最終更新日 2020年5月21日木曜日 11:35:19
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【いまさら聞けないビットコインとブロックチェーン】00-2はじめに

プロローグ

Part 1ビットコインて何なの?

ビットコインは現金とどう違うの?

ビットコインはクレジットカードとどう違うの?

ビットコインは電子マネーとどう違うの?

ビットコインはポイントやゲーム内通貨とどう違うの?

ビットコインはどうやって手に入れるの?

ビットコインを使うメリットは? ①投資対象として

ビットコイン価格はどうやって決まるの?

ビットコインを使うメリットは? ②送金手段として

海外送金ってどんな時に必要なの?

ビットコインで買い物ができるって本当なの?

Part2ビットコインの仕組みはどうなっているの?

バーチャルのお金にどうして価値が生じるの?

ビットコインは誰が作っているの?

ビットコインの最初の取引は?

ブロックチェーンってどんな技術?

マイニングって具体的に何をしてるの?

ビットコインで終わりがある?

ビットコインに資格はないの?

Part3ビットコインの安全性や法整備はどうなってるの?

ビットコインがコピーや改竄される心配はないの?

ビットコインが盗まれる心配はないの?

送金中に誰かに抜き取られる心配はないの?

マネーロンダリングに利用される心配は無いの?

ビットコインの法整備、会計ルール、消費税の扱いは?

Part4仮想通貨とブロックチェーンはどこまで広がるの?

仮想通貨にはどんな種類があるの?

ナンバーツーの仮想通貨「イーサリアム」の特徴は?

イーサリアムの分裂騒動って何なの?

オンライン賭け市場の専用チップ「オーガー」って?

Part 5フィンテックが実現する未来とは?

フィンテックって一体何なの?

次にどんなサービスが登場するかは予測できる?

フィンテックはどんな種類があるの?

銀行間送金サービス三つ巴の戦いとは?

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【いまさら聞けないビットコインとブロックチェーン】00はじめに

