている。

三戦に関するステファン・ハルパーの格言「現代の戦争を制するのは

最高の兵器ではなく、最高のストーリーなのだ」 (131ページ参照)を思い出してほしい。

三戦の目標の1つによってしか実現できなかった領土的野心をノンキネティックな

戦略によって推進することだと言うことも、併せて思い出してほしい。

 海軍力では中国に到底太刀打ちできないフィリピンは、中国のサラミ・スライシングに

法律の力で立ち向かおうとした。

 中国の激しい非難を浴びながらも、中国の「九段線」及びそれに基づくミスチーフ礁や

スカボロー礁に対する領有権主張に法的根拠がないことを証明すべく国際海洋法裁判所に

仲裁申立書を提出したのである。

中国は仲裁裁判への参加を拒否した。

これは、中国には珍しい戦略上の誤りだった。

 それによって、代表者を派遣する機会を失ったばかりか、皮肉にも審理を早めてしまったからである。

 審理はまだ継続中だが、下された判決に控訴することができない(2016年7月12日、

中国の領有権主張を全面的に否定する判決が下された)。

 中国はこの裁判に負ければ、九段線の国際法上の死を意味するその判決は、

南シナ海全体を揺るがすことになるだろう。

もちろん、中国が判決を無視した場合には、法律的な勝利に寄って勇気つけられた

フィリピンが軍事的反撃に出る可能性がある。

 その場合、米比間の相互防衛条約によってアメリカが中比間の紛争に巻き込まれる

危険がある。

 予想される紛争の火種はスカボロー礁だけでなく、現在のはフィリピンの実行支配下に

あるものの中国に包囲されているセカンド・トーマス礁や、既に中国に奪取された、

マックスフィールド堆など、他の紛争地域も含まれている。

だが、アメリカ側から見れば、フィリピンとの相互防衛条約によって危険な

「モラルハザード」がもう一つ生じる可能性がある。

 具体的に言えば、この防衛条約の存在を頼んでフィリピンが中国相手に強気の

行動起こす可能性があると言うことである。

その結果、アメリカは切に避けたいと思っていた戦争に巻き込まれてしまうかも

しれない。

 これは、東シナ海の尖閣問題でハザード・ジレンマ(第22章参照)と全く同じ種類のもの

である。

 さらに広い見地から言えば、中国への不安を募らせるアジア諸国

(インドネシア、マレーシア、シンガポール、ベトナムなど)とアメリカとの

同盟が強固なものになるにつれて、同様のモラルハザードの可能性が高まるだろう。

 戦争勃発の危険も高まるだろう。 

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【米中もし戦わば】024-03スカボロー礁の奪取は漁船団の進入から始まった

