韓国の失業率の上昇に見られるように、最低賃金を上げさえすれば国内経済が回ると言うのは
全くの間違いだ。
むしろ賃金は景気の最後に来る。
そういうと「労働者は後回しか」と言う批判が起こるのはわかっているが、
その通りとしか言いようがない。
労働者は後回しにしなければならないのだ。
少なくとも最低賃金においては労働者を優先しては絶対にダメ。
左派の人間にはそういう当たり前のことがわかっていないらしい。
景気が良くなるから賃金を上げる、と言うのが当たり前の流れだ。
人権派の人たちは、どうしても労働者が先だと言いたいのだろう。
それで失敗するのは、世界でもよく見られるパターンだ。
では安倍政権は最低賃金について、どんな方針なのか。
政府は毎年3%程度をめどに引き上げることを考えている。
一方で、2019年5月14日の経済財政諮問会議では、内需の下支えに向けて、
それを上回る5%程度を目指すべきだと言う意見も出たと言う。
現状の日本ではどの程度引き上げるのが妥当なのだろうか。
繰り返しになるかもしれないが、最低賃金の水準については「あるべき論」が強調されがちだ。
最低賃金が高ければ、その分、消費支出が増えるので、経済成長にプラスだと言う意見である。
最も最低賃金の引き上げによる消費増の恩恵が、どの企業に還元されるか定かでは無い。
引き上げは企業のコスト増だが、それが企業収益増に直結するかどうかもよくわからない。
そのため、最低賃金の引き上げは労働需要の逼迫に対応する程度にとどめた方が、
経済全体にとっては好都合なことが多い。
最低賃金も賃金の一種だから、労働市場の状況と無関係に決めるのは
無理だと言う至極真っ当な話だ。
この原理を具体的に言えば、最低賃金は前年の失業率を受けた無理のない水準にし、
賃金は雇用確保の後からついてくると言う経済原則を曲げないようにさえすれば良い。
この点、安倍政権はかなり狡猾だと言える。
まず雇用を増やして失業率が下がるような環境を整えておき、
最低賃金は失業率の低下に合わせて毎年上がっていくように調整してきたからだ。
そもそもの話だが、雇用創出したければ金融緩和をすれば良い。
一般的にインフレ率と失業率は逆相関の関係にある。
ただし、失業率は一定のところまで行くと下がらなくなる。
この下がらない値を、経済学的には「NAIRU」(インフレ率を加速しない失業率。
事実上最低の失業率)と言う。
筆者は、日本の場合はこのNAIRUが2%台半ばと推計していた。
そこへ行くと、これまでの安倍政権の最低賃金を「3%程度」を引き上げると言う方針も、
NAIRUが2%台半ばと言うことから考えると、非常に経済合理的だ。
安倍首相はこのメカニズムを政治的にうまく利用してきた。
「政労使会議」を利用し、あたかも官邸主導で最低賃金を引き上げたように見せ、
政治的なプレゼンスを高めている。
要するに、最低賃金の引き上げは、雇用創出の成果であるが、
その果実を安倍政権は政治的に生かしたと言える。
この観点からすると、経済財政諮問会議での5%引き上げの議論に首をかしげざるを得ない。
今の諮問会議は事実上、霞ヶ関の役人が主導している。
消費増でも賛成だし、そもそもマクロ経済を理解しているのかすら疑問だ。
最低賃金の議論でもマクロ経済音痴の部分が出たように見える。
この程度の経済政策がわからない日本の経済財政諮問会議は、もはや不要ではないか。
存在感が薄くなっているのでパフォーマンスに必死なのかもしれないが、
「5%」の議論は無視し、これまでの安倍政権による政治的、実務的な「3%」の方が、
日本経済のためになるだろう。