ビットコインブームが起きています。

本書執筆時点(2017年2月)のビットコインの時価総額は169億ドル、1ドル= 110円で

計算すると、1兆8590万円になります。 

驚くべきはその伸び率で、1年前の57億ドルのおよそ3倍まで膨らんでいます。

2年前は30億ドルですから、この1年で急成長したことがわかります。

また、ビットコインのユーザ数も拡大の一途をたどっています。

2017年2月時点のユーザ数は世界で1186万人、1年前は580万人ですから、およそ2倍。

2年前は290万人なので倍々ゲームで増えてきているわけです。

世界中から熱い視線が注がれているビットコインですが、

果たしてそれがどんなものなのか、よくわからないと言う人が多いのが現状ではないでしょうか。 

ビットコインは仮想通貨(バーチャルカレンシー)と言われますが、

バーチャルなだけに手に取って触ることができないため、

それがどんなものか意外と知られていないようです。

これから詳しく説明しますが、ビットコインは、ブロックチェーンと言う新技術によって

生まれた「仮想通貨」であり、電子データで表される「デジタル通貨」であり、

高度な暗号セキュリティに守られた「暗号通貨」であり、特定の国に属さない

「国際通貨」であり、分散型ネットワークに支えられた「民主的な通貨」であると言う、

極めて複雑な特徴を持っています。

でも、使い方はごく簡単。

スマートフォンに専用アプリをインストールして、必要事項を入力。

本人確認書類を送って承認されれば、すぐに始めることができます(使い方は14ページ参照)。

そして実際に使ってみれば、直感的に「あー、こういうことか」とわかるはずです。

本書は、デジタル時代に新しく生まれたビットコインと、

それを支えるブロックチェーン、さらに大きなフィンテック

(ファイナンシャルテクノロジの略)の広がりについて、

皆さんに身近に感じてもらうことを目的に書かれています。

そのため、3つの円の内側(ビットコイン)から外側(フィンテック)と、順番に解説していきます。

part 1では、ビットコインとは一体何なのか、を丁寧に回説明します。

円やドルとどう違うのか。

クレジットカードや電子マネー、ポイントカードとはどう違うのか。 

どこで手に入れて、何のために使うのか。

皆さんの素朴な疑問に1から答えます。

Part2では、ビットコインの仕組みを掘り下げます。

なぜ実体のないバーチャルなお金に価値があるのか。

ブロックチェーンやマイニング、ハッシュ関数など、

ビットコインのことを調べると必ず出てくるキーワードについて理解を深めていただきます。

Part3では、ビットコインの安全性とルールについてまとめます。

新しい技術には不安がつきものです。 

デジタルデータなだけに、コピーされたり、改ざんされたり、盗まれたりする心配は無いのか。

マネーロンダリング(資金洗浄)など不正に利用される心配は無いのか。

技術的な説明と、ルール作りの状況合わせて紹介します。

Part 4では、ビットコイン以外の仮想通貨を紹介します。

ブロックチェーンと言う画期的な技術によって、様々な仮想通貨が登場しています。

その中から代表的なものをいくつか取り上げます。

そして、最後のPart5では、フィンテックと言う大きな枠組みで見たときに、

どんなサービスがあるのかを紹介します。 

ブロックチェーン以外の技術をベースにした、スタートアップが牽引する

新しい金融サービスの中で、既存の金融機関はどんな役割を果たすのか。

そうしたことも述べてみたいと思います。 

本書を読み終えた頃には、皆さんはきっとビットコインやブロックチェーン、

フィンテックについて、誰かに語れるだけの知識を身に付けているはずです。

テクノロジーによって、世の中はどんどん便利になります。

本書をきっかけに、1人でも多くの皆さんが、実際に仮想通貨を使ってみたり、

各種サービスを利用したりして、その効果を実感してほしいと願っています。

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【銀行デジタル革命】109デジタル通貨が「ゲゼル紙幣」を実現