スカボロ礁は、フィリピン・ザンバレス州(ルソン島西岸)の沖合115海里、

すなわち、フィリピンの排他的経済水域内に位置する、

サンゴ礁や岩礁や小島からなる三角形の環礁である。

中国本土からは950キロ以上離れている。

周囲わずか55キロのこの岩礁の面積はおよそ150平方キロメートルで、

満潮時にも海面上に露出している岩礁は「南岩」ただ1つである。

中国によりスカーボロ礁の奪取は、2012年4月、中国漁船団の侵入によって始まった。

海軍の艦船が急行して調査したところ、中国漁船にサンゴや生きたサメなど

絶滅危惧種や輸入輸出入禁止生物が大量に積み込まれていることがわかった。

フィリピン当局が中国漁民を逮捕しようとしたところ中国海警局の監視船数隻が現れて

にらみ合いの状態になった。

緊迫したにらみ合いが続く中、激しい抗議行動が中比両国内で起きた。

同時に、中国のハッカー集団がフィリピン製品の輸入制限やフィリピンへの

主要政府機関にサイバー攻撃を開始した。

フィリピンにさらに圧力をかけるため、中国はフィリピン製品の輸入制限や

フィリピンへの事実上の観光旅行禁止令まで打ち出した。

中国との貿易に大きく依存しているフィリピン経済にとって、

このような経済的攻撃によるダメージは特に大きかった。

2012年6月、アメリカの仲介で、「中比両国は当該地域から撤退し、

平和的解決のために交渉する」ことが決まった。

アメリカの外交団はこれを成功とみなしたが、フィリピンが取り決めを守って

撤退したのに対し、中国はそのまま居座り続けた。

この背信行為を、フィリピンのベニグノ・アキノ大統領(当時)は、

多少の誇張はあるにせよ、ナチス・ドイツのチェコスロバキア併合になぞらえている。

7月、中国は、フィリピン人が何世代にもわたって漁業を営んできたスカボロー礁の

1部を封鎖し、危機をさらにエスカレートさせた。

続いて中国は、問題の海域の周囲24キロを禁漁区域とすると宣言した。

このスカボロー礁危機の間、中国は一貫して、中国のある将軍が自慢げに

「キャベツ戦略」と呼んだ戦略を効果的に駆使した。

前にも述べた通りキャベツ戦略とは紛争地域をキャベツの葉で1枚1枚包み込むように、

様々なタイプの民間船や準軍事船で取り囲む戦略のことである。

このキャベツ戦略の中心となるのが、アメリカの沿岸警備隊にあたる、

中国海警局の艦船である。

アメリカ太平洋艦隊の元司令官ジェームズ・ファネルによれば、

沿岸警備隊の監視船とは違い、中国海警局の監視船の任務はもっぱら、

中国の拡張主義的主張を呑ませるために他国に嫌がらせをすること」だと言う

(こうした率直な物言いのせいで、ファネルはペンタゴンをクビになった)

そして、領有権の主張を進めるために軍艦ではなく非軍事船を使うところが、

中国のやり方の非常に巧妙で興味深い点である。

こうした非軍事的な方法を用いることで、メディアに対して中国の脅威を実際よりも

はるかに小さく見せることができる。

さらに、もしもフィリピンやアメリカが軍艦でこれに対抗しようものなら、

たちまちメディアに悪者扱いされてしまう。

非軍事船がトラブルに巻き込まれたときのために、中国の軍艦が常に背後で

待機していることなど、メディアはお構いなしである。 

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【米中もし戦わば】024-02中国は実弾を発射することなく、他国の領海を切り取っている

