こうした経済的・安全保障上の重要性を考えれば、南シナ海の激しい紛争の
中心になっていることも驚くには当たらない。
米中戦争の引き金になりそうな場所は、少なくとも2カ所ある。
1つ目は本章で検討する、南シナ海北部に位置する西沙諸島であり、
これはベトナムとの紛争地である。
2つ目はフィリピンとの紛争地で、南シナ海南部の南沙諸島を始めとする島々である
(これについては次章で述べる)。
それでは、西沙諸島から話を始めよう。
ほぼ間違いなく、ここは中越間の潜在的戦争の中心部である。
中国海南島から500キロほど、ベトナムのダナンからは300キロの海域に位置する
西沙諸島は30の小島と砂州、サンゴ礁からなり、総面積わずか3.4平方キロメートルである。
陸地の面積こそ小さいが、西沙諸島は一万5千平方キロの海域にわたって広がっている。
だから、国連海洋法条約に則って、西沙諸島の領有権には広範囲の資源権益が
伴うことになる。
具体的に言うと、既に述べたように、国連海洋法条約によって
各国の領土の海岸線から200カイリ以内ならその国の排他的経済水域(EEZ)と定められている。
排他的経済水域内の天然資源は、海中の資源(魚)資源(石油と天然ガス)も
すべてその国に帰属する。
さて、ここから本書にとって重要なポイントである。
排他的経済水域の起点は、一国の本土の海岸線だけではない。
居住可能な島と認められれば、それがどんな小さな島でも
そこから半径200カイリの円を自国の排他的経済水域にすることができる。
西沙諸島や南沙諸島をめぐる紛争を無価値な「海中の岩」をめぐる
無意味な小競り合い扱いしようとする短絡的なアナリストやジャーナリストには、
この重要なポイントが分かっていない。
マサチューセッツ工科大学教授リチャード・サミュエルが指摘ているように、
国連海洋法条約が「岩」にしか見えないような小島まで広範囲な権益を認めているため、
島が海に含まれているよりは島に海が含まれているのである。
以前ホワイトハウスの顧問を務めていたステファン・ヘルパーは、
中国の戦略について、「中国のような大陸国家は、どんなに小さな島でもいいから
南シナ海の島々を支配下に置くことができれば、それによって海洋権益を「同心円状」や
「飛び石状」に著しく広げることができる」と述べている。
実際、西沙諸島をベトナムから奪取することによって、中国は排他的経済水域を
中国大陸から測って350キロの水域から500キロ以上の水域へと事実上拡大することに成功した。
同様に、南沙諸島を奪取したことにより、中国は現在大陸の沿岸から800キロの範囲に
まで排他的経済水域を主張している。
このようないわゆる失地回復プロセスによって、中国の排他的経済水域は近隣諸国の
それと著しく重なり合うようになったため、資源権益の問題はどのように解決すべきかを
めぐって激しい紛争が起きている。
こうした紛争を有利に決着させようとして中国があからさまに武力に訴えれば、
南シナ海に波風が立つのは必至である。
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