マイナス金利政策が必要な経済情勢の下では、中央銀行がデジタル通貨を発行し、

それに適当なマイナス金利をつければ、マイナス金利政策による現金シフトが

生じにくくなり、政策効果を高めることができます。 

ただし、現金が全廃されない限り、その効果は大きくはなりません。

ロゴフ教授は経済学の教科書に出てくる「ゲゼル紙幣」は、現金通貨を廃止せず

にマイナス金利政策を有効に働かせる代替先の1つとなり得るともしてきています。

ゲゼル紙幣とは20世紀初頭に自由貨幣(時間の経過とともに減価する貨幣)の概念を

提唱したドイツ人経済学者シルビオ、ゲゼルが考案した紙幣です。 

ゲゼルはそれを毎週0.1% (年率5.2%)ずつ価値が低下するように設計していました。 

事実上、紙幣にマイナス金利が付利されていることになります。

下がった価値と同じ額のスタンプを別に購入して紙幣に貼り付けると

紙幣の額面が維持される仕組みです。

ゲゼル紙幣の仕組みは、実際に、いくつかの地域で地域紙幣として実践利用されました。

ゲゼル紙幣の特徴は、紙幣を使わずに持ち続けていると価値が下がり続けるため、

お金を使わないと損をする仕組みにあります。 

マイナス金利政策と同じで、消費刺激策としてはうってつけと言うわけです。

もちろん、ロゴフ教授はこのような面倒な紙幣の発行提案しているのではありません。

IT技術が進んだ現代では、デジタル通貨を発行し、必要に応じて

マイナス金利を付利すれば、ゲゼル紙幣と同じ効果が得られると主張しているのです。

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【銀行デジタル革命】108マイナス金利政策と現金の存在

もう少し現実に眺めて考えてみましょう。

実際には、大量の現金の輸送や貯蔵にはコストがかかるため、

小幅なマイナス金利の下では、銀行が中央銀行当座預金を取り崩して現金を大量に

引き出すといった事態が発生する可能性は小さいでしょう。

しかし、マイナス金利の幅がより大きくなりまた長期化する見通しが高まって、

マイナス金利で生じるコスト増が現金の保有、輸送コストを上回るようになれば、

銀行が日本銀行から現金を大量に引き出すといった方策をとることが考えられます。

その時日本銀行は、銀行が現金を大量に保有すると、この金額に見合った格好で、

日銀当座預金のなかでマイナス金利が適用される残高を増加させると言うペナルティーを

課し、現金保有の増加を牽制することができる制度となっています。

しかし、多くの銀行が同時に現金を引き出すようなことが生じた場合、

そのようなやり方ですべての銀行にペナルティーを課すことが本当にできるかどうかは

疑問です。 

銀行全体の収益に大きな打撃となるからです。

他方、個人の場合には、現金の貯蔵コストが小さいため、

銀行預金の金利がわずかでもマイナスになれば、預金を取り崩して現金で持つ

「タンス預金」をする人が多くなるでしょう。

こちらは、実利と安全性を天秤にかけた判断となります。 

預金を取り崩す個人顧客が増えた場合、銀行は中央銀行当座預金を取り崩して

現金を顧客に支払いますが、銀行自身が現金の保有を超過させるわけではないため、

日本銀行からペナルティーを課される事はありません。

中央銀行当座預金を減らしてマイナス金利を支払う負担を減らすことができます。

その分、マイナス金利政策の効果は殺がれることになります。

仮に銀行が個人向け預金の金利をマイナスにした場合には、

預金していると資産が目減りしてしまいます。

個人の間で銀行預金を取り崩してタンス預金する動きが強まるでしょうが、

金利0のタンス預金ならば価値が目減りする事は無いので、

無理に急いでお金を使おうと言う気持ちにもならないでしょう。

そうしてマイナス金利政策による消費刺激効果が減殺されてしまうことになります。

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【銀行デジタル革命】107マイナス金利政策の効果を高める

著者は疑っていますが、第二のプラス効果はマイナス金利政策の消費刺激効果を

高めることができることだと、一般には指摘されています。 

この説を強く主張し、現金通貨の全廃を訴えているのが前述のロゴフ教授です。

「紙幣の廃止は、中央銀行が金利の不制約(マイナスにできないと言う制約)を逃れて

マイナス金利政策を導入するのに、間違いなく最も簡単で、最もエレガントな手法だ」と

いうのがロゴフ教授の主張で、「金融政策で有効性がなければ、

現金通貨の廃止をこれほど真面目には考えなかった」とまで、著書で述べています。 

伝統的な金融政策は中央銀行が民間銀行に対する貸し出し金利を操作し、

銀行の預金金利や貸出金利、貸し出し量などに間接的な影響与えることで

経済効果を発揮します。 

つまり、銀行制度を介して間接的に経済をコントロールしようとする政策です。

現在、欧州や日本で採用されているマイナス金利政策とは、

中央銀行が中央銀行当座預金の金利をマイナスにして銀行預金を定期に誘導することで

商品などを刺激しようとする政策ですが、マイナス金利政策の大きな障害となるのが、

金利がつかない現金通貨の存在です。 

民間銀行は中央銀行当座預金を取り崩して現金で保有すれば、

マイナス金利の適用を介することができるからです。

この場合、マイナス金利が適用される中央銀行当座預金をゼロ金利の現金に換えて

保有するため、マイナス金利政策による銀行の収益悪化は緩和されます。

結果、銀行が預金金利を無理に引き下げて収益の回復を図る必要がなくなります。

預金金利が下がらなければ、消費者が銀行預金に回すお金を減らして消費に回す

インセンティブが高まりませんから、マイナス金利が経済に与える効果が殺がれてしまう

と言うわけです。 

現金が全廃され、デジタル通貨にもマイナス金利が付されれば、

このようなことが起こりません。

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【銀行デジタル革命】106変容する金融政策シニョレッジの減少回避