マレーシアやフィリピン等と比べてずっと南沙諸島から遠い中国が

どうして南沙諸島全体の領有権を主張することができるのだろうか。

 この疑問に対する答えは、本書のテーマにとって非常に重要である。

 なぜならそこは「九段線」と言う紛争の元凶が関係してくるからである。

 このU字型の境界線は、1947年、中華民国政府が発行した地図上に初めて現れた。

 中国の貪欲な「牛の舌」と揶揄されることが多いこれは確かに奇妙な牛の舌の形を

している。

国民党が共産党に敗れて台湾に撤退した直後の1949年、この牛の舌は共産党政府に

受け継がれた。

この九段線がなぜこれほど物議を醸すのだろうか。

この九段線の拡張主義的・現状変更主義的性格を理解するには、

地図をひと目見るだけで充分である。

それでは、頭の中で九段線を書いてみよう。

九段線の起点は、南シナ海の北東の端にあたる村(台湾とルソン島の間)である。

そこからフィリピンの海岸線に沿って南下し、それからブルネイの海岸線に沿って、

事実上、南シナ海の南端を西に進む。

ブルネイのすぐ南の、マレーシア領ボルネオ島ボルネオに到達したら今度は

南シナ海を横切ってベトナムの南端に進む。

最後にそこからベトナムの海岸線に沿って北上し海南島を望むトンキン湾が終点である。

 つまり、中国の壮大な牛の下は南シナ海のほぼ90%を取り囲んでいる。

 中国の首都が主張がまかり通れば、南シナ海は「中国の湖」になってしまう。

 この九段線がどれほど広大かを理解するためインドネシア領のナトゥナ諸島の

東ナトゥナ天然ガス田について考えてみよう。

1970年代に発見されたこのガス田は、現在でも世界最大の未開発のガス田である。

確認埋蔵量は1兆3000億立方メートルと見積もられている。

東ナトゥナガス田は明らかにインドネシアの排他的経済水域内にあり、

しかも、中国からは1600キロ近く離れているが、そこは九段線の境界内でもある。

1993年中国は東ナトゥナが中国の領土として記載されている地図を発行した。

それ以来、ナーバスになったインドネシアが、中国が本当に東ナトゥナに対して

歴史的な権利を主張したことがあるのか、さらにその主張を押し通すつもりなのかを

何度もはっきりさせようとしているが、その試みは未だにうまくいっていない。

次に、中国は九段線の出所をどのように押し通そうとしているのか、

そしてそれがどのようにして戦争の引き金を引きかねないかについて述べよう。

南シナ海の島々を武力で奪取していた毛沢東時代と比べれば、

中国のやり方は長足の進歩を遂げた。

実際、1994年にミスチーフ礁を奪取した際には中国は実弾を一発も発射することなく

それをやってのけた。

アナリストたちは中国の戦略のこの微妙な変化を「サラミ・スライシング」と呼んでいる。

 アメリカ国防総合大学のT・X・ハメス教授はこう説明している。

 「サラミ・スライシングとは、軍事的反撃を受けるほど強くはないが、

領土を奪取するには必要十分な圧力を用いる戦略を表す用語である」

現在、中国は、漁船や海警局の艦船など非軍事船舶の大船団を巧妙に使って、

その領有権の主張を前に進めている。

このように少しずつ領海を切り取っていく点が、「サラミ・スライシング」と呼ばれる

所以である。

もちろん、その背後には常に、必要とあれば出動できるように軍艦が控えている。

中国がサラミスライシングをどのように進めているか、そしてそれがどのように

アメリカを紛争に巻き込む恐れがあるかを理解するには、2012年に中国が

フィリピンからスカーボロ礁を奪取した経緯を見るだけで充分である。 

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【米中もし戦わば】024-01南シナ海の「九段線」

問題

南沙諸島の領有権を主張している次の国々の中で、南沙諸島から最も遠い国を選べ

①ブルネイ

②中国

③マレーシア

④フィリピン

⑤ベトナム

およそ750のサンゴ礁や小島や環礁や岩礁や岩からなる南沙諸島は、

ブルネイ、マレーシア領ボルネオ、フィリピン、ベトナムの海岸から近い、

戦略的に重要な海域に位置している。

 40万平方キロメートル以上にわたって南シナ海に点在するこれらの島々は、

最も近いものでも中国大陸から950キロ以上離れている。

南沙諸島は西沙諸島に比べて岩や岩礁の数がはるかに多いので南沙諸島と

西沙諸島には少なくとも3つの共通点がある。

第一に、南沙諸島も、インド洋へとつながるいくつかの重要な交通路ににらみを

利かせられる位置にある。

第二に、西沙諸島と同じように、南沙諸島も豊かな漁場である。

 そして第3に、南沙諸島の海底にも豊かな天然ガスが眠っており、

その埋蔵量はペルシャ湾戦略上の重要性と経済的価値ゆえに、

南沙諸島の40以上の島々に実に五カ国(中国、マレーシア、フィリピン、台湾、ベトナム)

の軍隊が駐留している。

南沙諸島をめぐる領土紛争は非常に激しいため、その小島の多くは

まるで軍営のような様相を呈している。

世界有数の美しくのどかな海域に浮かぶ小島が、極小の面積にヘリポートや飛行場、

埠頭や港、防備を固めた砲座などがひしめき合う要塞と化しているのである。

その典型例が、中国は1994年にフィリピンから力ずくで奪い取って

要塞化しているミスチーフ環礁である。

南シナ海の最東端に位置する中国の前哨基地として、ミスチーフ環礁は

5階建てのコンクリート製掩蔽壕や高床式の八角形の建物3棟を備えた、

本格的な駐屯地へと着々と変貌を遂げてきた。

対空砲に守られたこれらの構造物には今では通信・レーダーシステムが管理され、

この地域を通過する航空機や船舶を監視するとともに、

いざことが起きた場合には弾道ミサイルや巡航ミサイルを誘導することも

できるようになっている。 

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【米中もし戦わば】023-04ベトナムの米国接近が戦争の引き金となる