前節で中央銀行デジタル通貨の発行が金融システムに及ぼす影響を考察しましたが、

本節では金融政策に与える影響を考えてみましょう。 

中銀デジタル通貨発行のプラスの効果は、一般に4つ指摘できると言われています。

第一に、中央銀行の主に利子所得収支からなる、いわゆるシニョレッジの減少を

回避して、金融政策を含めた中央銀行の業務全体の安定性を確保することができることです。

シニョレッジとは通貨発行益のことです。

かつては、政府が硬貨を鋳造し発行することから得られる利益、

つまり、効果の鋳造費と硬貨の額面との差を意味していました。 

ですが、現在では、シニョレッジの意味は次のように解釈されています。

中央銀行は民間銀行から国債を買い入れ、その代金を民間銀行が持つ中銀当座預金に

振り込みます。 

また民間銀行は必要な現金を、この中銀当座預金を取り崩すことで手当てします。

それによって、初めて中央銀行が現金を発行することになります。

この場合、中央銀行のバランスシートの資産側には国債が負債側には中銀当座預金と

現金が計上されます。 

中銀当座預金の1部には金利がつきますが、現金には金利がつきません。

中央銀行に資産がある国債から入れる利子収入と

負債側の国債から得られる利子支払いの差が、シニョレッジです。

中央銀行の業務はこのシニョレッジに支えられています。

民間銀行が中銀当座預金を取り崩して現金を多く保有するほど、

中央銀行の利払い負担が軽くなりシニョレッジは増加します。 

しかし、仮に民間が発行するデジタル通貨が広がると、現金が利用されなくなり、

その分中央銀行の利払い負担は重くなって、シニョレッジは減少します。 

その結果、中央銀行の収益環境は悪化し、悪くすれば収益の赤字化や収益の毀損などの

問題が生じて、中央銀行の財務の健全性を損ねてしまう危険があります。 

他方、中央銀行自らがデジタル通貨を発行する場合には、

それが現金にとって変わっても、こうした問題は生じにくくなります。 

日本の金融の現状を見ると、今は、仮に現金の流通が急速に減少することが起こっても、

実はあまり問題にもなりそうもありません。 

2013年4月から実施されている大規模な金融緩和の下で、

日本銀行が民間銀行から大量の国債を買い入れ、

その分、銀行が日本銀行に持つ日銀当座預金が膨れ上がっているからです。

日本銀行が日銀当座預金につける金利は、マイナス0.1%、0.0%、+0.1%の

3段階に分かれていますが、全体の平均は0%に近いプラスになっています。 

半面、大量に保有する国債から得られる利子収入があるので、シニョレッジは確保されています。

日銀当座預金と比べると現金の比率はかなり小さいため、

現金が減少しても日本銀行の利子収支に大きな影響は及びません。 

しかし、将来日本銀行が金融政策を正常化させ、政策金利を引き上げるとともに

国債保有を減らしていけば、日銀当座預金も減少していきます。 

そうなれば、利払いが発生しない現金が負債の中で再び高い比率を占めるようになります。

そうしたいわば通常の状態から仮に民間が発行するデジタル通貨に代替されて

現金が減少し、その分、利払い負担が生じる日銀当座預金が増加していけば、

それはシニョレッジを顕著に縮小させ、日本銀行の財務の健全性を傷つけることになります。 

収入が大きく減少すれば、金融政策を含む中央銀行の広範囲な業務を

制約してしまうことにもなります。

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【銀行デジタル革命】105強まる現金廃止論と高額紙幣廃止の動き

前出のケネスロゴフ教授もサマーズ長官と並び、現金廃止を主張する論客の1人です。

サマーズ長官が脱税、犯罪防止からこの規制の廃止を主張しているのに対して、

ロゴフ教授は犯罪対策に加えて、マイナス金利政策が有効に働く前提条件などの理由で

現金通貨すべての廃止を主張しています。

ロゴフ教授は著書「現金の呪い」の中で次のような現金に廃止論を展開しています。

現金には税逃れされると言う問題があるが、それ自体は新しい現象ではない。

重要なのは近年の技術の進歩によって現金を代替できる決済手段が

生み出されていることであり、現金廃止に伴う問題や弊害が軽減されていることだ。

現金の存続か廃止の判断は、現金利用の効果と副作用の比較衡量によって

決定すべきだが、中央銀行の通貨発行益(シニョレッジ)の減少といった副作用を考慮しても、

税収増や犯罪減の効果が上回っており、その傾向は一段と強まっている—。

現金通貨全廃がマイナス金利政策を有効に作用させるとする、ロゴフ教授の議論は、

次節で詳述します。

中国では近年、高額紙幣の廃止発行停止が相次いでいます。

ECBは2016年5月に、2018年末に500ユーロ紙幣の発行停止することを決めています。

マネーロンダリング対策が意図されていますが現金志向が強いドイツでは

廃止に否定的な意見が強かったと報じられています。

だいぶ前の事ですが、米国は1969年に10,000ドル、5000ドル、1000ドル、

500ドル紙幣の発行を取りやめました。

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【銀行デジタル革命】104マネーロンダリング防止への期待

取引決済に現金を利用すること、ひいては中央銀行や政府が紙幣、硬貨を発行し、

民間銀行と協力してそれを滞りなく流通させるには大きなコストを要し、

そのコストは最終的にはその国で暮らす人々の負担となる事は、

第4章に詳しく触れた通りです。 

現金流通のことに加え、現金がマネーロンダリングや税回避などの犯罪を助長し、

社会的なコストを高めていることも、中央銀行デジタル通貨の議論の背景にあります。

ローレンスサマーズ元米国務長官は、そうした議論を国際的にリードし、

高額紙幣の廃止を強く主張してきた代表的な論者の1人です。 

サマーズ長官は1990年代末にユーロ圏で500ユーロ紙幣の発行が検討された時、

すでにその弊害を主張していました。 

彼は、高額通貨の廃止は米国も含めた国際協調の枠組みで実施すべきと考え、

現金通貨全体の廃止は行き過ぎとしても、高額通貨の新規発行は

停止するのが良いと主張しています。 

米国では50ドル札と100ドル札の廃止が望ましいと考えているようです。

サマーズ長官が賞賛する、2016年に発表されたハーバード大学のレポートは、

高額紙幣の弊害とその廃止の利点について次のように議論しています。 

①脱税行為によって失われる税収の金額によって大きく異なるが、

6%から70%と推定される。 

また、世界中の金融犯罪の規模は年間2兆ドル超、世界の贈収賄の規模は、

年間1兆ドルに及ぶと推定される。 

②こうした犯罪に対する当局の対応は犯人検挙に集中している。

しかし、犯罪捜査にかかる莫大なコストにもかかわらず、

検挙にいたる犯罪は全体の1%未満である。

犯罪の抑止がより重要で、それには犯罪行為に利用されることの多い高額紙幣の廃止が

有効である。 

高額紙幣が廃止されれば現金を利用する犯罪行為のコストは大きくなる。

③電子決済が広がる中、高額紙幣は通常の経済活動に重要な役割を果たしていない。

一方、地下経済には極めて重要な役割を果たしている。

2007年にメキシコで検挙された違法ドラッグの取引額は2億700万ドルに達したが、

その大半に100ドル紙幣が使われていた。 

ちなみに第4章で見たように、日本の1万円札は額面が大きいだけではなく、

諸外国と比較した場合の現金全体に占める比率と、経済規模で比較した流通金額が

突出して高くなっています。 

それは、犯罪に利用される潜在的なリスクも高いことを意味しています。

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【銀行デジタル革命】103銀行ビジネスモデルの転換—ナローバンクへの接近