ベトナムがアメリカに接近しようとしていることが、状況をさらに複雑にしている。

 おそらくベトナムも、日本やフィリピンといったアメリカの同盟国が享受しているのと

同じような安全保障の傘の中に入りたいのだろう。

 10年以上にわたって激しく戦ったことを考えれば、皮肉と言うほかはない。

 かつての敵と言え、アメリカを打ち負かしたベトナムにとって、アメリカは怖い相手ではない。

 だから、ベトナムとしてみればベトナム侵略の長い歴史を持つ、

国境を接している超大国より、物理的に1万キロ以上離れた超大国のほうがいい、

と言うわけだが、海軍大学教授ライル・ゴールドスタインは、

アメリカとベトナムの正式な安全保障条約を結んで同盟国となるようなことがあれば、

それ自体が戦争の引き金になるかもしれない、と言う。

仮にアメリカがベトナムに基地を構えたりすれば、中国はそれを「アメリカは

超えてはならない一線を超えた」と受け取るだろう。

これが仮にフィリピンであれば、中国はアメリカとフィリピンの歴史的関係を理解し、

フィリピン・スービック海軍基地にアメリカ海軍が新たに駐留することを

許容するかもしれない。

 これに対して、ベトナムは中国にとって数世紀にわたる歴史的な競合国である。

 ベトナムにおけるアメリカのプレゼンスは、重大なエスカレーションと挑発を

引き起こすだろう。

中越関係は、米中戦争の引き金になりかねない危険性と戦略上の難問に満ち満ちている。

 この引き金が最終的に引かれるかどうかは、中国の今後の出方だけではなく、

米越同盟成立をめぐる当該地域の外交の駆け引きにも関わっている。

 残念なことに、南シナ海にはこの他にも戦争の引き金になりかねない問題がある

南沙諸島、マックスフィールズ堆、スカボロー礁など、南シナ海南部をめぐる

紛争である。

これらについて次章で述べることにする。 

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【米中もし戦わば】023-03ベトナムの石油探査用掘削装置のケーブルを切断

現在、中国はあの手この手でベトナムを苛立たせている。

 例えば、中国の漁船団は、ベトナム人が何世紀もの間漁をしてきた海域から

ベトナム領民をどんどん追い出し続けている。

 こうした漁船団は、沿岸警備隊に守られていることが多い。

このような紛争が起きている海域は明らかにベトナムの排他的経済水域の範囲内である

場合が多いが、それは同時に中国が領有権を主張している西沙諸島周辺海域でもある。

 そもそも西沙諸島は中国がベトナムから奪取したものだから、

この主張はベトナムにとってなおさら不愉快なものである。

 同様の威圧的なやり方で、中国戦はベトナムの石油探査用掘削装置のケーブルを切断し、

数を頼んで軍事力を見せつけることによって、明らかにベトナムの排他的経済水域内に

ある石油・天然ガスをベトナムが開発するのを阻止している。

 その上、中国は巨大な浮体式石油探査用掘削装置を設置し、ベトナムが

自国の排他的経済水域だと主張している海域にに、定期的に、そして多くの場合

おおっぴらに侵入している。

このような中国のいじめに対抗して、ベトナムは急速な軍事力増強に乗り出した。

 誤解のないように言うと中越間には「安全保障のジレンマ」は存在しない。

 と言うのも、「安全保障のジレンマ」とは、相手の、実際には防衛のためにすぎない

軍事力増強をお互い誤解し合うことで生じる軍拡競争だからである。

中越間の軍拡競争は、旧来の極めて危険な攻撃型軍拡競争である。

ベトナムは、急速に軍事大国化する中国は自国の天然資源を狙っているのは知っている。

 そして、自分も急速な軍備拡張によってこのあからさまな侵略に対抗しようと

しているのである。

 例えば、中国海軍に対抗するため、ベトナムはロシア製キロ級潜水艦を

多数購入しようとしているし、ロシアはすでに「1大隊の装備として

十分な数のヤーホント対艦ミサイルをベトナム海軍に納入している」。

 ベトナム潜水艦隊を非常に効果的に補完する、このヤーホント・ミサイルの射程は

「紛争海域で作戦行動をとる中国船舶にとってかなりの脅威だと考えられる」。

ベトナムが増強してるのは海軍だけではない。

 ベトナム空軍は、もともと充実している装備に、さらにロシアのSu-30戦闘機12機を

加えようとしている。

 機動性の高いこの戦闘機は、ホーチミン市北近郊「ビエンホア」から離陸しても

「南シナ海全員体をカバーする」だけの戦闘行動半径を持っている。

一方、別の南部の海岸に位置する(ベトナム戦争時代にはアメリカ海軍基地もあった)

フーカット空軍基地から飛び立てばの戦闘機は海南島の軍事施設に

たやすく到達することができる。 

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