いまだ思考実験の段階にある中央銀行デジタル通貨ですが、発行されると、

中央銀行と民間銀行の双方のビジネスモデルが根本的な変化を迫られる可能性があります。

その一つが、「ナローバンク」の接近です。

金融論の分野で議論されているナローバンク論は、銀行の決済機能と金融仲介機能を

分断させ、決済システムのリスク伝搬を防ぐと言う考え方です。 

ナローバンクの定義には多様な議論がありますが、代表的な考え方は、

銀行の預金部門と貸出部門を分離して、預金の運用は国債など

安全な資産に限定する一方、貸し出し部門は市場からの資金調達で行うといった形態です。 

銀行は自ら信用創造を行うことで、負債である預金と資金資産である

貸し出しを両建てで拡大させることができます。

信用創造とは銀行が顧客の預金口座の残高を貸し出しと言う行動を通じて

増やすことです。

実際には現金は動いていませんが、銀行の負債にあたる顧客の口座(預金)の残高を

増やし、資産である貸付金を増やすことで、顧客が使うことのできるお金を、

銀行自らが作り出すことができるのです。

これが世の中の経済活動における、銀行の大きな役割です。

しかし、先にも指摘した通り、預金は流動性が大きく期間が短い負債で、

貸付金は流動性が小さく期間の長い資産ですから、信用創造により、

銀行は流動性リスクとデュレーション(期間)リスクを抱えることになります。

加えて、現状のような部分準備預金制度の下では、銀行貸出に対して部分的にしか

支払い準備を持ちません。

そこが銀行の脆弱性であり、取り付け騒ぎのリスクにさらされる一因でもあります。

具体的にナローバンクを実現する方法として、民間銀行に100%の預金準備を持つ

義務を課すことが、古くから提案されてきました。

それは銀行の信用創造機能を奪い、銀行の負債である顧客の預金を資産側の

中央銀行当座預金と対応させるものです。

そうすれば銀行は取り付け騒ぎに応じられないと言うリスクを回避できます。

顧客が預金の取り崩しに殺到しても、銀行は同じ金額だけ中央銀行当座預金を

取り崩せば手当てできるため、破綻を免れます。

仮に、中央銀行デジタル通貨が現金を広範囲に代替するだけでなく、

民間銀行の預金を代替していくと言うことが起こった場合、

銀行の金融仲介機能が低下する可能性があります。

それは、100%の預金準備の義務化に近い効果を生み、

金融制度をナローバンク化させていくことになるとも考えられます。

銀行が中央銀行デジタル通貨に奪われた預金の減少分を他の銀行からの借り入れや

社債の発行等を通じた市場調達の拡大で賄って貸し出しを維持することができれば、

銀行はナローバンクに近づいていくことになるでしょう。

そうなれば、、取り付け騒ぎから銀行が深刻な流動性不足に一気に直面し、

金融システムが不安定化するリスクが大きく減少すると思われます。

預金者保護のための預金保険制度等のセーフティーネット等の必要性は低くなるでしょう。

銀行の機能がナローバンク化すれば、銀行破綻が生じにくくなって

金融システムの安定度は高まります。

直接発行型の中銀デジタル通貨制度の下では、その傾向はより強まるでしょう。

しかしナローバンク化を通じた金融システムの安定確保が、現在、

非常に重要なことであるかどうか疑問です。

銀行破綻を予防するためのセーフティーネットとして、今すでに準備預金制度、

預金保険制度や、中央銀行が深刻な資金不足に陥った銀行に一時的に貸付を行う

「最後の貸し手機能」などが確立されているからです。 

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【銀行デジタル革命】102資金シフトの抑制策

中央銀行デジタル通貨をめぐる問題点をさらに詳しく検討していきましょう。

中銀デジタル通貨に金利が付利され、それが民間銀行の預金口座の金利より高ければ、

民間銀行仲介型の場合はその預金口座からデジタル通貨専用口座へ、

直接発行型の場合は銀行預金口座から

中央銀行のデジタル通貨口座へ、資金を移動させる利用者が増えます。 

料金の流出が急激に進めば、銀行の貸出業務に打撃を与え、金融仲介機能が低下し、

また金融システムの不安定化を引き起こす要因となります。

そうした事態を回避するためには、中銀デジタル通貨の金利と銀行預金の金利を

適切に調整する必要があります。 

ただ、銀行預金の金利をそれぞれの銀行が決定する銀行制度の下では、

調整は容易ではありません。 

こうした問題の対応策について、欧州中央銀行(ECB)のイブメルシュ理事が

詳細な議論を展開しています。 

やや細かい話になりますが、ここで紹介しておきたいと思います。

メルシュ理事が提示した第一の対応策は、現金や銀行預金と中銀デジタル通貨の共存を

前提とした、中銀デジタル通貨の供給制限です。

例えば、中銀デジタル通貨の供給は、中央銀行や中央銀行が個人や銀企業から債券などの

金融資産を買い入れ、その代金を支払うと言う経路に限る、といった方策です。

 その場合、企業や個人は中央銀行に売却する金融資産を持っていなければ、

中銀デジタル通貨を入手できないため、中央銀行はデジタル通貨の供給量を

コントロールすることが容易になります。 

この対応策には、中央銀行や中央銀行が企業や個人からどのような金融資産を

いくらで買い入れるかと言う問題があります。

 中銀デジタル通貨の需要量と中央銀行が適切と考える供給量が異なる場合は、

その差は中央銀行が買い入れる金融資産の価格で調整せざるを得ず、

市場で取引される金資産の価格を歪めることにもなりかねなりかねません。 

第二の対応策は、中央銀行デジタル通貨に金利をつけ、

その金利水準を適切に調整することです。 

中銀デジタル通貨にどのように付利すると、どのような経済効果が生まれるかを考えてみましょう。

現在、ECBはマイナス金利政策をとっており、民間金融機関から

受け入れた超過準備等の金利はマイナスです。 

一方、民間銀行の預金金利はマイナスにしづらいのでほとんどはプラスになっています。

そして金利体系のままで中央銀行デジタル通貨が発行されたと仮定した場合、

プラス金利の銀行預金からマイナス金利の中央銀行デジタル通貨への資金シフトは

起こりにくいでしょう。 

しかし、平時は超過準備への付利金利はプラスです。

銀行預金の金利は一般にそれよりも低いため、中銀デジタル通貨に超過準備と

同水準の金利をつけた場合、銀行預金から中銀デジタル通貨への資金シフトが

起こってしまいます。

それでは、中銀デジタル通貨の金利を常に0とするとどうなるでしょうか。

 その場合、銀行預金の金利がプラスを維持する限り、

中銀デジタル通貨の資金シフトが生じなくなります。

しかし、仮にその時超過準備にマイナス金利が付利されていたとすると

、民間銀行が預金準備制度が適用されないノンバンク子会社を設立して超過準備を

そこに移し、そのノンバンク子会社がゼロ金利の中央銀行デジタル通貨に交換すれば、

双方の金利差から簡単に利益を上げることができてしまいます。

中央銀行は量的緩和政策の一環として、民間銀行に潤沢な超過準備を保有させることが

ありますが、今述べたような意図で民間銀行が超過準備を大きく削減してしまえば、

量的緩和政策の効果が殺がれてしまうことになりますにもなります。

まとめると、意図しない資金シフトを抑制するには、次のような状況を作り出すことが

必要なのです。 

●超過準備の付利金利がプラスの場合、中銀デジタル通貨の金利をゼロとする

●超過準備の付利金利がマイナスの場合、中銀デジタル通貨の金利も

同じマイナスとする(銀行預金金利はいずれの場合もプラス)このようにすれば、

中銀デジタル通貨の金利は超過準備の付利金利を上回ることがなく、

同時に銀行預金金利を下回るため、資金シフトを回避できることになります。

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